第11話 神の試練
組合長のドバンはダンジョンの叫び方の情報により、現状の戦力では到底太刀打ち出来ないと考えているようだった。
「なるほどな。数の暴力だと如何にDが数組居たところで、他がEばかりでは厳しいか。
しかし、そこに俺らが参戦しても、あまり変わらないのではないか?」
「そうだろうなぁ。流石に俺達ではキングやジェネラルなどのゴブリン上位種がわんさか居たら、抑えきれんし、どうしようもないもんな。」
「……攻撃力不足。」
「ですね。」
ノリス達はドバンに懸念事項を伝えるが、その心配は要らないとドバンは胸を張った。
「そこは安心せい。確かに異常な程、長い叫びじゃったが、音量は以前と変わらなかった。ということは、上位種はあまり湧き出てこんじゃろうて。」
どうやら、組合の統計データでは、叫び方の長さが数の多さであり、音量の大きさが強さの度合いのようであった。
「ほほぅ。確かにこれは神の試練だと言わざるを得ないかもな。」
「チッ。俺達の力に合い過ぎているか。」
「どうしましょうか?今後、『ダンジョンの怒り』が起きる度にこうなる可能性がありそうですね。」
「……たまたまだと思いたい。」
イドとノリスは納得してしまい、サウルは今後を心配し、エストは希望的観測で現実逃避した。
「エストの言う通りだが、とにかく今回は避けられまい。ノリス。どうする?」
そんな中、イドはノリスに決定をゆだねる。
「どの道やるしかないが……イド、俺が決めてしまって良いのか?」
「大群を相手にするのだ。それを抑える役はノリスにしか出来ん。俺らでは不得手だからな。」
「まぁそうなるか。仕方ないが……やるか!
ドバンさん。その依頼、承った!
今日は【週末】じゃないが、やらないとこの街が【終末】になってしまいそうだからな。」
「「……。」」
暗い雰囲気を一掃しようと明るく冗談をねじ込んだノリスだったが、不発して全員から冷たい視線を浴びた。暫く冷たい空気も漂ったが、ドバンが空気を読んで感謝を述べた。
「……本当に、ありがとう!『週末』の皆様。勿論、そのお礼は……」
「あぁ、ドバン殿。報酬についてなんだが……」
ドバンが報酬の話をしてきたので、イドが遮って自分から報酬の説明をしようとしたが、その発言もドバンが遮った。
「みな迄言うな。大丈夫じゃ。分かっておる。
『お主達の事を黙っておく』のが報酬でどうじゃ?」
「ッ!?そこまで分かるのか?」
「伊達に歳は取っておらんわい。お主達の昔を知り、今の生活を知って、お主達は何が一番大切なのか理解しておる。それに金も実績も要らんのじゃろう?じゃから、報酬らしい報酬が渡せぬのよ。」
「ハハッ。流石は組合長ですね。
失礼かと思いますが、『初心者の街』の組合長とは思えませんね。以前は何処か名の知れた街に居たのではないですか?」
「いんや、この『初心者の街』だからこそじゃよ。
駆け出しの冒険者は、夢見がちなのじゃ。じゃから上位冒険者の情報は必要不可欠なのでな。」
冒険者になりたい!と思う者は、やはり一番最初に強い者に憧れを持つ。
自分の目指す目標を見定める為には、上を知るのが一番だった。
「そういう事か。しかし、そうなら何処の『初心者の街』に行ってもバレバレだな。」
「そうでも無いぞ?若い組合長ならばお主達の顔までは知らんじゃろうしな。」
「ふむ。良い情報が聞けた。今後の参考にしておこう。
では、ドバン殿。俺らの事を黙ってくれるようだが、どうやって参戦すれば良い?」
大群を止めるにしても、衆目の面前でやってしまえば黙っている事など出来ない。
『ダンジョンの怒り』の対応策は、一つしかないダンジョン出入口に冒険者を集中させて、溢れ出てきた魔物達を一網打尽にするのが一般的だった。そこで一緒に戦うのは不可能なのだ。別の出入口も無いので、隠れてこっそりダンジョンへ潜るのも無理だった。
では、どうすればいいのか?それは事前にドバンが考えてくれていた。
「そこは、溢れ出る第一波が沈静化したら、第二波が来る前に調査隊という形で、何組かパーティをダンジョンに送り込もうと思っておる。
それに皆様を組み込んで、そのまま第一階層の第二階層への階段通路前まで進んでもらい、そこで足止めと殲滅をお願いしようと思っておったのじゃ。無論、他の調査隊は魔物を発見次第、すぐに引き返すようにさせてな。」
「……第一階層で湧く分は、外に出ちゃうよ?」
「それぐらいなら、この街の冒険者達で対処できるじゃろうて。
寧ろ、第二から第五階層で湧く全ての魔物を皆様に押し付けるようで心苦しいのじゃがな。
出来るのであれば、第二階層の第三階層への階段通路前とは思っておったが、魔物が溢れ出る流れを逆流するのじゃ。第二階層の最奥まで進むのですら難しいし、時間が掛かるじゃろう。」
「確かに第二階層最奥は手間だな。しかし……ふむ。良いんじゃないか?」
「あとはどの程度の大群か?ですね。長時間の戦闘は避けられませんよ。」
「……慣れてる。」
「そうだな、エスト。今まで週末の連携とは比べ物にならんだろ?不本意だが、こうなったら仕方がない……俺達の出番だ!
ドバンさん。第二階層より下から来る魔物は一匹も通さないさ。」
「はい!是非、頼みます。ワシは皆様を信じておるからの。本当にありがとう!」
「感謝は不要だ。俺らが居たから、今回の『ダンジョンの怒り』具合になった可能性もあるからな。」




