第103話 味方
その後、モンドは色々と一人になって考えたい事があるようで、ノリス達の部屋を後にした。
残った四人は、やっと部外者が居なくなってホッと一息つき、バンダナを取りながら寛ぐ。
「それにしても、どうしますか?」
「どうって言われてもな。サウル。俺達の問題でも無いだろ?」
「そうだな。シダースの問題でも無く、この街の問題だ。規模が大き過ぎる。」
「それもそうですね。」
念のために確認したサウルにノリスとイドは応え、サウルもまた同じ気持ちのようで頷いていた。
「俺達でどうにか出来なくはないが……やる意味も義理もまったく無いぞ。」
この街の為に……なんて想いをノリス達は誰一人持っていない。今日ここへ来たばかりで、更に言えば通過したいだけだ。
では、シダースの為に?結局、同じ事だ。今日会ったばかりの者を助けようとは思わなかった。会話でシダースやモンドの切羽詰まった感じはヒシヒシと伝わったが、それだけ……たった一日で、信頼関係や彼らを助けたいなんて思う訳がなかった。
更にノリスが言う『どうにか出来なくはない』とは、ノリス達四人が正体をさらけ出して目立つ方法だった。ノリス達としてではなく、アーロン達……『四神獣』として行動すれば、その知名度から確かにどうにかなるかもしれなかった。
「……流石に面倒。」
「そうだな。俺らは出来るだけ静かに過ごしていたいのだ。前回のクロード達の時ですら……アレはノリスが馬鹿やったせいか。」
「イド!?てめぇ!」
「まぁまぁ。クロード君達は数人の冒険者パーティでしたからね。然程苦労はありませんでしたが、今回の件に首を突っ込むとそうはいきませんね。確かに規模が違い過ぎです。」
「……それに、立ち回りも面倒。」
「ですね。」
どの派閥につくのか?それさえもが曖昧だった。
シダースの経営する宿屋に泊まっているのだから、シダースを支援するのが流れかもしれない。しかし先程の通り、シダース達に何の思い入れも無いのだ。今日、たまたまココへ来ただけである。そんな事は調べられたらすぐにバレるだろう。よって、マッシュ派閥やヴァンフ派閥から凄まじい勧誘合戦が始まるはずだ。
下手をすれば、ノリス達を味方に引き込めば、一躍次期領主の道が確定するかもしれない。街の覇権争いの恰好の的になり兼ねなかった。
それに支援するにしても、そもそもシダースの覚悟がまず無いのだ。ノリス達が力を示し、街に留まっている時はなんとかなるかもしれないが、ノリス達はこの街で一生過ごす訳ではない。出て行った時には元に戻る……更に悪化する可能性もあった。
「というか、俺達の出る幕じゃないだろ。」
「だろうな。モンドが鍵を握るのは間違いないな。」
「全てはシダース君の覚悟待ちですね。そして、それを本当に待っているのは……。」
「……マッシュとヴァンフが可哀想。」
「アハハッ。ですが、彼らは一番味方にしなければならない人をないがしろにしているのです。こうなるのも仕方が無いのかもしれませんね。」
次期領主の後継争い。
マッシュか?ヴァンフか?どちらを選んでも血を見ることは明らかだった。
だから、年老いたメイが現領主のままで、二人がいつか手を取り合い協力することを願って、問題を先送りにしている。
本当にそうなのだろうか?
メイは、今までの実績からお飾り領主でない。ならば、色んな権限をまだ持っているはずなのだ。なのに、問題を先送りにしている。何もせず傍観している。
今、この時間は何なのか?メイは日和っているのか?いや、恐らく待っているのだ。
自分と同じ気持ちで現状を憂いている者が立ち上がるのを待っていた。その者こそが、次期領主に相応しい。自分の後を継ぐのだから、自分の意思を受け継いで欲しいと思うのも当然だ。
無論、マッシュとヴァンフが気持ちを入れ替えて、協力する道を選ぶのも待っているかもしれない。だけど、二人は支えている人々によってそれを選べない。
だから、現状のこの時間があるという事は、どれ程優れていようともマッシュとヴァンフには、次期領主の道が無いと言っているようなものだった。
エストは二人に同情し、サウルは領主に嫌われて次期領主へ成れる訳が無いと突き放した。
「どちらにせよ俺らは何も変わらないのだがな。」
「だな。」
「ですね。」
「……うん。」
そうして、一夜明けてノリス達は宿屋を出る。
出る際にノリス達はモンドと少しだけ話し合った。あの後、モンドがどのような決心をつけたのかは聞かなかったが、その表情や声色に力強さがあったので、何かしらの踏ん切りはついたのだろう。
「……頑張ってね!」
エストが応援し、ノリス達も同様に励まして別れた。
街を出る前に、門前でシダース達のことを教えてもらった人の良い商人の店に行って、色々買い物をし、商人と挨拶も交わす。ノリス達はかなりの額を使った為に、商人はホクホク顔でこっそりヴァンフ派閥のエンブレムをもらったりした。
「次に立寄る際は是非、コレを使ってくださいね!」
「ハハッ。何はともあれ、この街が落ち着いてからだな。
アンタは人が良過ぎるから、怪我しないようにな。」
「ええ。そうですね。」
人の良い商人とも別れ、ノリス達は街を出る。
向かうは目的だった『初心者の街』。
何も変わらず、普段通り。
おっさん四人を乗せた荷馬車は揺れる。
短いですが第四章はこれで終わりです。
なんじゃそりゃ…と思われるかもしれませんね。
この第四章は…
「ノリス達の旅は途中で面倒な街に入ることになったが、おっさん臭さのお陰で特に何もなく通過した。」
という、たった一文で終わる出来事を、無駄に大ボリュームにしてみました。
デカすぎる問題を用意し、やたら思想まで詰め込んで。
もう少し長くしても良かったですが、結局素通りするので、この辺りが限界でした。
面倒は回避したい。
誰もがそう思うように、ならば回避した話もあっていいのでは?と思って書いてみました。
伏線でも無いので、多分以降の話には出てこないと思います。




