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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第四章
101/104

第101話 見方

 物事を見る時、色んな方法がある。



 そのものがとても重要な事であればある程、色んな角度から考察し、慎重に思慮深く注意しなければならない。

 何か一つの批判や愚痴だとしても、別のことに対する批判が含まれてしまい、大問題になってしまう……なんて、よくある事だ。



 言わずもがな、一番は自分の視点から見ることである。当然だ。


 自らが見て、考え、行動する。

 やりたかった事、目指したかった事、希望や願望が入ることなんて当たり前だ。誰のものでもなく、見ている景色は自分のものだから、望んだ結果になるよう行動する。

 敢えて言う必要はないかもしれない。これが抜け落ちることは無いだろう。



 次は、第三者……客観的な物事の見方だ。


 当事者が思ったり、考えたりしていたとしても、外から見たらまったく違うなんてことはよくある。

 自分の事は一先ず置いて、客観的に見ようと努力するだけでも、落ち着き冷静な判断ができるかもしれない。



 今回の件でシダースは、ノリス達を使って客観的な意見を求めた。

 街全体を巻き込んだ問題であり、シダースが言うように誰もが当事者だったからこそ、求める相手が居なかったのも大きいのだろうが、自分の想いだけに囚われず、冷静に判断し、思いを巡らせる、素晴らしい行動だった。



 しかし、シダースは足りていなかった。もう一つの、最後の見方が抜け落ちていた。




 シダースとノリス達の会話は、その後とりとめのない無難な内容で終わらせ解散となった。


 この街へ来るまでの旅の疲れもあって、少し早いが夕食を食べ、割り当てられた部屋へノリス達は行き、支度を済ませ、ゆっくり寝ようとした。


 ベッドが二つある二人用の部屋を二つ。いつも通りノリスとイド、サウルとエストに別れた。

 この街の宿屋だから……ではなく、どの街の宿屋でも大体泊まる時、ノリス達はそうしていた。


 この世界の宿屋は、一人部屋が高い。

 それは、そもそも一人部屋を使う者が少ない。更に言うと、一人で使うとは他者と一緒に寝れない、同じ空間に他者と過ごせない者。要するに一人部屋を使う者は、位が高かった。だからこそ、一人部屋は設備も整っており、他の部屋と比べて一番高くなる。

 なので、一般的な宿屋の部屋は、ベッドが二つある二人用の部屋が多数を占めていた。


 ノリス達は一人部屋を四部屋借りて泊まることも資金的に出来るが、門で揉めた入場税ほどではないが馬鹿馬鹿しい金額で、一度も借りたことはない。

 全員が長く冒険者として活動していた為、地面でも何処でも寝れるから、大勢で雑魚寝でも問題ないのもあった。


 しかし、寝るとなると流石にいつも巻いているバンダナは外さなければならなかった。蒸れるのは本当に困る。ノリス達の全員がこれ以上侵攻してしまうのは良しとしなかった。


 因みに、あのサウルの回復魔法でも何故か治らなかった。サウルやアナトリス達は、毛根についてあまり詳しく検証してこなかったそうだ。お陰で、回復の大部分を神へゆだねなければならず、その神が髪を生やすのを良しとしなかったとサウルは説明した。

 まるで、お前達の人生はその頭髪と共に……いや、その頭髪があってこそお前達の人生だ。と言われた気がした。

 ノリス達はサウルと一緒になって神を呪った。



 そういったこともあり、大部屋で他の者からそれを見られたいとも思わなかったので、結果的に二人部屋を二つになった。


「何が悲しくて、暑苦しいおっさんと一緒の部屋で寝なきゃならんのだ……。」


 毎度のことながら、イドは隣の脳筋を一目見て、ため息を吐きつつ、愚痴も吐く。


「それを言うなら、俺の方だろ!

イドは以前の経験があるから抵抗は無いだろ。俺は昔ずっと一人部屋だったんだぞ。」


 イドの愚痴にノリスは激しく反論する。


 『青龍』は男五人のパーティだから、どうしても二人部屋しか無い場合は、セガル達と部屋を一緒になることもあり、まだイドの方が慣れていた。

 しかし、ノリスは違う。『玄武』はノリス以外の全員が同じ部屋で寝泊まりする為、必然的に一人だった。だから、未だに慣れていなかった。


「それはそうかもしれんが……こんな事なら偽名使わない方が良くないか?」


「馬鹿言うな。それは今だけの気分だろ。他、全ての時間で面倒になるぞ。」


「まぁ、そうだな……。」


 やるせない気持ちでイドとノリスは、長いため息を吐き、ぐったりしていると、部屋の扉がノックされた。

 こんな時間に来客のようだ。気配から察するに一人だった。


 サウルかエストでは恐らくないだろうと、ノリス達は思った。余程の事が無い限り、あの二人は来ない。互いの力を認め合っている為、そもそも余程の事すら無い。それにサウルとエストは仲が良いのでノリス達とは正反対に、二人部屋で泊まるのを思春期のお泊り会のように楽しんでいた。


 ノリス達はバンダナを巻き直してから、部屋の扉を開けると、モンドが居た。シダースは居らず、モンド一人のようだった。


「夜分、遅くに申し訳ございません。」


 とても申し訳なさそうに、しかし何か決心したような強い意思の籠った声でモンドは謝ってきた。

 それだけで、ノリス達は大体の事情を察した。モンドを部屋に招き、イドがサウル達を呼びに行った。二人共まだ起きていたようで、バンダナを巻いたサウルとエストがすぐに合流した。


「それで?恐らくあの時の話の続きだろう?

アンタが一人ということは、あの青年……シダースのことについて……か。」


「そういうことですか。なるほどなるほど。

エストの発言内容に、モンドさん……でしたか?貴方も多少は思うところがあったのですね。」


「そりゃそうだろ。サウル。誰だって考えるさ。

対立するなら仲裁が欲しくなる。仲裁できるなら、そのまま纏め上げた方が楽だとな。」


「……でも、彼にその気は無さそうだったよ?気付かなかったのなら、もっと無理じゃないかな?」


 ノリス達四人は普段通りに話す。内容が領主の息子をけなしていたとしても、目の前にその息子に仕える従者が居たとしても、何も変わらずいつも通りだった。

 モンドはノリス達の無礼っぷりにこめかみの辺りをピクピクさせていたが、こんな機会はめったに無いと冷静さを取り戻しグッとこらえていた。今までこの宿に泊まった者達の中に、ノリス達のように言ってくる者は誰一人居なかったからだ。

 どちらか……いや、何事も無ければヴァンフ派閥は簡単に入れるのだ。だから、外部から来る人ですらどちらにも属さない者が少なく、たまにこの宿へ泊まりに来る者達はまともな人が少なかった。その者達は、影響力がほとんど無いとはいえ領主の息子であるシダースを前にすると、当たり障りのない事しか話さなかった。


 だから、モンドは違うノリス達を一縷の望みとした。


「貴方達の考えは理解しております。私もそう考えた事は何度もございます。

ですが、シダース様は立ち上がろうとしません。二人の優れた兄を差し置いて……という気持ちが強いからかもしれません。

しかし、このままでは……」


 モンドは切実に願うが、続く言葉をノリスが遮った。


「なぁ、モンドさんよ。理解しているなら、薄々気付いているだろ?

シダースは考えが足りてないんだ。」


「ですね。自分の望み、私達のような外部の意見……だけでは足りません。

当事者達の気持ちをもっと真剣に考えなければいけませんね。」


「でしたら!それをっ!」


「……絶対ダメ。それは本人が気付いて、自分から考えないと意味が無い。」


「そうだな。下手に伝えれば、簡単にシダースの心が折れるぞ?」



 物事を見る時、その当事者達の視点に立ってみることも重要だった。

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