第100話 皮肉
ノリス達はこの街の現状を壮年の男性から聞かされた。
ノリス達にとって、ぶっちゃけどうでも良いのに、別に聞きたくもないのに、聞かされた。
宿屋の管理人として、青年とお付きの壮年の男性に談話室っぽい部屋へ拉致されて、いつの間にか街の現状を聞くことになっていた。
何故、完全な余所者であるノリス達が、わざわざ街の面倒な部分を聞かなきゃならないのか?
ノリス達は話を聞きつつも、その疑問をずっと持っていた。
一応、ある程度予想はついていた。そして、その予想は正解だった。
彼らはマッシュ派とヴァンフ派、どちらにも属していない。なので、この街の現状を憂いていた。
現領主であるメイと同じ気持ちを目の前の二人は抱いていた。いや、青年は特に思っていた。
領主の身近な関係者かな?と思っていたら、自己紹介でそれ以上だと判明した。
青年は領主の息子であり、マッシュ、ヴァンフに次ぐ三男。【シダース】と名乗っていた。
壮年の男性【モンド】は、まさにお付きでシダースの専任従者だった。
「話は大体分かった。しかし、何故俺らに話したのか分からんな。」
結局のところ、『だからどうした?』という感想しかノリス達は思わなかったので、代表してイドが答える。
『へぇ~、大変だねぇ。』
『あるよね、そういう事。』
『うん。知らんがな。』
別の感想でもこの程度だ。
ましてや、問題が大きすぎる。関わりたくもないが、余所者がでしゃばって解決するような軽い問題じゃない。
「それは……現領主の息子の一人として、お恥ずかしい話なのですが、外から来た人が実際にこの街をどう思うのか聞きたいのです。」
シダースは本当に恥ずかしそうに頭をかきながら、眉間に皺を寄せて、そう言い、更に言い直した。
「いえ……すみません。半分は愚痴ですね。その愚痴を聞いて欲しかったのもあるかもしれません。
この街の大多数の人々は、もう自分の属するどちらかの兄を領主にし、もう一方を従える道しか見ていません。
他の道を探そうにも、そもそも相談できる相手が居ないのです。これでは到底良い解決法が見つかるとは思えないのです。」
「だからと言って、俺達に聞くのはどうかと思うぞ?」
「ノリスの言う通りだ。街の未来は街に住む者達で決めていくべきだろう。
余所者に責任は取れん。例え解決法を知っていたとしても、誰も言わないし、言えないだろうな。
こうして話を聞いた感じ、今までも他の似たような余所者へ聞いてきただろ?そいつらもそう言わなかったのか?」
「ええ、そうですね。
ですが!このままでは本当に取り返しのつかない事になってしまいます。」
既に血が流れる争いが起こっている。このまま行けば、より多くの血が乱れ咲き、散っていく。
この場に居る誰もが、その未来を簡単に想像でき、かつ現実のものになるだろうと確信も持てた。
シダースの嘆きによって、重々しい空気が漂う中、
「……ねぇ。キミは一体、何がしたいの?」
「えっ?」
エストの一言によって、空気が変わる。
「……ただ愚痴りたいだけなら、『大変だね。頑張って!』と僕らは言うだけ。
でも、そうじゃないよね?」
「はい……。どうにかして兄様達の争いを止めたいのです。
協力し合えばもっと素晴らしいことが出来るはずなのに……こんな醜い争いなんて、しなければ良いのに。」
更に嘆くシダース。しかし、そのまた更に……
「……言うほど、それが悪い事なの?」
「え?」
エストはぶっちゃけ、また空気が変わった。
「……領主の器を持った者が二人も居る。それは素晴らしい事だと思うけど?」
「ア、アナタは、モンドの話をちゃんと聞いてましたか!?それとも皮肉……いえ、冗談のつもりですか……まったく笑えませんね。
この現状のどこを見て、素晴らしいと言えるのですか!」
エストのセリフで、当然の如くシダースは不機嫌になって声を荒げる。
この街の現状を聞いて、尚それが素晴らしいと言うエストの突拍子のない言い分で、冗談だとシダースは思った。
残念ながらシダースの考えと違い、エストは皮肉っていた。遠まわしに解決法の一つを教えるつもりだったからこそ、皮肉を言ったのだが伝わらなかった。
『【領主の器を持った者】が二人も居る。』
【次期領主の資格を持った者】ならば、もう一人居るはずなのに、エストはあえてそう言った。
今、エストの目の前に居て、エストと話し合っている者。現領主メイの息子であり、三男のシダースのことだ。
今のところ、マッシュ派とヴァンフ派はいがみ合っているとは言え、ギリギリのところで踏みとどまっている。それは現領主メイが健在だからだ。現領主メイが治めている為、大きな問題を起こせば、次期領主への道が閉ざされる可能性もあり、いがみ合う程度で済んでいる。
しかし、メイは年老いて、領主の期間も後僅かだからこそ、対立が静かに激化していっている。
ならば、メイと同じ意思を持った、メイよりも若い者が代わり、マッシュとヴァンフの間に立って治めれば、平和的な解決に向かうかもしれない。
勿論、若い者とは一番シダースが適任だった。マッシュとヴァンフは互いに対立し合っているが、話を聞く限りシダースとの仲はそれぞれ悪くないようだった。
エストだけじゃなく、ノリス達ですらその方法を考えた程だった。
だからエストは、シダース自身の望みについて自分でどこまで出来るのか?その気持ち、覚悟、力を知る為に皮肉った。
次期領主の資格は三人が持っているが、その内のシダースだけは領主の器として相応しくないと言ったのだ。
本人にその気持ちや覚悟が無いのか?それとも意味を理解しなかったのか?全然響かなかった。
シダースの後ろに控えるモンドには気付かれて若干エストを見る視線が鋭くなったが、シダースが気付いていないので伝えようがない為、押し黙っていた。シダースに説明するにはその気持ちをモンドも思われていると悟られたくなかったのかもしれないし、もしかしたらモンドもエスト達と同じ解決法を少しだけ考えていたからかもしれない。
「まぁまぁ。私達は色んな街を見てきましたからね。
それこそ、ロクでもない領主の息子が後を継いでしまう悲惨な街も数多くありました。
それに比べたらエストの言う通り、領主に相応しい人が居るだけでも幸せですよ。
同時に複数現れたのは、なんとも言えませんが、一人も居ない街にとっては欲張りな悩みと受け取られますね。」
エストの皮肉は伝わらなかったが、シダースを怒らせたことには変わりないので、サウルがフォローにまわってその場を落ち着かせていた。




