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週末だけ冒険者のおっさん達  作者: 小雅 たかみ
第一章
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第10話 ダンジョンの怒り

『ダンジョンの怒り』


 ダンジョン内で魔物が大量に湧き出し、外に溢れ出すこと。【異常発生】、【スタンピード】とも呼ばれるが、事前に小規模の地震の後、地鳴りとも言われているが、ダンジョンから凄まじい咆哮が轟き聴こえてくるので、『ダンジョンの叫び』とも呼ばれ、その後に溢れ出てくる魔物達も含めて、『ダンジョンの怒り』と呼ばれるが一般的だった。


 ダンジョンは侵略の為に魔王が作ったという説よりも、神の試練と捉える者が多い理由に、この『ダンジョンの怒り』が挙げられる。


 それは、『ダンジョンの叫び』から一定時間経って、ようやく魔物達が外に出てくる為だった。最下層から溢れてくるならば相応の時間が掛かるからといった真相かもしれないが、まるで、この困難に立ち向かうための準備をしろと言われているような気がしてくるのだ。


 更には……




「むぅ?この揺れは……ノリス。ちょっと静かにしてくれ!」


 剣を打つノリスにはさっぱり気づかなかったが、作業台で皮をなめしていたイドが揺れに気づき、ノリスに作業を中断するように言った。


 ノリス、イド、そして調合中のエストも仕事を止めて、何かを聞こうとした時、サウルが外の畑から飛び込んできた。


「皆さん!聞こえましたか?『ダンジョンの怒り』が始まるみたいです!」


「サウル。なるほどな。やはりさっきの揺れはソレだったか。」


「……どうする?」


「うーん。今、俺達は一応Eだからな。

招集が来たら、相応に対応すれば良いんじゃないか?」


「だな。所詮はゴブのダンジョンだ。

Dも数組居るだろう。俺らが呼ばれるなんて滅多に無いかもしれん。」


「でも、もしも……という事もありますよね?今日の仕事は辞めた方が良さそうですね。」


「……うん。準備してくる。」


「ああ、どの道仕事にならんだろう。」


 ノリス達は、仕事を止めて片付け始め、もしも招集された場合の準備もしだした。

 とはいえ、招集されたとしてもノリス達は、駆け出しを卒業した程度のEランクパーティで、趣味で潜ってるだけの半分遊び感覚であり、汎用性も低い全員剣士だから、後方の予備兵力あたりに配置されるだろう。

 その為、全員がのほほんとしながら、まったり片付けたり、適当に準備していた。


 『ダンジョンの叫び』が聴こえてから小一時間程、経過し、あらかたやる事も終えて、今日の仕事も止めた為に、四人でのんびりお茶を飲んで過ごしていたら、家の扉を叩く音がした。


 まさかの訪問客。それはすなわち招集であった。


 こんな俺達にまで招集がかかるとは思ってもみなかった四人は、少し驚き、さりとて無視する訳にもいかないので、代表してノリスが玄関の扉を開けた。


 扉の前にはアレクとその後ろに初老に差し掛かった男性が居た。


「アレクじゃないか!?

『ダンジョンの怒り』だろ?まさか俺達にお呼びがかかるとは思わなかったな。」


「いや……その……あの……」


 アレクは口篭りながら、何かを言いたそうに、または言いにくそうに、繋ぎの言葉しか発しなかった。

 そんなアレクを差し置いて、初老の男性が食い気味に体ごと滑り込んできた。


「あぁ!神よ。居てくれた!

お主らにお願いがあって駆けつけたのじゃ。招集についてじゃが、どうか……どうか!この街を救ってくれ!」


 初老の男性は矢継ぎ早に願いを口にする。

 まだ魔物が溢れ出すには早すぎるはずなのに、かなり切羽詰まった状況のようだった。これではマトモに話を聞くことも出来そうにないとノリスは思い、落ち着かせて家にあげた。


「まぁ、落ち着いてくれ。招集されれば応じるし、ある程度の準備もしている。

だけど、俺達を呼ぶ程ヤバいのか?少し話が聞きたいから、上がってくれ。全員居るので、聞いてすぐに行動出来るだろう。」


「あぁ、すまん。ワシはその為に来たのじゃ。

アレク、後は大丈夫だ。他のパーティをかき集めてくれ。」


「分かりました。ノリスさんもまた後で!」


「ああ。アレク。頑張ってな。」


 手を挙げて別れを告げるノリスを見るとアレクは別の場所へ向けて走って行った。俺達以外の冒険者を集めに行ったのだろう。

 ノリスは、初老の男性を連れて、イド達の寛ぐリビングに案内すると、イド達も男性の事を知らないようで、きょとんとした顔をしていた。


「これは、自己紹介がまだじゃったな。

ワシはドバン。この街の冒険者組合で組合長をしておる者じゃ。」


 初老の男性……ドバンの発言に案内したノリスも、イド達も驚きを隠せなかった。


「組合長がわざわざEランクの俺らの元まで来て招集するのか?

もっと他にやるべき事があるだろ?」


「イド。それはちょっと言い過ぎなんじゃないですか?」


「……理由がある?」


「ええ。その通りじゃ!

皆様にどうしても手伝っていただきたい。いえ、助けて貰わないと、恐らくこの街は……。」


 組合長のドバンは、紡ぐ言葉は後半になればなるほど萎んでいったが、その瞳は全てを見透かすように力強くイドを見つめていた。


「はぁ……やっぱりバレてるのか。

イド。お前が変装とかしないからじゃないか?だから、せめて髭を生やすぐらいはしろと言ったんだ。」


「ノリス。髭なんて邪魔になるだろ!だが、本当に俺だけなのか?」


「いえ、確かにブルー……」


「組合長の……ドバン殿だったか?

今の俺はイドだ。Eランクのな。だから、イドで良い。様も要らん。組合長がEランクに使う言葉じゃないだろ。」


「……分かった。

ワシも長年組合長をしておるからな。イドさんとサウルさんを一目見て気づき、皆様の名前で確信したのじゃ。」


「私もですか……。」


「……サウル。眼鏡でもかけるべきだった。」


「いやぁ、どうせ壊れるのなら、かけるのも勿体無いと思ってしまうんですよね。」


「……バレたら意味無い。」


「名前か……なるほどな。結果、ノリスの安直なネーミングセンスのせいだったか。」


「おまっ!?最初はイドだろ?」


「まぁまぁ。ノリスもイドも、今は喧嘩してる場合じゃないですよね?

それで、組合長。私達を知って、そんな私達が必要になる程、今回の『ダンジョンの怒り』なんですか?」


「恐らく……もしかしたら皆様がこの街に滞在しているからなのやもしれぬ。そんな事今まで一度も無かったのでな。」


「ああ。神の試練か。そういえば、そんな噂もあったな。ドバン殿はアレを信じているのか?」


 ダンジョンの怒りが神の試練だと言われる理由のもうひとつ。


 そのダンジョン付近に居る者達の力の度合いによって溢れ出す魔物の力や数も比例して強くなると噂されている。

 確証は無いし、数年単位で不定期に起こるダンジョンの怒りなので、検証も出来ていないが、強い者達が集まっていたら、それなりの強敵が出てくるらしい。

 だからこそ、まさに神の試練だと言われている。


「ソレについては全組合内でも明確な答えは出ておらん。

じゃが、組合内で分かっている事もある。ダンジョンの叫び方によって、大体の規模が分かるのじゃよ。」


「叫び方?そういえば、俺達は同じ街で何度も聴く事は無いからな。組合なら統計が取れるのか。」


「なるほど。それで今回は異常だというのが分かったのか。」


「その通り!この街で長年ワシが聴いた限り、有り得ない程の長い叫びじゃった。恐らく、尋常ではない数が溢れ出てくるじゃろう。」

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