第1話 週末の酒場
とある世界。そこは剣と魔法の世界。
人間以外にも多種多様な種族が存在し、数多の魔物が跋扈する。
居るかどうかも定かではないが、魔物を統べる魔王が人々を支配する為なのか?はたまた神の試練なのか?いくつもの魔物がひしめくダンジョンが発生していた。
それでも人々は、抗い生きる。
冒険者として……魔物を倒し、ダンジョンを制覇すべく果敢に挑む。
そんな英雄達の物語……ではなく。
英雄を諦めた……命を賭けず、自由気ままに、趣味で戦う冒険者達の物語。
「ぷふぁっ!やっぱりダンジョン帰りの酒は格別ですね!」
ドン!と酒の入ったコップをテーブルに置き、豪快に笑う一人の男性。どう見ても男性の見た目は優男であり、その行動としては似合わない。どうやら既に酔いが回って、いつもよりも大胆になっていそうであった。
ある酒場の一席。街中でも有名では無いが、そこまで穴場な酒場でもない至って普通なお店であり、週末にもなれば多少は混雑していた。その一席に先程の優男を含めて四人の男が酒と料理を囲む。
「サウル。飲み過ぎるなよ?明日からまたいつもの仕事だ。」
テーブルを囲む男の内一人、その中で一番年長者らしいイカつい風貌の男性が更に険しい顔つきでサウルと呼ばれた優男を注意する。
「イドは相変わらず心配性だなぁ。全員、酒に飲まれる程好きでも無いから、大丈夫だ。嗜む程度じゃないか。なぁ?エスト。」
険しい顔をした年長者であるイドへ、隣の男性は馴れ馴れしく語り、更には黙々と料理を食べているもう一人の男性に同意を求めた。
「ムグムグ……うん。」
少し暗そうな顔つきのエストと呼ばれた男性は、食べながらも器用に頷き、同意した。
「ノリス。お前がそう言うなら……もしも、コイツらが潰れたら代わりに仕事しろよ?」
険しい顔からいやらしい顔へ変貌したイドは、馴れ馴れしく話しかけてきたノリスと呼ぶ男性へ丸投げする。
「あぁ?イド、ひっでぇな!?サウル、エスト。本当に大丈夫だろうな?」
この中で一番ガタイの良いノリスは、その大きな体をビクつかせて、二人へ確認する。
「……明日はヨロシク。」
「おまっ!?」
「アハハッ。悪乗りが過ぎますよ?エスト。
大丈夫ですよ、ノリスさん。また来週、こんなに楽しい週末が待っていますからね。
明日からの仕事もバリバリ働けるってもんです。」
「……サウルの言う通り。」
「うむ。だが、もう少し歯ごたえが合っても良いのではないか?
ここのダンジョンは少し簡単で、難易度が低過ぎたかもしれんな。」
「う~ん。イドの言わんとしてる事も分からなくはないが、俺達はまだ全然連携取れてないだろ?
それに難易度を上げて、もし怪我でも……はしないか。だが、キツくなったら本末転倒だろ?
俺達は楽しむ為だけにダンジョンへ行っているんだぞ?」
「それは、そうなんだがな。」
イカつい顔しているのに、可愛らしく口篭もるイドへ、ノリスは追撃する。
「というか、連携以前の問題だろ!ほら、サウル、エスト。この人の名前は?」
ノリスは唐突にイドを指さし、サウルとエストに質問する。
「え?イド……さん。ですよ?」
「……イド……さん。」
すぐ目の前に居る、険しい表情のイカつい年長者を前に、サウルとエストは委縮してしまい敬称を付け足していた。
「ほれ見ろ!めちゃくちゃ壁作られてる!そもそも仲良く無い!
冒険者パーティとして失格だろ!?イド。また同じ過ちを繰り返すつもりか?」
「ノリス!貴様だってついさっき、サウルに「さん」付けで呼ばれていたじゃないか?一緒だ!一緒!」
「サウル、エスト!
イドはなぁ。無駄に歳食ってるし、顔が恐いだけだ!残りの成分は、生まれたての赤ん坊みたいな精神だから、気にすんな!」
「いいか?サウル、エスト!!
こんな筋肉しか能の無いエストはな、脳も筋肉なんだ!
お陰でちょびっとしか思考出来ない可哀想な奴なんだ。敬称を付けるのも馬鹿らしいぞ!」
どう見ても、見た目が三十歳を楽に通り越し、四十歳に手が届きそうな二人は、十歳にも満たない子供みたいな口喧嘩を始めてしまった。
そんなノリスとイドを、ドン引きで眺めるサウルとエスト。
「えぇぇ~って、ちょっと!二人とも落ち着いてください。
流石に急には無理ですよ!僕らは、お二人の話を聞いて育ち、ここまで来ました。更には同じパーティに誘ってもくれましたし……」
「……尊敬してた……ついさっきまで。」
「だね、エスト。こんな二人は見たくなかったです。
寧ろ僕らの心配よりも、二人の方が酔っ払っているのではないでしょうか?」
「……明日の代わりは……勘弁。」
騒がしく賑やかな四人の男性達の週末は更けていく。
その後、結果的にサウルとエストから、自分達への敬称が無くなったのは良い事だったとノリスとイドは思いたかった。
そんな彼らは全員、冒険者である。
体格は違えど、同じ皮の鎧を身に纏い、同じ柄のバンダナを頭に巻いて、同じ剣を腰にぶらさげていた。
普段は普通の仕事に励み、週末だけダンジョンに潜るのが趣味の冒険者パーティだった。
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