表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葬送哀歌は夜明けとともに  作者: 月乃はな
序幕「始まりの月が昇る刻」
12/79

Episode4 「仕立屋リゼ」①

 蝉たちが我こそがと言わんばかりに鳴いている。それは正しく子孫繁栄のための行動であり、彼らの種の存続のために必要なことだとは頭で理解していても、暑さにやられた人間からしたら騒音でしかなかった。うるさい、以外の感想が出てこないのだ。もう少し湿度がましで、日差しも弱ければこうはならなかった。

 季節は夏。

 毎日の講義と夕方から夜にかけての修行の日々は、僕の時間感覚を狂わせた。

 つい先日まで六月で、東京支部に入ったばかりだったような気がするけれど、気がついたら一ヶ月と半分がたっていて、カレンダーを見たときは正直驚いた。ろくに使う暇も無かった貯金は膨れ上がっていたし、なんならいつのまにか試験期間に突入していたのである。流石に試験期間中は学業に専念したいので、少し前から覡に頼んで休みを貰っていた。もっとも、筋トレとランニングは継続しろ、と言われたけれど。

 とにかく、もうすっかり梅雨は終わっていて、暑くてじめじめとした日本の夏が到来していた。学生最大の壁である試験も終わり、明日からは遂に夏休みに突入する。大学生の夏休みと言えば、旅行だったりバイトだったり、行動範囲が広がってイベントが目白押しだ。とはいえ、僕の今年の夏休みは恐らく死神業に専念することになりそうだ。なにせ、僕はまだ大剣を振り下ろすことができない。


「あれ、あそこにいるのって」


 日光に焼かれる頭を持ち上げ、翔の視線の先を見れば、そこには日傘を差した色白の男が立っていた。彼は僕たちに気がつくと、すたすたと軽い足取りでこちらに近づいてくる。


「おはよう。二人とも顔色悪いけど大丈夫?」

「お久しぶりです、ルカさん……俺達はまあ、試験が振るわなかっただけなので気にしないでください」

「ああ、そうか。今日が最終日だったよね。お疲れさま」

「な、なんで知ってるんですか?」


 翔の驚く様子を見て、そういえば翔にいろいろ話していなかったことを思い出す。最近はレポートやら試験やら忙しかったから、すっかり頭から抜けていた。


「僕が教えたんだ。最近、よく会ってるから」


 僕がかわりに答えると、翔は呼吸を忘れたかのように固まってしまう。目をこぼれ落ちそうなほど丸くして、僕とルカを交互に見やった。


「お、お前がついに新しく友達を作るなんて……!」


 両手で口元を隠し、信じられないものを見るかのようなその態度は、明らかに僕をからかっている。


「なんだよ。僕だって友達の一人や二人作れるって」

「でもお前、あれだけ友達はいらないって言ってたのに。ついに俺だけの深月じゃなくなるんだな……俺の知らない間にこんなに育って」

「何目線!?」


しくしくと嘘泣きをする翔に、僕は思わず突っ込んだ。確かに、少し前までは友人を作らないつもりではいたけれど。最近知り合いが二人増えたけれど。

 それに、友達と呼んで良いのか正直怪しい。ルカは友達と言うよりも先輩に近いし、覡に至っては完全に上司だ。友達と言えるほど親しくはない気がする。もしかして、勝手に友達判定されて嫌な気分にさせてしまっただろうか。ルカの様子を窺おうと視線をずらすと、彼は目を細めながら微笑んだあと、あはは、という軽快な笑い声を零した。よかった、どうやらそういうわけではなさそうだ。


「君たちは本当に仲が良いんだね」

「そりゃあ、小さい頃からずっと一緒に居ますから。幼なじみを超えてもはや腐れ縁ですよ。もちろん良い意味で、ですけど」


 確かに翔の言っていることは間違っていない。同じクラスになった回数は多いし、小学校、中学校、高校、大学となんだかんだずっと一緒に居る。逆に言えば、それ以外の人とは顔見知りと言えるくらいで。僕の事情の全てを知っているのは、きっとこの世界には翔しか居ない。

 いや、違う。

 そこまで考えて、僕は思考の中でそれを否定した。

 「全て」ではない。僕はすでに翔に隠し事をしている。それどころか、これから先もっと沢山隠し事の数は増えていくだろう。

 それがどうにも心苦しくて、僕は胸を張って嬉しそうに自慢する翔の隣で、誤魔化すための苦笑いを浮かべるしかなかった。


「そ、そういえば。どうしてルカさんはここにいるんですか?」


 申し訳なさで死ぬ前に、僕は隙を見て話題を変える。これ以上この話題が続いたら、きっと翔になにか感づかれてしまいそうだったから。


「……ああ、そうそう。忘れるところだったよ。実は深月に用があってね。ちょっと深月を借りていって良いかな」

「もちろんですよ!深月をよろしくおねがいします!」


 ルカの言葉に冗談交じりでそう返した翔は、一度僕を近くに引き寄せ、ルカに聞こえないほど小さな声で僕に訊ねてきた。


「あのこと、ルカさんには言ったのか?」


 あのこと。それはつまり、僕の過去であり、現在の境遇だ。僕は無言で首を横に振った。まだ、いっていいものか分からない。今までそれを知った人たちは、要らぬ哀れみの目で僕を見て、ショックで壊れた可哀想な子と評してきたから。もっとも、僕が幻覚を見ているわけではないということに関しては、必ず彼らは信じてくれる。そもそも二人は当事者のようなものだ。

 けれど、それ以外のことに関してはどうだろう。僕だったら、以降どうやって接すれば良いか分からなくなりそうだ。だからしばらくは言う必要はないのではないかと勝手に自分で判断している。

僕の返事を受け取った翔の反応は、いたって淡白だった。そっか、という一言だけ。

翔としては自分以外に何でも相談できる友人を作って欲しいのだと、以前言っていたように思っているに違いないけれど、彼はそれ以上そのことについて触れては来なかった。代わりに、ぴんと人差し指を立ててみせる。


「良い友人関係は笑顔からだからな。深月、ちゃんと笑えよ。俺からのアドバイスだ」


 翔はそういいながら、おどけるように豪快に笑った。そんな明るい笑顔につられて、僕も思わず笑ってしまう。


「……余計なお世話。分かってるよ」

「よし!じゃあ、また夏休みにでも会おうぜ。次会うときには絶対彼女紹介するから。深月も友達作り頑張れよ」


 どうやら、まだ諦めていないらしい。活動が活発な運動系サークルはきっと夏休みでも出会いの機会が多いのだろう。僕とは違ってコミュニケーション能力に長けた翔のことだから、彼女ができる日はそう遠くないと思う。心なしかさみしい気がするけれど、ここは純粋に翔のことを応援したかった。翔だって、そうしてくれたに違いないのだから。


「うん、朗報を期待してる。翔も頑張れ」


 僕の返答に嬉しそうに笑ってから、翔はじゃあな、と手を振りながら駅の方まで歩いて行った。次会えるのはいつだろうか。翔は忙しいから、しばらく会えないかもしれない。もっとも、僕の方も暇という訳ではないけれど。


「……それで、僕に用ってなんでしょうか」


 翔の背中が完全に見えなくなってから、僕は隣で傍観していたルカに訊ねた。


「真面目なのはいいことだけど、そこまで態度を変えられると寂しいよ」

「あっ、す、すみません。ルカさんがわざわざ訪ねに来るほどですし、てっきりすごく重要な話かと思って……ふざけちゃ悪いかな、と」


慌てる僕を見て、ルカは眉を下げながらからからと笑う。冗談だよ、と言いたげに。


「まあ、重要かそうじゃないかと言われたら前者だけど、身構えるほどのことでもないんだ。俺がここに来たのは、所長じゃ翔くんに会ったとき大変だろうなって思ったから。所長はいつも言葉が足りないし、それに目つきが悪いから目立つでしょ。職質とかされるかも」


 ルカの言葉を聞いて、ああ、とどこか納得してしまった自分がいた。確かにルカなら顔つきも二十代前半に見えるし、大学近辺に立っていても誰か待っているのかな、位にしか警備の人にも思われない。覡はそうならないだろう。学生というよりは講師のような年齢に見える顔をしているし、考え事をしている彼は威圧感がすごい。顔のよさ以上に、そのオーラを警戒されそうだ。まあ、ルカも結局注目を集めてしまっているのには変わりないけれど。


「とにかく。俺がここに来た理由はひとつ。君についてきて欲しい場所があるからだ」

「ついてきてほしい場所……ですか?」


 彼はああ、と頷いて、骨張った人差し指をピンと立てる。


「実は先日、所長と君について話し合ってね。訓練ばかりじゃつまらないから、実戦も経験させようってことになったんだ」

「実戦?!」


 大きな声を出してしまってから、周囲の訝しげな視線に気がついて慌てて口を塞いだ。絶対に変なやつだと思われた。とはいえ、この衝撃の発言に驚かないでいられようか。なぜなら、僕は今も大剣を振ることができないのだ。努力の末、ほんの少しだけ持ち上げられるようになったけれど、それは武器を使える範疇には入らないだろう。戦力にならないのに実戦に投入されるなんて想像できるはずがない。そんな調子だったから、てっきり早くても夏休みに入ってしばらく経ってからだと思い込んでいた。


「は、早くないですか?僕はまだうまく……仕事道具も使いこなせないのに」


 武器なんてこんな往来で言える言葉ではないので、単語を濁してわけを訊ねる。覡にしてもルカにしても、僕に期待を寄せてくれるのはとてもありがたいけれど、いくらなんでも早すぎやしないだろうか。

 そんな僕の心配を彼も理解してくれているのか、ルカは柔らかい声色で、けれど確かに言い切った。


「大丈夫。ちゃんとサポートするし、なにも今すぐにという訳じゃない。まだ準備も終わってないしね。今日はその「準備」のために、行かなきゃいけない場所があるってだけだよ」


 準備。その言葉を舌の上でゆっくり転がす。一体どんなことをするのだろうか。武器の生成も、仕事のこなし方も、死神の基本的な規則についても学んでいる。あと足りないのはなんだろうかと顔を上げて、ふと気がついた。そういえば、一つだけ足りないものがある。


「……まさか」

「ああ、分かったかな。じゃあ早速移動しようか。駅まで少し歩くから……そうだな、この中に入っていくと良いよ」


 彼の肌のように真っ白な日傘を差し出しながら、ルカは嬉しそうに微笑んだ。




「よし、到着だ」


 大学からおよそ二十分。電車に乗り、駅から炎天下のなかしばらく歩いて、ようやくルカは立ち止まった。


「あの、ひとつきいて良いですか」

「なにかな」

「僕に足りないものって……スーツ、ですよね」

「ああ、そうだね」


 彼らが持っていて、僕が持っていないもの。それは死神の仕事着である黒スーツだ。だから、僕はてっきり服屋にでも行くのかと思っていた。それなのに。

 さよさよと風にそよぐ深緑の木々、木漏れ日が差す乾いた地面。四方八方からの蝉の大合唱に、こまめに手入れされているらしい整えられた低木。そして、鼻をかすめる線香の香りと、見渡す限りの……墓石。

 そう、墓石である。いくつかの縦長の石の前には新鮮な花束が供えられていて、短くなっていく線香が静かに煙をたてている。誰が、どこからどう見てもこれは墓石だ。決して、服を織るための機械であるとか、店に入るための入り口だとか、そういうわけではない。生きた人間が散歩をしに来るくらい名の知れた、人の肉体の終着駅。


「ここ、墓地ですよね」

「そうだよ」


 あっけらかんと、胸を張ってルカは言った。僕の方が間違っているのではないかと思うほどに。普通に考えて服と言ったら服屋だ。もしかして死神は、墓地で服を手に入れているとでもいうのだろうか。もし本当にそうだったら、正直死神をやっていける自信がない。どうやら、僕の「普通」は捨てた方が良さそうだ。

彼らとの常識の違いにめまいがして、僕は肺から空気が溢れそうなほど深呼吸をした。


「ここで、スーツを準備するんですか?」


 僕の疑問に、彼はまさか、と笑いながら答える。よかった、そういうわけではないらしい。僕はひっそりと胸をなで下ろした。


「死神の服は特別製でね。現世のものよりも丈夫で、衝撃を吸収してくれるような作りになっている。特別だからこそ、その扱いには気をつけなければいけない。死神だけが手に入るようにしなければいけないんだ」


 曰く、もし現世の人の手に渡ったら、それはもう大問題になるらしい。本来交わってはいけない二つの世界が、結びつくきっかけになってしまうからだそうだ。


「だから、基本的に冥界の街でも大量には売っていないんだよね。死神であることを証明した上で、全てオーダーメイド、一から仕立てる必要がある。まあ、本来は冥界の仕立屋に行くんだけどさ。君の身分証明書はまだ発行に時間がかかるらしいし、俺達も向こうには中々気軽にいけないから……まあ、人を呼ぶことにしたんだ」

「人、ですか」

「そう、冥界でも有名な仕立屋。彼女なら他の仕立屋よりもいろいろと融通が利くし、なにより腕が良い。君もきっと気に入るよ」


 そういって、ルカは夏空を見上げた。当然そこには何もなく、ただ青い空と白い雲、深い緑が広がっているばかり。周囲を見回してみても、他の人の気配があるわけでもない。お盆前の集団墓地ならではの、穏やかな静けさがあたり一帯を支配している。


「……そろそろ、かな」


 スマホのデジタル時計が午後二時へと表示を変えた、その瞬間。

 蒸し暑かったはずの空気が、真冬のそれへと一変した。


「っ?!」


 あまりの肌寒さに身震いし、思わず自分を抱きしめる。墓に供えられた花の水が凍てついているところを見るに、真冬どころではないかもしれない。環境の異変に、身体中の細胞が悲鳴を上げた。


「ごらん、深月。これが『扉』だ」


 急な温度変化にも顔色を変えない死神は、嬉々として虚空を――否、虚空だった場所を指し示す。目を離した一瞬の間に、空には禍々しい雰囲気を漂わせる円が浮いていて、僕は目をこぼれ落ちそうなほどに見開いた。

 円と言うよりも、穴という表現の方が正しいかもしれない。底なしの深淵を思わせるその穴からは、冷え切った白い霧がこぼれ出ている。穴の向こうには何もなく、僕の身体は未知への恐怖に震え始めた。

 一体、何が――どんなものが出てくるのだろう。ごくりと音を立てながら息を飲み込み、僕の意識の全てはその穴に向けられた。


「……カさん!……ルカさん!」


 穴の向こうから聞こえてきたのは、鈴を鳴らしたような高い声。霧の奥深くに見えたのは、ゆらゆらと揺れる青い炎だ。それらが少しずつ近づいてきて、次第に大きくなっていく。

 それらに気を取られていたからだろう、突如として『扉』から勢いよく飛び出してきた一人の少女に、僕は対応することができなかった。僕の頭上で光る彼女のまんまるのゴールドと目が合って、一瞬時が止まったかのような、そんな錯覚を覚えた。


「「あっ」」


 ゴツンだとか、ドスンだとか、とにかく骨がぶつかった鈍い音がして、僕の身体に痛みが走る。何か重いものに潰されて、内臓が悲鳴を上げている……気がした。


「いったぁ……まさか人がいるなんて。あの、大丈夫ですか?死んでないですよね?」


 ぱしぱしと頬を叩かれて、僕は閉じていた瞼を開ける。眩しい日光を遮るように、黒い影が僕の上にのしかかっていた。カールのかかった長いブロンドの髪がカーテンのごとく風にひらめいて、花のような甘い香りが鼻をかすめる。


「よかった、死んでなくて。あ……いや、死神はもう死んでいましたね」

「リゼ、とりあえず立ち上がってそこをどいてあげて。深月が潰れたカエルみたいになってる」


 ルカにそう指摘されたからだろう、少女は慌てて立ち上がり、スカートについた土埃を払い始めた。そして、地面に転がった大きな革鞄と金属製のカンテラを回収する。どうやら先ほど見えた青い光はこのカンテラのものらしい。


「深月、大丈夫?怪我は?どこか痛むところとか」

「だ、大丈夫です」


 差し出されたルカの手を借りながら、僕はゆっくりと立ち上がって目の前の少女に目をやった。ぱっと見たところ、僕と同じくらいかすこし年下のように見えるその少女は、チェック柄のスカートと胸元のリボンが印象的なかわいらしい服を身に纏っている。腰にはポーチがついたベルトを巻いていた。全体的に明るい茶色でまとめられたそのコーデは、ルカや覡の黒スーツとはかけ離れている。仕立屋の制服なのだろうか。


「ルカさん、彼女は?」

「ああ、彼女が今日呼んだ仕立屋だよ」


 未だ身なりを気にしている少女にルカが目配せすれば、彼女もそれに気がついたのかこちらに向き直った。


「あ、えっと。自己紹介が遅れて……それと、ぶつかってしまって申し訳ありません。私はリーゼロッテ・シュナイダー。冥界で仕立屋をしている死神です。気軽にリゼ、と呼んでください」


 ぺこり、と頭を下げて、彼女はブロンドの髪をひらりと揺らした。目を引くシャンパンゴールドの瞳は光を反射して、キラキラと輝いて見える。大きな瞳は長い睫で縁取られ、こちらを見つめるその姿はまるで小動物のようだった。


「貴方が覡さんのおっしゃっていたミツキさんですよね」

「は、はい。合ってます。えっと、リゼさん。今日はよろしくお願いします」


緊張からだろう、僕の声はわかりやすくうわずってしまって、僕の顔には熱が集まる。なぜかルカから生温かい視線が送られている気がするが、無視を決め込むことにした。仕方が無い。今までろくに異性と話してこなかったのだから。カフェにたくさんの異性が来て、しょっちゅう話しかけられ、応答し慣れているルカとは違うのだ。


「はい、よろしくお願いします。それにしても、やっぱり現世はいいですね。明るくて、風が気持ちいいです」


 降り注ぐ夏の日差しに目を細めながら、リゼは軽くのびをした。そして、ふわりとワンピースを翻し、未だ冷気を放ち続ける『扉』に向き直る。地面に転がっていた青い炎のカンテラを持ち上げて、『扉』の前にかざして見せた。


「主の導きに感謝いたします」


 リゼがそう呟いた途端、カンテラに灯された青い炎が浮き上がり、『扉』に向かって飛んでいく。その様子は、怪談でありがちの火の玉のようだった。今の時間帯が真昼であることだけが異質だけれど。

 青い火の玉が『扉』に触れると、『扉』は勢いよく燃え上がった。蒼の火の粉があたりに散ったが、不思議と熱さは感じられない。燃えた『扉』の方はというと、炎に焼き尽くされたのか気がついたときには跡形もなく消えてしまっていた。先ほどまで周囲に満ちていた冷気は消え去って、七月らしいじめじめとした夏の暑さが戻っている。


「よし。後片付けも終わりましたし、早速移動しましょう」

「そうだね。……深月、大丈夫?」


 急な温度差にめまいがするが、それはどうやら僕だけのようだった。大丈夫です、と口では返したものの、正直理解が追いついていない。死神という存在の異質さを実感しながら、そして立て続けに起きた非日常な体験を脳内で少しずつ消化しながら、僕は二人の後を追った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ