1 妄想と現実
賑わう駅前のイルミネーションを横目に駅へと急ぐ。その人工的な眩さがチラつく大きな粒雪をカラフルに染めていく。すでに足元は一面に薄く雪化粧が施されつつあった。
「……今日は早く帰りたかったのに…」
年末の仕事の山をひたすら処理してはや一週間。体力は限界に達していた。
朝起きて、仕事して、ご飯食べて、お風呂入って、ゲームして、スマホで漫画読んで、寝る。
ここ10年、その繰り返しだった。
確かに仕事はやりがいがあって楽しい。
女性営業として採用され、見た目は平々凡々の自分でも愛嬌と仕事の速さだけで運良く昇進できた。お金だってゲームに課金できるくらいは稼いでいる。
でも満たされない何かがあって、ゲームや漫画の世界に救いを求めてしまう。
主人公に憧れ、その世界に自分が居て特別な能力を得て一緒に活躍したいと妄想に耽るのだ。
特別じゃない自分がもしすごい能力を持って主人公のピンチを助けられたら…むしろ主人公になったらなんて妄想、33歳になってもまだ卒業できていない。
大人になってもいきなり中身が変わりなんてしない。
私はその日を生きていくただの大人の一人だった。
「…自分に課金してライフ満タンにしたい」
できればガチャでアイテムも充実させて、攻略サイト参考に人生楽々イージーモードでいきたいものだ。
異世界転生してチート能力でカッコいいキャラのサポートしつつ守られたりたもして、いつかは恋人同士に…。と最近ハマっているゲームの設定を借りて妄想が捗る。繰り返すが33歳でもこんな調子なのだ。
駅前の交差点の信号待ちで推しキャラのクリスマス限定衣装の10連ガチャを回しニヤつくくらいは許して欲しい。
歩行者信号が青に切り替わるとスマホをコートのポケットに入れ歩き出す。
あと15分程で20時。20時から始まるゲームの限定イベントは電車の中でできそうだ。
マスクっていいよねニヤケ顔がわかりにくいから、と思ったところで視界の隅に車が映り意識が途切れた。