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10 『聖骸聖女』との決着

『なにやら、全てがいい方向に進んでる気がしてるかもしれないけど、現実は甘くない事を教えてあげるよ!』

 そう宣言したウェルタースの影から、再びダンジョンモンスターの群れが沸き上がる!

 その中には、ガーベルヘン達の広範囲攻撃を避けるための高起動タイプや、ウェルタースを守る壁となる重装タイプのモンスターも多数おり、こちらの布陣を睨んでの対処をしてきたようだ。


 さすがに適応が早いなと感心していると、敵陣の中から一陣の影が飛び出してくる!

 そいつは、俺を無視して隣にいるティアルメルティへと凶刃を振り下ろそうとした!

「させるかよぉっ!」

 間に入った俺の剣とぶつかる刃が火花を散らし、硬い金属音が響きわたる!


「……また、てめぇか!」

 ティアルメルティを狙った刺客、そいつは俺の姿と瓜二つな、コピーモンスター!

 またも自分そっくりな相手と戦う事に、俺は内心でため息を吐いた。


『喜びなよ、ダルアス。僕は君が有能だと認めているから、高いポイントを使ってコピーモンスターを生産しているんだからさ』

「はっ、そりゃ光栄なこった!それで(コピー)にやらせるのが、女子供を狙うっていう、クソみたいな仕事じゃなければな!」

『この場合、その女子供が敵の頭なんだから、狙って非難される謂れはないと思うけどね』

 ぬ……それはそうかも……。

 だが、理屈はどうあれ俺の姿をした奴に、そういう真似をさせるのは気にくわん!

 そして、舌戦が得意な相手はパワーを持って黙らせるのが、冒険者の流儀ってやつよ!


「オルーシェ、サポートを頼む!」

「任せてっ!」

 嬉しそうな声と共に、俺の中にダンジョンポイントが流れ込んでくる!

 力が漲る感覚に手応えを感じながら、俺はコピー野郎へと突っ込んだ!


「てめぇの相手は、俺がしてやるよぉ!」

 ティアルメルティを第一目標としていたコピー野郎だが、俺の存在が邪魔だと判断したようで標的をこちらに変える!

 望む所だとばかりに、上段から斬りおろす刃を振るう!

 コピー野郎は、それを剣で受けようとしたのだが……。


『っ!?』

「え?」


 まるでバターでも切るようにほとんど抵抗もなく、俺の攻撃はコピー野郎を剣ごとその身体を両断していた!

 あまりにも呆気ない攻防に、真っ二つになるコピー野郎を眺めながら、俺も言葉を失ってしまう。


「ナイス、ダルアス!」

 勝利を納めた俺の耳に、キラキラとした瞳で見つめるオルーシェの興奮した声が届く。

 ……この結果に原因があるとすれば、こいつしかいねぇ!


「オ、オルーシェ?お前、俺のパワーアップに、どれくらいのポイントを使ったんだ?」

「えっと……」

 ちょっと考えてから、彼女が提示したポイント量は、かつて『真・勇者』と戦った時の量を軽く凌駕していた!


「ちょっと待て、そりゃいくらなんでもポイント使いすぎじゃねぇのか!?」

 そりゃ、簡単にコピー野郎も真っ二つにできるわ!

「今の私は、願いが叶って最高にハイだから!」

 フンス!と拳を握り、気合いを入れるオルーシェ!

 いや、そりゃ全力でサポートしてもらえるのはありがたいんだが……。


「だからって、無駄遣いは良くねぇぞ!」

「また頑張って貯めるから、一度くらいは大盤振る舞いをしても平気!」

 おおぅ……あのオルーシェが、ここまで欲望に素直になるとは。

 しかし、思い切りが良すぎるよな……俺はひょっとしたら、とんでもないモンスターを覚醒させてしまったのかもしれない!


「あと……未来の旦那様に尽くしてみたい願望も、この際満たさせてもらうね♥️」

 ちょっと照れながら、オルーシェはそんな事を口にする。

 そ、それはちょっと気が早いと思うんだが……。

 しかし、内心で気恥ずかしさを感じる俺とは裏腹に、オルーシェは「褒めて?」といった感じで、期待のこもった素直な眼差しを向けてくる。

 まぁ、色々と言いたい事はあるけれど……。

「ナ、ナイスだ、オルーシェ!」

 親指を立ててそう返すと、彼女は嬉しそうに表情を輝かせた。


『採算度外視がすぎるだろ……』

 結構なポイントを注ぎ込んだという、俺のコピーを一撃で倒され、さすがのウェルタースも思わず呆然としている。

 だが、ぼんやりしてていいのかな?


『!?』

 ゴゥッという轟音と共に、炎がウェルタースを掠めるように吹き荒れる!

 それをかろうじて避けた奴の目に、ガーベルヘンや四天王達に蹂躙される、自身のダンジョンモンスターの姿が映った!


「ママ!わたし頑張ったよ!」

「素晴らしい働きでしたわ、ガーベルしゃま♥️」

「ハッハー!所詮はザコの群れだったな!」

「我々、魔王様直属の四天王にかかれば、数だけのモンスターなど、どうという事はない」

 追加されたダンジョンモンスターも蹴散らし、こちらに付いた『聖女』達と武闘派の四天王二人は、勝利を告げる!

 多少の負傷はあるようだが、みんな大したダメージは無いようだ。

 これで、もはやウェルタースを守るのは、先程の重装タイプのダンジョンモンスターだけだ!

 そいつらを蹴散らした後は……頼むぜ、魔王様(ティアルメルティ)


『……ククク』

「むっ?」

 だが、追い詰められたであろう、ウェルタースがこぼした声……それは、奴の笑う声だった。


『どうして……勝ったつもりになっているんだろうね?僕はまだ、総量の一割以下の(・・・・・・・・)ポイントしか使ってな・・・・・・・・・・・いのに(・・・)

「なん……だと……!?」

 十分の一!?

 俺のコピーを含め、あれだけのダンジョンモンスター作り出しておいて、まだそんなに余裕があるというのかっ!

 こいつ……どれだけ、ポイントを貯めこんでたんだ!


『フフフ……事実を知って、焦ってくれているようだね。僕は、そういう人間の表情が好きなのさ』

 わずかばかり、こちらの戦意が揺らいだ事を察したウェルタースが、獲物をなぶる嗜虐的な笑みを浮かべ、ゆらりと片手を挙げた。

 なんて悪趣味な野郎だ!


『それじゃあ、二回戦といこうか!』

 次の戦いの幕開けを唱いながら、合図するように手を振り下ろしたウェルタースの影から、またも大量のダンジョンモンスターが……現れ、ない?


 てっきり、奴の号令でまたもダンジョンモンスターが出現すると思っていたのに、それらが現れる入り口であろうウェルタースの影に、全く反応がなかった。

 これは奴にとっても想定外なのか、俺達と同じようにキョトンとした表情で、自身の影をペチペチしてる。

 すると、唐突にフロア内に無機質な声が流れた!


『マスター、ハッキングは成功しました。これで、ウェルタースはもうダンジョンモンスターを生成できません』

「うん、ご苦労様」

 ウチのダンジョン・コアの報告に、驚く様子もなく自然に頷くオルーシェ。

 ……どういうこと?


『実は、皆様がそちらで戦っている間に、繋げられた回線から逆にウェルタースへ気づかれぬように、ハッキングを行っていました』

『バ、バカなっ!僕にハッキングなんて、そんな真似ができるハズが……』

「そっちも、ウチのダンジョンに干渉できた。どうして、私達に同じことができ(・・・・・・・・・・)ないと思ってたの(・・・・・・・・)?」

 そのごもっともな指摘に、ウェルタースは言葉を失ってしまった。


私という餌(・・・・・)が目の前にくれば、こっちに気を取られて防御が甘くなると思った。まさに計算通り」

 得意気にダブルピースを突き出し、オルーシェはウェルタースを煽り倒す!


「……あ、もしかして俺のサポートのために、ここまで出てきたってのはフェイクだった?」

「ううん、それも本当。ただ、囮とサポートとの、隙を生じぬ二段構えだっただけ」

 かんたんに言ってくれるなぁ!

 まったく、この歳にてして油断も隙もありゃしない。

 ……本当、えらい娘に好かれてしまったもんだぜ。


『ウソだ……僕が、こんな人間の子供に、出し抜かれるなんて……』

『相手を侮った時点で、君の敗けは目に見えていました。だから言ったでしょう?素晴らしいマスターを持てなかったあなたは、可哀想だと』

 同じダンジョン・コアでありながら、常識とは外れた方向に進んだウェルタースを哀れむような物言いに、奴はいきなり逆上した!


『ふざけるな!この身体の持ち主(ウェルタース)も、いままで僕が吸収してきた連中も、人間なんて、僕の餌にしか過ぎないんだよぉ!』

 これまでの、どこかガキっぽかった口調はどこへやら。

 激昂して怒鳴りながら、ウェルタースは動き出した!


『お前さえ、食ってしまえば!』

 その巨体を揺らし、オルーシェを狙う様は、まるで大型のモンスターのようにも見える!

 実際、倍以上の大きさがあるウェルタースに攻撃されれば、小柄なオルーシェはひとたまりも無いだろう!

 だが、奴の攻撃がオルーシェに届く事はない!


「ようやく、前に出てきてくれたのぅ」


 距離を詰めようと迫る奴とオルーシェの間に、俺はティアルメルティを背負いながら割って入る!


「やっちゃってくださいよぉ、ティアルメルティさん!」

「任せよ!」

『どけえぇぇえっ!』


 ガパッ!と裂けた大口を開き、オルーシェはおろか俺達も鯨呑しようと突っ込んでくるウェルタース!

 そこへ、ティアルメルティの放つ一撃が、奴を捉えた!


「解神・魔破拳!」


 魔王の拳から放たれる衝撃波が、フロア全体を揺らす!

 目には見えない、圧縮されて解呪の魔力に撃ち抜かれ、ウェルタースはぐるんと白目を向いた!

 そのまま、糸の切れた人形のように勢いよく倒れ込み、ピクリとも動かなくなる。


『あ……ああ……こ、こんな……』

「ん?なんだ、こいつ意識があるのか?」

 てっきり、『聖骸』を完全に停止させられたのかと思ったら、まだかろうじて機能はしているようだ。

 しかし、白目を向いたままだし、指一本も動かせない様子……つまりは、まな板の上の鯉である事に変わりはない。


「……うん、意識はあるみたい。ありがとう、ティア」

「うむ。まぁ、余もオルーシェの実験(・・)に興味があったからな」

「実験……?」

 なにか、彼女達の言葉に黒い物を感じ、気になった単語をつい聞き返してしまう。



「うん。マスター不在の自立式ダンジョン(・・・・・・・・)なんて珍しすぎるから、徹底的に調べてみたかった」

「ちなみに、余もウチのダンジョン・コアめも、オルーシェの提案に賛成だ」

『私の今後の可能性にも繋がる、大変興味深い教材となりそうです』

 意識はありながらも、身動きの取れないウェルタースを、オルーシェ達は好奇心に染まった目で見下ろしながら、クスクスと笑う。

 怖~……とも思ったが……そう、これがダンジョンに挑むって事なんだ。

 文字通り命懸けで挑み、勝てば栄光の未来を得るが、負ければ全てを失う。

 冒険者ならば当たり前に持っているハズの矜持を、俺はまた思い出していた。


『イ、イヤだ……せっかく自我を得たのに……こんな終わり方……』

 なんとも、憐れな感じの声を漏らすウェルタースだったが……まぁ、お前も俺達やこのダンジョンを食い散らかすつもりだったんだから、こういう結末も受け入れてくれたまえ。


「大丈夫、痛くはないと思うから。多分……」

 生暖かい笑みを浮かべるオルーシェに、絶対に嘘だと心底怯えるウェルタース。

 しかし、それで彼女らが止まるハズもなく……こうして、ダンジョンマスターと魔王とダンジョン・コアによる、『ドキッ!珍しい敵性ダンジョン・コアを、丸裸にしちゃうぞ』大会の幕は、静かに上がっていったのだった。

 合掌………。           

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