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08 総力戦

           ◆


 マスタールームを出て、『聖女(ウェルタース)』の迎撃に選んだフロアに飛び込んだのは、ほぼ同時だった。

 俺達は下から、奴等は上から続く通路を進んで来た二組が正面から敵を見据え、視線が交差する!


『……これはこれは、初めましてだね。ダンジョンマスターのオルーシェ!』

 獲物を見つけた肉食獣の如く、ウェルタースの瞳が爛々と輝く!

『わざわざ僕の前に出てくるなんて、もしかして全部を諦めたのかな?なら、せめて痛くないように、吸収(たべ)てあげるよ?』

 挑発するような奴の物言いだが、それに対してオルーシェは、眼鏡の位置をクイッと指で直すと支配者然とした態度で口を開いた。


「うるさい、寄生虫」

『きせっ……』

 思わぬ強い口調に、ウェルタースが言葉に詰まる!あと俺も!

 初めての顔合わせで、開口一番がそれでいいのか、オルーシェさん!?

 いや、確かに俺だって奴に関してはいい印象なんか微塵もないが、急にそんなこと言うとびっくりするわ。


『フ、フフフ……ずいぶんと口の悪いダンジョンマスターだね』

「実際、ウェルタースという人間を乗っ取って、その身を改造しながら操っているんだから、特殊な寄生虫みたいなもの」

「そうじゃ、そうじゃ!やーい、ロイコクロリディウム!ハリガネムシ!エメラルドゴキブリハチ!」

 キツいオルーシェの言動に続いて、ティアルメルティも寄生虫の例をあげながら、ウェルタースを煽りまくる!


『…………』

 仮にも、自立稼働を可能にした、他に類を見ない『人間ダンジョン』となったウェルタースのダンジョン・コア。

 だが、この二人の煽りに対しては顔を真っ赤にして小刻みに震えながら、凄まじい形相で睨み付けている。

 これは、相当にプライドを傷つけられているな……無理もないが。

 しかし、あまりの怒気に、そのまま襲いかかってくるかと思っていたのだが、ウェルタースは大きく息を吐き出して、冷静さを取り戻そうとしていた。


『……まったく、こんな心理戦を仕掛けて来るとは、予想外だよ』

 奴が伏せていた顔をあげた時には、目付きは険しいながらも、怒りの表情も消えていた。

 ちっ……わかってはいたが、なかなかメンタル強めで手強いな。


『フン……どうせ、僕を怒らせて君達に突っ掛かるよう誘導し、魔王の奥義(・・・・・)で僕を仕止めたかったんだろうが、そうはいかないよ』

「っ!?」

 ウェルタースの言葉に、今度はこちらが衝撃を受ける!

 な、なんであいつが、ティアルメルティの『解神・魔破拳(おくのて)』を知っているんだ!?

 俺達にわずかながらに見られた同様する様に、ウェルタースの口の端が歪む。


『ククク……僕には、素晴らしい情報源があるのさ。ねぇ、ダルアス(・・・・)?』

 ポン!と肩を叩かれた俺のコピー(・・・・・)が、コクリと頷いた!

『ティアルメルティの、対『聖骸』奥義は強力だが、影響は一人にしか及ぼせない』

 躊躇なくティアルメルティの技の弱点を説明する、俺のコピー!

 って、お前ぇ!なにペラペラ喋ってやがるんだ、この野郎!


『フハハハハ!僕のダルアスが、ただのコピーだと思っていたのかい!? 本物を食らって作り出した彼は、ダルアスの持つ知識すらもコピーしているのさ!』

 完全にこちらの意表を突いて、溜飲が下がったとばかりに高笑いをするウェルタース!

 だが、まさか……そこまで完璧なコピーをしているとは、予想外だった。


『フフフ、確かに『聖骸(ぼく)』にとっては必殺の技のようだけどね……こうすれば、それを封じるのは簡単さ』

 そう言って、横凪に腕を振った奴の影から、小型ダンジョンモンスターが雲霞の如く大量に湧き上がり、フロアを埋め尽くしていく!

 一匹一匹は取るに足らないザコだが、これだけ大量の数となるとウェルタース本体に近付くのは困難だ。

 そして、ティアルメルティの奥義も、ダンジョンモンスター達に阻まれて、奴に届く前に無効になってしまうだろう。


『これで、魔王の奥の手は封じた。あとは……』

「!?」

 ウェルタースからの視線を受けたコピー野郎が、突如俺達に向かってくる!

 俺は、コピー野郎とオルーシェとの間に入って、奴の突進をかろうじて止めた!


「ダルアス!」

「応っ!」

 オルーシェによって魔力を注がれ、生前の姿を取り戻した俺は、コピー野郎の剣ごと体を弾きかえして、距離を取る!

 チッ!

 ティアルメルティの技を封じると同時に、オルーシェも狙ってくるとはな!


『おぉぉぉっ!』

「くっ……こいつっ!」

 オルーシェを下がらせたものの、さらに猛然と攻め立ててくる、コピー野郎!

 こちらも、一気にケリを着けたいので、ダンジョンポイントを戦闘力に代えて応戦するが……。


『フッ……ダルアス達には、そこで遊んでてもらうよ』

 どうやら、ウェルタースもコピー野郎に力を注入しているようで、俺達の攻防はほぼ互角だった!

 四天王達も、群がる敵のダンジョンモンスターから、ティアルメルティとオルーシェを守るのに手一杯の様子……。

 奴が、どれだけダンジョンポイントを溜め込んでいるのかは分からんが、このままでは徒に疲弊していくだけで、突破口が見えなくなるかもしれない。


『フフフ、そちらの護衛も頑張っているけど、何時間持つかな?』

 何時間って……そんなに持たせるだけの、ダンジョンポイントを内包しているということか。

 まずいな……このままじゃ、ジリ貧だ。

 じわりと胸中に焦りが滲んできた俺だったが、不意にオルーシェの顔に不敵な表情が浮かぶ!


 次の瞬間!

 突如、激しい炎が巻き起こり、敵集団の一部を焼き尽くす!

『なんだとっ!?』

 手駒への意外な反撃を受け、ウェルタースが驚きの声を漏らした!


「……奥の手を用意しているのが、ティアだけだと思った?」

 ニヤリと笑うオルーシェの声に答えるように、階下へ通じる通路の奥から、二つの人影が姿を現す。

 あ、あいつらは……!?


「すごいわぁ、ガーベルしゃま♥️その調子で、どんどん焼きましょう♥️」

「うん……私、頑張るよ、ママ……」

 浄化の『聖女』ガーベルヘンと、その相方の『聖女』ラクトラル!


 たしか、侵入者の目を引き付けるトラップの一部として、このダンジョンで保護していたが、なんでこいつらが俺達の助っ人に……!?

 俺だけではなく、ウェルタースまでも困惑している状況に、オルーシェが二人を手まねいた。


「ガーベルヘン達には、このダンジョンで完全に二人だけの、パーソナルスペースを確保してあげるという条件で、協力してもらえる事になった」

『な、なにぃ!』

 『聖女』の肉体を奪い、その知識も得ているウェルタースも、ガーベルヘン達の行動には驚きしかないようだ。

 まぁ、俺もちょっとどうかと思うし、それでいいのかよ、『聖女』……。


「ここは、誰にも邪魔されたり、命令されないで、ママと二人きりになれる場所なんだから、奪おうとする奴は許さない……」

「あぁん、ガーベルしゃま……嬉しい♥️」

 頭を撫でたり、頬や額にキスをするラクトラルの愛情表現に、ガーベルヘンも幸せそうな微笑みになっていく。

 むぅ、共依存レズ……いや、本人同士が幸せなら、別にいいけどな。


「それじゃ……邪魔ものは、燃えちゃえ」

 ガーベルヘンから放たれる『聖骸』の炎が、再びウェルタースのダンジョンモンスターを飲み込んでいく!

 しかし、敵のすぐ近くにいたオルーシェや、ティアルメルティと四天王には、まったく影響が出ていない!

 敵味方の識別ができる広範囲攻撃って、めちゃくちゃ便利だな!


『くっ……なんて事だ……』

 ギリッ!と噛みしめた歯を鳴らし、ウェルタースが悔しげな声をこぼす。

 無理もない……『聖女』達の飼いにもあり、もはや大勢は決まったと言っていいだろう。

 俺がコピー野郎を抑え、ガーベルヘンの炎が奴の生み出したダンジョンモンスターを一掃し、四天王がウェルタースを攻め立てる!

 機能しだしたフォーメーションは、絶対的な優位性を持って機能し、先程とは一転してこのまま俺達の勝利が確定すると思われた。


 ──だが、その時!


『ダアァァルアァスゥ!』

 突然、吼えるウェルタースの声に反応して、コピー野郎が俺に背を向けた(・・・・・・・)

 一瞬、何をしているのかと固まりそうになったが、このチャンスを逃す手はない!


「せりゃあぁぁぁ!!」

 裂帛(れっぱく)の気合いと共に繰り出した剣閃が、背を向けたコピーの胴を両断する!

 しかし、コピーの奴は自身の死など気にも止めず、振りかぶった剣を投げつけた!

 後方にいた、オルーシェに向かって(・・・・・・・・・・)


「なっ!」

『勝った!』


 俺の驚愕と、ウェルタースの勝利の声が重なる!

 その視線の先で……飛来した凶刃に胸を貫かれ、弾かれるように倒れていく、オルーシェの姿があった。

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