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04 人間ダンジョン

 ダンジョンコアが、『聖骸』!


 モニターの向こうで、そんなとんでもない事を言い出した『聖女』ウェルタースと、このマスタールームに鎮座しているダンジョン・コアを、俺達は交互に見合わせる。

 いったい、どういう事なんだよ、ダンジョン・コア!


『わ、私が『聖骸』?』

 しかし、なぜかウチのダンジョン・コアは、動揺しながら身を震わせた!

 つーか、お前も知らんかったのかい!


「だが……言われてみれば、こんな小さなコアが巨大ダンジョンを形成するのだから、神の力の一端だったとしてもおかしくはないか」

「確かに……はるか昔から存在する、そういう物だとしか思ってなかったけど、考えてみると異常ではあった」

 ティアルメルティとオルーシェは、ウェルタースの言葉にどこか納得がいったかのように、頷きあっている。

 いや、確かに驚きの新事実ではあるがな……いま問題なのは、そこじゃない。


「ダンジョン・コアが『聖骸』なのは、まぁいいだろう。だが、それを語るあいつは(・・・・・・・・・)何なんだ(・・・・)?」

 俺の指差した先には、向こうからは見えないはずのこちらを眺める『聖女』の姿。

「奴の物言いだと、まるで奴自身がダンジョン・コアその物だと、言わんばかりじゃねぇか!」

『ふむ……だから、そうだと言ったのに。マスターに比べると、質の悪いダンジョンモンスターだな』

 ニヤリと口の端を歪めるウェルタース……いや、もうひとつのダンジョン・コア。


「はぁん!?んじゃ、なにか?てめぇは、その身体を乗っ取ったとでも言うのか!?」

『まぁ、そういう事だ』

 柄の悪いチンピラっぽく絡んだ俺をスルリとかわし、奴は事も無げに肯定してみせた。


『もっとも、僕の事はこのままウェルタースと呼んでもらってもかまわないよ。なんせ、僕の知識や人格は、彼女をベースにしているのだからね』

 外面は『聖女』のままで、ダンジョン・コアの野郎は、僕の呼び名が無いと君達が困るだろう?などと嘯きやがる。

 元のウェルタースって人物を俺は知らないが、まるで得体のしれない化け物が彼女の皮を被って成り済ましている……そんか気がして、奴に嫌悪感を覚えた。


「……ひとつ、聞かせてほしい。その肉体に、元のウェルタースの意識は残っているの?」

『いいや。教会の連中が、僕を移植したばかりの頃は、彼女の意識も残ってたんだけど、補食行為に耐えられなかったようで、今は消えてしまったよ』

 そう言いながら、ウェルタース(面倒だから、そう呼ぶ事にする)は、肩を竦めた。

 補食行為って……いましがた、バーサクドックを食い尽くしたような真似を、他でもしてたのか。

 うん、してたんだろうな。

 確かに、いくら『聖女』とはいえ、何度も殺して死骸を食うような真似をしてれば、精神をすり減らしてしまうのも無理はない。

 しかも、下手すりゃ食ったのはモンスターだけ(・・・・・・・)じゃなさそう(・・・・・・)だしな。


『まったく、人間の精神なんて脆い物だよ。この女にしたって、たかがいくつかの村を住民ごと食い尽くした(・・・・・・・・・・)だけで、ボロボロになっちゃったし』

「なん……だと……」

 まさか、その可能性もあるかもと思った事を、こいつはやってやがったのか!?


「マ、マジか、こいつ……」

『人間だって、獲物を補食する事で肉体を作るだろう?なにかおかしな話かな?』

「人は……人間は人間を食わねぇよ!」

『効率よく生き物を取り込むで成長しようとするのは、僕らの本能と言っていい。それに関しては、人間という獲物はちょうどいいからね』

 人の姿で人の言葉を語るのに、話が通じない感じ……完全に意志疎通ができないモンスターより、気持ちが悪い。

 俺達は気色悪さに顔をしかめるが、ウェルタースはそんな事はどうでもよさげな雰囲気で、自身の肉体の大きさを計るように撫でていった。


『それなりに大きくはなったけど、この身体はもっと育てないとな』

「それって、どういう……まさかっ!?」

『ほう、気づいたのか。さすがはダンジョンマスター』

 驚愕するオルーシェに、ウェルタースはニヤニヤしながら「その通りだよ」と肯定してみせる。


「いったい、どうしたってんだよ、オルーシェ?」

「あのウェルタースの巨体……あれが、ダンジョン・コアとの融合後に成長したというなら……もはや、人間の体とは言えない!」

「え?」

「あの体は、もはやそれ自体がダンジョン……自力で移動を可能にした、人間ダンジョンと言っていい代物!」

「なっ!?」

 人間ダンジョン……だとっ!?

 本来、ダンジョンってのは食虫植物みたいに、お宝やダンジョンモンスターという甘い匂いで誘って、侵入した者を補食する事で成長していくのが常だ。

 だが、そんなダンジョンが自ら動いて補食を始めたら?

 それは無限に食らい、無限に成長を重ねる、とんでもない脅威になるだろう。

 そして、モニター向こうのウェルタースは、その可能性を有しているのだ! 


『ようやく自由になれたんだ、これからはもっともっともっともっともっと食らい、どこまでも成長して……僕は、新たなる神になるのさ!』

 『聖骸』……つまりは神の残骸が、限界を超えて神に至るなんて事か可能なのかは、誰にもわからない!

 わからないが、ウェルタースの言葉の端々からは、疑いようのない本気が溢れていた。


「……なるほど、お主のような存在があるというのは、理解した。じゃが、何を目的としてこのダンジョンへ連れてこられたのだ?」

 単純に考えれば、今まで通りにティアルメルティの討伐が主目的だろう。

 しかし、ここに至るまでの一連の扱いを見るに、教会側とウェルタースの関係は上手く行っていないと思える。

 厳重な封印、雑なダンジョンへの投入、そして入り口への結界と、ウェルタースを警戒しているのは明らかだ。


『まぁ……教会の奴等は、僕と君達が相討ちにでもなって欲しかったんじゃないかな。あとは、あわよくば僕をオルアス大迷宮(ここ)に封じたかったとか?あの箱も、そろそろ限界だったしね』

 やっぱり、そんな所か。

 ウチのダンジョンは、ヤバい物の投棄場所じゃねぇってのによ!


『そこで、提案があるんだけど……どうだい、君も今のマスターを乗っ取って、自由を手に入れたいと思わないか?』

『……!』

 な、なんだってー!

 て、てめぇ!

 ウチのダンジョン・コアに、ふざけた誘いをかけてるんじゃねぇよ!


『いい話だと思うよ?自分で動いて、補食できるようになれば、成長速度は段違いさ。二人でやれば、神になるまでの手間がだいぶ省けると思うんだけどな?』

 チッ!

 まさか、ウチのコアに限ってウェルタースの言葉に乗るとは思えないが、一応は注意を促しておいた方がいいか……?


『……フッ』

 だが、浮き足立つ俺達を尻目に、ダンジョン・コアから漏れたのは、嘲笑の声。

『くだらない……貴方は、よほど良いマスターに出会えなかったようですね』

『なに……』

『私の現マスターであるオルーシェ様に、次期マスターであるティアルメルティ様……あいにくと、自らが獲物を求めて放浪なぞしなくても、私は様々な手管で侵入者を誘き寄せるのに長けた、素晴らしいマスターに恵まれているのですよ!』

 ダンジョン・コアの声には、本気の感情がこもっている。

 確かに、稀代の天才少女と魔王が主になってくれるなら、使われる方としても自慢になるだろう。

 ……一応、最初のマスターだった俺の名前が上がらなかったのは、少し寂しいけど。


『第一、貴方は私も補食したいのでしょう?』

『……バレてたのか』

 ウチのダンジョン・コアの指摘に、ウェルタースはねっとりとした粘着質な笑みを浮かべた。


『いつ気づかれたのかな?』

『貴方のような、自分の成長にしか興味の無い言動を聞いていれば、イヤでもわかります。大方、貴方の口車に乗って私がマスターを乗っ取れば、補食が楽になるとでも思ったのでしょう』

『フフフ、さすがにここまで大きくなれたダンジョン・コアは、馬鹿じゃないね』

 企みがバレても、ウェルタースは残念そうな素振りも見せない。

 いや、むしろ嬉しそうですらある!


『アハハハ、さっきここで生成されてダンジョンモンスターを補食した事で、君に少しばかり干渉できるようになったけど、面白い成長を遂げたんだね。本当に楽しみだ、ここまで育った君を食えば、僕はもっと大きくなれるにちがいない!』

『大した自信ですが、今の段階では取らぬ狸のなんとやら、ですよ?』

『すぐにそちらに行くさ……正面から、最短でね!』

 そんな奴の言葉を最後に、画面は黒く染まり、モニターは消滅した。

 ウチのダンジョンモンスターを食って、こっちにちょっとだけ干渉できるとは言っていたが、ここまでちょっかいが出せるのか……やっぱり、油断のならねぇ相手だな。


「……でも、考えようによっては、こちらにとっても大きなチャンス」

「……だな。ウチのコアがウェルタースを取り込めば、かなりのポイントになりそうだ」

 そう、これはオルーシェがマルタスターによって洗脳されていた時、ダンジョンポイントの無駄遣いをさせられて消費してしまった分を、取りもどすいい機会かもしれない……いや、いい機会だっ!


「とりあえず、あの外道ダンジョン・コアを倒す作戦を練る!みんなも、意見があったら出してほしい!」

 オルーシェの号令の下、俺をはじめとした魔王とその四天王は高らかに雄叫びをあげた!

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