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08 『聖女』達の末路

           ◆


「ウェヘヘヘ……ガーベルしゃまぁ……」

「んん……ママ……」

「……おい、どうすんだよ、これ」


 目の前では、ダンジョンに乗り込んできた二人の『聖女』が、仲睦まじく抱きあい、頬を擦り合わせながらイチャイチャ(?)している。

 ティアルメルティ達が、捕虜として連れてきたのはいいんだが……初見で対峙した時とは、似ても似つかぬこいつらの様子に、俺達もどうしたものかと対処に困っていた。


「いや……確かに、四天王のせいで面倒な事にはなったが……」

「あ、魔王様!そういう言い方は、ないんじゃないですか!」

「そうそう。第一、俺とソルヘストの技は、ちゃんと『聖女』にダメージを与えてたし!」

「そ、それじゃあ、私達が悪いみたいじゃないですかぁ……」

 責任の所在を擦り付けあう、魔王と四天王。

 うんうん、遠慮の無い仲っていいよね……って、いい加減にしろ!


「あのなぁ、戦闘の様子は、俺達もマスタールームから見てはいたし、できれば生け捕りにもしてほしかったよ?だけど、こんな状態じゃ、連れて帰ってきても意味がねぇだろ!」

「さすがに、今の二人から情報を引き出せそうに無いしね」

 責める訳ではないが、心なしかトーンの落ちているオルーシェの言葉に、魔族達は顔を見合わせた。

 彼女はダンジョンマスターであり、ある意味でティアルメルティと同等……下手すりゃそれ以上に一目置かれている。

 その人を落胆させたとなりゃ、四天王がオロオロするのも無理はないだろう。

 なぜか、魔王までオロオロしてるけど


「……うう、その場のノリで、よくわからない効果の技を出した私達が悪かったかも……」

「しかし、『精神崩壊共依存レズ』というジャンルに、可能性を見いだした事でプラマイゼロではないでしょうか?」

 精神崩壊の攻撃を放った、片割れのガウォルタはしょんぼりと項垂れるが、もう片方のタラスマガは、悪びれた様子もない。

 それどころか、「わかってくれますよね?」といった同意を求める雰囲気で、俺を見ながら小さく頷いた。

 ……いや、さっぱり分かんねぇよ。


「もう面倒だな……いっそ、ダンジョンに吸収させちまうか?」

 オルーシェの見立てでは、マルタスマーの右目と違って、ガーベルヘンの『聖骸』は体内に移植されている可能性が高いらしい。

 なら、ここでガーベルヘンを斬れば、その身体ごと取り込めるかもしれないと考えたのだが……。

「それは……難しい」

 意外にも、オルーシェは難色を示した。


「難しいって……どういう事だよ?」

「うん……マルタスマーから回収できた、『聖骸』の欠片を解析していた時に分かったんだけど、『聖骸』はダンジョンに吸収できないの」

「そうなのか!?」

 オルーシェの言葉に、思わず聞き返してしまった。

 ウチみたいな、人造迷宮(デザイナーズ)系のダンジョンが吸収し、ポイントに変換できるのは、人間やモンスターといった生身の肉体を持つ者に限られる。

 たまに、ダンジョンポイントで作られたアンデッドやゴーレムなんかが破壊された場合にも取り込んだりはするけれど、あれは吸収というより回収(・・)といった方が正しい。

 そうやって回収した物はリサイクルして、また元気にダンジョン内を徘徊してもらうのだ。


 そして、もうひとつダンジョンに吸収できない物……それが、外部から持ち込まれたアイテムや装備といった物である。

 今までそれらのアイテム等は、死亡した侵入者とともにダンジョンに一旦飲み込まれた後、肉体(ポイント)とは分別されて倉庫的な場所に集められ、宝箱のアイテムやモンスターの落とし物として再利用してきた。

 で、オルーシェやダンジョン・コアが言うには、この『聖骸』も分類上はアイテムに枠組みされるため、ポイントとして取り込めないというのだ。


「なんか生っぽいから、いけると思ったんだがなぁ……」

「確かに、吸収できればすごいポイントになってたと思う……」

 ちょっと悔しそうに、オルーシェも呟く。

 そりゃ、神の欠片だもんな……ヘタすりゃ、『勇者』よりもでかいポイントになったかもしれないと思うと、残念がるのもわかる。


「それで、ガーベルヘンのように、体内に『聖骸』が移植されていると、体から切り離せないために、彼女の肉体までアイテムと認定されちゃうみたいなの」

「そうなのか……」

 そんな仕様が、このダンジョンにあったとは……。

 なら、ダンジョンポイントへの変換は諦めて、後顧の憂いを無くすために普通に始末するしかないのか?


「それも難しいな」

 俺の提案を、ティアルメルティが困ったように否定する。

「なんだよ、あんなに無防備なんだから、一瞬でケリはつくぜ?」

「いや、実は『聖骸』を宿しているためなのか、ガーベルヘンは異様に耐久性が高い。ソルヘスト達の合体攻撃を、まともに食らっても生きておるくらいに、な」

 ああ!確かに、四天王の合体攻撃を食らっても生きてた時はタフだなと思ったけど、『聖骸』の恩恵があったからなのか!


「おそらく、首をハネてもしばらくは生きておるだろうな。しかも、ガーベルヘンがわずかでも傷つくと、ラクトラルの奴が即座に回復させてしまう」

 これではどうにもならんと、ティアルメルティはため息を吐きながら肩を竦める。


「んん……なら、ラクトラルの方を先に斬ったらどうだ?」

「それもダメ。ラクトラルは、ガーベルヘンの精神安定に欠かせない。彼女が先に死ねば、ガーベルヘンがどんな暴走するのか分からない」

 暴走する神の力……そうなった時に、どれだけの被害が出るかと想像するだけで、うんざりした気分になってくる。


「しかし、あれだ……ティアルメルティがいるなら、ガーベルヘンが暴走して大丈夫なんじゃねぇの?」

 話しに交ぜろとレオパルトが入ってくると、ティアルメルティは面倒そうに顔をしかめた。


「バカを言うな、そんな簡単にいく訳がないだろう!」

「えー、でもほら、さっきみたいに『なんとかまっぱ拳』てやれば……」

「『まっぱ』じゃなくて、『マッハ』な!全裸拳法みたいに言うでない!」

 レオパルト達の物言いに、憤慨するティアルメルティ。

 まぁ、全裸拳法云々はいいとして、俺としてもこいつらの言い分に賛成なんだよなぁ……。

 『聖女』が暴れても、魔王が止めればいいじゃない。

 しかし、そんな俺達をグルリと見回したティアルメルティは、大きな大きなため息をひとつ吐きながら、一筋縄ではいかない理由を話してくれた。


「いいか?余が開発した『解神(かいじん)魔破拳(マッハけん)』は『聖女』の能力を直接見て、観察する事から始まる」

 ティアルメルティの話しによれば、『聖骸』から発生する神の力は、とんでもなく膨大で複雑な魔術構築式を、幾重にも重ねた魔力の集合体なのだという。

 本来なら、そんなデタラメな構築式で魔法が発動する訳もないのだが、そこから常識では考えられない程の威力を引き出すからこその、神の力なのだとか。


「これに、通常の魔法で対抗しようとしてもどうにもならん。言語の違う学術書を、物差しを使って翻訳しろと言われているようなものだ」

 ううん……例えはよく分からんが、無茶な要求をされているのは分かった。


「しかし、余はすでに召喚魔法の縛りから、魔族を自由にした解析魔法を開発していた……今回の『解神・魔破拳』は、その発展型よ」

「マジか……すごいな」

 いまいち魔法から縁遠い俺やエマリエートはともかく、レオパルトやオルーシェは魔王の説明に対して大いに感心している様子だ。


「だが、次にガーベルヘンが『聖骸』の能力を使えば、魔術の構築式が変化するだろう。そうなれば、また一から解析しなおさなければならん」

「厄介な事ね……」

「うむ、そこはさすがに神の力と言うべきか……」

 なるほどな……もしもガーベルヘンに暴走されたら、果てしなく面倒くさいとい事か。 

 なんにしても、いまは刺激しないでどこかに隔離でもしておいた方がいいようだ。


「でもよぅ……こいつらを飼い殺しにするにしても、何かに利用できんもんかな?」

 なんとなく貧乏性から口に出た言葉だったが、他の連中からも同意するような意見が出てくる。

 働かざる者食うべからずは、どんな種族にも共通の認識だからな。


 そうして始まった、『第一回チキチキ聖女の再利用アイデアグランプリ』だったが、思った以上に白熱の議論をもたらした!

 しかし、それ故にいつまでも決着はつかず、時間ばかりが過ぎていく。

 ……やがて、誰からともなく提案されたのは、アイデアを紙に記して、その中からランダムに選ぶという物だった!


「恨みっこ無しで……ね」

 まとめ役のオルーシェの言葉に、全員が頷き、彼女の引く用紙に注目が集まる。

 そして、ついに決定したガーベルヘンとラクトラルの役目は……!


 『フロアの一部にガラス張りの部屋を作り、そこで二人の絡みを披露する事で侵入者の足を止め、目を釘付けにするトラップ』


 に、決まった!


 ……誰だ、これを言い出した奴は?


「おいおい、ちょっと待てよ!恨みっこ無しとはいえ、これじゃあエロトラップ過ぎるだろう!」

「いいじゃないですか!私は、もっとこの性癖に広まってほしいんですよ!」

 力強く響く、抗議の声!

 やっぱりお前だったか、タラスマガ!


「……まぁ、下手に二人を引き剥がして刺激しないという意味では、これでいいかもね」

 もはや不毛な議論に疲れきったのか、オルーシェだけではなく他の奴等も異議を申し立てる気力はないらしい。


 しかし……教会が誇る、『聖女』と呼ばれる者達。

 その中でも、神の力を宿した二つ名持ちである、天啓のマルタスターは淫魔の下僕となり、浄化のガーベルヘンはパートナーと二人だけの世界に入り浸っている。

 そして、それらを罠に利用しようってんだから……。


「……そのうち、ここはとんでもでねぇエロダンジョンだって認識されちまうかもしれねぇな」

 ほんの少しの危惧を込めて呟くと、オルーシェとティアルメルティが嫌そうに顔を歪めていた。

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