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06 魔王の本領

「余の出番だ余!って、お前……」

 テンション高めで出てきたが、いったい何をしてたんだ?

 あと、ほとんど自室に籠っていたハズなのに、なんで格好だけは何年も修行したみたいにボロボロになってんだよ。

 色々とツッコミたい所はあるものの、それは一旦置いといて!とばかりに、オルーシェがティアルメルティに駆け寄った。


「できたの、あれが……?」

「うむ!完璧よ!」

 うん?

 どうやら、なにか二人で企んでいたようだが、女の子達だけで理解していないで、おっさんにも説明してほしい。


「おい、オルーシェ。いったい、何ができたって言うんだ?」

 置いてけぼりを食っている俺が尋ねると、少女達はこれ以上ないドヤ顔でこちらに微笑みかけてくる。

「クックックッ……完成したのだよ、『対・聖骸用術式』がな」

「なっ!?」

 た、『対・聖骸用術式』……だと!?


「どういう事だ、いつの間にそんな……」

「実は、マルタスターを捕獲した時から、私達は動いてた。彼女から採取した『聖骸』の一部を、私達とダンジョン・コアで解析して、それから得られる情報を元に、『神の力』を無効化する魔法技術を開発していたの」

「さすがに、一筋縄ではいかなくてな……色々と反則技(・・・)を使いながらも、ここまでかかってしまったわ」

 いやいや、なに言ってんだ……マジかよ、こいつら……。


 マルタスターを迎撃してからすぐに始めたと言っても、まだ二週間も経ってないんだぞ!?

 そんなわずかな時間で、未知なる『聖骸』とそこから生まれる化け物じみた力に対する手段を、新しく作った(・・・・・・)っていうのかよ……。

 これには、レオパルトもエマリエートも言葉を無くして、ただただ驚きの表情だ。


 まぁ……百歩譲って、ティアルメルティは魔王と呼ばれる存在だからいいとしても、オルーシェってば俺が考えているより遥かにすごい女の子なのでは?

 娘みたいな物だと思っていたが、彼女の底知れぬ一面に触れ、俺は知らぬ間にジッとオルーシェの顔を見つめた。


「…………?」

 すると、そんな俺の視線に気づいたオルーシェが、可愛らしく小首を傾げて微笑んだ。

 くっ!

 なぜかそんな姿に、俺の心臓(今は無いけど)が大きく高鳴る!

 って、いかん!落ち着け俺!

 二十歳以上離れてる少女にときめくおっさんなんて、ヤベェ奴以外の何者でもないぞ!

 なんとか動揺を隠しつつ、平静を取り戻そうとしていると、オルーシェから現状を聞いたティアルメルティがポキポキと指を鳴らした。


「よぉし……では、さっそく余が浄化の『聖女』とやらを、キャイン!と言わせてやろう」

 ええっ!

 浄化の『聖女』を、キャイン!と言わせてやるだって!


「無茶を言うんじゃないわよ!あの『聖女』の能力は、相手に触れる事すら難しいのよ!」

「それにあの炎は、物理的な攻撃はおろか、現状のあらゆる魔法が通用しなさそうだぞ?」

「ついでに言えば、ダンジョンを溶かしながら下降してくる無茶苦茶な連中だ!対抗策ができたとはいえ、ぶっつけ本番は危なすぎるだろ!」

 俺達は、勇ましく出陣しようとするティアルメルティを止めようとする。

 実際、奴等と対峙してそのヤバさの片鱗に触れたからこそ、このちんちくりん魔王の言葉がとんでもなく無謀に聞こえるってもんだ。


「そこは心配ご無用!」


 だが、そんな俺達の言葉を遮るように、マスタールームの外から声が響く!

 そして、四つの人影が室内に飛び込んで来た!


「なぜなら魔王様のお側には!」

「常に我々が控えている!」

「そう魔族の中の最強精鋭!」

「この魔王四天王が!」

 芝居がかった分割セリフと共に、ポーズを決める魔族達!

 言わずと知れた魔王の側近、名乗りを上げた通りの魔王四天王の面々だ!

 ……なのだが。


「……なんでお前らまで、そんな風になってるんだ?」

 つい、思った事が口に出てしまう。

 なぜなら、こいつらもティアルメルティ同様にボロボロの格好をしていたからだ。


「いや、失敬……我々も、魔王様と共に修行を終えたばかりでね」

 四天王の一人、『天空』のソルヘストが誇らしげに答える。

 魔王(ティアルメルティ)と修行……。

 いったい、こいつらどんな修行をしてやがったんだろう?


「フフフ、魔王様のお力とオルーシェ殿の助力でな、一日が一年間と同等の長さになる部屋を制作して、そこで修行をしていたのだよ」

 『大地』のラグラドムの言葉に、俺を含めてレオパルトやエマリエートもギョッとした!

 な、なんだその修行方法は!?

 今まで誰も考えなかった……というか、考えても不可能だった事を、ウチのダンジョンマスターと魔王はやってのけたというのか!?


「原理としては、肉体ではなく精神のみを加速させる事によって体感時間を伸ばし、一年分の魔力や精神力のコントロール修行と、同等の効果を得られるというものらしいのですがね」

 なるほど……よくわからん。

 元々が戦士職で、魔力も自身の肉体強化にしか使っていないため、『暗澹』のタラスマガがしてくれる説明に、いまいちピンと来ない。

 それはエマリエートも同様っぽかったが、魔法に対する知識があるレオパルトは感心したように頷いていた。

 うーん、これが魔法を使う連中と使わない連中の差か……。


「そんな魔王様とオルーシェさんが、共同で開発した修行部屋……名付けて、『精神と時の部……』」

 俺は飛びかかるようにして、『幻惑』のガウォルタの口を塞ぐ!

 ……なんだか分からんが、その部屋の名を口にさせてはいけない気がしたのだ。


「しかし、そんな便利な部屋があるなら、俺も試してみたいもんだな」

「うーん、どちらかと言えば肉体的にはあまり影響が出ない、魔力を鍛えるための精神修行が目的の部屋だから、ダルアス向きじゃないかも」

 小さく呟いた俺に、しっかり呟きを拾ったオルーシェが答えてくれる。

 むぅ、そういう物か。


 まぁ、とにかくこいつらは、この数日で数年分の修行をしたのだという事は理解できた。

 なるほど、それなら服装がボロボロになるのも分かる……まてよ?


「あれ……お前ら、精神的な修行(・・・・・・)を数年分行ったんだよな?」

「いかにも!」

「なら、なんでそんなに服装がボロボロになってるんだ?」

 肉体的には数日しか経ってないんだ、そこまで服に影響が出るわけない。

 そんな俺のふとした言葉に、ティアルメルティ達はニッと笑う!


「この方が、格好いいから!(×5)」


 息もピッタリにいい笑顔でそう言われちゃ、もはや何も言えねぇ……。

 ただ、今のこいつらの一糸乱れぬ返事を見るに、けっこう練習してたに違いない。

 ギリギリだった割に、そんな暇があったのだろうか?

 意気揚々と、『聖女』の迎撃に向かう魔王と四天王の背中に、なんとなく不安というか心配な気持ちが沸き上がるのだった。

 

           ◆◆◆


 ──青く燃える球状の炎に包まれ、二人の美女がダンジョンの床と天井を貫き降りてくる。

「これで三十三階層……思ったよりも深いダンジョンね」

 忌々しげに呟くラクトラルの隣で、珠のような汗を流しながらガーベルヘンは荒い呼吸を繰り返していた。


「ママ……熱い……痛いの……」

 彼女が宿す『聖骸』は、心臓に移植されている。

 そのため、任意で燃やす対象を選べる神の炎であっても、体内からジリジリと炙られるような痛みを伴う。

 前髪の奥に涙を浮かべながら、弱々しく苦痛を訴えかける哀れな同僚に、ラクトラルは心の中でほくそ笑みながら、彼女の頭を撫でた。


「回復魔法はかけてあげるわ。もう少し頑張りなさい、ガーベルヘン」

「はい……ママ……」

 自身の言葉に素直に頷くガーベルヘンを見るたびに、ラクトラルの中に暗い悦びが沸き上がって胸を高鳴らせる。


 かつて、二人の関係は真逆だった。


 『聖女』候補が作るグループの中でも、リーダー格で多くの者から慕われていたガーベルヘン。

 そして、その取り巻きの一人でしかなかった、引っ込み思案のラクトラル。


 いつもガーベルヘンの背中を眺めているだけだったというのに、『聖骸』移植の後遺症で幼児化してしまった彼女に懐かれた事で、ラクトラルの地位も大きく変化していく。

 憧れの人の保護者となった事を切っ掛けに、今までのネガティブな思考は鳴りを潜め、むしろかつてのガーベルヘンのように振る舞う事で、ラクトラルは自信をつけていった。

 そうすることで彼女の実力は大きく花開き、やがて『聖女』の一人として名を連ねるようにまでなっていったのだ。

 しかし、今の彼女はそんな所では満足してない。


(この子を手駒として使いこなせれば、私はまだまだ上に登れる!)

 いつしか芽吹いた野望の花は、歪んだ成長を遂げながら、ラクトラルの胸にしっかりと根付いている。

 やがて彼女自身が教会の内外を問わず、大輪の華として世に君臨するためにも、ガーベルヘンをもっと利用しやすいように躾なければならない。

 そんな想いを抱きながら、ラクトラルは自身の前にひれ伏す『聖女』へと、回復魔法を使用した。


「……さぁ、これでいいわ。進むわよ」

「……はい」

 頷きながら、ガーベルヘンは再び神の炎の出力を上げる。

 満足そうなラクトラルの横顔に安堵しながら、彼女達はダンジョンの床を溶かしていった。


 ──それからさらに、数階分ほど降りた時のこと。

 異変は、すぐに目についた。

 今まで行く手を阻む者など配置されていなかったというのに、その階層の大きなフロアには、ラクトラル達を待ち受ける魔族の一行がいたからである。


「待っておったぞ、『聖女』達よ!」

 そう声をかけてきてのは、待ち受ける魔族の中でも、最も小さな少女。

 どこか気品や威厳のようの物が感じられるその少女に、ラクトラル達も目を惹かれた。


「無駄と知りつつ立ちふさがるとは、よい覚悟です。神敵ではありますが、名前くらいは聞いてあげましょう」

「おやおや、これは悲しいな。まさか余を知らんとは」

 大げさとも言える仕草で肩を竦める少女に、ラクトラルの目が細められる。


「余の名はティアルメルティ!お主らが恐れてやまぬ、魔王その人である!」

 高らかに宣言する、魔王を名乗る少女!

 そして、周りで持ち上げるように拍手喝采する四人の魔族達!

 なんとも緊張感の無い敵に対して、ラクトラルは思わず吹き出しそうになってしまった。


「いくらなんでも貴女が魔王だなんて、冗談が過ぎますよ」

「ほぅ……ならば、まずは挨拶代わりと行こうか!」

 クスクスと笑うラクトラルに対して、そう宣言したティアルメルティは、超高速詠唱により瞬く間に魔法を完成させる!


轟閃光魔法(レイ・ランチャー)!」


 正面にかざした魔王の手から、丸太ほどもある太さの光線が、大気を焦がしながら『聖女』達に迫る!


「なっ!」

 さしものラクトラルも肝を冷やしたのか、小さな驚きの声を漏らす!

 こんなにも早い詠唱も、こんなにも強大な威力の魔法も、体験した事がない!

 そして、そんな魔法を軽々と放つ、魔王を名乗る少女に対して、一瞬前には微塵も感じなかった恐怖にも似た感情を覚えた!

 だが、そんなティアルメルティの大魔法も、『聖女』達を覆う神の炎に阻まれて、二人に届く事はなく相殺されてしまう!


「ふむう……まぁ、予想通りといったところか」

 攻撃した結果に対し、特に残念がるでもなくティアルメルティは呟く。

 だが、そんな彼女の姿を前にして、『聖女』達の方もゴクリと息を飲んだ。

 その表情からして、ティアルメルティに対する認識を改め直したのが見てとれる。


「……正直な所、見た目で貴方を侮っておりました」

「それも仕方あるまい。余の外見だけなら、どこからどうみてもただの美少女だからな」

「自分で言うと、可愛げがありませんよ」

 引きつるような笑みを浮かべ、ラクトラルは言葉を返す。

 しかし、次の瞬間には覚悟の決まった顔で魔王と四天王に対峙した!


「世の安寧を乱す魔王と、その配下の魔族達!教会と神の意志の元、これよりあなた方を討伐いたします!」

「やってみるがよい、人間よ!」

 『聖女』と魔王の戦いの火蓋が、いま切られた!

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