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02 現状説明

 ダンジョンを訪れたのがレオパルト達だと分かり、早速オルーシェが俺達のいるマスタールームまで直通できるルートを用意する。

 それを通って姿を現した、エルフとドワーフの肩を叩き、再会を喜んだ。


「しばらくぶりだな!ダルアスにオルーシェ!」

「まったく、何かを警戒してるよう(・・・・・・・・・・)だけど(・・・)、入り口付近からモンスターを集めておくなんて、アタシらじゃなかったらヤバかったわよ」

 おっと……さすが、元とはいえ手練れの冒険者。

 あの配置が何らかの意図を持って成されていた事を、あっさり見抜いたようだな。


「実は、今揉めてる連中がいてな……」

「ああ、『教会』が動いているらしい事は、俺達の耳にも入っている」

 教会の名前を出そうとする前に、レオパルトがそう切り出してきた。

 そうか……各国に影響力のある教会、そして今のこいつらはエルスティア王国でそれなりに地位にある立場。

 なら、何らかの話しは通っていてもおかしくはないか。


「まぁ、教会からすれば魔王のいるダンジョンを放置できないってのも、分かるんだけどね」

エルスティア王国(うち)としては密かに不可侵の協定を結んだし、あまりお前らを刺激されては困るって事で、今後のためにまた俺達が派遣されたって訳だ」

「なるほどな……と言いたい所だが!」

 レオパルト達からわずかに距離を置きつつ、俺達は確認するために問いかける!


「お前ら……ぶっちゃけ教会からの指示で、ここに来たんじゃねぇだろうな?」

「はぁ?」

「何を言ってんのよ、藪から棒に……」

 怪訝そうに、眉をひそめるレオパルトとエマリエート。

 だが、このダンジョンに派遣された『聖女』マルタスターの能力を考えると、各国のお偉いさんは大なり小なり洗脳を受けているというのがオルーシェの見解であり、それには俺も同意見だ。

 とはいえ、俺が持ち前の冒険者魂で洗脳を打ち破ったように、こいつら自身は洗脳されていない可能性が高い。

 だからこそ、こうしてばか正直に真正面から問いかけたわけだが……。


「つーか、なんで俺らが教会の指示で動かなきゃならねぇんだ?」

「確かに教会は影響力をそれなりに持ってるけど、国の重鎮を顎で使えるって訳じゃないわよ」

 ふむう……二人の反応を見て、俺とオルーシェは顔を見合わせると、小さく頷いた。


「不躾に変な事を聞いて悪かったわ……教会からの刺客に襲撃されたばかりだったから、ちょっと過敏になってた」

「なにっ!?」

 オルーシェの言葉に、レオパルト達が反応する。

 どうも、教会がすでに動いていた事をは、こいつらにとって予想外だったようだ。


「まてまて、襲撃されたってどういう事だ?」

「確かに教会には虎の子の兵団はいるけれど、ダンジョンを攻略できるほどの戦力は無いはずよ?」

「『聖女』ってのが来たんだよ」

「『聖女』!?なんで!?!?」

 俺が口にした『聖女』の一言に、レオパルトとエマリエートはますます訳がわからんといった顔になる。


「『聖女』なんて、教会の宣伝担当……いわばアイドルみたいなもんだぞ?」

「教会の教えを広めるために各地を行脚はするけど、戦闘力は皆無のはずよ!?」

「私もそうだと思ってた。けど、ここに来た『聖女』は普通の『聖女』とは違い、天啓という称号を持ってる別格だったの」

「天啓……」

「二つ名持ちの『聖女』……?」

 そこで、ハッとしたように二人は顔を上げた!


「そういえば、噂で聞いた事があるな」

「ええ、『聖女』達の中でも特別な能力を持っている、特殊なネームドが教会内には存在するって」

 その二人の言葉に、俺もマルタスターへのエロ拷問でマルマが引き出した、あの情報が頭を過る。


「そういえば、他にも浄化と豊穣とかいうネームドがいるんだったか」

「うん。そいつらの能力までは分からないけど」

 そうなんだよな……マルタスターから引き出せたのは、他の『聖骸』に適応した『聖女』の称号のみで、どんな能力を持っているのかまではあいつ自身も知らなかった。

 それくらい、『聖骸』持ちの『聖女』に関する情報は秘匿されているという事なんだろう。


「んん……?能力ってなんだ?」

「ここに来た『聖女』って、そんなにすごい強さだったわけ?」

 以前戦った『勇者』の件もあったからか、ここにきて教会に対する警戒心が増した二人は、さらなる情報を求めて俺達に迫る。

 まぁ、こいつらに協力してもらう立場でもあるし、すり合わせはしておいた方がいいだろう。

 なので、マルタスターの事を詳しく話した。


「マルタスター……何度か見た事があるな」

「確か、眼帯美女の『聖女』だったよね。たまにお偉方に説法会とかやってたけど、妙に評判が良かったっけ」

「ああ。それに参加した海千山千の貴族連中が、進んで教会へ優遇するようになるからどんだけ口が回るのかと思っていたが……」

「まさか、『聖骸(そんなもの)』を使っていたとは……」

 思わぬ『聖女』の正体に、レオパルトとエマリエートも神妙な顔つきになる。

 確かにマルタスターの外見だけ見たら、人畜無害の美女だもんな。

 油断していたとしても、こいつらを責められはしまい。


「俺も一度『聖骸』による洗脳を受けたが……思い通りに操るというより、『神と教会を何よりも重んずる』ような思想を植え付ける感じだったな」

「私も洗脳を受けた時は、そんな感じだった。たぶん、やりすぎて洗脳してるのがバレないよう、自主的に動いて教会へ協力させてたんだと思う」

「まぁ、そんな所だろうな」

 どれくらいの規模かは分からんが、あちこちでお偉いさんを洗脳とかしてるのがバレたら、イメージダウンってレベルじゃない不祥事だろうし。

 そんなオルーシェの見解に、なるほどなぁ……と二人も頷いた。


「で、お前らも洗脳を受けたらしいが、どうやって乗り切ったんだ?」

「そりゃお前、神への畏怖と冒険者魂を天秤にかけたら、冒険者魂が勝つに決まってるじゃねぇか!」

 実際、生前(げんえき)の頃だったら『聖骸』だのなんだの情報があれば、危険なダンジョンだろうとやべぇ組織が相手だろうと、この目で確かめるために動いていただろう。

 そして、そんな心情を理解できるであろうレオパルト達も、「分かるよ……」って感じで頷いていた。


「私も……そんなダルアスのおかげで助かった。うふふ……」

 ……あの時の事を思い出したのか、オルーシェは自分の唇に触れながら、表情を柔らかくする。

 そんな彼女を見て、なにやら察した様子のエマリエートがニヤニヤしながら肘でつついてきた。


「オルーシェが、ずいぶんと嬉しそうじゃない。いい歳こいて、どんなヒーロームーヴかましたのよ」

「いや、どんなって……」

 ちょっと言えねぇよな……などと口ごもっていると、オルーシェはさらに笑顔を輝かせながら口を開く。


「洗脳の効果で錯乱しかけてた私に、ダルアスは……優しくキスしてくれた♥」

 オルーシェさん!?

「しかも、私にとってはファーストキス♥」

 オルーシェさんんんんっ!?

 なんで、そういう事を言っちゃうのかなあぁぁっ!

 一人で照れながら思い出に浸るオルーシェから、俺は恐る恐る旧友達の方へ顔を向ける。

 そして、そんな視線の先にいたのは、真顔ともドン引きともとれる表情を浮かべた二人の姿だった!


「お前……親代わりとか言っときながら……その歳の差で……」

「つ、通報……」

「せ、せんでいいわっ!」

 うああぁっ!やっぱり、そっちの趣味の人だと思われてる!


「ち、違うぞ!欲望とか性癖とかじゃなくて……」

「うん。私の事が大切だかって言ってたし、責任は取ってもらうから、大丈夫!」

「オルーシェさんっ!」

 これ以上、誤解を招かないでっ!

 しかし、慌てる俺とは対称的に、レオパルト達の表情はなんだか生暖かい物になっていく。


「あー、ちなみにキスされたのは骸骨兵(スケルトン)状態?それとも、生き返った状態で?」

「生身!」

「ガチのやつじゃん」

 速攻で返すオルーシェの答えに、エマリエートは「うわぁ……」といった顔をした。


「……まぁ、死んでる間に趣味が変わるって事も、あるかもしれんしな」

「本人同士がそれでいいなら、部外者のアタシらが口を出すのも……ねぇ?」

 あ、ダメだこりゃ……。

 完全に誤解されてるよ、これ。


「っ……はぁ~」

 俺は諦めたように、大きなため息をひとつ吐き出す。

 もういいや、面倒臭い。

 いずれ誤解も解けるだろうし、時間ができたらちゃんと説明しよう。

 それから少しの間からかわれていたが、話が一段落つくとレオパルト達は真面目な顔に戻って尋ねてきた。


「それで、その『聖女(マルタスター)』はどうしたの?」

「もしも逃げられていたなら、厄介な事になるぞ」

 相手は、並みの人間では抵抗が不可能な、洗脳能力の持ち主。

 下手をすれば、味方につけた貴族達に戦力を出させて、再び攻めてくるかもしれないと危惧するのも、もっともだ。

 まぁ、『聖骸』部分は破壊したから、そこまでの危険は無さそうなんだがな。

 しかし……。


「……お前ら、上の村には寄ってきてないのか?」

 俺の問いかけの意味が分からなかったのか、二人はキョトンとした表情を見せる。

「ああ、今回は急いで教会の事を報せようと思ってたから、あっちには顔を出してないが……」

「マルマや魔族の人達に、何かあったの?」

「あー、何かあったというか……」

 説明するより、見せた方が早いか。

 俺はオルーシェに頼んで、地上階層の村の様子をモニターに映し出してもらう。

 そして、そこに現れたのは……。


『ほら、マルタスター様。そんなに動くと、お仕事に支障が出てしまいますよ!』

『ああん、申し訳ありません♥マルマ様あぁん♥』

 なにやら事務仕事に勤しむマルマと、その尻の下で四つん這いになり、椅子代わりとなって恍惚の表情を浮かべるマルタスターの姿だった。


「……………」

「……………」

 さすがに歴戦の冒険者であるレオパルトとエマリエートも、目の前の映像に言葉を無くす。

 そんな二人の心情を汲み取り、オルーシェはそっと映像を消した。


「何がどうなってんだ、おいぃ!?」

「確かに『聖女(マルタスター)』らしかったけどさぁ!あれはいったい、どういう状況!?」

 モニターが消えると同時に、我に返ったレオパルト達に迫ってくる!

 が、俺としては有りのままを話すしかない。

「なんか……マルマからエロ拷問受けたら、そのまま快楽堕ちしちゃったみたい……」

 俺の言葉を確認するためか、二人はオルーシェに顔を向ける!

 そんなレオパルト達に、オルーシェは大きく頷いてみせた!


「お前ら、ほんと……何やってんだよ……」

 呆れた様子で力なく呟く彼等に対して、俺達は誤魔化すようにかわいく舌を出すくらいしかできなかった。

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