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08 次なる戦いへ備えて

 教会側からの刺客である『聖女』を捕え、ようやくダンジョンが平穏を取り戻してから、一週間ほどが過ぎた。

 ひとまず、ここに至るまで、何があったかを語ろう。


 まずは、オルーシェと同じように洗脳され、マルタスターをダンジョン最奥までのこのこと案内したマルマだが……。


            ◆


 『聖女』によって洗脳され、四天王のソルヘストとラグラドム二人に別室でセッ……戦闘を挑んだマルマだったが、こちらの決着がつくのと時を同じくして向こうの戦いも終わったようだった。

 まぁ、どういうプレイ……もとい、内容だったかは敢えて追及しないが、いろいろな汁でベタベタになりつつも、ツヤツヤとした顔で戻ってきたのはマルマ一人。


「あー、気持ち良かった♥️……って、マルタスター様ぁ!?」

 俺に斬られ、『聖骸』部位を失って気を失うマルタスターの姿に気づいた淫魔は、すっとんきょうな声をあげる!


「は、はわわわ……」

 『聖女』に盲従し、高確率でオルーシェを味方につける計画があっただけに、マルタスターが敗北している姿は彼女にとってショックが大きかったようだ。

 そんな動揺するマルマの隙を突き、俺は一瞬で間合いを詰めると、すっぱりと彼女の首を斬り落とす!

 断末魔の悲鳴をあげる間も無く、地面に落ちたマルマだったが、オルーシェは即座にその肉体をダンジョンへ吸収させると、新しいダンジョンモンスター『マルマ』を復活させた。


「……申し訳ありませんでした、マスター!」

 復活と同時に洗脳も解けたようで、マルマは流れるような動きでオルーシェに土下座する!

 むぅ……なんて見事な土下座……。

 プロだな──。

 そんな所に感心していると、オルーシェはマルマの肩に優しく手を乗せた。


「私も不覚をとった……貴女だけが失敗した訳じゃないから、今回の失態は不問にする」

「マ、マズダアァァァ……!」

 寛大なダンジョンマスターの言葉に、マルマは涙と鼻水で濡れた顔を上げ、オルーシェも苦笑いしながら小さく頷く。

 うむ、端からみたらなんとなく良い主従関係っぽく見えるな。


「……感動のシーンっぽい所をすまんが、ソルヘストのラグラドムはどうしたのだ?」

 ティアルメルティの言葉に、俺達は「あ、そういえば……」とハッとする。

 マルマが戻ってきて、戦士系のあいつらが姿を現さないのはどういう事だ?


「あ、お二人なら命に別状はありませんけど、別室で色々な意味で足腰が立たなくなっています……」

 どうやら、マルマの『完全なる魅了』影響を受け、激しい戦い(・・)の結果、疲労困憊になっているようだな。

 むぅ……タフネスで鳴らしたあいつらを、完膚なきまで搾り取るとは、マルマ……恐ろしい奴!

 そんな二人の現状を語りながら、申し訳なさそうに……それでいてプレイを反芻するような淫靡な気配を含む淫魔。

 こいつ……オルーシェに敵対した事はともかく、サキュバスの本能を優先させた事については特に反省とかしてないなさそうだ。


「あちらで眠っておりますので、ご確認ください」

 そう言いながら、マルマはティアルメルティ達を別室へ案内しようとする。

 って、ちょっと待てぃ!


「おい、お前らの事後の惨状が広がる部屋に、オルーシェ達を連れてくつもりか!」

「……何か問題でも?」

「あるに決まってるだろうが!淫魔が荒ぶった後の惨状なんて、子供に見せるもんじゃねぇっつーの!」

 俺も現役だった頃に、サキュバスに襲われた冒険者の末路は見た事がある。

 ……まぁなんていうか、部屋中に男と女の汗や体液の臭いが充満し、漂う淫気が耐性の低い奴を狂わせるひどい空間に仕上がっていたんだよな。

 そんな場所に、オルーシェを入れる訳にはいかん!

 せめて掃除してからにしろと叱りつけると、マルマはやや不本意そうに別室へとひとり向かった。


「そのうちマスターだって興味を覚えるんだから、今の内に汚れた部分を見せた方がいいと思うんですけどね……」

「やかましい!」

 ブツブツと呟くマルマを追いやった後、俺達の注目は意識を失ったままの『聖女』へと向かう。


「さて……こいつをどうするかだな」

 『聖骸』を失ったとはいえ、腐っても信仰心の高い『聖女』。

 できれば『教会』側の思惑や情報を聞き出したい所だが、一筋縄ではいかないだろう。


「ううむ、ざっと見た所……このマルタスター自身の魔力は、そうたいした物ではないな」

 ジロジロと『聖女』を観察しながら、ティアルメルティはそう判定をくだす。

 んー、確かにダンジョンモンスターにすら影響を及ぼす、『聖骸』の効果は凄かったが、言われてみればマルタスター本人はたいした事はなさそうな気がするな。

 感じるプレッシャーとしては、C級中位くらいの冒険者チームにいる神官系ってところか?


「『聖骸』が無くなれば、魔術耐性もガクンと落ちると思いますから、私の奥義で尋問できるかもしれません」

 おずおずと手を上げ、四天王の一人であるガウォルタがそんな事を言う。

 確かこいつの奥義って、幻術を駆使して相手を無力化する能力だったな。

 それを応用すれば、都合のいい幻術でもって相手の口を割らせる事も可能という訳か。


「……でも、それだけじゃパンチ弱くない?」

 不意に、口元に指を当てて何やら思案していたオルーシェが、そんな言葉をポツリと漏らした。


「うん、どうせならマルマにも手伝わせて、『聖女』を堕としてしまった方がいいかも」

「お、おいおい!マルマに手伝わせたりしたら、お前……」

 めちゃくちゃエロ拷問とかしそうじゃねぇか……っていうか、絶対するな!

 もう、「清らかな『聖女』を快楽堕ちさせるなんて、サキュバス冥利に尽きますわぁ、ブヘヘ……」とか言いそうなのが、目に浮かぶようだ。

 そんな、敢えて口にしなかった俺の考えを読んだのか、それでもオルーシェは「それがどうかしたの?」と言わんばかりに、黒い笑みを浮かべた。


「私にあんな事(・・・・)をさせようとした『聖女』には、酬いを受けてもらわないと」

 ……どうやら、マルマスターがオルーシェに俺やティアルメルティを害させようとした事を、かなり根に持っているようだな。

 愛がちょっと重いぜ……。


「ふむ、だが確かにマルマを一枚噛ませるのは、良いアイデアかもしれん」

「おい、お前までそんな事を言うのか?」

 オルーシェに同調するティアルメルティに、俺は眉を潜める。


「いや、ガウォルタの奥義を信用せん訳ではないが、『聖女』に変に我慢されてしまっては、幻術をキメすぎて精神崩壊(ウルトラハッピー)になるやもしれん。ならば、肉体的なエロ……拷問で口を割らせる手段も考慮した方がいいだろう」

「な、なるほど……」

 確かに、それなら筋は通っている話だ。 

 かつて、正面突破でこのダンジョンに攻めてきた『勇者』達とは違い、搦め手を使用してくる『教会』の対策を練るために、情報はできる限り手に入れておきたい。

 そのためには、マルタスターにはどんな手を使ってでも口を割ってもらわないといけないからな。


「じゃあ、ひとまず拘束しといて、マルマが戻ってきたらさっそく……」

「うむ、ガウォルタも用意をしておくのだぞ」

「はい、魔王様」

 三人は『聖女』を見下ろしながら、打ち合わせを進めていく。

 責める方も責められる方も女だからか、この場にいる男である俺とタラスマガは、口を挟める雰囲気ではなかった……。


 まぁ……組織を背負った戦いというのは、時に残酷だよな。

 これから官能小説みたいな目に会うであろう『聖女』に、俺達は僅かな憐れみを感じていた。


            ◆


 ……とまぁ、これが戦い終わってからの顛末だ。


 そんな訳で一週間もの間、ガウォルタ&マルマから精神的にも肉体的にも責められ続けた結果、マルタスターから様々な情報を吐かせる事ができた。


 『教会』の内情、このダンジョン制圧に動かせそうな人員数、各国との関係性……そして、何より他の『聖女』に関する情報!

 俺達にとって最重要の項目だったその情報によれば、『聖女』と呼ばれる者は『教会』に十数人いるらしいのだが、その中で『聖骸』に適応できたの人物がまだ二人いるらしい!


 「天啓」の称号を持つマルタスターを始めとして、「浄化」の称号を持つガーベルヘン、そして「豊穣」の称号を持つウェルタース……この三人が、本当の意味での『聖女』なのだという。


 ただ……残念ながら他の『聖女』の能力までは確認する事ができなかった。

 何でも、『聖骸』持ち同士は顔を合わせる事も言葉を交わす事も禁じられていたらしい。

 恐らくは、こうして情報が漏れた時のために備えて……だろうな。

 用心深い事だ。


「ダルアス、ちょっといい?」

 マルタスターから入手した報告書に目を通していると、オルーシェが声をかけてきた。

「どうしたんだ?」

「うん、マルマが新しい情報を持ってきた」

 そう言うオルーシェの隣には、たぶん尋問の最中だったのであろう、いつもの修道服とは真逆と言っていい格好のマルマがいた。

 顔の半分を覆う仮面と、ぴっちりと身体のラインを浮かび上がらせる革製のボンテージに身を包み、ロウソクと妙な器具を手にした彼女は、尋問役というよりそういう趣味の女王様みてぇだな……。

 まぁ、格好にツッコむのは後にしよう。


「で、何が分かったんだ?」

「はい。マルタスターが戻らなかった場合の、『教会』の動きについてです」

「ほぅ……」

 そりゃ、いい情報だな。


「それで、『教会』側はどう動くんだ?」

「えっと……マルタスターがダンジョンに侵入してから十日間、何の連絡も無い時には、別の『聖女』を送り込む算段になっているそうです」

「なるほど、十日……ん?」

 あれ、ちょっと待て?

 マルタスターがダンジョンに侵入して、俺達に捕らえられてからもう一週間経ってるんだから……。


「あと三日しか猶予がねぇのかよ!」

「そうなんですよぉ!」

「正確には、二日半」

 慌てる俺とマルマに、オルーシェは冷静に告げる。

 おお、その余裕はなんか策はあるのか!?

「ウフフフ……『勇者』ゾンビとか作らされたせいで、ダンジョンポイントがちょっとヤバい……」

 違う!テンパってるだけだ、これ!


「……とにかく、どんな能力の『聖女』が来るかわからない以上、臨機応変に動けるようにしておかないといけない」

「臨機応変っつーか、行き当たりばったりだな……」

 俺とオルーシェは顔を見合せ、力無く笑い合う。

 まぁ、そんなのは今に始まった事じゃねぇがな!


「ヨシッ!できる限りの準備はしとくか!」

「私も、なるべくポイントをやりくりしてダンジョン環境を整える!」

「それじゃ、私ももっと情報を聞き出すために頑張ります!」

 沸き立つ俺とオルーシェに当てられたのか、マルマも興奮するように立ち上がった!

 そうして、俺達に背を向けて尋問室に戻って行ったマルマの背中が消えた後……。


「んおっ♥️んんんっ♥️おごぉっ♥️ごっ、ごぅぎょうぎょまぁぁ♥️!」


 猿轡(さるぐつわ)をはめられたような、くもぐった『聖女』の声がダンジョンに響き渡っていく。

 その声に、生暖かい笑みを浮かべながら、俺は心から思う。

 うん……張りきるのはいいけど、ちょっとは自重しろよな、バカ野郎……と。

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