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05 再会

「アァアアァァァァ……」

 苦しげに呻くような声をあげながら、『勇者』ゾンビ達は俺達に向かって殺到してきた!

 しかし、そいつらの前に立ちふさがる小柄な影がひとつ!


「元『勇者』どもとはいえ、ゾンビなど余の敵ではないわ!食らえぃ『地獄の炎(ヘルフレイム)』!」

 迫るゾンビ達に向かい、ティアルメルティは胸の前で両手を組み合わせてハートの形を作る!

 と同時に、凄まじい炎が巻き起こり、『勇者』の成り果て達を飲み込んでいった!

 

「フハハハッ!どうだ、これでもう『魔王のクセに影も胸も薄いな』などと言わせんぞ!」

 悲しい叫びと共に、勝ち誇るティアルメルティ。

 だがっ!


「アァアアァァァァァァッ!」

 炎の壁をぶち抜いて、『勇者』ゾンビ達は元気(?)に姿を現した!


「えぇぇぇぇっ!?」

「ちぃっ!」

 驚愕するティアルメルティとゾンビ達の間に入り、俺は先頭を走ってきたゾンビの剣を弾きながら、胴体に蹴りを入れて後続のゾンビどもの方へと押し退ける!

 ろくな思考能力もない単純なゾンビ連中なだけに、それを避ける事もなく衝突して、縺れ合うように倒れ込んでいた。

 今のうちに、こちらも体勢を整えなければっ!


「こいつらの相手は、俺一人でいい!お前らは、後方で守りを固めろ!」

「なっ!」

「さすがに、それは無茶では!?」

「いいや、魔力を弾く鎧に身を包んだ挙げ句、既に死んでるこいつらの相手は、お前らじゃ相性が悪すぎる!」

 どうやら、オルーシェが作り出した『勇者』ゾンビどもは、装備や能力を生前のまま再現しているようだ。


 だとすれば、ティアルメルティの攻撃魔法は、奴等に通用しない。

 おまけに死んでるのだから、ガウォルタ達の精神攻撃も意味がないだろう。

 そうなると、この場でまともに戦えるのは俺だけだ!

 そして、そんな俺の事も数に任せた多勢に無勢で押し込むのが、オルーシェの考えなんだと思われる。

 まったく……うちの相棒は、敵に回すと恐ろしいな!


「わかったら、さっさと下がれ!」

「おまかせしましたっ!」

 ガウォルタとタラスマガは、荷物のようにティアルメルティを担ぎ上げると、スタコラと後方へと駆けていく。

 ひとまずは、これでヨシっ!


「さぁ、かかってこいやぁ!」

 気合いを込めて吼えた俺は、再び迫り来る『勇者』ゾンビの刃をかわし、反撃に転じる!

 それを受けてよろめいたゾンビの一人に邪魔され、別のゾンビの攻撃が見当違いな方向へ流れていった。

 ──やっぱりな!

 こいつら、個々のスペックは高いのかもしれんが、連係がまったくできていない!

 そんな統率のとれてない動きでは、俺をまともに捉える事なんざできやしねぇんだよ!


 俺はゾンビどもの立ち位置を確認しながら、次々と的を変えて手足に(・・・)ダメージを与えていく!

 固い上に恐怖や疲れを知らないのは厄介だが、こうして細かいダメージが蓄積していけば、やがて身動きは取れなくなるだろう。

 ついでに、敵が同士討ちしやすい位置取りを心がければ、決着は案外早いかもな。

 そんな事を考えながら、俺は敵の隙間を縫うように移動していた。

 だが、不意に奴等の動きに変化が現れる!


「なにっ!」

 すんでの所でかわしたものの、急に『勇者』ゾンビ達の動きが、前後左右の連係を意識したものになってきやがった!

 まさか、この短期間で学習したのか!?

 ……などと一瞬思ったが、やっぱりそれはないかな?

 なんせ、ゾンビとはいえ『勇者』をダンジョンモンスターとして使役するには、莫大なダンジョンポイントが必要のはずだ。

 しかも、そこに学習能力なんぞを搭載したら、もうどれほどの消費量になるのか、考えたくもない。


 今後、オルーシェを利用してダンジョンを弄るつもりなら、無駄な使い方はできないだろうからな。

 おそらく、オルーシェがこのゾンビ達の統率を取るために、リーダー役を任せられた個体がいるのだろう。

 俺は『勇者』ゾンビ達の動きに注意しながら、その個体を探す。

 ……んん、あいつかっ!?


 集団から少し離れ、全体の動きを把握するような奴が一体だけいる。

 よぉし!目星がついた以上は、ダラダラやってても仕方ねぇ!

 リーダーとおぼしき『勇者』ゾンビに狙いをつけ、一気に決着をつけるべく、俺は切り札を発動させた!


復活(リボーン)!」


 左手にはめた指輪が輝き、骨だった俺の肉体が生前の姿に戻っていく!

 その生命力溢れる光に、『勇者』ゾンビ達がわずかに怯んだ!

 その一瞬があれば、十分!

 魔力で身体能力を高め、疾風となった俺はゾンビ達を斬りながら、リーダーへ迫る!

 対応しようとしたリーダーゾンビの反撃をかわし、獲物の喉笛を噛み裂く狼の如く、俺の一閃は元『勇者』の首を再び斬り飛ばした!


「…………」

 断末魔の声もなく、リーダーゾンビの頭が重い音と共に地面に転がっていく。

 ふっ……また、つまらぬ物を斬ってしまった。

 などと、あまりにもスムーズに敵を斬った俺の耳に、ティアルメルティ達の声が届く。


「ダルアスー!後ろー!」

 その声に、思わず反射的に横に跳ぶと、かろうじて生きていた(?)ゾンビの一体が、ドサリと体当たりのように倒れ込んできた!

 うおっ、危ねっ!


「油断するでないわ、馬鹿者!」

「わ、悪かったな!」

 ちょっと恥ずかしさを堪えて、俺は襲ってきたゾンビを含め、他のゾンビ達にも念のためにトドメを刺していった。


            ◆


「……よし」

 完全に動かなくなった『勇者』ゾンビ達を確認して、ティアルメルティ達を呼び寄せる。


「いや、さすがですなダルアス殿」

「最後のポカさえ無ければの」

 タラスマガが称賛に応え、ティアルメルティの言葉を無視しながら、俺達は次の階層へ降りる階段へと向かう。


「しかし、オルーシェも本気のようだな……」

「ああ、初っぱなの敵にしては、豪華過ぎだ」

 通常のダンジョンモンスターではなく、新しいモンスターを作り出してまで俺達を倒そうとしている事に、彼女の本気を感じられた。

 洗脳されているとはいえ、オルーシェとは気の合う友達になっていた魔王も、その現実にわずかながら気落ちしているようだ。


「にしても……くそっ、あの『聖女』め!」

 俺は舌打ちをしながら、元凶である『聖女』に悪態をついた。

「せっかく貯めたダンジョンポイントを、無駄に使わせやがって!」

 いずれティアルメルティ達が元の世界に帰るためであり、なにより俺が生き返るのためのポイントでもあるのだ。

 こんな調子でどんどん使われてしまったら、あっという間に底をついてしまうんじゃないかと心配になってくるぜ。


「まったくだ!それに、仲間内で争わせようという性根が気に入らん!」

「見た目が美人だけに、やり口はよりエグく感じますねぇ」

「…………(コクコク)」

 各々があの『聖女』に対する愚痴を言い合い、階段を降りていた、その時だった!

 突然、階段の段差が消え、急な坂に変化する!


「なっ!」

 驚く間も無く、俺達は滑り台と化した坂を滑り落ちていく!

 さらに、激突しそうになった壁の一部が開いて新たな坂が現れると、なす術もない俺達を奈落へと飲み込んでいった。


            ◆


「うおぉぉぉぉっ!」

 長い闇の中を滑り落ちてきた俺達の先に、光が見えてきた!

 その光に飛び込んだ俺達は、したたかにケツを打ちながら床に転がる!


「ぐわあぁぁぁっ!」

「し、尻がっ!余の尻がぁっ!」

 ケツが割れるほどの衝撃に悶えていると、そんな俺達へとコツコツと足音を響かせながら、人影が近づいてきた。


「早い再会でしたわね、ダルアス様。そして、魔族の皆さん」

「マルタスター……」

 慈愛に溢れた声で、『聖女』マルタスターが優雅な微笑みを浮かべながら、俺達を見下ろしていた。

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