03 神の声を放つ穴
◆◆◆
「マルマの奴は、上手くやってるのかね……」
外部階層である偽装の村へ、教会の連中が到着したと報告が入ったのは、少し前の事だ。
それからしばらく時間が経過しており、連中を迎えているだろうあいつらの事を考えながら、俺はそんな言葉を口にした。
「……たぶん、大丈夫。経緯はあれだけど、サキュバスとしての技量は並みじゃないから」
色々と強化した事もあって、オルーシェはマルマという存在にかなりの自信を持っている。
しかし冒険者の直感……もしくは虫の知らせとでも言おうか。
俺は先ほどから、なにやら微妙に嫌な雰囲気を感じていた。
それと言うのも、報告にあった『聖女』という単語に引っ掛かるからだ。
少なくとも、俺の時代にはそんな物は居なかった訳だが、言葉の雰囲気から『勇者』に近いものを感じさせるのが、どうもな……。
「そう、ソワソワするでないわ。余を見習って、どーんと構えておれ!」
逆に、なんでそんなに余裕なんだと問いたくなるくらい、ティアルメルティはダラダラとした態度で茶菓子なんぞをポリポリと食らっていた。
「一応、上に来てる教会の連中にとって、お前は最大の怨敵なんだよな……?」
しかし、そう尋ねた俺に、ティアルメルティは「ふふーん」といった様子で薄い胸を反らす。
いや、褒めた訳じゃないんだが。
「まぁ、一般的に『聖女』はすごい力と神の加護を得たとされる修道女の最高峰らしいが、どちらかと言えば教会の宣伝役的な要素が大きい。『勇者』に比べれば、脅威度は遥かに低いな」
「そうね……私もよくは知らないけど、実際に前線へ出てくるような事はほとんど無くて、後衛で教会直属の兵士達を鼓舞するのが大方の役目らしいから」
魔王の言葉に、オルーシェがそう補足してくれた。
なるほど、要は教会のプロパガンダ的なもんか。
だが……こういう時の嫌な予感ってやつは、大概が当たってほしくない方向に当たりやがるんだよな。
自分が介入できる案件じゃなく、マルマに任せっきりな状況に、いらぬ不安を煽られてるだけなのかもしれないが。
そんなモヤモヤを抱えながら、地上で対応しているであろうマルマからの報告を待っていると、不意にこのマスタールームと地上階層を繋ぐ通路の扉が開かれた!
そして、そこから姿を現したのは……。
「マルマ!?……と誰!?」
なんの連絡もなく、突然現れたマルマと、その後ろに連れている知らない美女!
思わず見惚れてしまいそうになるが、彼女が纏っている服装からするに、おそらく教会関係者……とすると、この美女が『聖女』かっ!?
「……おい、マルマ。後ろの女は何者……」
俺がそう尋ね終わる前に、いきなりマルマはサキュバスの本性を現して、妖艶なその正体を顕にする!
お前、知らん人の前でそんなはしたない姿にっ!?
だが、そんな咎める言葉よりも速く、マルマの瞳が妖しいく輝いた!
「完全なる魅力!」
淫魔の瞳からピンクの光線が無数に放たれ、俺達を貫く!
「っ!? マルマ!テメェ、なんのつもりだ!」
「フフフ……」
暴挙に対する俺の追及には答えず、マルマは淫魔にふさわしい妖艶な笑みを浮かべるだけだ!
ちいっ!
元々、俺やオルーシェには通用しないし、ティアルメルティもその膨大な魔力が障壁となって無事である。
だが、パワーアップしたあいつの『魅了』に、四天王の奴等が抵抗できたかどうか……。
「……心配ご無用です、ダルアス殿」
「……私達、精神攻撃には強いので」
マルマが放った、妖しい視線の攻撃に晒されながらも、精神に干渉する奥義を極めているタラスマガとガウォルタが、毅然とした様子で無事を告げた。
おおっ!さすが四天王……と言いたい所だが、他の肉弾戦が得意な二人はどうなった!?
「ふっ……そう心配するな」
「おお、俺達もこの通り無事よ!」
そうか、ソルヘストとラグラドムも耐えきったか……と思ったが、まったく無傷という訳では無さそうだな。
一見すれば平静を装ってはいるものの、この二人……めちゃめちゃ股間が盛り上がってるじゃねぇかっ!
なんとか理性は残っているみたいだが、身体はめちゃくちゃ反応してやがる!
「お、おい……お前ら、大丈夫なのか?」
オルーシェやティアルメルティの視線から、さりげなく下半身がガチガチになっている二人を隠し、こっそりと聞いてみた。
「……正直、おち〇ちんが爆発してしまいそうだ」
「……パーン!っていっちゃうかもしれない……」
魔族の最高峰である戦士達が、切なげな声で前屈みになっていく。
男って……悲しいよね……。
「……フフフ、さすが四天王。正常な意識を保っているだけでも、大した物ですわ」
サキュバス姿のまま、マルマはペロリと唇に舌を這わせて笑みを浮かべる。
「マルマ……どういう事なの?」
自由意志で行動できるとはいえ、ダンジョンモンスターであるマルマの背信に、オルーシェは硬い表情で問いかけた。
「このような形で相対する事になり、申し訳ありません、マスター……ですが、これも世界の安寧のためなのです!」
……はぁ?
マルマはしおらしい態度で言うが……なにをトンチキな事をぬかしてんだ、こいつは?
答えになっていない返事に、オルーシェも頭の横に「?」を浮かべていると、サキュバスの後ろに控えていた『聖女』とおぼしき人物が、スッと前に出てきた。
「はじめまして、悪名名高き『オルアス大迷宮』の支配者であられる皆様方。ワタクシは、教会より派遣されてきた、マルタスターと申します」
マルタスターと名乗ったシスターが優雅に一礼すると、その動作でなびいた髪からふわりと甘い香りが溢れて室内に流れる。
「……貴女は、『聖女』……なの?」
「はい。そのような称号を賜っておりますわ」
ニコリと微笑んで、オルーシェに答えるマルタスター。
ううむ、改めてよく見ると……不似合いな眼帯はあるけれど、なるほど『聖女』なんて言われるだけの事はある美女っぷりだな。
だが……敵の首脳陣を前にして、この落ち着きようはなんだ?
「マルマ様は、ワタクシ達の信ずる神の声を聞き、協力していただく事になりました」
「神の……声?」
「はい。この世界の造り手にして、すべての命の創造主である、神の声です」
「あれは、とても素晴らしい体験でしたわ……是非、マスターにも聞いていいただきたいのです」
眉を潜める俺達とは裏腹に、マルタスターとマルマはキラキラとした瞳を潤ませて、うっとりとした表情を浮かべる。
あらやだ、なにかキメてんじゃねぇだろうな、こいつら……。
「ふむう……マルマに何をしたかは、後で聞くとして……ちょっと呑気にしすぎだと思う」
オルーシェの言葉に、俺は彼女を守るようにして前に出る。
同時に、四天王の面々もティアルメルティの周囲を囲むようにして、臨戦体勢に入った。
『聖女』だかなんだか知らんが、この面子に対して向こうはとち狂ったサキュバスがひとり。
戦力の差は、圧倒的ではないか!
しかし、そんな俺達を見て、マルマは淫靡な笑みを浮かべる。
「ウフフ……残念ですが、四天王の皆様は戦力になりませんわ」
「なにっ!?」
「四天王の皆様は、同士討ちを避けるために必殺の『奥義』を使えない。そうなると、肉体的な強さが必要ですが……武闘派のソルヘスト様とラグラドム様は、まともに戦えないご様子」
絡み付くようなマルマの視線の先には、彼女の『完全なる魅力』の影響で、股間をおさえながら前屈みになる二人の姿が!
……まぁ、これじゃあ戦力にならんだろうなぁ。
そう、誰もが思った時だった。
「舐めるなよ、貴様ぁ!」
地の底から響くような気迫のこもった声と共に、ソルヘストとラグラドムがマルマを睨み付ける!
その視線に圧されたのか、淫魔の顔から笑みが消え、わずかな緊張が浮かび上がった!
「確かに今の我々では、まともな戦闘ならば遅れを取るかもしれん」
「だが、厄介な貴様を抑える事ぐらいはできるぞ!」
「……フ、フフフ……面白いですね」
バチバチと火花を散らし、四天王の二人とサキュバスの視線がぶつかり合う!
まさに一触即発といった空気の中、マルマが口火を切った!
「では、セッ……肉弾戦でケリをつけようではありませんか!」
「おおっ!望む所だ!」
「ヒィヒィ言わせてやらぁ!」
「そうなると、場所を変えねばなりませんわね!」
「そうだな、激しい戦いが予想されるから、防音が行き届いた場所がいいだろう!」
「あと、二時間くらい休憩可能な……じゃなくて隔離された部屋なら、なおいいな!」
「フフフ!楽しませていただきますわ!」
「……おい、お前ら」
なんかバトルの雰囲気を醸しながら、完全にそっちへ話を進めている奴等へ、俺は思わず声をかける。
その声に一瞬だけギクリと身を震わせた三人だったが、何故か示し合わせたように頷くと、わざとらしく言い合いをしながらマスタールームから飛び出していった!
あ、あいつら……。
ポカンとするオルーシェとティアルメルティに、呆れる俺と残る四天王の二人。
そして、ニコニコとした笑みを崩さぬマルタスターは、どこか白々しい空気の中で再び対峙する事となった。
「……一応聞くけど、降伏するつもりは?」
「もちろん、ありませんわ」
オルーシェの問いに、マルタスターは即答する。
そう答えが返ってくる事はわかりきっていたが、この期に及んでいまだ余裕を見せる、こいつの根拠はなんなんだ?
警戒を深める俺達に対し、マルタスターは「そんなに怯えないでください」などと優しげに言いながら、自身の右目を覆う眼帯に指を伸ばす。
「オルーシェ様も、神の奇跡を体験してくださいませ」
まるで舞台上で演じる役者のように、俺達へ芝居じみた動きを見せながら、マルタスターは眼帯を取り払う!
そして……その下から現れた物を見た俺達は、驚愕しながら絶句した!
青い宝石を思わせる、彼女の左目と対になるべき場所にあったのは、閉ざされた瞼……ではなく、口を閉じた唇……に見える!
いや……わずかに開き始めたそこから覗くのは、白い歯とチロチロと動く舌!
やはり、右目の位置にあるそれは、間違いなくもうひとつの口であった!
「なっ……」
俺達はその衝撃のビジュアルに、戸惑いを隠せない。
つーか、元が整った美女なだけに、かなりキモ怖いんだが!
しかし、そんな眼帯に隠された部位をさらけ出したマルタスターは、恍惚とした笑みで両手を広げた!
「さぁ、神の祝福を!」
彼女が高らかに宣言した、次の瞬間!
激しい不協和音のような音が、不気味な口から放たれた!
それは、ビリビリとした衝撃となって俺達に叩きつけられる!
「うあぁぁぁっ!」
悲鳴をあげ、オルーシェが頭を抱えながら膝から崩れ落ちた!
「オルーシェ!」
俺は、慌てて彼女を支える!
どうやら、マルタスターから放たれたのは精神攻撃の一種らしかったが、骸骨兵である事が幸いしたのか、俺には大したダメージになっていない。
それに、高い魔力を持つティアルメルティや、タラスマガ達にも通用しなかったようだ。
いや……もしかしたら、ダンジョンマスターである、オルーシェだけを狙った攻撃だったのかもしれないな。
なんにせよ、今のマルタスターは無防備とも言えるくらい隙だらけだ!
この距離なら、一瞬で首を飛ばして……。
俺は腰に下げた剣に、手を伸ばす。
だが、それを制するように、小さな手が添えられた。
「待って……ダルアス……」
「オルーシェ!」
少し呼吸を荒げながらも、しっかりとした口調でオルーシェヨロヨロと立ち上がった。
「お前……大丈夫なのか?」
「うん……平気。それより……」
キッとマルタスターへ顔を向けると、オルーシェは止める間もなくそちらへ歩を進める!
なんだ?なにか策があるのか?
オルーシェの行動に戸惑っていると、彼女は無防備な『聖女』の前で、ピタリと足を止める。
そして……。
「今から、このダンジョンは全て貴女へ捧げます」
そう言いながら、オルーシェはマルタスターへと忠誠を違うように、膝をついた!
「……は?」
その唐突な宣言と行動に、俺達はまたも言葉を失う。
え?
何がなんだって……?
頭の上をグルグルと「?」が回る俺達とは裏腹に、眼帯を戻したマルタスターは満足げに頷いていた。
「貴女も神の声を聞き、信仰に目覚めてくださった事を嬉しく思います」
「はい……まさに、生まれ変わった気分……」
二人の美少女は、仲睦まじい姉妹のように抱きあい、喜びを分かち合っているようにも見える。
その異常な光景に、ようやく俺は声をあげる事ができた!
「おい、オルーシェ!ダンジョンを捧げるって、どういう事だ!」
「……そのままの意味。今後は、マルタスター様と教会の望むように、ダンジョンを運営していく」
「なっ……」
まるでそれが当たり前といった態度で、オルーシェは平然と言い放つ。
こ、これは異常すぎる!
あのオルーシェが、おとなしくどこかの組織に平伏するなんざ、あり得ないからな!
そして、その原因と考えられるのは、先ほどマルタスターの不気味な口から放たれた、奇妙の音!
あれで、オルーシェやマルマを洗脳しやがったのかっ!
「……っの野郎っ!」
俺は、優雅に微笑むマルタスターに向かい、剣を抜き放とうとする!
だが、突如として床から飛び出してきた無数の拘束具に絡め取られて、動きを封じられてしまった!
「くっ!」
「ごめん、ダルアス。少しおとなしくしてて」
困ったような表情で、オルーシェが諭すように言う。
さらに、後方で聞こえた悲鳴が、ティアルメルティ達も捉えられたという事実を伝えてきた!
「ご苦労様です、オルーシェ様」
「いえ、マルタスター様に怪我をさせたら、大変ですから」
捉えた俺達よりも、『聖女』を気遣うオルーシェの姿に、ゾワリとした気味の悪さを覚える。
ちくしょう……俺の相棒をこんな風にしやがって!
そんな『聖女』を睨み付ける俺の方を見下ろしながら、マルタスターは小さく小首をかしげた。
「ダンジョンモンスターとはいえ、知性があるなら神の声は届くはずなのですが……この方には効いていないようですね」
「この状態のダルアスは、アンデッド扱いなので通じなかったのかも」
「なるほど……」
そういう事もあるのかと、マルタスターは呟きながら、次の瞬間にはどうでもよさそうに俺から視線を外す。
そして、オルーシェと共にティアルメルティ達の方へ顔を向けた。
「オルーシェ様のおかげで、ワタクシ達の宿敵である魔王を捕らえる事ができました」
「……余をどうするつもりだ」
ギリッと歯ぎしりしながら、身動きの取れぬティアルメルティは、せめてもの抵抗とばかりにマルタスターを睨み付ける。
そんな魔王へ、『聖女』はポンと手を叩いて末路について話し始めた。
「まず、魔王は教会に連行します。そこで、教会にとって有益な実験や拷問を行い、最終的には魔族との戦争終結の証しとして、大々的に処刑をさせてもらいますわ」
にこやかに話す内容じゃねぇ!
ティアルメルティもすっかりビビって、今にも泣きそうじゃねぇか!
「つーか、オルーシェ!そいつらに、そんな真似させるつもりか!」
「……秩序を保つためなら仕方ない。せめてティアの死は無駄にしないから、無駄な抵抗はしないで」
「オ、オルーシェ……」
情けない顔で友人の名を呟くティアルメルティに、オルーシェも悲しげに目を伏せた。
そんな光景に、俺は腹の底からフツフツと怒りが沸き上がってくるのを感じる!
くそっ!
オルーシェに、こんなひでぇ事を言わせやがって!
そんな、俺の気配に気づいたのだろう。
マルタスターがチラリと俺を一瞥して、オルーシェへ問いかけた。
「ところで……こちらのガーディアンがすごい殺気を放っておりますが、オルーシェ様はいかがするつもりでしょう?」
「……ダルアスは私を守ってくれる。でも、確かに少しだけ調整は必要かも」
調整!?
なんだ、その嫌な予感しかしねぇ物言いは!
「お、おいっ!何言ってんだ、オルーシェ!」
「大丈夫、ちょっと思考をいじるだけだから」
「なにも大丈夫じゃねぇ!」
今の正気じゃないオルーシェなら、マジでそういう事をしそうだ。
冗談じゃないと、なんとか戒めから逃れようとしたが、拘束具はビクともしない!
「すぐ終わるから、おとなしくしてて」
「できるかぁ!」
ジタバタもがく俺を尻目に、オルーシェはダンジョン・コアに手を翳してパネルを浮かび上がらせる。
そうして、俺の思考をいじる作業を始めようとした、その時だった!
けたたましい警報の音が鳴り響き、俺達の拘束が解かれていく!
な、なんだ?
なにが起こったんだ!?
『現在、非常事態パターン7条に該当する事態と判断しました。これにより、対策マニュアルを発動。これにより一部権限をダルアス様に委譲し、ダンジョンより待避させます』
「は!?」
寝耳に水なダンジョン・コアの言葉に、俺は間抜けな声を漏らす。
同時に、オルーシェが「しまった!」と悪態を付く声が聞こえた。
なんにしても、これはチャンス!
「コア!ティアルメルティ達も、ダンジョンの外に!」
『了解』
「ダル……」
俺を呼ぼうとしてオルーシェの声が途切れ、ふわりとした浮游感のような物を感じる!
そして……気がつけば、俺達はダンジョンの入り口へと転移していた。
脱出……できたのか?
「ダルアス、無事か!」
どうやら、共に逃げられたらしいティアルメルティとタラスマガ、そしてガウォルタが俺のところにやってくる。
「おお、お前らも無事だった……って、ソルヘスト達は?」
『彼等は別ルームでお楽しみ中でしたので、そのまま置いてきました』
「そ、そうか……」
気を利かしたというか、ほったらかしにしたというか……。
まぁ、今のあいつらが役に立つかどうかはわからんから、それもアリか。
だが、わからんのはこのダンジョン・コアの言っていた『非常事態』とその対策だ。
おかげで助かったが、どういう事なんだろう?
『マスターであるオルーシェ様は、自身が洗脳や催眠といった魔法で操られた場合を想定して、いざという時にはダルアス様に権限の一部委譲するよう、私にプログラムしていました』
マジか……。
あの歳でそこまで考えを巡らせてるとは、さすがだぜオルーシェ!
魔導機関を出し抜いて脱出してきた実力は、伊達じゃねぇな!
「なんにせよ、ひとまず助かったが……これからどうする?」
「そうだな……っ!?」
ティアルメルティの言葉に答える寸前、大勢の人間が俺達を取り囲む気配に気づいた!
向こうも、やや警戒していたようだが、こちらが少数だと判断したのか、ぞろぞろと姿を見せはじめる。
一瞬、ダンジョン攻略に来た冒険者かと思ったが、どいつもこいつも似たような装備で統一している所から、おそらくマルタスターと同じ教会の勢力なんだろう。
「なんだ、この骸骨兵は……」
「突然現れたぞ……」
「それに、あいつらは魔族じゃないか!」
ジワジワと、教会の兵達から殺気が沸き上がりはじめる。
俺達の構成を見て、敵であると判断したようだな。
だがなっ!
「ムカついてるのは、こっちの方なんだよぉ!」
オルーシェを洗脳するような真似をする教会や『聖女』に対し、噴き出す感情のままに俺は剣を抜いて教会兵達の中へと飛び込んでいった!
◆
──小一時間ほど経ったろうか。
もはや動く敵がいなくなったのを確認し、俺は剣を振るってまとわりついた血を降り払った。
「はわわわ……」
鬼気迫る戦闘を見ていたティアルメルティ達が、視界の端で小動物のように怯えていたが、ちょっとばかり感情のままに暴れ過ぎたかもしれないな。
「ふうぅぅぅ……」
大きく深呼吸して、落ち着きを取り戻した俺は、先ほどの問答を思いだす。
まぁ……やることはひとつ、だな。
「まさか、俺がうちのダンジョンを攻略する事になるとはなぁ……面倒な事になったもんだぜ!」
しかし……口から漏れた言葉とは裏腹に、胸の内には一人の冒険者として、メラメラと燃えているのを感じた。
へへ……待ってろよ、オルーシェ。
すぐにクソッタレな『聖女』をぶっとばして、元に戻してやるからな!




