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01 孤軍

 二十数名からなる、『勇者』の一団を返り討ちにてから、また数日が経った。


 束の間とも言える平穏な日々ではあったが、もちろんあれが最後の襲撃なハズはなく、奴等はまた攻めて来るだろう。

 前々回に比べて、数倍の戦力を投入してきた以上、今度はどれ程の数でもって攻めてくるのか、予想が難しい。

 まぁ、元々ダンジョンってのは、大人数が一度に攻め込めないような造りになってはいる。

 だからオルーシェは今、いかに敵を分散させられるかの仕掛けに腐心している所だ。

 罠、迷い道、モンスター……色々な手管をもってシミュレートしている彼女は、楽しそうで何よりである。


 さて、そんなオルーシェに対して俺はと言えば……地上階層である村の整備はほとんど終了してしまったが、そこそこ忙しくしていた。

 例えば、レオパルトやエマリエート、もしくはダンジョンに吸収された、『勇者』のデータをベースにしたダンジョンモンスターを相手に鍛練したり、「こんなダンジョンが嫌だった」という経験からくるアドバイスをオルーシェに語ったりと、それなりにやる事はあったりする。


 俺の話を聞く様子から、彼女からの信頼度の上がり具合も知れて、こちらもより気合いが入るってものよ!

 ……そういえば、前の宴の時に俺が椅子代わりになってやったのが気に入ったらしく、時々オルーシェに頼まれて彼女を座らせてやっている。

 生前は独身だったが、子供がいたらこんな気分だったのかな……と思うと、その程度のわがままでもオルーシェが言ってくれるのは少し嬉しいもんだ。


 ただ、一度だけティアルメルティも俺の膝に乗りたいと言ってきた事があったが、先に膝に乗っていたオルーシェの顔を見て、青ざめながら逃げていった事がある。

 俺の角度からではオルーシェの顔は見えなかったが、いったいどんな表情をしていたのやら……。


 まぁ、そんな感じでほどほどに緩く、次の襲撃に備えていた訳だが、やはり奴等は突然やってきた!


            ◆


 それは、ダンジョンの構想に疲れたオルーシェが、俺の膝の上で一息ついていた時の事。

 ふいに、ダンジョン・コアが警告のサイレンを鳴り響かせた!

 それを聞きつけ、マスタールームにティアルメルティを始めとした四天王や、レオパルト達が集まってくる。

 そうして、ダンジョン・コアが状況を説明し始めたのだが……。


『現在、こちらへ接近中の『勇者』の反応を、感知しました。しかし……』

 なにやら、ダンジョン・コアが戸惑う様子が察せられる。

 そんなコアに、オルーシェは説明を続けるように促した。


「どうしたの、コア?敵は何人?」

『それが……一人です』

「なんですって……?」

 ダンジョン・コアから返ってきた答えに、オルーシェも怪訝そうな表情を浮かべた。

 確かに、二十人以上で攻めても全滅したダンジョンへ、たった一人でやってくるというのはどういう事だ?

 たんに、向こうの戦力が尽きた……もしくは、一人でもダンジョンを攻略できる自信があっての事なのだろうか?


 どちらにしろ、他に伏兵がいないとも限らない。

 その辺も注意しながら、オルーシェは向かってくる『勇者』の様子を捉えるように、ダンジョン・コアへと指示を出した。


『……ダンジョン到達まで、約一キロの地点で敵の姿を捉えました。映像を回します』

 コアの報告と共に、モニター用の水晶球から光が放たれて像を結ぶ。


 そこに現れたのは、爽やかな青空を思わせるスカイブルーの全身鎧と盾を身に付け、腰から長剣を下げた重武装の戦士だった。

 多少なりとも整備されているとは言え、基本的には険しい部類に入るダンジョンまでの道を、その『勇者』は重い全身鎧を纏いながらズンズンと進んでくる。

 ふむう、なかなかの圧迫感……こいつはできるな!

 俺だけでなく、戦士系の連中が闘争本能を刺激されたのか、わずかに緊張感が張り詰める!


「……どうやら、伏兵の類いはいないようだな」

「だとすれば、全員で出る事もないだろう」

「ならば……誰がやつの相手をするかだが?」

 四天王の中でも直接戦闘を好む、ソルヘストとラグラドムは、一味違いそうな『勇者』を前に自分達が戦闘(やり)たそうな声色で話しかけてくる。


「うーん、じゃあこいつらに任せていいんじゃないかな?」

 俺がそんな提案をすると、当人達以外からは特に反対の声も上がらなかった。

 そんな俺達に、意外そうな顔をしたのはティアルメルティだ。


「……お前らは、自分が戦いたいと言い出すんじゃないかと思ったんだがな」

「おいおい、人を戦闘マニアみたいに……」

 この魔王様はなにか誤解しているようだが、基本的に冒険者は何らかの目的や利益に繋がらないなら、無駄な戦闘とかしないもんですよ?

 俺はオルーシェを守るって理由があったし、レオパルト達だって自分の所属する国の利になるから、戦ってるだけだ。

 降りかかる火の粉は払うが、誰かが代わりに戦ってくれるなら喜んで譲っちゃうよ、うん。


 そんな訳で、戦闘自体にはあまり積極的でない俺達や、同じ四天王でも好戦的でないタラスマガやガウォルタなんかは、「どうぞ、どうぞ」と交戦権を譲った。


「んん……そお?」

「それじゃあ、言葉に甘えて……」

 なぜか照れながら、『勇者』撃退を請け負ったソルヘスト達が、どちらが先に出るかを決めようとしていた、その時!


「四天王のお二方には申し訳ありませんが、ここは私に譲ってくださいませんか」


 ダンジョン内に、突如この場にいない者……すなわち地上階層の管理者である、マルマの声が響き渡った!

 って、待て!

 なんで戦闘系でない、お前がここで立候補してくるんだ?

 当然のように浮かんだ俺達の疑問に、神妙な響きを声に含めたマルマが答える。


「──私は前回の『勇者』の一団を相手に、まったく活躍することができませんでした……これでは、魔王様は元より、地上階層を任せてくださったマスターに顔向けできません!」

 確かに、奴の言う通りではあるけれど、『勇者』の一団を早々にダンジョンへ入れて殲滅するって策があっての事だから、マルマに非があるような話じゃない。

 なので、そこまで気にする事もないのだが……?


「それでもっ!どうか私に、チャンスを!」

 オルーシェは無理しなくていいよと伝えたのだが、なんだか妙に食い下がるな……。

 だが、そんな必死とも言えるマルマの様子に、俺はふと、ある可能性に気がついた。


「おい、マルマ……まさかとは思うが、『相手が一人なら、性的に食っちまおう』とか考えてないだろうな?」

「…………」

 なんか言え!

 黙ってしまったマルマに、俺の言葉に疑いの念を持ったオルーシェが、奴の様子を映像に写し出す。

 するとそこには、図星を突かれた羞恥と、甘美なご馳走に期待する隠しきれない色情の欲がごちゃ混ぜになった表情を浮かべる、性欲モンスターの姿があった!


「うへへ……いえ、あの……最初に襲ってきた『勇者』の一人を食った(・・・)時に、あまりにも良かった物で……」

 ニチャリとした、エロい笑みを浮かべながら、マルマは本心を吐露する。

 こ、この野郎……確かにサキュバスの本能とか分からんでもないが、『勇者』の童貞はそんなに美味かったのか!?


「普段、冒険者を相手につまみ食いするのとは別に、がっつり食い尽くせる機会なんて、めったにないんです!どうか、私に機会を譲ってください!」

 本当の狙いがバレた途端、マルマはその場で土下座しながら懇願してきた!

 こうもまっすぐに嘆願されると、ちょっと断りづらくなってくる。

 ただ、今は妖艶なサキュバスとはいえ、元おっさん魔族なこいつが、こうも必死に少年の童貞を狙う様には、いささか思う所がない訳でないが……。


「……まぁ、いい。好きにすればいいだろう」

 根負け……というよりも、呆れて物が言えなくなったティアルメルティの鶴の一声で、やる気だった四天王達もため息混じりにマルマへ役目を譲る事を承諾した。

「ありがとうございます、魔王様!必ずや『勇者』に、『らめぇぇぇ!』とか言わせてみせますわ!」

「言わせんでいいわ!」

 思わず俺がツッコンでしまったが……なぜかティアルメルティは「ほほぅ……」などと呟いて、興味を示している。

 さらに、オルーシェまで行為の記録をコアに命じていた!


「……おい、お前ら。何を淫魔(マルマ)に感化されてるんだ!」

「別に、余は見た目ほど子供じゃないし……」

「私も将来的に必要な知識となるんだから、もっとサンプルを取ってしっかりと学んでおきたい」

 ぬ……完全に物見遊山なティアルメルティはともかく、先を見据えて学ぼうというスタンスのオルーシェを無理矢理に止めるのは、ちょっと悪い気がする。

 しかし、父親代わりの立場になってみると、まだ彼女にそういうのは早いというか……。

「フフフ、お任せくださいお二方。サキュバスによる、『四十八の必殺寝技』をたっぷりご披露いたしますわ」

 自信たっぷりに、謎の淫技を使おうとするマルマに、オルーシェ達が「おぉ……」と興味深そうな声を漏らす!

 なんだかしらんが、お前も煽るんじゃねぇよ!


「まぁ、いいじゃないか。ダルアスだって、オルーシェと変わらん歳の頃からそういうのは見聞きしてたろ?」

「そうそう。いずれ勝手に覚えるんだから、ここで止めても仕方ないよ」

 レオパルトとエマリエートが、他人事みたいにそんな事を言う。

 くっ、確かにそれはそうなんだが、年頃の娘に淫魔の行為を見せるのは、やっぱり抵抗があるんだよな。

 ……まさか、この俺がこんな事に頭を悩ませる日がくるとは。


「おっと、そうこう言ってる間に、始まるようだぞ?」

 そんなソルヘストの声に、マルマの状況を映す水晶球からの映像に目を向ける。

 するとそこには、ちょうどシスター姿の彼女と、空色の鎧を纏う『勇者』が、正面から対峙している様子が映し出されていた。

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