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01 まるで浦島

           ◆◆◆


 外道冒険者チームであるヒリュコフ達を斬り伏せ、その後始末と奴等に出会う前に狩っていた魔人族の死骸(ダンジョンの餌)を回収してから、今後のプラン等について話し合う事となった。


 ちなみに、外に置いてきた魔人族の回収する際、オルーシェが逃亡する時に組織からかっぱらってきた「収納魔法が付与された鞄」とやらを使ったのだが……なにこれ、すごい便利!

 大量に物を傷付けず収納できる上、重さは鞄自身の物くらいしか感じられない。

 うーん、魔道具の技術も進歩したんだなぁ。

 本業を再開する時には、是非とも欲しい一品だ……その時には、譲ってもらえるか、作ってもらえないだろうか。

 そんな事を考えながら、せっせと魔人族の死骸を鞄に詰め込んで、ダンジョンへと運んでいった。


 そうして一仕事を終えた後、ダンジョンの中心でありダンジョン・コアが安置されるマスタールーム内において、俺とオルーシェはお茶の用意されたテーブルを挟んで向かい合う。

 

「──さて、私達は協力してダンジョンを育成していく相棒……いわば、運命共同体で死が二人を分かつまでの間柄になったと言っても、過言ではないのだけれど」

 いや、過言だろ。

 まだ若いくせに、覚悟キメ過ぎだ。

 まぁ、やる気に満ち溢れているみたいだから、四の五のは言わんけど……。


「私には、ダンジョンを拡張していく知識はあるけれど、攻略する側(・・・・・)の視点に立った思考が不足している。だから、その辺をダルアスにサポートしてもらいたい」

「ふむ……つまり、俺が今まで攻略してきたダンジョンで、色々と体験した事を教えればいいんだな?」

 確認のためにそう尋ねると、オルーシェはコクンと頷いた。

 そうか……なら、酷い目にあった罠とか、扱いに困ったダンジョンのお宝みたいな話をしてやるか。


「それと、二人で(・・・)より良いダンジョンを作るそのためにも、まずはもっとお互いの事を知らなきゃいけないと思う」

「なるほど、それは確かにあるかもな」

「なので、なんでも聞いてみて」

「…………」

 いや、そう言われてもな……。

 オルーシェの過去って、お辛い物だったみたいだし、どこに地雷が埋まっているかわからない。

 迂闊にトラウマを踏み抜いた日にゃ、この娘がどんな精神状態になるかわかりゃしないし、俺が変に質問するより本人の口から話せることだけ話してもらったもらった方がいいだろう。


 そう、彼女に告げると、「やさしい……」みたいな事を呟きながら、ニヤニヤしだした。

 うーむ、当然の気遣いにここまで感激するとは……彼女の心の傷は、かなり大きいんだろうな。

 ここは、頼れるおっさんとして支えになってやらなければ。

 内心で、そんな父性を発揮していると、オルーシェは淡々と自身の過去について話始めた。


「ダルアスも知っての通り、私はディルタス王国の魔導機関で……」

「ん?」

「え?」

 思わず変な声を漏らしてしまった俺に、オルーシェも反応する。


 しかし……王国(・・)ってなんだ?

 俺達がいるこの場所は、レンポワールド帝国領内だし、ディルタス王国なんて呼ばれている国はないはずだが……?


「帝国……それって、旧時代の?」

「旧時代!?」

 俺が疑問を口にすると、オルーシェは変な顔をしながらそんな事を問い返してきた。

 聞きなれない単語に、なんだか嫌な予感がする。

 もしかして……俺が死んでからマスターとして復活するまでに、結構な時間が流れていたのではないだろうか?

 ちょっと怖いよぉ……と思いつつも、オルーシェに近代の歴史について尋ねてみた。


「えっと……確か、旧帝国歴の百二十三年に内紛が起こって、帝国は三つに分裂。各々が王国を名乗り、分かれたの」

「なっ!」

 それを聞いて、俺は愕然とする……!

 なぜなら、俺が死んだのは忘れもしない、帝国歴の七十三年の事。

 つまり、五十年以上も時が流れていたっていうのか!

 しかし、次に続いたオルーシェの言葉は、俺を更なる奈落に突き落とした!


「そこから王国歴が始まったんだけど……今は、王国歴百五十年目」

 え?という事は……に、二百年経っとるうぅ!?


 嘘だろ……それじゃあ、ちょっとずつ貯めていた俺のささやかな財産は……友人達や、ちょっといい感じだったあいつはもう……。

 ぬあぁぁぁぁぁっ!

 そんなのってあるか!?

 なんか、いきなり生き返るためのモチベーションの九割が無くなるって、酷くない?


「そして、今からちょうど百年前……王国歴の五十年に、異界から魔王と呼ばれる存在が現れ、世界を混沌の渦に……」

 待って!

 さらに面倒そうな情報を、ぶちこんでこないでっ!


「なんだよ……魔王だの魔族だのっていうのは……?おとぎ話かなにかが、現実になったとでも言うのか?」

「ある意味では、ね。そして、冒険者が堕落していった原因にもなった」

「なにっ?」

 いったい、どういう事なのかとオルーシェの話を聞いてみれば、その魔族とやらの相手をするのに各国の正規軍が動いているそうだ。

 そのため、大都市以外の街や村をモンスターや魔人族から守るのは、冒険者ギルドに一任されたのだという。

 しかし、国から大きな裁量権任されたのをいいことに、冒険者ギルドと所属する冒険者達は、徐々に傲慢になっていった。

 強大な敵に挑むことも少なくなり、そうして今ではヒリュコフ達のような連中がスタンダードになるほどに、堕落してしまったのだそうだ。


 正直な所、俺の時代だったらヒリュコフ達のパーティは、精々C級の上位って辺りの強さだった。

 ついでに、人格も誉められたもんじゃないってんだから、最悪である。

 それがいまやA級にまで認定される世の中とは、なんとも情けない話だよなぁ……。

 

「あいつらがこの話を聞いたら、どう思っただろうな……」

 そう呟きながら、かつて共に冒険の旅に出た同業者達との思い出に浸っていると、オルーシェがソッと寄り添ってきた。

「……今のダルアスにとって、知り合いと言える人物は私だけなのね」

「……まぁ、そうなるな」

 憂いを帯びつつ、なぜかちょっと嬉しそうな声でオルーシェは呟きながら、俺に向かって両手を広げた。


「遠慮なく、依存してもいいよ?」

「しねーよ!」

 確かにショックだったし、相棒として協力しあうと約束はしたが、子供相手に精神的に頼りきりになるほど、おっさんの心は弱くないんだ!

 それに、年長者がそんな情けない姿を見せるのもなんだしな!……もう遅いかもしれんが。

 まぁ、近代史については、後でもっと色々と聞かせてもらうとしよう。


 それよりも今は、差し迫った先の事を無理矢理にでも考えなければ!

 なんせ、オルーシェへの追っ手がまた迫ってい(・・・・・・・・・・)るだろうからな(・・・・・・・)

 俺がその可能性に触れると、オルーシェ自身も想定していたのか、コクリと頷いて肯定した。


「あの冒険者達の持ち物を調べた時、私の魔力に反応するように調節された、魔道具を見つけた」

「ああ……たしか奴等は、『借りてきた人探しの魔道具』とかなんとか言ってたが、それの事か?」

「うん。それで、その魔道具からは今も微量な魔力が流れ続けている。たぶん、この魔道具の位置を魔導機関に知らせ続けているんだと思う」

 なるほど……その魔道具の反応を追ってくるのだとしたら、俺が予想していたよりも早く追っ手が来るかもしれないな。

 しかし、そこまでわかっていながら、その魔道具を処分しないということは……。


「お前、追っ手の連中を迎え撃つつもりだろ?」

「当然!」

 尋ねた俺に向かって、オルーシェは「最初からそうすると決めていた!」と言わんばかりに、力強く親指を立ててみせた!

 初めて会った時も思ったが、やはりこういう事に物怖じしないオルーシェは、なかなか胆が太いな。

 後は、トラウマスイッチが入らなければいいんだが……。

 あの怯えきった姿を思い出すと、妙に励ましてやりたくなってくる。

 なので俺は、よしよしとオルーシェの頭を撫でてやった。

 そして、心地良さそうにそれを享受する彼女に、無理はするなよと声をかける。

 すると、大丈夫との返事が返ってきた。


「今は……ダルアスが守ってくれるから、怖くない……」

 俺の手を取り、そんな事を囁いてくるオルーシェ。

 ぬぅ……そんな事を言われると、おっさんの父性がビンビンに反応しちゃうぜ!


「よっしゃ!だったら、ちゃんとお出迎えできるように、ダンジョンを仕上げていかないとな!」

「うん!」

 近く現れるであろう追っ手を返り討ちにすべく、俺とオルーシェは気合いを入れて拳を突き合わせた!

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