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08 勇者再来

           ◆◆◆


 初めての『勇者』退治から、数日が過ぎた。


 俺はいま、再び来るであろう『勇者』達の再来にに備えて、外部階層の村を改装するためのポイントを洗い出す作業を手伝っている。

 本来ならこの村もダンジョンの一部なので、オルーシェがちょいと弄ってやれば、すぐに堅牢な防御施設が作れそうなものなのだが、あまり派手に変える訳にはいかない。


 それというのも、冒険者が集まりだしてからそこそこ人が出入りしていたこの村の様子をあまり変えすぎると、後で色々誤魔化すのが面倒だからだ。

 特に今は人の足が絶えていて、大幅な改装なんてできる訳もない状況だから、見た目は地味なままにしておかなくてならない。


 また襲って来るであろう『勇者』どもには一国の後ろ楯があるし、この村に住む魔族達は一応『魔王から離反した、この世界の住人との融和主義』という事になっている以上、今後の事を考えれば万が一にもここがダンジョンの一部だったとバレないよう、注意を払う必要がある。


 しかし、なんでそんなに人気(ひとけ)が無くなったのかと言えば、この村に滞在していた冒険者達がひとりもいなくなってしまったからだ。

 それというのも、『勇者』は魔王を倒すためにダンジョンへ挑むのだから、同じくダンジョンへ潜る事を生業としている冒険者達が、彼等を刺激しないようにと、国の方から通達があったらしい。

 そのため、彼等は拠点としていたこの村から退去してしまったのである。


 もっともそれは建前で、前回の『勇者』どもが魔族の村ごと冒険者を排除しようとしていた行為がギルドを通して広まり、「『勇者』こわっ……近づかんとこ……」となったのが真相らしいが。

 この話は、冒険者と親しかったマルマからの情報なので、おそらく間違いはないだろう。


 しかし、今時の冒険者は素行が悪いわりにヘタレが多いな。

 俺達の時代なら、こんな時こそ稼ぎ時とばかりに、ギルドの目を盗んでダンジョンへ潜る奴がいたもんだが……俺も何度かやってたし。


「昔よりも、ギルドの権限が強いのかもしれませんね」

「そういうものかね……」

 なんとなく話していたマルマの言葉に、俺も適当に返事をする。

 冒険者自身の腕があれば、ギルド側が忖度してくれるって時代でもないという事か……。

 いや、それこそ冒険者の素行が悪いから、いつも尻拭いをしてくれるギルドに頭が上がらないだけなのかもしれないな。


 そんな事を考えたり、駄弁りながら作業を続けていると、不意に「よぉ、ダルアス!」と俺を呼ぶ声が聞こえた。

 この声は……!


「レオパルト!エマリエート!」

 こちらに手を振る旧知の仲間達の姿に、俺は思わず驚きの声をあげた。

「よく来てくれたな」

「お前、そんなスケルトンな姿で、地上をウロウロしてていいのかよ?」

「いくら冒険者の目がないからって、ちょっと迂闊すぎよね」

「ぬっ……」

 再会早々のダメ出しに、ちょっと出鼻をくじかれる。

 まぁ、確かに少しばかり無用心だったかもしれない。


「そうだな、気を付ける……ところで、この時期にお前らが来たってことは、何かしらの手土産があるんだよな?」

「そういう事だ。とりあえず、ダンジョンマスターと魔王に取り次いでもらえるか?」

「おう」

 俺はマルマに声をかけてから作業を中断し、村の最奥にある教会の建物へと、レオパルト達を連れ添って移動した。


 建物へと入り、さらに奥のシスターの私室をすぎ、とある手順で現れる扉を抜けて隠された小部屋へと進む。

 その部屋の中央に設置された水晶球のような物に声をかけて、ダンジョンの最下層、ダンジョンマスターの部屋で作業しているであろうオルーシェへと呼び掛けた。

 すると、水晶球から光が放たれ、空中にオルーシェの姿を映し出す。


『どうしたの、ダルアス?』

 何か操作していたらしいオルーシェが、こちらへと応答してくる。

「ああ、ちょっとお前の顔が見たくてな」

『え!?……あ~……えへへ……』

 ちょっとした冗談だったのだが、なにやらオルーシェは嬉しそうに照れ笑いをしながら、「私も……」と小さく呟いた。

 さらに、いそいそと手元を片付け、談笑モードに入ろうとしていた。


 う……なんか、悪いことしたかもしれん。

 とりあえず、「冗談だが……」とも言えなさそうな空気に対して、俺は少々強引にレオパルト達がやってきた事を伝えて話を変えた。

 ほんの少し、がっかりとした表情を見せたオルーシェだったが、レオパルトとエマリエートに代わるとキリッ!とした雰囲気へと変化する。

 ダンジョンマスターとして、その辺の切り替えは立派だと思うな、うん。


「──まずは、結論から言おう。俺達が所属しているエルスティア王国と、中立国であるオルネジオ王国は、魔王ティアルメルティの提案を受け入れる」

「むこう十年……アンタらが、この世界から退去するまでダンジョンへ国として介入しない事と、退去後にこの世界に残る友好的な魔族の受け入れを確約するわ」

『おお、そうか!』

 ひょっこりとオルーシェの隣に現れたティアルメルティが、レトパルト達が持ってきた返答を聞いて安堵のため息を吐いた。


 まぁ、元々ティアルメルティの出した条件、「相互不可侵と魔族退去後の対応について」は国側が有利な提案を出したのだから、こうなるのも自然だよな。

 相互不可侵となれば、魔族との戦いで疲弊していた国力の回復も図れるし、退去後の魔族を受け入れれば魔族独自の技術や文化を取り入れられると、メリットは大きい。


「ただ、冒険者についてだが……」

 レオパルトが続けた言葉に、オルーシェとティアルメルティは耳を傾ける。

「一応、冒険者ギルドは民間の独立機関でな。国としても完全な抑止は難しく、ギルドの判断で条約の期間中でも冒険者がダンジョンへ挑む事があるかもしれない……との事だ」

『ん。そのくらいなら、許容範囲』

 来る者は拒まずと胸を張るオルーシェに、レトパルトもホッと胸を撫で下ろした。


 まぁ、ギルドとしては『勇者』の件がなければ、このダンジョンを無視する道理はないだろうし、止めても勝手に挑む跳ねっ返りもいるだろうしな。

 もとより、そういった連中が潜ってくるのは想定内なので、精々ダンジョンポイントの足しにさせてもらおう。


『まぁ、人間の国としても冒険者が勝手に潜って暴れて、余達の戦力を減らせれば御の字くらいの事は考えてそうだがな』

『うん。国としては止めたっていう体裁を取ったから、何かあっても「おあしす(おれじゃない、あいつがやった、しらない、すんだこと)」で誤魔化すだろうね』

 映像の向こうで、少女らしからぬ会話をする魔王とダンジョンマスターに、レオパルト達も苦笑を浮かべる。

 あー、これは思惑が見透かされたって顔ですわ。


『とにかく、これで注意を払うべきは『勇者』達だけに絞られた。あとは、やつらがどう出るか……』

『マスター、よろしいですか?』

 オルーシェの言葉を遮って、不意にダンジョン・コアが彼女に声をかける。

 何事かなと思っていると、コアはダンジョンの近くに敵対的存在が近づいている事を告げた。


『おそらくは、前回乗り込んできた『勇者』と思われる集団です』

「おいおい、随分早いお礼参りだな」

「ディルダス王国で、『勇者』の量産に成功したなんて噂があったが……この様子じゃ、本当だったらしいな」

「となると、魔王の次は亜人種(わたしたち)って噂も本当かもね……」

 人間至上主義を掲げているディルダス王国が、エルフやドワーフといった連中を良く思っていないのは、前回乗り込んできた『勇者』達の動向からも明らかだ。

 その話をしてやると、レオパルト達は何かを決めたように頷きあった。


「ダルアス、お前も『勇者』とやり合ったんだろう?どれくらいの強さだった?」

「そうだな……俺達の時代のA級下位って感じか?」

 もちろん、個人差もあるだろうが、量産型だというならそこまで突出した奴はいないだろうと思う。


「だったら、()りようはあるわね」

「ああ……できればここで、一度手合わせしておきたい所だな」

 そう言うと、二人はチラリとオルーシェの方へ視線を向けた。

「頼む、オルーシェ!俺達にも、『勇者』の撃退を手伝わせてくれ!」

「もちろん、これはアタシ達の個人的な要望だから、報酬等は無しで結構よ!」

 本来なら、冒険者家業のこいつらが、タダ働きなんてありえない。

 しかし、ディルダス王国の悪い噂が本当らしいと知ってしまった以上、次を見据えて『勇者』の実力を肌で感じておきたいのだろう。

 まぁ、ダンジョンを操作してやれば、一対一の状況を作り出す事も簡単だし、俺達にとっても侵入者を排除してもらえるのはありがたい。

 そんな事を考えながら、俺がオルーシェに向かって頷いて見せると、彼女もコクリと首を縦に振った。


『それじゃ、よろしく。念のため、前に二人用に作った部屋へ、『勇者』を一人ずつ送り込むから』

「おう、それはありがたい」

「ああ、助かるよ」

 以前、魔族五人衆が侵入してきた時に迎え撃った、こいつらのの部屋か……。

 たしか、二人が帰国してからほったらかしだったが……まぁ、大丈夫だろう、たぶん。


「ところで、今回の『勇者』は何人で乗り込んできたんだ?」

 前回は、ひとつのパーティとして限界とも言える、六人組だった。

 そのため、四天王と俺とマルマで、人数的に丁度よかったのだが、さて今回は……。


『今回、侵入してきたのは、二十四人です』

「んん!?多いな……従者か何かを連れてきたのか?」

『いえ、『勇者』が二十四人で攻め込んで来ました』

「ぶふっ!」

 ダンジョン・コアからの思わぬ報告に、俺達は一斉に噴き出してしまった!


 に、二十四人!?

 一気に前回の四倍なんて、なに考えてんだ!

 いや、それ以前に、どんだけ『勇者』を量産できるんだよっ!?

 思った以上に大量の『勇者』がやって来た事に慌てていると、『フッフッフッ……』とティアルメルティが余裕の笑みを浮かべて見せた。


『アワアワするでないわ。余の四天王達にかかれば、敵の数が多かろうと問題ではない!』

 そ、そうか!

 確かに、広域かつ必殺な四天王の奥義を持ってすれば、敵の人数が多くても大丈夫だぁ!って感じだ!

 むしろ、大量のダンジョンポイントが入手できるチャンスとも言える!

 うへへ、そう考えたら『勇者』どもが、ネギと鍋を背負ってやって来た鴨に見えてきたぜ!

 

『それじゃ、私はまた『勇者』の分断を図るから、ティアルメルティは四天王への指示をお願い。レオパルト達は、それぞれの持ち部屋へ』

 オルーシェの采配で、各々が動き出す。

 俺もこうしちゃいられねぇぜ!


「オルーシェ、俺は何をすればいい?」

 頑張るぞい!といった感じでオルーシェを見ていたが……。

『…………えっと、じゃあ私の護衛という事で』

「あ、はい……」

 くっ……どうやら、今回は俺の出番はないらしい。

 まぁ確かに、四天王への加勢はできないし、『勇者』の力量を計ろうとしているレオパルト達にも助太刀はできんが……。


『とにかく、皆ダンジョンへ』

 教会の隠し部屋に設置されている、ダンジョンの最深部へと直行できる転移装置に魔力の光が宿り、使用可能の状態になった事を示す。

 俺達は頷きあうと、一旦オルーシェの元へと参じるために、転移装置へと飛び込んでいった。

コロナでの人手不足と繁忙期が重なって、更新が遅くなりました…

次はもう少し早く更新できるよう、がんばります

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