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05 勝利の要因

「おおぉぉぉぉぉっ!」

 雄叫びと共に、『勇者二号』は凄まじい剣撃を縦横無尽に繰り出してくる!

 その一撃、一撃がまさに必殺の威力を秘め、死と破壊を振り撒く姿は、『勇者』というより死神の方が相応しいんじゃねぇのか?と思わなくもない

 そんな事を考えつつ、俺は迫る刃を弾き、捌き、避けながら、しばらく『勇者二号』と剣を交えていた。


 つーか、マジでヤバイな『勇者』ってやつは!

 強くて速いはもちろんの事、たまに剣撃の合間を縫って魔法攻撃も放ってきやがる!

 無詠唱だけに魔法の威力はさほどでもないが、こちらの体勢崩したり隙を作ろうとする形で織り込んでくるから、面倒な事この上ない!

 だが……。


「はあっ!」

 一際大きい、奴の気合いの声と刃が弾き合う金属音が響き、俺達の間合いが離れた!


「ふぅー、ふぅー……」

「ふん、だいぶお疲れのようだな」

 強化魔法で身体能力を底上げしていたとはいえ、これまでの一方的に攻め立てていた『勇者二号』の息は荒く、疲労の色が浮かび上がってきている。

 それに比べ、俺は骸骨兵(スケルトン)なだけに疲れとは無縁で、まだまだ余裕があるってもんよ。

 この無限の体力は、なってみてわかるアンデッドの利点だよな。


「……んだ」

「あん?」

 ボソリと何か呟いた『勇者二号』に、俺は小首を傾げる。

「なんなんだよ、お前はよぉ!」

「っ!?」

 突然の奴の叫びに、ちょっとびっくりしてしまった!

 急に大声を出しやがって……気の弱い奴なら漏らしてたかもしれねぇぞ、この野郎っ!


「なんで死なない!なんで殺せない!?」

「っ!?」

 ガンガンと地団駄を踏み鳴らしながら、『勇者二号』は思いどおりにいかない現状に苛立ちを隠せていない。

 その姿は、まるで癇癪を起こしたガキのようだ。

 まったく、『勇者』ともあろう者が……しょうがねぇなぁ。


「あー、『勇者二号』君よ。そんなに苛ついていると、ますます当たる物も当たらなくなるぞ?」

「うるせぇ、骨野郎!さっさと死ねよ!」

 もう死んでるっつーの!

 ……といった、自虐的の冗談はさておき。


 これまで手合わせをしてきてわかった事だが……こいつ、技術面はともかくとして、経験が浅すぎる。

 実戦の経験自体はそれなりにあるんだろうが、なまじ圧倒的な能力を持っているだけに、短時間で決着がつかない戦闘をした事がないんだろう。

 だから、こうして粘られただけで苛立ちが隠せなくなって、堪え性のないガキな所が顔を見せるのだ。

 ……案外これは、急拵えで量産された『勇者』全体に共通する弱点になるかもしれないな。

 まぁ、ここまでわかりやすいのは二号(こいつ)だけかもしれないが。


 さて、大体は剣技も見切った事だし、これがこいつの実力のすべてだと言うのならば、終わりにするとしようか。


「おい、『勇者』。そろそろ俺も本気で行くから、何か奥の手があるなら出した方がいいぞ」

「な、なにっ!?」

 一瞬、『勇者二号』の顔に戦慄するような陰がさす。

 んん……?今こいつ、本気でビビってなかったか?

 もしも、本当にこれ以上の奥の手が無いようなら、宣言通りにケリをつけてもいいだろう。


「な、何が本気だ!ハッタリをかましやがって!」

「ハッタリじゃねぇさ」

 俺は左手の指輪に念を込め、効果を発動させる。

 そうして、目映い光と共に生前の姿に戻った俺を、『勇者二号』は驚愕の表情で凝視していた。


「し……死者の蘇生……だと……」

 まぁ、正確に言えば死者蘇生(仮)ではあるが、ここまで驚いてくれたのに水を差すのもなんだから、そういう事にしておこう。

 もっとも、奴の驚きの中には今の俺から放たれる、闘気の凄さに依るものあるんだろうが。


「ク……ククク……」

 むっ?

 自身の不利な状況を理解している様子ながら、『勇者二号』は強引に口の端を歪めて、笑みの形を作る。

「素晴らしいな……お前のようなダンジョンモンスターを産み出した、実験体十七号も、このダンジョンも!」

 無理矢理に己を鼓舞させながら、奴は剣を構えて俺と対峙した!

 冒険者な俺としては、状況が不利なら撤退するのも有りな場面だが……逃走の選択肢は無しか。


「予定変更だ……貴様という試練を突破し、魔王も始末して、実験体十七号とこのダンジョン・コアを手に入れる!」

「なんだとっ!?」

「機関の連中に、十七号とダンジョン・コア、そして魔王の死体を持ち帰れば、俺はさらに飛躍できるだろうからなぁ!」

 『勇者』達のバックにいる、魔導機関の奴等……世間的には魔王の物になっている、このダンジョンも狙っていたのか!

 いや……それとも、オルーシェの生存を知って、目標を拡大してきた?

 むぅ……マッドな研究者連中の考えは、正直わからん。

 だが、俺のやることは変わらない!


「残念だが、お前の狙い通りにはいかねぇよ」

 『勇者』達が何を狙っていようと、俺はオルーシェを守るために、侵入者は斬り伏せるまでだ!

 構える『勇者』に対して、俺も迎撃の体勢を取る!


「ふうぅぅぅ……」

「こおぉぉぉ……」

 ──俺と『勇者二号』の闘気が、静かに凝縮しながら研ぎ澄まされていく。

 そうして、永遠のような一瞬が過ぎ、互いの緊張が頂点に達した、次の瞬間!

 大気を斬り裂く二つの剣閃が交差し、激しい血飛沫が大輪の華を咲かせる!


 「……がはっ!」

 ……胴体からだけでなく、口からも血を吐きながら、『勇者二号』はゆっくりと崩れ落ちていった。

 ふぅ……先にこいつの剣筋を見切っていなければ、危なかったぜ。


「あ……あぐっ……」

 致命傷ではあるが、まだ息はあるようだな。

 苦しませるのも忍びないし、ここは介錯してやろう。

 そう思い、『勇者二号』に近づくと、苦しげなうめき声と共に、怨み言のような呟きが聞こえてきた。


「く、くそぉ……真の……真の勇者(・・・・)になるべき、俺がぁ……こ、こんな所でぇ……」

「真の勇者……?」

 『勇者二号』の漏らしたその言葉に、何か引っ掛かるものがあったのだが……奴はうわ言のように、意味不明な呟きを漏らしている。

 ううむ、ちょっと気になったが仕方ない。

 介錯、御免!


 トスっという軽い手応えを感じながら、トドメを刺した『勇者二号』の瞳から、光が消えていく。

 若いのに無念だろうが、道中ばで力尽きる事はこの業界に生きる者にとって、常に隣り合わせな当たり前の出来事だ。

 せめて、ダンジョンに吸収させてポイントに変更した暁には、有効利用させてもらおう。


「ふぅ……」

 小さくため息を吐き、俺は剣を納めて各『勇者』との戦いをモニターしていたであろう、オルーシェとティアルメルティに呼び掛けた。


「おーい、オルーシェ。聞こえてるか?」

『感度良好。聞こえてるよ、ダルアス』

「こっちは終わったが、四天王の方はどうなってる?俺も、どこか助けに行った方がいいのか?」

『大丈夫、その必要はない』

『なんせ、四天王の戦いは終わっておるからな!』

「なにっ!?」

 嘘だろ……すこし長引いたとはいえ、こっちの決着が着くまで、そんなに時間も達っていないのに。


『ふっふっふっ、驚いておるなダルアス。だが、四天王が奥義を使えば、ざっとこんな物よ!』

 音声のみではあるが、ティアルメルティがその薄い胸を張って自慢気な顔をしているのが、目に浮かぶようだ。


「うむむ……オルーシェ、四天王の戦いの記録は残してあるか?」

『もちろん。くっきり高画質で』

 うん、さすがだな。

 俺も戦士の端くれとして、この短時間で四天王がいかにして『勇者』を倒したのか、興味深い。

 なので、この目で確かめてやらなくては!


「それじゃあ、そっちに戻るから通路を頼む」

『おーけー』

 そんなオルーシェの答えが返ってくると同時に、室内の壁が動き出してオルーシェ達のいる部屋に直行する通路が現れた。

 俺はその通路へと踏み込み、マスタールームを目指しながら、他の『勇者』を倒したという四天王達へ思考を馳せる。

 冒険者として、未知の戦闘技術が見れるとなると、ワクワクが止まらない。

 魔族の奥義に胸踊らせながら、俺は徐々に速足になっていった。

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