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01 同居者のある日々

 魔王ティアルメルティの名において、魔族が俺達のダンジョンに集まってから三週間ほどがたった。

 初めは俺やオルーシェを敵視したり、小競り合いを吹っ掛けてくるような奴等を優しく(・・・)あしらったりもしていたが、ここのところはそんな事もほとんど無くなっている。


 それというのも、侵入してきた冒険者を撃退したり、四天王相手にガチ組み手なんかやってる俺への連中の見る目が変わった事。

 そして数千という魔族達のために、オルーシェがダンジョン内に街のような専用のフロアを用意した事で、安定した暮らしができるようになった事が大きい。

 なんせ、今までは支配領域においてもいつ寝首をかかれるかとピリピリした日々を送っていたらしいので、安心して寝れる場所ができただけでも心の安定に繋がったのだろう。

 こうして、ダンジョンのパトロールを兼ねて様子を見に来てみれば、気軽に挨拶をしてくるくらいには彼等もこちらを受け入れてくれてはいるようだ。


 だが、こんな平穏は嵐の前の静けさに過ぎない事を、俺を含めた誰もが心の隅に置いていた。


            ◆


「いま戻ったぜー」

「お疲れ様。お風呂にする?食事にする?そ・れ・と・も……♥」

 上部の階層で侵入者を蹴散らし、ダンジョンマスターの控える最深の階層へ戻った俺を、小柄な少女が迎えいれる。

 しかし、その新妻のような台詞と態度に、一瞬絶句してしまった。


「……何の冗談だ、ティアルメルティ?」

「……なんじゃ、もう少しノリ良く付き合ってくれてもいいだろうに」

「別に乗ってもいいんだがな。後で、オルーシェがなんか怖いんだよ」

「すでに尻に敷かれておるなぁ」

 いやぁ、父性に餓えてるっぽいあいつからすれば、パパを取られる感覚みたいな感じなんじゃなかろうか?

 俺がそう分析すると、「やれやれ」とつまらなさそうに肩をすくめた魔王の肩書きを持つ少女は、トコトコと先程まで茶を飲んでいたテーブルへと戻る。


 現在、この最深フロアはダンジョン管理を行うマスタールームであると同時に、魔王の居住スペースでもあった。

 防衛的な面と、オルーシェに同年代の話し相手を宛がうのにちょうど良かったので、こんな形に落ち着いたのである。

 ちなみに、四天王の連中はこの上に各々が独自の階層を与えられるという、破格の待遇っぷりだ。


「……んで、オルーシェはコアの所か?」

「うむ。ダンジョンポイントの振り分けやら、ダンジョン構築なんかに勤しんでおる」

 このところ、ダンジョン内に侵入してくる冒険者の数が減っていた。

 おそらく、俺達がレオパルト達に頼んで、魔王にダンジョンが乗っ取られたとの情報を流したためだろう。

 その影響からか、お手軽にダンジョンで稼ごうという連中や、同業者の死体あさりをするろくでもない奴等が軒並み姿を消していた。


 代わりに侵入してくるのは、質のいい手練れが多くなり、以前の雑魚どもよりも倒した時のポイントの入りは良くなっている。

 しかし……手練れな分、逃げられる事も多いんだよなー。

 何て言うか、倒した時の経験値は高いが、めちゃくちゃ逃げ足の早いモンスターを相手にしているような気分だぜ。

 なので、その辺の罠やモンスターの配置など、人数を減らしつつも全滅はしない程度のバランスに保つために、オルーシェは色々と手間をかけているようだった。


 ──さて、とりあえず手持ちぶさたになった俺は、ティアルメルティに誘われて茶に付き合う事にする。

 そうしている内に、ダンジョンの手入れを終えたオルーシェが、ダンジョン・コアのある中央ルームから出てきた。


「あ。お帰り、ダルアス」

「おう」

 パッと明るい表情になったオルーシェが、俺達のテーブルまでやってきてちょこんと椅子につく。

「そなたもお疲れじゃ、オルーシェ。どれ、余自らが茶を入れてやろう」

「ありがとう、ティアルメルティ」

 すっかり打ち解けた二人の少女の何気ない会話に、俺も内心でほっこりしながら、密かにほくそ笑む。

 同年代の友人が居なかった者同士、友情とか育んでもらいたいものだ。

 しかし、天涯孤独で独身だった俺がこんな風に思うなんてな……これが親心というものか。


「……どうかしたの、ダルアス?」

「んあ?なにが?」

「なんだか、楽しそうだったから」

「ああ、うん……まぁな」

 いかん、いかん。

 つい、そんな雰囲気が出てしまったか?

 急におっさんから慈愛の目で見られてても、気味が悪いかもしれんからな。

 つーか、表情もくそもない骸骨なのに、よくわかったな。


「ダルアスの事なら、よくわかる……いつも見てるから……」

 なぜか楽しげに微笑みながら、オルーシェは俺の顔を見つめてきた。

 なんだよ……なんか照れるじゃねぇか。


「ほれほれ、イチャついとるとこを悪いが、余のお茶が通りますよっと」

 ニヤニヤしながら配膳していくティアルメルティの言葉に、ハッと我にかえる。

 いや、イチャつくとかじゃなくて、家族っぽい雰囲気にちょっと浸ってしまっていただけだがな。

 それでも、なんとなく照れ臭く感じた俺は、誤魔化すようにカップのお茶をすすった。


「ところでのう、オルーシェ……そろそろ余にも、ダンジョンの操作をやらせてもらえんか?」

 軽く雑談をしていた中、ティアルメルティがそんな風に切り出してくる。

「よいじゃろう……どうせ、ダンジョンを譲渡してくれるんじゃし……」

 そう……オルーシェは結局、このダンジョン……正確にはダンジョン・コアの管理権をティアルメルティに譲る事にしたのだ。

 もちろん、その為の条件は設けてある。


 ひとつは『勇者計画及び、人造勇者の撃破』。

 オルーシェにとっては、彼女を追ってくる組織や研究者の排除が目的であるし、ティアルメルティ達にとっても魔族殲滅を掲げるこの計画を潰したいのは同様なので、損になる取引ではないだろう。


 そして、もうひとつの条件。

 それは、オルーシェが十分に成長し、俺を生き返らせるために十年間はダンジョン・コアの委譲を待つという事。

 まぁ、これも子供状態でダンジョンという住み家がなくなると困るし、俺が生き返れないのも困る話だから、ティアルメルティ達も理解を示した。


 とはいえ、やはり元の世界に戻るという、魔族全体の悲願を背負っている以上、この小さな魔王が焦る気持ちもわかるなくもない。

 しかし、オルーシェはティアルメルティの申し出に、首を横に振った。


「まだダメ。肝心な情報を持つ者は、少ない方がいい」

「じゃが、余はもう当事者みたいなものじゃろうに」

「せめて、『勇者計画』を潰してから。目的を達成する前に、油断は禁物」

 子供ながらに先を見据えた話をするオルーシェに、ティアルメルティは深いため息を吐いて肩を落とした。

 オルーシェの言うことも正論だけに、これ以上は何も言えんわな。


「ああ~、もう……さっさと勇者どもが攻めてこんかのぅ!」

「縁起でもねぇ事を言う……」

 俺の言葉が終わりかけたその時!

 突然、ダンジョン内に異常を知らせる、鐘の音が響き渡った!

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