表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/87

04 よろしく、相棒

「いったい、なにやってんだ、てめぇ!」

 俺は叫びながら、さらに彼女を蹴ろうとしていた連中との間に入って、オルーシェを守るように立ちふさがった!


「こんな子供相手に、やり過ぎだろうが!」

「子供だからと油断してると、痛い目をみそうなんでね……抵抗できなくしておいた方が、安全だろう」

「そもそも、なんであんたが、そのガキを庇うんだ?そいつに、煮え湯を飲まされていたんだろ?」

「それとこれとは、話が別だ!依頼主に引き渡すつもりなら、もっと丁寧に扱え!」

「いいんだよ、これで。そもそも、抵抗するなら手足の二、三本は折っても構わないと言われているんだ」

「なっ……!」

 依頼主も、それを受けたこいつらも無茶苦茶だ!


「お前ら、A級冒険者としての、矜持はねぇのかっ!」

 冒険者の頂点でもあり、外に名を知られる者だからそこ、人格面も問われるのがA級だ。

 俺だって上品な人間じゃあないが、人として最低限のラインは保っている(つもりだ)!

 第一、こんな行動を取っていたら、普通に降格だってあり得るだろうに!


「はぁ?」

 しかし、何を言っているんだ、こいつ……と言わんばかりに、ヒリュコフ達は顔を見合わせて肩をすくめる。

「なんでもするし、なんでもできるからA級なんだろうが」

「いやいや、A級は冒険者の最高峰なんだから、下衆な真似をしたらダメだろうが!」

 当然の反論する俺に対し、奴等の中の攻撃魔法使いの女と、回復魔法使いの女が面倒くさそうにため息をついた。


「もういいよ、リーダー。こいつに案内させるっていう、役目は終わってるんだしさ!」

「そうですよ。珍しいスケルトンとはいえ、邪魔するならさっさと片付けてしまって、実験体(本命)ダンジョン・コア(お土産)をもらって帰りましょう」

 なっ!

 こ、こいつら、最初から何もかも持っていくつもりで……。

 強盗かなんかか、お前らは!?

 やりたい放題にも程がありやがるだろう!


 すぐにでもぶちのめしてやりたいところだが、今の俺では対抗手段がない。

 せめて、生前の体だったら……。

 そんな事を思っていた時、背後に庇っていたオルーシェの嗚咽する声が耳に届いた。

 チラリとそちらを見れば、普段クールで小生意気な雰囲気の小娘が、ボロボロと涙を流して震えている。


「う、うう……やめて……痛いことしないで……お願いします……」

 虚ろな瞳で泣きながら、記憶の中の何者かに絶望した声色で懇願するオルーシェ。

 実験体なんて言われていたが、この歳でいったいどれだけの酷い目にあってきたと言うんだ……。


『マスター、しっかりしてください!』

 不意に、ダンジョン・コアがオルーシェに話しかけたため、ヒリュコフ達もギョッとしたようだ。

 ダンジョン・コア……そうだ!


「おい、コア!一時的でいいから、俺を生き返らせる事はできないか?」

『それは……マスターからの指示があれば、可能です』

「だけど、今のオルーシェは魔法が使えないらしいが……」

『魔力が封じられていても、私を操作するのに支障はありません』

 なるほど、それは重畳!

 そうとわかれば……。


「おい、オルーシェ!少しの間だけでいい、俺を生き返らせろ!」

 俺はそう申し出るが、当のオルーシェは怯えた瞳のままガチガチと震えるばかりだ。

「……大人は……信じられない……どうせ、すぐに裏切る……」

 かろうじて聞き取れそうな細い声で、オルーシェはブツブツと呟く。

 むぅ……すごい大人不信。

 まぁ、それだけ酷い事をされたんだろうが……。


 俺はそんな彼女の頭に、ポンと手を置いて優しく撫でてやる。

 急に頭を撫でられたのが意外だったのか、オルーシェの瞳に理性の光が戻ってきた。


「ちょっとは落ち着いたか?」

「…………」

 俺の言葉に、少女は小さく頷く。

「よし。なら、いま言った通り、少しの間でいいから俺を生き返らせてくれ!」

 そうしたら、あいつらをぶっ飛ばしてやるぜ!と説得するも、オルーシェは首を横に振った。


「無理……五対一だもの……」

「おいおい、甘く見られたもんだな。俺はA級冒険者の中でも、かなり強い部類に入ってるんだぜ?」

 そうでもなけりゃ、単独(ソロ)でA級を張れる訳がない!

 あんな、A級上がりたてっぽい連中なんぞ、ひと捻りだっつーの!


 だが、そんな俺の生前なんぞ知らないオルーシェの態度は、まだ頑なに拒否を示している。

 だから俺は、もう一度彼女の頭を撫でながら、訴えた。


「あいつらを案内しちまったのは、俺だ……お前を怖がらせる事になって、すまなかった。だが、俺の名にかけて必ずお前を守ってみせる!」

 己の名にかける……それは、自分の命すらもかけて約束を果たすという誓約だ。

 正面からオルーシェの瞳を見つめ、俺はそう誓う。

 打算も裏もない、真摯でまっすぐな言葉でしか、今の彼女には届かないだろう。


「……本当に……守ってくれるの?」

「俺を信じろ!」

 再び、俺は強く訴えかける!

 そんな俺の想いは通じたのか、オルーシェは小さく蚊の鳴くような声ではあるが、答えてくれた。


「十分……。今のダンジョンポイントの貯まり具合だと、あなたを生き返らせるのは十分が限界」

「おお、それで充分だ!」

 十分(・・)だけにな!と、おっさんくさい駄洒落を口にすると、少しだけオルーシェが顔を綻ばせた。


「何をごちゃごちゃやってんのよ……あんたは邪魔だから、もういっぺん死んどきなさい!」

 ヒリュコフ達パーティの一人、攻撃魔法の使い手が、炎の塊を俺に向かって放つ!

 オルーシェもいるのに、お構いなしか、この女!……と抗議する前に、奴の魔法は俺に着弾して爆発した!

 だがっ!


 爆発の煙が消えていくのと同時に、その場所に立っていた人影を見て、ヒリュコフ達が驚きの声を漏らした。

 なぜなら、奴等の視線の先には、肉体を取り戻しスケルトンではなくなった、俺の姿があったからだ!


「おお……久しぶりの身体だ……」

 復活した五感の刺激は、スケルトンの時とは比べ物にならなず、俺は思わず天を仰いで呟いた。

 生きてるって、素晴らしい……。

 しかし、そんな余韻に浸る俺に対して、何やらヒステリックな声が響いた!


「わ、私の魔法が直撃したのに、なんで無事なのよっ!」

「は?」

 そんなもん、体内の魔力を練って抵抗(レジスト)したからに決まってるだろうが。

 それ専門で魔力を伸ばす魔法使いには及ばないものの、誰だって体内には大なり小なりの、魔力を宿しているのが当たり前だ。

 それらをコントロールして、身体能力や魔法に対して抵抗力を上げるのは、冒険者として基礎の基礎だろう。

 まぁ、片手で火球の魔法を防げるのは、A級でも上位クラスの俺レベルでないと無理だろうけどな!


 さて……生き返ったのはいいが、纏っているのはボロい服だけで、武器も防具もないな。

 

 うーん、仕方ない。奴等からもらうか(・・・・・・・・)

 そう判断した俺は、いまだ動揺している最前に立っていた戦士に狙いを定めると、一気に間合いを詰めた!

 驚く戦士の右手を蹴りあげ、落とした剣を奪うと同時に、流れるようにそいつの腕を狙う!

 剣を奪われた戦士は、俺の動きにろくな反応もできないまま、その利き腕が飛んだ!


「遅い」

 つい感想を漏らした俺に、ヒリュコフともう一人の剣士が襲いかかってくる!

 だが、そんな奴らの斬撃をあっさり弾くと、俺はもう一人の剣士の腹に、剣を突き立てた!


「弱い」

 鎧ごと腹部を貫かれ、血を吐きながら崩れ落ちる剣士に、俺は再び感想を漏らした。

「このっ……化け物かっ!」

 あっさりと仲間がやられ、激昂したヒリュコフが滅茶苦茶に剣を振り回しながら、襲いかかってくる!

 俺はその攻撃を易々といなしながら、敵の魔法使い達の位置を確認した。

 それと同時に、ヒリュコフの攻撃を大きく弾くと、俺は呪文を唱えていた魔法使い達に狙いを定める!


「油断しすぎだろ」

 詠唱に集中していた魔法使い達は、ほとんど無防備な様子で突っ立っており、俺は一呼吸でその二人を斬り捨てると、残るヒリュコフへと剣先を向けた!


「な、なんなんだ、お前はぁ!」

 さすがに、想定外の事態過ぎて、ヒリュコフも混乱しかけているようだ。

 つーか、お前らの方がなんなんだよ……A級にしては、弱すぎるぞ?

 ここは一発、先達としてビシッ!と決めてやろう!


「フッ……A級冒険者、「剣狼」のダルアスとは、俺の事よ!」

「知らねえよ、そんな奴!」

 ええっ!?

 こ、これでも、少しは有名人のつもりだったのに……ちょっとショック……。

 何より、ドヤ顔で二つ名を告げたのに、知らんとか言われてしまって、おっさんは恥ずかしいっ!


「……んんっ!ま、まぁそのなんだ……これまでの行動を反省し、改心するって言うなら、同じ冒険者のよしみで見逃してやらんでもないぞ」

 一応、そう忠告してやる。

 何だかんだでA級は貴重な戦力だし、これで外道な真似をしなくなれば、世間の役には立つだろう。

 今ならまだ、治療すれば助かるだろうしな。


「……わかった。今回の依頼は諦めて、今後は行動を慎むと約束するよ」

 思ったよりもあっさりと、ヒリュコフは降参しながら剣を納め、軽く両手を挙げて見せた。

 うむ、わかってくれたか。


「なら、仲間を連れて、早く身近な町へでも行くんだな」

「……そうさせてもらう」

 そう言うと、ヒリュコフは倒された仲間の元へ向かう。

 そして、俺もオルーシェの様子を見るために、奴に背を向けた。

 その、次の瞬間!

 倒された仲間の剣を拾ったヒリュコフが、背後から襲いかかってきた!


「死ぃ……」

「救えねぇな、お前ら」

 ヒリュコフの剣先が俺に届く前に、すれ違いざまに走った俺の剣閃が、奴の首を飛ばす!

 ……まぁ、こういうパターンもあると思っていたがよ。


 重い音を立てながら、ヒリュコフの首が床に落ち、胴体がゆっくりと倒れる。

 冒険者の掟として、許すのは一度まで。

 それで改心しないなら、あとは自らの命で償ってもらうしかあるまい。

 ……さて、こうなった以上、ヒリュコフの仲間達も助からないだろう。

 ならば、せめて苦しまないようにトドメを刺してやるか。


           ◆


 ──やがて、他の仲間も含めた、死屍累々とした凄惨な絵面が広がった。

 掃除が大変そうけれど、放って置けばいずれダンジョンに吸収されるだろう。

 こんな奴等なら、こういう末路もありだろうからな。


「あ……」

 奴等が全滅したためか、オルーシェを捕らえていた魔道具が力を失い、ハラリとほどけていった。

 俺はそんな彼女に近づき、手を差しのべる。


「大丈夫だったか?」

「う、うん……」

 手を取りながら、なぜかオルーシェは紅潮した顔で俺の顔を見つめていた。

 なんだろう……無事に助かったから、興奮状態になっちゃったのかな?


「今の姿が……あなたの生前の姿なの?」

「ん?まぁな……」

「そう……年齢は?」

「三十五だが……」

「二十三も歳上か……」

 なにやら考え込むように、オルーシェは顎に指をあてて「うーん……」と唸りだす。

 なんだなんだ?

 いままで下僕扱いして、俺の事なんざ気にもしてなかったくせに……?


 訳もわからず彼女の反応を待っていると、時間が切れたのか俺は再びスケルトンの姿に戻ってしまった!

 ぬあぁぁっ!

 そんな頭を抱えて悶える俺を見て、オルーシェはクスクスと笑う。


「なんだよ……笑うと、年相応に可愛いじゃねぇか」

 そう言うと、また顔を赤らめて俯いてしまった。

 ははは、このくらいくるくる表情が変わる方が、愛嬌があっていいってもんだ。

 思えば、あのクールっぷりも、緊張とか強がりから来るものだったのかもしれないな。

「ん、こほん……」

 わざとらしく咳払いをひとつすると、真面目な表情になってオルーシェは俺に顔を向けて、頭を下げた。


「まずは……助けてくれて、ありがとう」

 気にするな……と言いたい所だが、まだ言葉は続きそうなので、しばし待つとしよう。

「さっきの冒険者達が言っていたように、私はとある魔導機関で実験体として、拷問紛いの事をされてきた……」

 自らの体を抱き締めるように押さえながら、オルーシェは話す。

 その姿が痛々しくて、俺まで切なくなってくる気分だった。


「……いままで、私にとって大人という存在は、恐ろしい物でしかなかった……だから、あなたの事も絶対的な支配下におかなければ、安心できなかった」

 そして「ごめんなさい」と、もう一度オルーシェは頭を下げた。

 そうか……俺を下僕のように扱う心の裏には、そんな不安があったのか。

 子供なのに、そんな不信感を募らせた生き方をしなきゃいけないとは、周りの大人はよほど酷い奴等しかいなかったんだな。


「でも、初めて大人の人に助けてもらえた……だから、あなたを信用したいって思ってる」

「子供がそんな言い方すんなっつーの!遠慮なく、大人を頼っていいんだからよ!」

 オルーシェの頭をわしゃわしゃと撫でてやると、くすぐったそうな笑みを浮かべて、俺の手をとった。


「うん……あなたを頼りたい……パートナーとして」

「パートナー?」

「そう。あなたの事は、必ず生き返らせる。だから、このダンジョンを育成する私を守ってほしい」

「なるほどな……だが、それなら俺がダンジョンのマスターに返り咲いても、いいんじゃないのか?」

「それはダメ!」

 俺の提案は、あっさりと切り捨てられる。

 な、なんで……?


「だって、あなたはダンジョン育成が、致命的に下手だもの」

 ぐっ!

 ダンジョン・コアからも言われた事があるだけに、反論できねぇ!


「魔導機関から逃げ出して、偶然たどり着いたここは、私にとって最後の希望……絶対に私に手出しできなくなる、難攻不落のダンジョンを作り上げるためにも、私自身が納得のいく物を作りたいの」

 そんな思いを口にされてしまっては、何も言えなくなってしまう。

 まぁ、確かに素人の俺よりは、立派なダンジョンを作れるだろうしな。

 何より、必ず生き返らせると確約してくれた以上、俺は護衛とサポートに回った方が、適材適所というもんだろう。


「……わかった。ダンジョンの方は、お前に一任するわ」

「うん。スゴいのを作ってみせる!」

 やる気をみせるオルーシェだったが、そんな彼女にひとつ聞いておかねばならない事があった。


「ところで、俺はいつ頃生き返らせてもらえるんだ?」

「んん……ざっと、十年後」

 ぶはっ!

 俺は思わず、噴き出さしてしまった!

 じゅ、十年!?

 いや、一、二年くらいは覚悟してたが、まさかそんなに長くかかるのかよっ!?


「計画的にやっていけば、それくらいの年月が過ぎて、ようやくあなたを生き返らせるだけの、ダンジョンポイントに余裕ができるわ」

 な、なるほど……。

 納得すると共に、そこまで先を考えてダンジョン育成に取り込めるオルーシェに、大したものだと尊敬にも似た気持ちが芽生えた。

 しかし……十年かぁ。

 思わず、大きなため息が漏れる。


「悪い事ばかりじゃない」

「え?」

 ポンポンと俺を軽く叩きながら、オルーシェは親指で自分を指し示す!

「十年後、私は二十二歳。生き返った時に三十五歳のあなたと、並んでも違和感はない!」

 ……そりゃ、お子様のオルーシェが、成長するのは当たり前だが、それのどこが俺への特典になるんだ?

 子供の考える事はよくわからないが、なんか得意気な顔をしてるから、ここは話を合わせておいてやろうか。


「まぁ、そうだな……お前さんなら、スゴい美人になってそうだな」

「期待してくれていいよ」

 自信満々にそんな事を言いながら、オルーシェは右手を差し出してきた。


「そんなわけで、これからも末長くよろしくね、相棒(ダルアス)

「……ああ、よろしくだ、相棒(オルーシェ)

 妙な展開にはなったものの、一応の生き返らせる目処は立ったから、良しとするしかないだろう。

 キラキラと輝く瞳で俺を見上げる少女と握手を交わしながら、俺はとりあえずできる事をしよう……と若干、現実逃避じみた思考で乾いた笑いを漏らすのであった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ