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07 四天王対冒険者

 たとえ相手が魔族四天王だろうとも、上から目線でナメられるようじゃあ、A級冒険者の肩書きが泣くってもんだ。

 まぁ、場合によっては引き下がるのも一流の条件だが、実力を疑われて小馬鹿にされるってのは俺達の沽券に関わる事だからな。

 ここは絶対に引けん!


 そんな訳で、オルーシェとティアルメルティの立ち会いの元、俺達と魔族四天王のチームによる模擬戦を執り行う事となった。

 とはいっても、向こうは人数合わせのために、紅一点である『幻惑』のガウォルタは参加しないらしい。

 元々、実力は四天王(おれたち)の方が上なんだから、人数の有利まであったらワンサイドゲームすぎるからというのが、向こうの言い分だが……俺達も甘くみられたもんだ。

 どうせ奴等は、現代のザコい冒険者しか相手をしてないから仕方無いのかもしれんが、本物の冒険者の実力って奴をたっぷりと味わわせてやるぜ!


「……みんな、本当に大丈夫なの?」

 少しばかり不安そうなオルーシェが、俺達に声をかけてくる。

「とりあえず、今回のルールなら少なくとも死人は出ないだろうから、そこは安心していいと思うぞ」

 少しでも彼女を安心させてやろうと、俺は努めて明るい口調でオルーシェの肩をたたいた。


 そう、今回のルール……。

 それは、ダンジョンポイントを注ぎ込んで新たに新設した、この模擬戦用のフロアで戦うというものだ。

 このフロアには特殊な仕掛けがしてあって、どれだけ即死級の攻撃や瀕死の致命傷を負ったとしても死ぬという事だけはない。

 仮に、首が飛ばされるような攻撃を受けたとしても、相応のダメージを感じるだけで欠損はしないようになっている。

 なので、全力全開で体力の限界まで戦えるという場所なのだ。

 それでも、死ぬレベルのダメージを受ければ身動きは取れなくなるので、それぞれのチームメンバーが全員行動不能になった時点で決着というルールで戦う事になっている。


「ダルアス達が強いのは知ってるけど……レオパルトの見立てだと、四天王は皆よりも格上の冒険者に匹敵するんでしょう……?」

「ああ……こうして間近で確認すると、俺の見立ては間違っていないと確信できる」

「そうね……アイツら、全員が私達の時代のS級に相当するわ」

 レオパルトに同意するように、エマリエートも鋭い視線を奴等に向ける。

 もちろん、俺もこいつらの意見に賛成だ。


「それじゃあ……」

「だーかーら、心配すんなっつーの!」

 今度は頭をくしゃくしゃと撫でながら、俺は再び安心させるように笑いかけた。

「個々の実力が上の相手なんて、現役時代にはいくらでもいたんだよ」

「その通り。それでも、俺達がチームを組んでいた時は負け知らずだった」

「まぁ、結局は個人の実力より、チームとしてどれどけ纏まって連携が取れるかって事よね」

 実際、このメンバーでは最強の生物といわれる古竜も倒した事がある。

 俺と同じように、自信に溢れた笑顔を見せるレオパルトやエマリエートを見て、ようやくオルーシェの表情にも安堵の色が浮かんだ。


「それでは、始めようか!」

 向こうも準備は整ったのか、ティアルメルティが勢い良く宣言する。

 よっしゃっ!

 いっちょ、やってみっか!

 歩み出た俺達と、四天王(-1)はフロアの中央で対峙し、バチバチと火花を散らした!


「フッ……素直にダンジョンを明け渡せば良いものを」

「魔王様の命令であるからお付き合いしますが、こんな茶番は本来なら無意味ですからねぇ」

「わざわざ余興に付き合ってやるんだ、少しは俺達を楽しませて見せるんだな!」

 上から目線で物を言う魔族達に、俺達は下から覗き込むようにしてガンを飛ばす!


「今までザコの相手しかした事がねぇからって、調子コイてんじゃねぇぞ、コラ!」

「エルフ舐めてると、痛てぇの食らわすぞ、あぁん?」

「ドワーフの一撃は魔族より硬いって事を、教育してやるよぉ!」

 どっちが悪役だってくらいに、俺達はチンピラ然とした態度でオラついていたが、厳密に言えばこれも作戦である。


 こちらの態度に、向こうがイラつくなり呆れるなりして集中が切れてくれれば、初手で先手が取りやすくなるからな。

 なんのかんの言っても、個々の能力で向こうが上なのは間違いないのだから、少しでも自分達が有利にな状況に持っていく事が肝心である。

 そのためなら、こんな小芝居を打てるのも一流の冒険者ってもんよ!


「ふっ……」

 だが、そんな俺達の魂胆は見透かされていたのか、『天空』のソルヘストとかいう奴が小さく鼻で笑う。

 むっ……実は、けっこう警戒されてたのか?


「それでは、始めようぞ!」

 ティアルメルティの声に、俺達と四天王の面々は各々の後方へ軽く跳んで間合いを取り、武器を構える!

 そして……。


「…………始めっ!」

 戦いの開始を告げる合図が、響き渡った!


          ◆◆◆


 号令一下、敵側から一気に飛び出して来たのは巨体の戦士、『大地』のラグラドム!

 その巨体とは裏腹に、拳を振り上げながら凄まじい速さでダルアス達との間合いを詰めてきた!


「フハハハッ!この一撃で終わりだぁ!」

 吼えるラグラドムの拳に込められた魔力には、確かにそれだけの威力があるかもしれない。

 しかし、迎え撃つ側から小柄な影が飛び出して、振るう大斧の攻撃でラグラドムの軌道をいなしながら、その勢いを利用した回転でカウンターを叩き込む!


「ぬうっ!」

「生憎だねぇ!鉱物を得るために大地を砕くのは、私達ドワーフの得意技なのさぁ!」

 『鉄姫』エマリエートからの思わぬ反撃を受け、体勢を崩したラグラドムにレオパルトが狙いをつける!

 だが、それを妨害するように『暗澹』のタラスマガから放たれた魔法が、彼の視界を始めとしたあらゆる感覚を闇へと包み込んだ!


「これで貴方は、闇夜の鳥も同然!次は……むっ!」

 言いかけたタラスマガへ、レオパルトの手から放たれた矢が襲いかかる!

 それだけではなく、他の四天王連中へもエルフの矢は正確無比に飛来していった!


「なにっ!」

「ぐあっ!」

 辛うじてかわしたソルヘストに、まともに食らったラグラドム!

 しかし、最も驚いていたのは、タラスマガであったようだ。


「馬鹿なっ!貴方の五感のうち確実に、三つは奪ったはず!なのに、なぜこんなにも正確にっ……」

「ふん……視覚や聴覚を奪った程度で、エルフの狙いから逃げられると思っているとはな!」

 再びレオパルトが矢を放つと、彼の二つ名に相応しい『閃光』となって魔族へ突き進んでいく!

 だが、辛うじて避け、あるいは防御する仲間達を尻目に、レオパルトへと迫る人物がいた!


 『天空』の称号を冠するソルヘストが、巨大な猛禽類を思わせる動きで迫る矢を叩き落とし、床を滑るような動きでエルフへと狙いを定める!


「ちいっ!」

 舌打ちしながら迎撃の矢を放つレオパルトだったが、ソルヘストは近距離で撃ち込まれた矢にすら悠々とかわし、そのまま……。


「っ!?」

 レオパルトに手を掛ける寸前で、突如いい様の無い悪寒を感じたソルヘストは、その場で上空へと舞い上がった!

 それと同時に、今まで彼の胴体があった場所を鋭い剣閃が走り抜ける!

「おっと、勘のいい野郎だな!」

 いつの間にかソルヘストの死角に回り込み、骸骨兵(スケルトン)から人間の姿に戻っていたダルアスが残念そうに見上げていた。


「なんだ、何者だ貴様!」

「何者って……俺だよ、俺!ダルアスさんだよ!」

「なん……だと……!?まさか、骸骨兵から生き返ったとでも言うのか!?」

「あー……ま、そういうこった」

 何か説明しようとするも、面倒さの方が勝ったのか、ダルアスは肩をすくめる。


「なるほどな……この特殊結界のフロアといい、ダンジョンモンスターとはいえ死者蘇生まで可能にする事といい……この地のダンジョン・コア……魔王様が欲しがる訳だ」

 初めは、都合のよい拠点づくり程度にしか考えていなかったソルヘスト達ではあったが、ここにいたって主と仰ぐティアルメルティの目の付け所に尊敬の念を抱く。

 なればこそ、益々このダンジョンを奪うべく、魔族達はさらに気合いを入れた!


           ◆


「おっと……なにやらヤバげな雰囲気だな」

 魔族達の気配が変わった事を敏感に感じとり、俺達はチラリと目線を交わして小さく頷く。

 それと同時に、俺とエマリエートがタラスマガへと向かって走り出した!

 レオパルトへの攻撃を見る限り、五感を奪うこいつの魔法が地味に厄介だし、真っ先に潰しておかないと面倒な事になりそうだからなぁ!


「むうっ!」

 二人がかりに一瞬だけ躊躇したタラスマガだったが、すぐさま迎撃の体勢を取る!

「貴様らも暗黒に沈むがいい!」

 放たれる、奴の魔法!

 次の瞬間、俺の視界は黒一色に染まり、同時に何も聞こえなくなるという、文字通りの暗黒に包まれた!

 くっ、鼻も効きやしねぇ!

 ……この状態で矢を放てるレオパルトって、かなり変態じゃねぇか?

 感心を通り越して呆れた俺ではあったが、この現状を打破するために奥の手を使う!


「チェーンジ、骸骨兵(スケルトン)!」

「なにっ!」

 生前モードから、再び骸骨兵へと戻った俺の視界が一気に広がる!

 フハハハ!

 そう、これぞ『アンデッドに状態異常魔法(デバフ)は効かない』という常識を逆手に取った、俺のタラスマガ対処法である。

 これも、こいつが状態異常を引き起こす魔法を使うという、体を張った情報をもたらしてくれたマルマのおかげだな。

 お前の死は無駄にはしないぜ……死んでないけど。


「おのれぇぇぇっ!」

「遅いんだよっ!」

 タラスマガが次の手を打つよりも速く、俺の剣が奴を捉えた!


「我流・覇位暗弩狼(ハイアンドロウ)!」


 我流剣撃の奥義のひとつ!

 始動を完全に隠しつつ、暗夜から放たれる矢の如く最速で襲い掛かる事で、真正面からの不意打ち(・・・・・・・・・・)という矛盾を可能にした一撃!

 深々と胴を裂いたその剣閃は、このフロアでなければ致命傷に届いただろう!


「っしゃあ!」

 タラスマガを戦闘不能に追い込んだ手応えに、俺はガッツポーズを取る!

 だが、そんな声を掻き消すほどの、重い金属同士がぶつかり合うような音がフロアに響き渡った!

 思わずそちらへ顔を向ければ、エマリエートとラグラドムが拳をぶつけあって殴り合いの様相を呈しているじゃないか!


 なんでまた、そんな分の悪い事を!と思ったのだが……エマリエートのやつ、もしかして敵が見えてないのか?

 俺と同時にタラスマガの魔法攻撃を受けてしまったエマリエートだったが、どうやら視界を奪われているようだ!

 くそっ!術者を倒せば効果は消えると思っていたのに、持続的な状態異常(デバフ)を与える魔法なのかよ!

 さすが四天王、厄介な魔法を使いやがる!


 五感に異常をきたしたままだと、下手に武器を振り回せば味方を巻き込む事になるかもしれない。

 そんな危険を減らすために、超近接距離で攻め合うしかなかったのだろう。


 よぉし!

 ラグラドムはそのまま、エマリエートに任せる!

 代わりにフォローは任せろと、俺は残る四天王ソルヘストが何らかの横やりを入れてくる事態に備え、奴に向かって走り出した!


          ◆◆◆


「そこまで!」

 高らかに響いたティアルメルティの声に、俺達全員がピタリと動きを止めた。

 さらに皆が皆、糸の切れた人形のように、ガクリとその場に膝をついてしまう。


 はあぁぁぁっ……つ、疲れた!

 結局、どのくらいの時間を戦っていたのかわからないが、どいつもこいつも満身創痍で疲労困憊といった有り様だ。

 もしも、この特殊なフロアでの戦闘でなかったら、俺達も四天王も確実に何度か死んでいただろう。

 ようやく終わったという安堵感はあるものの、それでも油断なく相手を視界に納め、いざという時に備えながら俺達はティアルメルティの次の言葉を待った。


「お疲れであったな、諸君。魔王たる余と、ダンジョンマスターであるオルーシェの名を以て、この勝負はここまでとする!」

「勝負は引き分け。お疲れ様」

 ……引き分け、か。

 戦いの全容を見ると、俺達の方が負け越した気もするが、魔王がそう言うのならそれでいいだろう。


「互いの実力は、これで知れたであろう。『勇者計画』の撲滅に向けて、協力する事に異論はあるまい?」

「……そうですな」

「この現地民達は、我々の予想より手強かった事は認めましょう」

「へっ、お前らの方こそ、さすがは魔族の最高峰とか言われるだけの事はあったぜ」

「長い人生の中でも、最強だったと認めてやってもいいかもしれないわね」

「ふん……」

 お互いに素直じゃないが、全力を尽くして戦った者同士特有の共感を、俺達は抱いていた。

 ただ、厳つい魔族達が頬を染めてツンデレ気味な態度を取る様子は、ちょっとアレな気がしないでもなかったが。


「さて……これから忙しくなるな」

「そうね……私達も、一旦国に帰って根回しをしないと」

 レオパルトとエマリエートが、ため息をつきながらそんな事を話している。

 そうか……こいつら今は、所属している国の重鎮だもんな。

 魔族との停戦やらディルダス王国への対応やらで、かなり大変な事になりそうだな……やっぱり、冒険者たるもの政治に関わるもんじゃねぇなと心底思う。


「……とはいえ、これから俺達も忙しくなりそうだな」

「うん。このダンジョンも、騒がしくなるかもね」

「そうだなぁ……」

 なんせ、魔族がまるごと引っ越してくるのだ。

 ダンジョンの拡張なんかも必要だろうし、食料の問題なんかもある。

 ティアルメルティ達とは、その辺の事も詰めていかないといけないだろう。


「頑張れよ、オルーシェ!」

「丸投げ!?」

 ポンと肩を叩いた俺に、オルーシェは少しショックを受けた様子だ。

 しかし、ダンジョンの内政(・・)について、一介の守護者(ガーディアン)でしかない俺があれこれ口を出すべきではないだろう。

 決して、面倒臭いからではなくてね!


「……はぁ」

 なにやら、諦めた様子のオルーシェから、重いため息が溢れ出す。

 むぅ……仕方がないとはいえ、子供にこんな顔をされると、大人として心苦しいな。


「あー……オルーシェさんよ。とりあえず、俺に頼みたい事があったら、遠慮なくなんでも言ってくれ」

「なんでも!?」

 励ます意味も込めて、そう話しかけると、オルーシェは急に目を輝かせた!

 ええ……なにこの反応?


「なんでも頼んでいいの?」

「え?あ、ああ……まぁ、俺にできる事があればだが……」

「それじゃあ……厄介事が終わったら、お願いするね♥」

 ……その厄介事を終わらせるために、手伝うって事だったんだが?

 どこか話の食い違いを感じつつも、上機嫌になってやる気をだしているオルーシェの姿に、なんだか「まぁ、いいか」といった気分になってくる。


 まぁとにかく、これで状況は大きく動くハズだ。

 オルーシェを実験動物みたいに扱っていた、ディルダス王国の魔導機関。

 そして、そいつらの肝入りな『人造勇者計画』。


 諸悪の根元である、そいつらとの直接対決が近い事を感じて、俺は小さく武者震いをするのだった。

私事のバタバタやら、急に十八禁小説も書いてみたいという欲望やらに負けて、こちらの更新が遅くなりました。

次からはもう少し早く更新ができるように気をつけますので、今後ともよろしくお願いします。

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