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01 とある出会い

          ◆◆◆


 五人衆(四人)の襲撃から一週間ほどが経ち、ダンジョンにもいつもの日常が戻ってきていた。


 散々煮え湯を飲まされてきた魔族の幹部を討ち取ることができたレオパルト達も、今は上機嫌で自分達のフロアのカスタマイズに勤しんでいる。

 あいつら曰く、軍勢を率いておらずタイマンに持ち込めば魔族の幹部に圧勝できると証明できたのも機嫌がいい要因らしい。

 まぁ、俺達みたいの根っから冒険者にとっては、変に立場のある所に置かれても十分に実力が発揮できない事の方が多いだろうからな。

 そんな訳で、今後も魔族の幹部がこのダンジョンに乗り込んでくるのを見越して、あいつらなりの迎撃布陣をせっせと構築しているのである。


 そして俺はと言えば、そんなダンジョン内を今日もパトロールがてら練り歩いていた。

 相変わらず浅い階層でせこせこと悪事を働く低レベル冒険者ばかり後を経たず、それなりの階層まで降りてくる実力者と鉢合わせになる事などほとんど皆無だ。

 こういう事を言うと老害っぽいけど、今時の冒険者は……と愚痴りたくもなる。


「俺が現役だった頃は、やべぇダンジョンなんて誰が攻略するかで先を争ったもんだがなぁ……」

 生きてた頃の懐かしい思い出が、ふと頭をよぎり、あの頃は良かったと……いいや、やっぱよくねぇわ。

 思い出が美化されてるだけで、あの頃も大概クソみたいな状況だったな!

 ただ、今の安全志向かつ悪知恵の回る冒険者と違って、ギラギラした野望と未来への希望で熱量があったとは思う。

 ふっ……こんな風に昔を懐かしんで考えてしまうあたり、俺もおじさんになっちまったって事か。

 ちょっとだけ侘しい気持ちになった物の、気を取り直して巡回を続ける。


「………!」

「ん?」

 考え事をしながら通路を歩いていると、遠くから人の争うような声が聞こえた!

 ったく……またザコ冒険者が、揉め事を起こしてるのか?

 プンプンと憤慨しながら、俺は声の響いてくる方向へと駆け出していった。


           ◆


「こらぁ!貴様ら、離せというておるではないかぁ!」

「やかましいぞ、このガキ!おとなしくしやがれ!」

 騒がしい声のする方へと向かった俺は、その元となっている連中を発見し、そっと通路の陰からうかがう。

 見れば、数人の冒険者達が子供……しかも女の子を囲んで、その腕を掴みあげていた。


「おのれ、この下衆ども……こんな真似をして、ただで済むと思っておるのか!」

「へっ、まったく威勢のいいガキだな」

「この物言いに、身なりの良さ……結構いい所のご令嬢ってところか?」

「そんなお嬢様を誘か……保護してやれば、身代き……謝礼もたっぷりもらえそうだなぁ」

 ……ははぁ、なるほど。

 ダンジョン攻略に来た貴族の娘が、仲間とはぐれてタチの悪い冒険者に捕まったってところか。


 やれやれ……難解なクエストをクリアして箔付けでもしたいのかも知らんが、ごくたまにいるんだよなぁ、ああいう貴族。

 俺が生きてた頃にも無茶を言ってくる貴族とかいたから、依頼料をめちゃくちゃふっかけたりしたっけ……なつかしい話だ。


 っと、思い出に浸ってる場合じゃない。

 普通なら幼かろうが未熟者だろうが、危険なダンジョンに自ら挑んだんだから、何があっても自己責任だ。

 しかし、オルーシェとそう変わらない年頃の女の子となると、どうも見捨てておくのも気が引ける。

 ううむ……仕方ない。

 今回は助け船を出してやるか。


「よーし、このガキの口をふさげ」

「おらっ!静かに……」


「待てぇい!」


 ダンジョンのフロアに突如として響く声に冒険者達はビクリと震え、物陰からひょっこり現れた俺の姿を見て硬直した!


「悪りぃ子はいねがぁ!」

「きゃあぁぁっ!」

「で、出たあぁぁぁっ!」

 脅しの声を張り上げると、冒険者達は悲鳴をあげながら少女から手を離す!

 それと同時に回れ右して、一目散に逃げ出した!

 「お助けー!」だの「とんずらー!」だの叫んで走っていく冒険者達だったが、十メートルほど進んだ所で発動した落とし穴の罠に引っかかり、台本でもあったのかと思いたくなるほど綺麗に落ちて姿を消す。

 ううむ、なんか見事だったぜ!


「ったく、しょうもねぇ連中だな」

「…………」

 突然に現れ、絡んでいた冒険者を追い払ってしまった俺を、少女はポカンとした表情で見つめてくる。

 むぅ……驚いてはいるようだが、俺の姿を見て悲鳴をあげたり失神したりしない辺り、なかなか肝が座っているな。


「よう、大丈夫か嬢ちゃん」

 なるべく気さくな感じで声をかけてみたが、より一層警戒したような顔で少女はジリジリと距離をとっていく。

 いや、気持ちはわかるけど、ちょっとショックだわ……。


「な、なんじゃ、お主は!?」

「まぁまぁ、俺は悪い骸骨兵じゃないから、そんなに警戒するなよ。俺がダンジョンの外まで、送っていってやるからよ」

「そ、そんな事を言って、油断した所を襲うつもりではあるまいな!」

 くっ……どんだけ信用が無いんだ、俺は!

 この少女だって、仮にも冒険者の端くれなら『僕は悪い骸骨兵じゃないよ!』なんて言いながらアンデッドが現れたら、話くらいは聞くのが当たり前だろうに!


「つーか、お前さん仲間とかはどうしたんだ?」

 まさか、最初からこんな子供が一人でここまで侵入してきたって事はないだろう。

 初見の時に予想した通り、パーティからはぐれてしまったか、もしくは……この娘以外は全滅したか、だ。


「……仲間とは、ちょっとはぐれてしまった」

 こちらに戦闘の意志が無い事を理解してくれたのか、少女はおっかなびっくりではあるが答えてくれた。

 ふふ、まるで迷子のキツネリスが心を開いてくれたかのような、微笑ましい気分だぜ。

「だが、どうせ案内してくれるなら、ダンジョンマスターの所へ案内してくれんか?」

 前言撤回!

 なんて図々しい小娘だ!


「お主が、噂のダンジョンガーディアンなのだろう?ならば、このダンジョンの中心部まで……」

「やかましい、このガキャ!」

「ぴぎゃっ!」

 傲慢な態度を表に出して命令を下そうとした少女に、俺の軽い拳骨が炸裂した!

 奇妙な悲鳴と共にへたり込んだ少女は、恨みがましい目で俺を見上げてくる。


「まったく、これだから貴族って奴ぁ……生き死にのかかった場所で、てめぇの望みが優先されると思うなよ!」

 生前にも、没落した貴族の子息が冒険者の道に入ってくる事はたまにあった。

 確かに教育水準が高くて色々と助けになる事もあったのだが、よっぽど性格の良い奴でもない限りはやはりトラブルを招く事が多く、それで解散したチームもいくつか見ている。

 かく言う俺も、その手の揉め事に巻き込まれた煩わしさのせいで、ソロ専門になったようなもんだしな。


「お、おのれ、こんな無礼な真似をしよって……魔法が使えれば、お主など一瞬で消し炭にしてやる物を……」

「ふん……やっぱりそういう事か」

 ご存じの通り、うちのダンジョンは日替わりで各階層の構造が変化する訳だが、いま俺達がいるこの階層は、『魔法が使えなくなる』というトラップが発動しているタイプだ。

 見るからにひ弱そうな少女がここまで降りてくるからには、おそらく何らかの魔法に長けているんだろうが、この階層ではまったく無意味。

 あんな、チンピラみたいな冒険者に捕まりそうになっていたのも頷ける。


「とにかく、これで自分の未熟さが理解できたろ。さっさと地上に帰って、実力に見合ったクエストからこなしてくるだな!」

「み、未熟だとぉ……」

 なにか俺の一言にショックを受けたらしい少女は、ゆらりと立ち上がると俺をキッ!と睨み付けた!

「貴様、余を愚弄するとは無礼が過ぎるぞ!余を誰だと思っておるのかっ!」

「いや、誰だよ。つーか、俺は外の世常に疎いから、お前さんがどこの誰でも関係ないけどな」

「ぐぬぬ……」

 拳を握りしめ、涙目になって悔しがる少女の姿がなんだかちょっと面白い。

 こう、ムキになってる子供をかまってやるのは、割りと楽しいな。


「ぐぅ……この魔王ティアルメルティ様が、ここまでこけにされたのは初めてだ!」

「へー、そうかよ。魔王……ちょっとまて、今なんつった?」

 俺に問い返されて、少女……ティアルメルティはわかりやすいくらいに「しまったあぁぁ!」っといった表情を浮かべた!

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