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09 動き出す脅威

           ◆◆◆


 オルアス大迷宮に挑んだ、魔王五人衆が全滅。


 その一報が届いた時、魔王軍に激震が走った!

 ただならぬ事態に緊急で開かれた幹部会……正確には魔王軍の最高幹部である、四天王と呼ばれる者達が集結したその会議場では、張り詰めた空気が圧力となって場を支配している。

 気の弱い者ならば即座に失神してもおかしくないプレッシャーの中で、ようやく四天王の一人が口を開く。


「……念のためもう一度確認するが、五人衆の連中が全滅したのは間違いないのだな?」

「ええ。彼等が残していった、『証命の宝玉』が砕けていましたからね」

 四天王の一人、『天空』の異名を持つ戦士ソルヘストの問いに、同じく四天王の一人である『暗澹』のタラスマガが頷いた。

 彼等の言う『証命の宝玉』とは、離れた場所で活動する魔族幹部の安否を示すマジックアイテムで、変化する色合いによって対象の状態を知ることができる。

 そして、その対象が絶命した時には砕け散るのだ。


「信じられんな……確かに手強いダンジョンである事は承知していたつもりだが、あいつらがパーティを組んで潜ったにも関わらず、歯が立たんとは」

「……」

 大柄な四天王、『大地』のラグラドムが漏らした呟きに、紅一点である『幻惑』のガウォルタも無言で首を縦に振って同意を示した。


「なんにせよ、これは由々しき事態だ。このままでは、人間どもとの戦いもにもかなりの影響が出るだろう」

「そうですね……なればこそ、決断しなければなりません」

「うむ、このまま件のダンジョンを手に入れるか、それとも諦めるか……だな」

「…………」

 二つの選択肢を前に、議場を静寂が包む。


『諦めるなどいう言葉は、我々にはないぞ』


 静まりかえっていた室内に波紋が広がるように声が響き、四天王の面々が一瞬だけ顔を見合わせた後で、一斉にひとつの方向へ視線を向けた!

 その先にはヴェールに遮られた空間があらり、そこに映る人影が先ほどの声の主である。

 誰とはなく、畏敬のこもった声色でポツリと呟く。

 そう、『魔王様』……と。


『親愛なる余の部下達よ……我々の目的のためにそのダンジョンが必要であるのなら、弱気になるのは禁物である』

 再び、四天王達を鼓舞するような声が、ヴェールの向こうから届く。

 それを聞いて、ソルヘスト達の握る拳がブルリと震えた。


「フッ……そうだな。魔王様の仰る通り、我々には後退する道などないのだ!」

「ああ……五人衆がまとめてやられた事に、少し動揺していたのかもしれん」

「ええ、魔王様のお言葉で冷静になれました」

「…………」

 無言ながら、コクコクと何度も頷くガウォルタの姿に、なんとなくホッコリとした空気が流れる。


『うむ……ならば、次のダンジョン攻略の際には、余も同行しよう』

「っはぁ!?!?」

 ホッとしと雰囲気を吹き飛ばすような魔王の言葉に、四天王全員が凍りついた!


「い、いやいやいや!なにを仰られているんですか、魔王様!」

「あなたは様は我々の総大将ですよ!?そんな方が、最前線に出向いていい訳がないじゃないですか!」

『し、しかしだな……ダンジョンマスターを討伐した後、ダンジョンコアを制圧するためには、余の力が必要であろう?』

 一転して激しい剣幕で止めにかかる四天王達に押され、たじろいだ様子ながらも魔王はなんとか反論してみる。

 しかし、四天王達の反対の声は止まらなかった。


「だから、我々がダンジョンを制圧するまで、安全な場所で待機しててほしいと言ってるんです!」

『だが……』

「…………はっきり言って、ちょっと邪魔かも」

「ガウォルタが喋った!?」

 さらなる反論を試みようとした魔王よりも、ポツリと呟いたガウォルタへ注目が集まり、またも魔王の意見は遮られてしまった。

 そして、ガウォルタの言葉をきっかけに、ふつふつと魔王への不満が四天王の口から溢れだしてくる。


「……そうだよなぁ。魔王様が出張られても、あんまり役に立ちそうにないよなぁ」

「後方にいてこそ我々の心の支えになられるのに、前線に出たがるとは……」

「むしろ、あの方を守るために余計な負担を背負う事になるかもしれんぞ」

「…………(コクコク)」

『なんか酷くない?』

 四天王達の態度に、さすがの魔王の声にも落胆したような色が混じる。

 だが、(本当の事を言ってるだけだしな……)といった空気を感じてか、ヴェールの向こうで立ち上がったように影が動いた!


『あー、もう決めた!余も行くからな!』

「ええっ!?だから危ないし、遊びじゃないんですよ!」

『わかっておるわ!お前らが舐めてる余の力、再び思い知らせてくれる!』

 プンプンと怒りを表して動く影を見た四天王達は、ため息混じりで顔を見合わせる。


「くっ……ダメだ。完全に駄々をこねてしまっておられる……」

「ああなっては、もはや止める事など不可能ですね」

「ちっ……仕方ない。ガウォルタ、お前が魔王様を見張り……守ってやってくれ」

「…………(コクン)」

 了解したとばかりに頷くガウォルタに、よろしく頼むと肩を叩き、四天王達は張り切る魔王の影を見ながら疲れたような重いため息を吐くのだった。


           ◆◆◆


「──やはりここは、俺のフロアを拡張した方がいいだろう」

「いいえ、私のフロアを広げて、施設を強化する方が有意義ね」

 バチバチと視線の火花を散らし、エルフのレオパルトとドワーフのエマリエートは一歩も譲らずに睨み合っていた。

 二人がなにを揉めているのかといえば、先の五人衆との戦いで討ち取った連中から得た、ダンジョンポイントの使い道についてである。


 レオパルトもエマリエートも、よほど自分のテリトリーが気に入ったのか、互いのフロアを広げようと譲らない。

 やれやれ、困った連中だよ。

 大量に入ったポイントの使い道なんて、すでに決まっているというのに。


「お前らいい加減にしろよ?騒いだところで、ダンジョンポイントの使い方の決定権は、オルーシェにあるんだからよ」

 俺が横から口を挟むと、睨み合っていた二人はバッとオルーシェに顔を向けた。

 そんなレオパルト達の視線を軽々と受け流し、当のオルーシェはコホンとひとつ咳払いすると、何にポイントを使うのかを口にする。


「とりあえず……レオパルトとエマリエートのフロアの拡張と内装、あとは地下階層を増やしてダンジョンモンスターを配置したりする予定」

 ふむふむ……あれ?


「あの……オルーシェさん?大量にポイントが入ったなら、そろそろ俺を生き返らせてくれてもいいんじゃないですかね?」

「却下」

「なんでだよぉ!」

 先の五人衆との戦いで、俺の事を親子(かぞく)だって言ってくれたじゃん!

 それにけっこう感動したから、生身の体に戻って「パパだよ……」とか言ってあげたかったのに!


「ちゃんと、十年たったら生き返らせてあげる。それまでは我慢して」

「ダンジョンマスターがこう言っているんだ、黙って従いな!」

「十年なんてあっという間でしょう?この娘のためにも、我慢してあげなさい」

 いつの間にか、オルーシェを擁護するようにレオパルトとエマリエートが一緒になって俺を責める。

 くっ……相変わらず、ポジション取り早い奴等だぜ!


 しかし、エマリエートの言う、オルーシェのためにも……って部分はどういう事だ?

 オルーシェが親子のような絆を感じてくれているのなら、子供のうちから関係を深めた方がいいと思うんだが……?

 そんな俺の疑問を聞いたとたん、オルーシェは可愛らしく頬を膨らめ、レオパルト達はダメだこりゃ……とばかりに眉間にシワを寄せる。

 ええ……俺、そんなに変な事言ったか?


「昔から鈍感バカだとは思っていたけど、骸骨兵になってから輪がかかってるんじゃないかしら……」

「おい、嬢ちゃん。本当に、あんなのがいいのか?」

「……ん」

 なにやらヒソヒソと三人で話合っているが、オルーシェは顔を赤らめて頷いている。

 いったい、何の話か知らないけれど、仲間外れにされてるみたいで少し悲しい……。


「とにかく、貴女がその気なら私達は応援してあげるわ」

「頑張れよ、嬢ちゃん」

「ん!頑張る!」

「よしよし。で、なにを頑張るのかな?」

 自然と話に交ざって行ったのに、俺はレオパルトとエマリエートに蹴り飛ばされてしまった!


「な、なにすんだ、お前ら!」

「やかましいわ!デリカシーの無い真似するんじゃないわよ!」

「そうだ!お前はそういう所がダメなんだよ!」

「乙女の内緒話を盗み聞きするのは、さすがにNG」

 一斉にダメ出しされて、なぜか疎外された俺が怒られてる……。

 なんなんだ……新手のいじめかなんかかよ……終いにゃ泣くぞ、こら!

 そんな風に半ばいじけていると、オルーシェが小走りで駆けてきて、俺の正面にちょこんと座った。


「ごめんね、ダルアス。でも、親しき仲にも礼儀あり」

「いや、まぁ……それはそうかもしれんが……」

「ちゃんと話せる時が来たら、一番最初に貴方に話す。だから、私を信じてほしい」

 真剣な眼差しで、俺をジッと見据えるオルーシェ。

 くっ……そんな目で見られたら、これ以上は何も言えねぇ。


「……わかった、今は聞かん。ただ、何かあったらちゃんと言えよ。俺達は親子(かぞく)なんだからな」

「そうだね、夫婦(かぞく)だもんね!」

 そう言うと、俺とオルーシェは顔を見合わせて笑った。


 しかし、そんな俺達を見ていたレオパルト達は、腕組みしたままなにやら複雑そうな表情を浮かべていた。


「あっという間に丸め込まれやがった……ダルアスがチョロいのか、嬢ちゃんが上手なのか」

「たぶん、その両方だろうね」

 ひそかにため息を吐きながら、エルフとドワーフの冒険者達は俺とオルーシェを生暖かい眼で見守っていた。

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