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05 共闘の誓い

「……おいおい、封印たぁどういう事だ?」

 不穏な空気を醸し出すレオパルトとエマリエートを前に、俺も威嚇じみた空気を纏いだす。


「言葉通りだ。このダンジョンが、危険すぎる能力を持ったマスターに運営されているなら、封印もやむ無しと言っているのさ」

「危険て……別に、モンスターが溢れるようなダンジョンじゃねぇぞ」

 確かに昔はそういった杜撰な管理ゆえに、ダンジョン内で発生したモンスターが激増して、外へと溢れて周辺を危機にさらすなんて事も時々あった。

 しかし、この『オルアス大迷宮』はしっかりと管理されていて、なんにも危なくないんだからね!

 挑んできた冒険者の安全以外は!


「モンスターの件……というよりも、ダンジョンが吸収した人物を、別な種族に作り替えて生まれ変わらせる能力がヤバいって言ってるの」

 エマリエートの言葉に、俺は首を傾げる。

「いや、確かに俺は今はアンデッドだけど、ちゃんと生き返る予定だし……」

「お前だけじゃねぇよ。村に偽装した地上階層のシスター……魔族を、そこの嬢ちゃんに従うサキュバスに生まれ変わらせたんだろう?万が一、そんな能力を持つダンジョンが魔族の手に渡ったら……」

「ダンジョン内で殺された者達は、みんな魔族の尖兵に作り替えられる可能性があるわね」

 ……言われてみれば、確かに。


 俺がこんな姿で初代ダンジョンマスターであった事や、次のオルーシェがあまりにも普通にやっていた事だから、不審に思わなかったけど、そりゃヤバい能力だよな!

 ううん、こいつらが危惧するのもよくわかる。

 しかし、ダンジョンを封印されたりしたら、俺が生き返る事ができなくなっちまう!

 どうすればいいのかと頭を悩ませていると、不意にダンジョン・コアが話に入ってきた。


『お二人の心配についてですが、すでに現マスターによって対策はとられておりますので、不安は払拭できると思います』

「なにっ!?」

『まず、マルマを転生させた際に少々の不手際があったため、ダンジョン内で転生するためには、魂の契約によるマスターへの絶対服従が条件となっております』

 そうだったな……マルマの奴は、サキュバスに生まれ変わった途端に俺達を魅了しようとしやがったから、二度とそんな真似ができないように折檻してやった。

 そしてその反省を生かして、今後はダンジョンマスター(オルーシェ)への服従契約無しには、自由意思を持って転生できない設定にしたのだ。


「だが、それは転生する側の問題であって、転生させるマスターの危険性は変わらない!ダルアスから彼女にマスターが移ったように、危険な思想の持ち主がこのダンジョンのマスターになったらどうする!」

『それも問題ありません』

「あん?」

「私からマスター権限を奪おうとするなら、私を殺すしかない。そして、私を殺せばダンジョン・コアも同時に破壊される」

「なっ……!?」

 それはつまり、目の前の少女とこのダンジョンは一蓮托生という事。

 齢十二にして自分の命を掛けるという、並々ならぬ覚悟を決めているオルーシェを前にして、レオパルトもエマリエートも言葉を失っていた。

 さらにオルーシェは、そんな二人に畳み掛けるようにして、言葉をぶつけていく!


「マスター権限の移行については、これで安心だと思う。けど、二人にとっては私の人となりがわからないから、不安だよね?」

「そ、それは……まぁな」

「うん。だから、このダンジョンを対魔族特化に構築しようと思うの」

「なにっ!?」

「できるのか、そんな事が!?」

 驚く二人に、オルーシェはこくりと頷いた。


「でも、そんなに特別な事をする訳じゃなくて、浅い階のお宝とかを減らして中間層からトラップを増やす設定にするだけ」

「なるほど……それなら、浅い階でうろうろしてる雑魚冒険者は減るだろうし、ここを狙う魔族は苦戦を強いられるだろうな」

 彼女の狙いを理解した俺に、オルーシェはスゴいドヤ顔をしながら「褒めて、褒めて」と言わんばかりにちょこんと頭を差し出してくる。

 くっ……可愛いじゃねぇか!

 そんなオルーシェへ、俺は娘の愛情を爆発させるお父さん並みに頭をナデナデしてやった!

 ご満悦といった感じで、頬を染めるオルーシェ!

 世の中の父親って、こんな気分を味わっているんだな……。

 生き返る事ができたら、所帯を持つのも悪くないって気がするぜ。


 そんな俺達の、微笑ましいスキンシップの光景を見ていたレオパルト達が、「んんっ!」と嗜めるように咳払いをする。

 おっと、まだ話の途中だったな。


「……君の言う、魔族へ対抗するための案は理解した。しかし……」

「わかってる。まだ、私自身を信用しきれないって言うんでしょ?」

 言葉を濁したレオパルトだったが、オルーシェはあえてそこを補足した。

「まぁ、簡単に言えばそういう事よ。ダルアスの話では、あなたはディルタス国の魔導機関から逃げ出してきたって事だったけど、類いまれなる魔力とそれを使いこなす技術がある」

「そんな君が、このダンジョンを運用して成長させる目的はなんだ?」

 オルーシェとの付き合いの浅い、この二人が危惧するのはもっともだろう。

 少なくとも、彼女がディルタス国から酷い目に会わされていた事は推測しているだろうから、その復讐のために……なんて動機を持っていたら、吸収した魔族をダンジョンモンスターに変えて、打って出る可能性もある。

 もしもそうなれば、魔族以上に世の中を混乱に陥れる事になるだろうからな。

 まぁ、オルーシェに限ってそれはないだろうけど。


「私の目的は三つ。ひとつ目は、ディルタス国から身を守るため。二つ目は一魔術師として、このダンジョンを育ててみたいという探求心。そして三つ目は……」

 そこで、なぜか赤くなったオルーシェは、チラチラと俺の方を見ながら恥ずかしそうに告げる。

伴侶(パートナー)として、ダルアスと一緒にいたい……」

 そう言うとなんとも照れ臭そうな笑顔を浮かべて、「以上!」と締め括った。

 おいおい、なんだよ。

 そんな反応されるとおじさんも照れちゃうし、慕われてるのがわかって嬉しくなってくるじゃねぇか!

 でも安心しろ、オルーシェ……お前はちゃんと、おれの相棒(パートナー)だぜ!

 感極まって彼女を再びナデナデの刑に処すると、安心しきった猫のように、オルーシェはぐんにゃりと体を預けてきた。

 くくく、よしよし。背中も撫でてやろう。

 そんな俺達を眺めながら、レオパルトは呆れたように、そしてなぜかエマリエートは恋バナを聞いてる時のように、キラキラと目を輝かせていた。


 しばらくたって、ナデナデに満足したオルーシェが俺から離れると、中断してしまった話し合いを再開させる。

「まぁ……オルーシェの目的は理解した。本当にそれだけだと言うなら、危険性は低いと思うが……」

 それでも、すぐには完全に信用しきれない様子のレオパルト達に、オルーシェはある提案を持ちかけた。


「それじゃあ……あなた達もこのダンジョンに住むというのは、どう?」

「俺達……も?」

「そう。私を近くで見張れるし、このダンジョンに侵入してくる魔族への戦力にもなる。それに、ダルアスの昔の話をしてもらえるし、一石三鳥」

 まさにナイスアイディア!とばかりに胸を張るオルーシェ。

 でも、最後の一個はなんか得になってるのか……?

 そんな小首を傾げる俺の前では、オルーシェの提案に真剣な表情で悩むレオパルトとエマリエートの姿があった。


「なるほど、それなら……」

「しかし、立場的に……」

「だが、本国の雑務から逃げる口実に……」

 俺が生きてた頃からだいぶ時間が経って、こいつらも色々な立場に就いたり、しがらみが出来たんだろう。

 それでも、元々がちゃらんぽらんで冒険者をやっていた俺達だ、ここで魔族相手に大暴れしてればオーケーなだけの環境は相当に魅力的なはず。

 グラグラと揺らいでいる二人に、オルーシェは更なる提案を重ねる。


「今ならなんと、二人専用のフロアを用意します」

「っ!?」

「さらに、そのフロアの権限を完全に譲渡、自由なカスタマイズも思うまま」

「なっ!?」

「地上階層とも繋がる専用のゲートも設置するから、お出かけも自由自在」

「乗ったぁ!」

 オルーシェから提示された条件に、レオパルトもエマリエートもついに乗ってきた!


「うん、見張りと魔族への対抗策と考えれば、利にかなっているしな!」

「それに、こんな可愛い子供に頼られたら、協力してあげなきゃ元冒険者の名折れよね!」

 なにやら二人共それっぽい事を言っているが、本命はダンジョンのワンフロアを自分の好きにできるって事だろう。

 まぁ、俺も冒険者だったし、元ダンジョンマスターでもあった訳だから、そういった未知のワクワクに食いつく気持ちはよくわかる。

 そんなテンションの上がる二人を眺めながら、オルーシェは愉快そうにクスクスとほくそ笑む。

 そこになにやら計算通り……といった感じの腹黒い物を感じて、俺はこっそりと真意を尋ねてみた。


「さっきは一石三鳥って言ったけど、これでダンジョンに入ってきた魔族を倒せれば、大量のダンジョンポイントをゲットできるし、転生を望む者がいればここの戦力も強化できる。それに、ディルタスの魔導機関がちょっかいを出してきた時、他国に所属するあの二人へのコネもできた……だから、私達にとっては一石六鳥(・・・)なの」

 そ、そこまで計算していたと言うのかっ!?

 さっきまで甘える猫だと思っていたのに、今は彼女が狩りの名手である虎に見えてくる!


 オルーシェ……恐ろしい子……。


 そんな恐ろしくも頼もしい、このダンジョンの主を横目に見ながら、俺は小さく息を飲むのであった。

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