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03 過去の実力者達

「お、おい!ちょっと待っ……」

「問答無用!」

 制止の声をかけようとした俺を無視して、レオパルトが見えないモーションで矢を放つ!

 んなろう!

 俺はすかさず抜刀すると、まっすぐに飛来する二本の矢を叩き落とした!


「むっ!」

 先程、不埒な冒険者を仕止めた技をあっさりと止められ、レオパルトは警戒の声を漏らす!

 ……まぁ、奴は驚いてるみたいだけど、俺はアイツの技を色々と知ってるからな。

 数々の神技ともいえるエルフの弓術の中では、「射つ瞬間がわからない」だけの技など初級にすぎない。

 まぁ……それはそれで、そんなので殺られてしまう「現代の冒険者弱すぎ問題」がまた浮上してくる訳だが。


「少しギアを上げていくぞ!」

 そう宣言しながら、レオパルトが矢をつがえ、俺に狙いを定めた!

 エルフが弓を構えたら用心せい……誰の言葉だったか、達人の言が頭をよぎる!

「ちっ!」

 俺は舌打ちしながら通路の地形を利用して、レオパルトの射線から身をそらした。

「甘いなっ!」

 しかし、エルフの達人から放たれた矢はあり得ない角度で方向を変えると、死角に入っていた俺を正確に追尾してくる!

 くそっ、さすがじゃねぇか!


「はっ!」

 俺はほぼ同時に迫る数本の矢を、剣で払いながら叩き落とす!

 この一本一本が、金属鎧ごと人の体を貫く威力を持ってるっていうんだから、現在骸骨兵(スケルトン)の俺が食らったらどうなることか……いい出汁がとれる粉末とかになりそうで怖い!


「うおおおおっ!」

 高速の斬撃で、矢を全て迎撃した事を確認し、俺はホッと一息ついた。

「やるわね、骸骨兵」

 しかし、その一瞬の間隙(かんげき)を縫って、ドワーフのエマリエートが地面を滑るような動きで俺の懐に迫ってくる!

 しまった!

 あれは確か、地の魔法と組み合わせたドワーフの高速移動術『地擦(ちず)り』!

 普段は鈍足なんて言われるドワーフが、氷上を滑るような軽やかな素早さを見せながら、得物の戦斧を振りかぶる!


 一瞬、上から来るであろう攻撃に備えようとした俺だったが、ほんのわずかな気配の揺らぎから、ガードを下方へ向けた!

「っ!?」

 動きを読んだ俺に驚きながらも、エマリエートも攻撃のモーションは今さら止められない!

 ならばガードごと吹き飛べと言わんばかりに、全力を込めて戦斧をかち上げる軌道で振り抜いてきた!


「ぐおっ!」

 辛うじて剣で受けたものの、凄まじい威力が全身を襲う!

 無理に受け続ければ剣が持たないと判断した俺は、相手の威力を利用して大きく跳び上がると、エマリエートから距離を取って後方に着地した!


 あ、危ね~。

 確か、あの下方からの技は『昇り半月』っていったっけ……。

 昔パーティを組んだ時に、あれでドラゴンを両断したのを見てなかったら、俺も今ごろ真っ二つだったかもしれないぜ。


「まさか、お前が仕止め損なうとはな……」

「ええ、あの骸骨兵……油断できないわ」

 ひとまず間合いをとって、俺達はにらみ合いになる。

 つーか、俺はこれ以上争うつもりはないんだけどなぁ……そろそろ、こっちの話も聞いてくれないだろうか?


「あー、ちょっといいかな?」

 とりあえず、敵意は無いよとの意思を込めて声をかけてみる。

 しかし……。


「惑わされるなよ、エマリエート。知恵のある奴なら、そろそろ搦め手でくるぞ」

「わかっているわ、レオパルト。敵の骸骨兵の言葉なんかに、耳を貸すもんですか」

 んもー!

 ちょっとくらい、耳を貸せよお前ら!

 ああ、もう仕方ない。

 こうなりゃ、こちらから事情を説明するか。

 俺は剣を鞘に納め、両手を上げて戦意が無い事を示した。

 そんなこちらの様子に、レオパルト達も少し戸惑ってしまう。


「あー、何て言うか……久しぶりだな、レオパルトにエマリエート」

 唐突に名前を呼ばれ、しかも「久しぶり」なんて言う俺に、両者から訝しげな視線が向けられてくる。

 まぁ、そうだよな……なんて思いつつ、俺は二人に向かって名乗った。


「俺だよ、俺!お前らと何度か組んだ事がある、冒険者のダルアスだよ!」

 骸骨姿だから上手く笑えてるかわからないが、なるべく声のトーンはほがらかにしながら話しかける。

 すると、一瞬だけキョトンとした二人が、思い出したように小さく呟いた。


「ダル……アス?」

「人間で……あの『剣狼』の?」

「そうそう!俺だよ、『穿光』に『鉄姫』」

 証明のだめ押しにと、当時この二人に付けられていた二つ名で呼んでみる。

 すると、レオパルト達から放たれていた戦意のオーラが弛んで行くのを感じた。


 だが、まだ完全に警戒が解けている訳ではないな。

 迂闊な真似をすれば、再び戦闘になってしまうかもしれない。

 そこで、二人と親しかった俺しか知り得ない、こいつらのちょっとした秘密を暴露してみる事にした。


「まだ疑われてようだから、俺がダルアスである証拠として、こんな話はどうだ?レオパルト、お前は確か酒を飲む量が一定を越えると、幼児退行をおこすよな?」

「なっ!?」

「それで、飲み屋のねーちゃんのおっぱいを吸いたいとすがり付いて、めちゃくちゃ怒られてたっけ」

「あ、あばばば……」

「ぶふっ!」

 醜態を晒した過去の出来事を暴かれ、真っ赤になって言葉を失うエルフと、噴き出すドワーフ!

 よっしゃ!ここでもうひとつ!


「んでもって、エマリエート。お前も確か、胡散臭い香具師からミスリルだって言われて、コーティングされただけのゴミみたいな金属を買って、他のドワーフから爆笑された事があっただろ?」

「は、はわわわ……」

「ぶぼっ!」

 今度はドワーフが赤くなり、エルフが噴き出す!


「そ、そういやあったな、そんな事が。ドワーフが金属詐欺に合うとか、当時もあり得ねぇってネタになってたっけ!」

「か、駆け出しの頃の話よ!それに、貴方だって例の一件から、一部の飲み屋から完全に出禁になってたじゃないの!」

「あ、あれ以降は?泥酔するほど飲んじゃいないさ!」

 お互いに言い訳しあって一息ついた二人は、改めて俺の方へと顔を向けてきた。


「マジかよ……本当にダルアスなのか?」

「でも、貴方は二百年くらい前に、行方不明になっていたはずじゃない……どうしてこんな所で、そんな姿になってるのよ……」

 どうやら信じてもらえたようで、ホッと胸を撫で下ろす。

 やっぱり、昔話はいいものだね。


「まぁ、色々と事情も有るんだが、かいつまんで言うとだな……」

 そう前置きして、俺はなぜこのダンジョンにいるのか、そしてなぜこんな姿になったのかを、二人に話始めた。


            ◆


「ワハハハハッ!コ、コケて死んだとかベテラン冒険者だったくせに、馬鹿過ぎるだろう!」

「んっ……くふっ!そ、それにダンジョンマスターの権限を横から奪われるなんて、迂闊すぎるわ!」

 先程の意趣返しとばかりに、こうなった説明をし始めた俺を指差して二人が爆笑する。

 くっ……我ながら情けない事情だとは思ったが、やっぱりこんな扱いを受けるか……。

 そうして、ひとしきり爆笑した後、ようやく落ち着いたらしいレオパルトとエマリエートが、武器を収めながらポン!と肩を叩いた。


「なんにしても……死んだとばかり思っていた、旧知の仲間にこうして会えるとはな……」

「そうね、それはお目出度い事だわ」

「ああ。本来なら、とっておきの酒でも空けたい所だが……」

 だが、その前に確認しておく事がある。


「お前達は、なんでこのダンジョンに来たんだ?まさか、まだ現役で冒険者を続けている訳でも無いだろ?」

 帝国の時代が終わり、王国になって国が割れてから、エルフもドワーフも色々とあったようだとオルーシェから聞いている。

 そんな動乱の時代を経て、こいつらほどの戦力を遊ばせておく余裕は無いだろうと、簡単に推測はできた。

 そんな質問に、レオパルト達はチラリと顔を見合わせたが、まぁいいか……と呟いて理由を教えてくれた。


「実はな、このダンジョンを狙って魔族が動いているとの情報が入った」

「なので、調査の要請がレオパルトに入り、私に協力を求めてきたのよ」

「魔族……か」

 俺の頭に、ふと少し前に戦った五人衆の一人だという、魔族幹部の顔が浮かぶ。


「そういや、あの野郎(ライゼン)もそんな事を言ってっけ」

「ライゼンだと!?」

 ポツリと漏れた俺の呟きに、レオパルト達の表情が変わる!

「魔族の四天王に次ぐ、五人衆の筆頭……そいつが、このダンジョンに現れたと言うの!?」

「お、おう……」

 迫る二人に気圧されて頷くと、さらに深刻な顔つきになった。


「そ、それで奴はどうなったんだ!? 詳しく話を……」

『そこまで!』

 食ってかかってこようとしたレオパルトの言葉を遮って、静かな声がダンジョンの中に響く!


「こ、これは……」

『私はこのダンジョンのマスター、オルーシェ。貴方達の戦いの、一部始終を見せてもらった』

 なので、自己紹介は不要と前置きし、オルーシェは俺に二人を自分の元へ案内してほしいと告げた。


「いいのか?」

『うん……貴方の友人なら、信用できるから』

 む、そんなに信頼されてると、ちょっと嬉しいものだな。

「わかった。すぐ行くから、お茶の準備でもしといてくれ」

『うん』

 そう返事をして、オルーシェの声は途切れた。

 俺達のやり取りに、ちょっと驚いた様子の二人を促して、俺はダンジョンの中心部へと向かう。


「今のが……お前からダンジョンマスターの権限を奪った奴の声か?」

「まぁな」

「そのわりには、なんだか仲が良さそうね」

「ああ、そこそこ上手くはやってるよ」

「ほほぅ……声の感じから女性っぽかったし、上手くやってるならいいことだな」

「おいおい、そんな色っぽい話じゃねぇよ」

 茶化す二人に辟易しつつ……久しぶりに、仲間と連れだって進むダンジョンの通路に、なにか懐かしい物を思い出して俺は一人、ほくそ笑んでいた。

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