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01 新たる挑戦者

           ◆◆◆


「──おいおい、勘弁してくれよ」

 持ち込まれた案件に対して、男はため息混じりで否定的な言葉を口にした。

 そんな彼に対して、話を持ち込んできた者もすまなさそうに、ひとつため息を吐く。

 二人を端から見ている者がいれば、釣られてため息を吐いていたかもしれない。


 整った顔立ちに、流れる金の髪から覗く尖った耳先。

 人間の女性ならば、羨まずにはいられぬ程きめ細かい白い肌の彼等は、エルフと呼ばれる種族だった。


「かつて帝国時代に冒険者をやっていた、お前にしか頼めん事案なのだ、レオパルト」

「確かに、俺は以前に冒険者をやってはいたさ。だけど、引退したのは何年前だと思ってるんだ?」

 レオパルトと呼ばれた彼が、もう百年以上も前に冒険者稼業から足を洗ったのは事実だ。

 しかし、細身ながらも引き締まった肉体はさながら業物のレイピアを思わせ、その瞳に宿る鋭い眼光はいまだに全盛期の輝きを宿している。


「エルフである我々にとって、百年程度の時間など少々長めの休みでしかあるまい。それに、魔族が動き出しているという情報もある」

「魔族……ね」

 ピクリと尖った耳先が動き、切れ長の目をさらに細めながらレオパルトはその忌々しい種族名を口にした。


 そもそも彼が冒険者を引退したのは、その魔族に対抗するためだ。

 帝国が分裂して、三つの王国へと変化していった混迷の時代に突如として現れた奴等は、瞬く間に勢力を拡大していった。

 そんな時期に、分裂してできた王国のひとつとエルフやドワーフは手を組み、魔族に対抗していく道をとったのである。

 当時、相当の実力者であった彼も同族であるエルフの上層部に請われ、自由気ままな冒険者から足を洗って、今は国を守るために兵を率いているという責任ある立場だ。

 そうしてそれなりに責任なども増えてきた時に、魔族絡みとはいえ再び冒険者に混じってダンジョン攻略をせよなどと言うのだから、難色を示すのも無理はない。


「これも、魔族の野望を挫くための一手だと思って……頼む!」

 そう言われてしまえば、是も非もない。

 それに、久しぶりの冒険への期待であの頃の熱がじわじわと戻りつつあるのも、レオパルトは感じていた。

(まったく……俺もまだまだガキだな)

 自嘲の笑みを浮かべた彼を、仲間のエルフが怪訝そうな顔で見ている事に気づいて、レオパルトは小さく咳払いをする。


「……メンバーは、俺が選んでいいんだろうな?」

「それはもちろん、お前に一任しよう。しかし、現代の冒険者で御目に叶うようなチームがいるのかね?」

 帝国時代に冒険者をやっていた連中に比べ、今の冒険者は質が落ちている事は否めなかった。

 それをよく知っているのはレオパルト本人のはずなので、もしかしたら冒険者以外でパーティを組むつもりなのかもしれない。


「ああ、古い友人に助力を頼むさ。ドワーフの、な」

「ドワーフ……あの方か」

 レオパルトが示す人物に心当たりがあるのか、仲間のエルフは分かりやすく渋面を浮かべる。

 元々、豊かな森を住みかとするエルフにとって、炎と鉄を愛するドワーフとは相性が良くない。

 敵対とまではいかないが、犬猿の仲であるのは間違いないのだ。

 しかし、互いに自分達の持たない技術や文化をリスペクトしている部分もあるため、目的さえ一致すれば協力しあえるものだと、冒険者をやっていたレオパルトは知っている。


「俺の方から、奴に連絡は入れておく。協力が得られて、準備ができしだい、そのダンジョンへ向かうとしよう」

「よろしく頼む」

 頭を下げて退室していった仲間の背中を見送り、一人になったレオパルトは降って湧いた久々の冒険話に、思わず笑みが浮かぶ。


「オルアス大迷宮……か。楽しませてもらうぞ」


           ◆◆◆


「……暇だなぁ」

 思わず漏れた呟きに、俺自身がハッとして口元を押さえた。

 チラリとオルーシェの様子を伺うが、どうやら彼女は俺の呟きに気づいていないようで、ダンジョン・コアと共に迷宮の調整に勤しんでいる。


 少し前、魔族の幹部の一人であるライゼンとかいうのが、ダンジョン(うち)に乗り込んできた。

 中々に手強い相手ではあったが、それ以降は深い階層まで降りてくる冒険者がほとんどいなかったため、俺はこうして暇をもて余しているのである。

 いや、時々は浅い階層まで出向いていって、他人の成果物を奪う事を生業とするマナーの悪い冒険者を狩ったりもしているがね。

 しかし、しょせん雑魚は雑魚。

 経験値やダンジョンポイントの足しになるとはいえ、作業じみた討伐にはあまり遣り甲斐も感じられないんだよな。

 むしろ、思い付きで始めた料理なんかの方が楽しくなってきている始末だ。


 元々、冒険者をやっていた訳だから、多少の料理スキルなんかは持っていた。

 しかし、たまたまオルーシェを相手にそれを発揮した時に、思った以上に喜ばれて気をよくしたのが始まりだった。

 こう……若い奴が元気よく飯を食っているのを見ると、なんだかこっちも嬉しくなる「おっさんあるある」が発動した俺は、地上階層の擬装村から食材なんかを仕入れ、忙しくダンジョンを運営するオルーシェのためにメキメキと料理の腕を上げていったのである。


            ◆


「おーい、オルーシェ。飯の時間だぞー」

「!!」

 俺が声をかけると、ご飯で呼び出された子犬みたいに目を輝かせたオルーシェが、作業を中断して駆けてきた。

 くくく、嬉しい反応をしてくれる……。


「今日のご飯は、なに?」

「猪肉のベーコンと野菜がたっぷり入ったクリームシチューもどきと、焼きたてのパンだ」

 もどき(・・・)と言ったのはちゃんとした料理のレシピがある訳ではなく、俺の我流でそれっぽく作ったからである。

 ちゃんと味見しながら作ったから、それなりに美味いとは思うが、そろそろしっかりとした料理本なんかもほしいところだな……。

 そんなことを考えながらシチューを皿に分けてテーブルに並べ、いただきますの挨拶をした俺達はさっそく料理を口に運ぶ。


 ……うん!

 我ながら、中々の出来!

 オルーシェも気に入ってくれたようで、もりもりと食べている。

 さらにお代わりも要求してきて、俺も「いっぱい食べんさい……」と微笑ましい気持ちになっていた。


「すみません、ワタクシにもお代わりをください」

「おう……って、お前いつの間にっ!?」

 気がつけば食卓に混ざっていた、シスター姿の美女……その正体はサキュバスであり、ダンジョンモンスターへと転生したマルマが「てへっ♥」と舌を出した。

 知らん奴から見たら可愛い仕草なんだろうが、俺達からすると「なに、あざとさ振り撒いてんだ」としか思えない。

 まぁ、俺の作った飯が好評なのは嬉しいので、お代わりは許すが……。


「ところで、どうしたのマルマ。あなたがここに来るということは、なにか地上であった?」

「あ、そうなんですよマスター!」

 お代わりの皿を受け取りながら、マルマは料理を口に運びつつオルーシェに話しかける。

 その下品な行動に、俺はツッコミの手刀を叩き込んでやった。

 口の中の物を飲み込んでから話せという、至極まっとうな俺の指摘に涙目になりつつも従ったマルマは、咀嚼を終えてから再び口を開く。


「実は地上の擬装村に、ただならぬ雰囲気を持った冒険者のチームが来たんです!」

「ほぅ……」

 なにやら面白そうな話じゃないか。

 先を促すと、マルマはそのチームの詳しい情報を教えてくれた。


「そのチームは、エルフとドワーフの二人だけなんですが、装備や放つ圧力が半端じゃないんです!そう……まるで、魔族の上位幹部のような気配を感じましたわ!」

 元魔族であり、幹部に近い立場にいたマルマだからこその評価なのだろう。

 だが……魔族の幹部に匹敵しそうとは、確かに面白そうな話じゃないか!

 やる気に溢れてきた俺が、オルーシェの方を見ると、彼女も真面目な顔で頷いて見せた!


「迎撃の準備と、罠の構成を変えておく。ダルアスの出番もあるかもしれないから、スタンバっておいてね」

「おうよ!」

 返事を返し、俺は拳を握る!

 歓迎してやるぜ、手練れらしい冒険者達……この食事が終わった後になぁ!

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