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09 空を穿つ剣

 上空から飛来したライゼンと、地面スレスレの地点ですれ違う!

 それと同時に振るわれた剣閃は、飛行の加速度も相まって恐ろしく速いものだった!

 そのせいで、俺ともあろう者がかわしきれずに、奴の剣先が頬を掠めてしまう!

 一筋の赤い線が顔に走り、わずかに流れ出した赤い血とほんの少しの痛みを感じた。

 ……いいね。

 久しぶりに強者と戦ってる感覚に、思わず口角が上がってくる。


「フッ……私の初撃をかわした人間は、初めてだ。だがなっ!」

 再びライゼンの奴が上空に舞い上がると同時に、奴の使い魔達が魔法攻撃を放ってくる!

「ちっ!」

 俺は迫る魔法を斬り伏せるが、それに合わせて急降下してきたライゼンが襲いかかってきた!

 辛うじて身を翻すも、再び奴の剣が俺を掠める!


「なにっ!?」

 まさか、二度も仕損じるとは思っていなかったのか、ライゼンは驚きの声をあげた。

 またも上空へ向かい、俺との距離を取った奴の表情から、油断と余裕の色が消えていく。

 代わりに警戒と本気の度合いが強まった顔で、こちらを見おろしていた。


 くそっ!

 しかし、なんて厄介なコンビネーションだ!

 上空からの攻撃はどうしたって避けづらい物だし、距離を置いて放たれる魔法攻撃は剣士にとって相性最悪だ。

 この二つが完璧なタイミングで重ねられるのだから、俺じゃなきゃとっくに死んでるぞ!

 そんな内心の自画自賛でやる気を鼓舞しつつ、この状況を打破するために知恵を振り絞る!

 ……やっぱり、肉を切らせて骨を断つしかねぇか。


 覚悟を決めた俺は、体内の魔力を闘気と交えて練り上げ、循環させる事で己の肉体をさらに強化する!

 立ち上る気配の強さに、魔族達はすぐに反応を示した!


 三度(みたび)迫る、剣と魔法の同時攻撃!

 だが、俺は強化した肉体で魔法をあえて受ける(・・・・・・)事でそちらへの対処を捨てて、ライゼンの迎撃に集中した!

 使い魔どもの放った炎と雷撃が、そんな俺を直撃するが……んん、我慢!

「っ!?」

 魔法攻撃をまともに食らいながらも、怯まずに反撃の体勢を崩さなかった俺にライゼンはわずかながら動揺したようで、攻撃に微妙なズレが生じた。

 その一瞬の隙を突いて、俺の剣が走る!


「ぐあっ!」

 反撃の剣がライゼンの胸元を斬り裂き、バッと青い血飛沫が舞う!

 しかし……浅かった!

 その一撃では致命傷にはならず、ライゼンに逃げられてしまう……が、それも計算の内だ!


 俺の本当の狙い(・・・・・)、それを外さぬように剣を振り抜いた体勢から反転、持っていた剣を奴の使い魔の一人に向かって投げつけた!

 剣士がその武器を投げてくるなどという、まさかの攻撃に意表を突かれた使い魔に、投擲された剣が深々と突き刺さる!

 さらに、勢いが強すぎてそのまま貫通した剣で体に大穴が空いた使い魔は、絶命して床に倒れこんだ!

 突然の事態に、呆然とするもう一人の使い魔。

 その隙に、距離を摘めてそいつに迫る俺!

 そのままボケッとしてる使い魔を、オルーシェを守るマルマの方に飛んで行けとばかりに殴り飛ばした!


「マルマァ!そいつ、食っていいぞ!」

「ウヘヘヘ、いただきマンゴスチン♥」

 飛んでいった使い魔を華麗にキャッチしたマルマは、舌なめずりしながら下卑た笑みを浮かべている。

 子供の教育に悪いから、おおっぴらにはヤルんじゃねぇぞ!

 そう一応は注意して、俺は投げた剣を拾い上げた。

 これで……残るはライゼンのみ!

 有利な状況から一転、急展開で追い詰められた魔族の幹部は、憎々しげな目で俺を睨んでいた。


「おのれ……人間風情があ!」

 激昂しながら吠えたライゼンの姿が、突然消え失せる!

 いや……俺達の頭上を、絶えず超高速移動しているために消えたように見えるだけか!?

 致命傷ではないものの、深手には変わらないのにあの傷でよくやるぜ。

 おっと、敵ながら感心してしまうが、それどころじゃないな。

 俺は、奴が繰り出すであろう最速の攻撃に備えて意識を集中する……。

 だが!


「!?」

 奴の殺気が向かうのを感じた!

 俺ではなく、オルーシェの方にっ!

「厄介なダンジョンモンスターではなく、マスターを斬れば問題ないわ!」

 しまった!

 それに気づかれたか!

 しかも、戦闘力においてマルマじゃライゼンに太刀打ちできない。

 仮に、マルマが抱きかかえている使い魔共々オルーシェの盾になったとしても、ライゼンの最速の剣は三人をまとめて真っ二つにしてしまうだろう!

 慌てて俺もオルーシェを守ろうと、駆け出すが……。


「遅い!」

 ライゼンは、すでにオルーシェを攻撃範囲に捉えていた!

 彼女を両断せんと、剣閃が走る!

 ──しかし、その刃がオルーシェに届く事はなかった!

 突然、床の一部が盛り上がってオルーシェの前にたちはだかり、ライゼンの剣を受け止めてその流れを剃らしてしまう!


「なっ!?」

「ええっ!?」

 な、何をしたんだ、オルーシェさん!?

 驚愕する俺とライゼンに、オルーシェはドヤッとした顔でクイッと眼鏡を持ち上げた。

「悪いけど、ここも(・・・)ダンジョンの一部(・・・・・・・・)。そして、ダンジョンの中では私への防御機構が働く!」

 フフーンといった自慢気な顔をしつつ、チラチラと俺にすごいでしょと視線でアピールしてくるオルーシェ。

 ああ、もう大したもんだ。


「ええい、どいつもこいつも!」

 渾身の攻撃を受け流され、疲労の色が見え始めたライゼンは、悪態をつきながらまた上空へ移動する。

 防御こそされたものの、上空(そこ)が安全地帯だと思っているんだろうな。

 だが、動きが鈍ってきた以上いつまでもあると思うな、安全地帯!


 俺はまるで弓を引くかのように、水平に寝かせた刀身を奴に向けて突きの体勢をとる。

 その体勢から、先ほどのように投擲する訳でも無さそうな俺に対して、その意図が読めない全員が困惑したような視線を向けてきた。


 ──かつて、俺が冒険者として活動していた頃。

 ソロがメインだった俺は、あらゆる敵に対抗できるように、剣技を磨いた。

 そして、これが空を飛ぶ飛竜(ワイバーン)どもに対して編み出した、我流剣技のひとつ!


「我流・雀刺し!」


 身体能力を強化しながら、闘気を乗せた刃を突き出すと、大気を抉る不可視の突きが上空にいるライゼンを穿ち、天井を貫いた!


「がはっ!」

 さすがに体に穴が空く前に身をそらしたようだが、それでも大きなダメージを負ったライゼンが、カトンボのように落ちてくる。

 そのまま床に落ちた魔族は、ピクピクと痙攣しながらも起き上がってくる気配はなかった。

 それを確認して、俺も大きく息を吐き出す。


「し、死んだのですか?」

 剣士が上空にいる敵を撃ち落としたという事実が理解しがたいと言わんばかりに、変な目で俺を見ながらマルマが問いかけてくる。

「いや、奴には色々と聞きたい事があるからな。少し手加減はしておいた」

 本気の一撃だったら、たぶん奴の胴体が消し飛んでいたかもしれない。

 そう言うと、(なんなのこの人……)といった風に、ますますマルマの俺を見る目が変な物になっていった。

 失礼な。


「まさか、空の敵を倒すなんて、ダルアスは凄いね!」

「だろう?」

 素直に感心してくるオルーシェはかわいいなぁ。

 頭を撫でてやると、はにかみながらされるがままになっていた。


「それにしても、剣士なのによくあんな技を編み出したね」

「まぁ、必要に駆られたってのが大きな要因だが……知り合いのエルフが、弓でポコポコ飛竜を落としてたのが悔しかったってのもあるな」

「なるほど……さすが、私の相棒」

「そんな子供みたいな理由……」

 感心するオルーシェとは対称的に、マルマは呆れたような顔をする。

 嫌だね、これだからスレた大人は。

 もう少しオルーシェのように、素直な気持ちを持ってもらいたいものだよ


「あ……う……」

 その時、ライゼンの呻くような声が漏れ聞こえてきた。

 まだ意識は戻っていないようだが、せっかく加減したのに死なれても困るな。


「マルマ、ライゼンを手当てしてからこいつらが何を企んでるのか、聞き出してくれ。手段は任せる」

「ウヒ♥かしこまりました♥」

 ニチャリ……と湿った笑いを浮かべて、マルマはさ先ほど捕まえた使い魔ごと、ライゼンを別室へと運んでいった。


           ◆◆◆


(う……)

 意識が暗闇から戻ってくる。

(ここはいったい……私はどうなったのだ……)

 おそらく、あのダンジョンモンスターに負けた……その事は覚えている。

 致命傷かと思っていたが、まだ自分は生きていたようだ。

(おのれ……ダルアスとかいったな……必ず復讐してやるぞ)

 再戦に向けて、憎悪の炎を燃やすライゼンだったが、自分の体が動かないという違和感に気づいた。


(ぬ……)

 モゾモゾとわずかに身動きできる事から、麻痺しているのではなくて縛られているのだと状況を把握する。

 そういえば、目を開けたのに周囲が見えないのは目隠しがされているためか?

 おまけに、口には猿轡まで噛まされているようだった。


「むぐっ!んんっ、おうっんん!」

「あらぁ?お目覚めになりましたか?」

 誰かいないかと、声を発しようとしたライゼンの耳に、妖しい女の声がとどく。

 これは……あのシスターに化けていた、サキュバスの声か。

 そう理解していると、ライゼンの目隠しが取られ、視界が広がる。

 そして、そんな彼を覗き込むようしてマルマの顔が視界の端から現れた。

 しかし、その表情は妙に艶っぽく上気しており、わずかに汗ばんだ肌は匂い立つような色気を放っている。


「おはようございます、ライゼン様。傷の具合はどうですか?」

 まるで、獲物の品定めをする獣を思わせる目でライゼンを見おろしながら、マルマはペロリと唇に舌を這わせた。

 その妖艶な仕種に、ライゼンはゾクリとした悪寒を感じて、思わず身動ぎする。


「ウフフフ……怖がらなくて結構ですよ。これから、楽しくて気持ちいい拷問の始まりですから♥」

「んんっ!んんんんっ!」

「あらあら……」

 猿轡を噛まされたライゼンが何かを訴えている様子なので、マルマはそれも取り払う。

 口元が自由になったライゼンは、ぶはっ!と大きく息を吐いてから捲し立てた!


「貴様、ここはどこだ!私に、何をしようとしている!」

「ここはワタクシのプライベート部屋で、これから貴方様には色々と尋問させていただきます。さっきも言いました通り、気持ちよすぎて苦しい拷問ですから楽しみにしてくださいませ♥」

「な、何をする気だ……」

「ナニをする気ですぅ♥」

 ねっとりと笑うマルマに、再び悪寒が背筋を這い上ってくる。

 そうだ、サキュバスのやる事など決まっているではないか。


 しかし、相手の取る手段がわかっているならなんとでも耐えられる!

 ここは屈辱を堪えながら、脱出の機会を待つのだ!

 己にそう言い聞かせ、覚悟を決めたライゼンに対して、マルマはそっと彼の耳元に口を近づけて、囁いた。


「そういえば、ライゼン様の疑問にお答えしておきますね」

「私の……?」

 なんの事か一瞬わからなかったが、「マルトゥマという方について……」と囁かれて、ハッとなった!


「やはり、奴と繋がっていたか!あいつは今、どこにいる!」

 吠えるライゼンに、マルマはにこやかに微笑んで自分の顔を指差した。

 その意味がわからず、ライゼンが首を傾げていると、マルマは衝撃の事実を口にする。


「ワタクシ……ワタクシが、元マルトゥマでございます」

「…………はあぁぁっ!?」

 思わず変な声が口を突き、ライゼンはまじまじと目の前のサキュバスを凝視した!

 ……どこをどう見ても、マルマとマルトゥマでは似ても似つかない!

 そもそも、性別が違うではないか!

 ライゼンの顔に浮かんだ疑問に答えるため、マルマは口を開いた。


「ワタクシはマスターにお願いして、魔族のマルトゥマからダンジョンモンスターのマルマへと生まれ変わったのです」

「なっ……にっ……」

 あり得ない話ではない。

 しかし、わざわざ魔族の頑強な肉体を捨て、サキュバスになど生まれ変わろうなど、頭がおかしいとしか考えられなかった。

 いや、マルトゥマが魔王軍から追放された経緯を思えば、奴ならやりかねないという考えも浮かんでくる。


「さぁ、疑問が無くなってスッキリした所で、ライゼン様も色々と吐き出してスッキリしてくださいませ♥」

「や、やめろぉ!お前は男だろうがぁ!」

「元・男ですわぁ♥」

 動揺するライゼンの心の隙を狙い撃ちするように、マルマが彼の体に覆い被さる!

 さらに、激しく責めるような熱のこもったマルマの奉仕と、甘く淫らな声に合わせて湿った肉体のぶつかり合う音が響いていく!

 初めはライゼンの抵抗する声が聞こえていたが……やがてそれは喘ぐ声へと変わり、淫気に満ちた部屋の闇に溶けていくのであった。

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