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06 裏組織の長

 さて……『ジュエル・トルピス』の連中に辱しめを与えつつ放逐した訳だが、次は今回のように上手くはいかないだろう。

 これからオルーシェと打ち合わせをしながら、本格的な敵の襲来に備えなければなるまい。

 溜め込んだダンジョンポイントと俺の経験をつぎ込んで、さらに強固なダンジョンを構築せねば!


 ……なんて思っていた、それから三日後。

 俺達の眼前……というか、ダンジョンの入り口前には、二百人近くの魔術師達と百人近い冒険者風の連中の、合計三百人にものぼる集団が集まり、取り囲んでいた!


 えええっ!?

 まだ三日しかたってないのに、リベンジに来るのが早すぎやしないか?

 奴等の往復と準備の期間を考えても、二十日はかかるとふんでいたのに……。


「……答えは、たぶんあいつ(・・・)

 ダンジョン・コアが写し出す入り口付近の映像を眺めていたオルーシェが、睨むように一人の人物を指差す。

 そこにいたのは、どことなく気位の高そうな雰囲気を纏う、初老の男。

 集団の先頭に立って、あれこれと指揮しているあいつは一体……。

「あいつが、ディルタス王国魔導機関の暗部、『ムーラーレイン』の最高責任者……バスコム!」

 裏組織の最高責任者……ってことは、オルーシェみたいな子供達を実験動物みたいに扱っていた連中の元締めか!


「ここまで早く戻って来れたのは、おそらくあいつが転移魔法を使ったから」

「転移魔法!? そりゃ、相当な魔力と緻密なコントロールが必要なやつじゃないか!?」

 俺が生きてた当時でも、転移魔法の類いを使えたのはほんの数人しかいない。

 それをこの現代に……しかも、数百人もの集団を転移させるなんて、どれどけ馬鹿げた奴なんだ!

 俺がそんな風に驚愕していると、オルーシェはその種明かしをしてくれた。


「たぶん組織の魔術師を動員して、足りない魔力を補ったんだと思う」

 なるほど、そういう事か。

 しかし、それでも他人の魔力を利用して魔法を発動できるなんて、ヤバい野郎である事に違いはない。

「あいつは……バスコムは、他の人達とは格が違う。油断はできない」

 確かに、な。

 バスコムとかいう野郎ださからは、俺が生きていた頃の冒険者みたいな、危険で力強い雰囲気のような者を感じる。

 つまり、相手にとって不足はないという事だ!


 そんな敵の一行に鋭い視線を向けていたオルーシェだったが、不意にバスコムがこちらを向いた瞬間、ビクリと体を震わせた。

 もちろん、向こうからこちらは見えていないのだから目が合った気がするのは偶然なんだが、それでもこんな反応をしてしまうくらい、オルーシェにとって奴の存在はトラウマらしい。

 そんな事を考えている間にも、バスコムは集団から歩み出て、静かながら重みのある声で語りかけてきた。


「久しぶりだな、実験体十七号……我々の元から逃げ出したお前を捕らえるため、わざわざ私が出向いてやったのだから、光栄に思うがいい」

 威圧感のあるバスコムの態度と声に、いつのまにかオルーシェはガタガタと震えはじめていた。

 ヅなんとかや、『ジュエル・トルピス』の連中の時とは比べ物にならない怯えっぷりに、バスコムとやらにどんな目に会わされてきたのかが伝わってくるようだ。

 だが!


「おいおい、何をビビってるんだオルーシェ?」

 俺はわざと明るく努めて、彼女の背中をポン!と叩く。

 ハッとしたように俺を見上げたオルーシェに、大丈夫と言わんばかりに笑顔(?)を見せながら、俺はある提案をしてやった。


「敵の大将が(つら)ぁ見せたんだ、リベンジのチャンスじゃねぇか。せっかくだから、こっちからも挨拶してやろうぜ!」

「え?え?」

 戸惑う彼女を横に、俺は自分が提案した挨拶(・・)をすべく、ダンジョン・コアに声をかけた。

「おい、コア。俺達の姿を、奴等の前に写し出せたりするか?」

『可能です』

「んじゃ、頼むわ」

『……よろしいですか、マスター?』

 お堅いコアの奴は、オルーシェにお伺いを立てる。

 少しおろおろしていた彼女だったが……頷く俺を見て、覚悟を決めたようだ。


「お、おねがい!」

『了解しました』

 そんなコアの声と同時に、映像に映る連中が驚いたような表情をみせる。

「あー、これもう繋がってる?」

『はい。入り口付近の者達の前に、マスター達の姿を投影しています』

 ほうほう……試しにピースなどをしてみると、向こうの奴等がまたざわつく様子が見えた。

 よし、大丈夫みたいだな。

 コホンとひとつ咳払いをしてから、俺はダンジョンに集まった侵入者どもを前に声をかけた!


「わざわざ、よく集まってくれた雑魚ども!言っておくが、このダンジョンはA級冒険者ですら全滅必死の難易度だ!一応は忠告しといてやるから、命がおしけりゃとっとと尻尾を巻いて逃げるんだな!」

 バスコムに動員された魔術師達はともかく、集められた冒険者らしき連中には一度くらい命を拾うチャンスを与えてやるべきだろう。

 これも、冒険者の情けというものである。


 だが、そんな俺の温情もむなしく、冒険者達から脱落する者は皆無だった。

 むしろ、俺に対して「なに言ってんだ、この骨野郎!」とか、「犬の餌がでけぇ口叩くな!」とか罵ってくる始末である。

 んんん……その心意気や、よし!

 忠告を無視されてムカつく気持ちもあるが、冒険者ってのはこうでなくちゃな!って嬉しくなるのもまた事実。

 現代の冒険者はクズが多いとはいえ、こういう向こう見ずな荒くれ者を見ると、昔を思い出してほっこりするぜ。

 まぁ忠告はしたし、ここから先は生きるも死ぬも自己責任だ。

 死んだらありがたくダンジョンの糧にしてやるから、精々がんばるんだな!


 さて、俺の方はこれで満足だが、オルーシェは……。

 憎き魔導機関の長に対して、煽りのひとつもかましてやったのかと思いきや、何やら無言で睨み合いを続けている。

 いや……睨み合いというよりも、虎と向かい合った子猫って感じだな。

 辛うじて対峙してはいるが、足は小刻みに震えているし、すっかり畏縮してしまっているようだ。


「そちらから姿をみせるとは、好都合だ……さっさと戻ってこい、十七号」

 ギラリと鋭い視線を送りながら、バスコムが威圧する!

「い……いや……っ!」

 それに対して、怯えながらもオルーシェは拒否する声を絞り出した。


「……なんの偶然か知らんが、実験体風情がダンジョンマスターになり、護衛の骸骨兵を得て調子に乗ったか?」

「わ、私はもう、実験体じゃないっ!」

「黙れっ!貴様は我々の……いや、私のための道具に過ぎんのだ!分を忘れて逆らうなど、許される訳がない!身の程をしれっ!」

「いい加減にしろよ、このロリコン野郎!」

 怒鳴り散らしたバスコムの野郎にカッとなった俺は、オルーシェに代わって間に入った!


「さっきから聞いてりゃ、えらくオルーシェに執着してるじゃねぇか!端から見てると、重度のロリコンにしか見えねぇぞ?」

「黙れ、死に損ない。貴様こそ、そんな小娘に仕えるなどロリコンの所業ではないのか」

「俺はお前らと違って、まっとうな倫理観を持ってるからな!助けを求める子供がいたら、力を貸すのは当たり前だっつーの!」

「舌もないくせに、よくもペラペラと口の回る……」

 憎々しげに吐き捨てるバスコムと、それからしばらく言い合いになったが、やがて奴の方から話を打ち切ってきた。


「これ以上、くだらん問答は不要だ!総員、突入準備!」

 やかて、話を打ち切ったバスコムの号令一下、十人程度にチーム分けされて小隊が形成されて、ダンジョン入り口に並び立つ!

 あとは時間差をつけて、突入してくるといった感じか……上等だ!


「待っていろ、十七号。すぐに行くからな」

 ニヤリと笑うバスコムに、ビクリと身を震わせたオルーシェだったが……。


「う……うるせー、ばーか!」

 小刻みに震えながらも、バスコムにむかって中指を立て、虚勢を張ってみせた!

 ふはは、いいぞオルーシェ!

 バスコムの野郎も固まってらぁ!


「……再教育は厳しめにいくからな」

 ビキビキとこめかみに血管を浮かび上がらせて、バスコムはスッと手を挙げる。

 そして、それを皮切りの合図とし、敵はいよいよダンジョン内へと侵入を開始するのだった!

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