通りすがりの名探偵
「さて、それでは灰色の脳細胞が看破した今回の事件の真相を、今から全て包み隠さずお話ししましょう。え、私ですか? ふふっ、ただの通りすがりの名探偵ですよ」
(また姉のいつもの悪い癖が始まってしまった……)
溜息をつきながら、私は仕方なく彼女の推理に付き合うことにしました。集められた関係者達は皆一様に口をポカンと開けたまま固まっています。
「まずは内側から鍵が掛けられた部屋で被害者がめった刺しにされた密室のトリックですが……あれは特に気にする必要はありません。べ、別に仕掛けが分からなくて誤魔化している訳ではありませんよ!」
明らかに目が泳いでいる姉。彼女は誰に弁解しているつもりなのでしょう。
「だって密室だろうがなんだろうが、人が殺されたってことには全く関係ないですよね? そもそもナイフで背後から何ヵ所も刺されているので自殺じゃないのは確定です。だから大事なのはどうやって殺したかより誰が殺したかなんですよ」
サスペンスドラマの脚本家からクレームが殺到しそうなトンデモ暴論を振りかざす姉には誰しも閉口してしまいます。この場で彼女に異を唱えることができるのは私ぐらいですが、そんなことをすればご機嫌を損ねて面倒なことになるのは明らかなので、事なかれ主義の妹は沈黙を貫くことにします。
「さらに動機や証拠、これも頼りになりません。人の心なんてコロコロ変わるものですので、誰だって時と場合により殺人者になりえますし、こんな回りくどい方法で人を殺める用心深い犯人が、そう簡単に証拠を残すはずがありません」
捜査行為を全否定するようなまさかの発言が飛び出しました。
「それではどうやって犯人を捜すのか。ここで皆さんに思い出してほしい大原則があります。『悪そうなやつは大体犯人じゃない』『親切で優しそうなやつは結構怪しい』『第一発見者は6割ぐらい犯人』そして『怪我や病気で犯行が無理そうなやつはほとんど仮病』! これらのルールを今回の事件に当てはめたとき、自然と一人の容疑者が浮上するのですよ」
推理と呼ぶにはあまりにも雑で杜撰な独断と偏見を堂々と胸を張り披露する姉。一体どこからそんな自信が沸き上がってくるのでしょう。
「つまり犯人は……」
そこで彼女は右手の人差し指で犯人を勢いよく指し示すと同時に、左手の親指でリモコンの再生ボタンを押しました。
「「神野さん、あなたですね!」」
残念ながら、今日もまた画面の中の名探偵と綺麗にハモることができなかった姉は「はああ!? 何でそうなるのよ!!」と大人げなく逆切れしています。
それから本物の名探偵により、理路整然とした見事な推理が披露されている間、ひたすら無理のある難癖をつけて彼を罵った後、結局いつも通りソファーでふて寝してしまいました。
我が家の通りすがりの迷探偵が華麗に事件を解決する日が訪れるのは、まだまだ先になりそうです。




