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9  魚捕りとルーンベルの魔術

「さーかな、さかなー」


 ワンピースをたくし上げたチランジアが、川の中をぱちゃぱちゃ走り回って魚を追い立てている。


 魚を捕る場所は、この前ゴブリンの死体が浮いてたところよりも更に上流のポイントだ。


 捕る方法は予想はしてたけど手づかみだった。川にはかなりの数がいるので、やってみると意外と捕れる。

 最年長二人の片割れ、ハルトマンが得意にしていて、朝からやって岩魚っぽい魚を大量に捕まえている。私も負けないくらいの数を捕まえた。他のメンバーは追い込み係だ。

 

 火を起こしたりはできないので、食べるのは帰ってからだ。

 そもそもここらでは一日二食が基本で、お昼は食べる人は軽食、食べない人は食べない、という感じだ。

 孤児院ではもちろん食べない。外に出ているわたしたちも、季節次第で木の実やベリーにありつける程度だ。


 水はまだ冷たいけれど、もう夏の初めだ。気温は結構高い。

 そのまま水浴びタイムになった。

 孤児院だと、小さい子を洗ってあげたりと色々大変だけど、この場ではそういったものはない。採集組の特権だ。


 男の子組はもう少しだけ下流の深いところで。

 女の子組はもう少し上流で。

 潜って頭と全身を手で軽くこする。その程度だ。

 一緒に服も洗う。

 もちろん、石鹸なんてものは持って来ていない。


 テンションが上がったチランジアはそのまま泳いでいた。


 濡れても当たる火はないが、涼しい程度で寒くはない。そのまま、岩の上で少しだけ乾くのを待てばいい。

 後は歩いていればすぐに乾くだろう。


 わたしは尻尾があるから、みんなより乾くのに時間がかかる。

 バランスをとったりには便利なんだけど、こういう時には面倒だ。




 夕食が終わると、泳いでいたチランジアは疲れていたのかすぐに眠ってしまった。

 こちらは同じく力尽きそうなルーンベルと魔力操作の訓練だ……と言っても、わたしがやる事は何もないんだけど。


 魔力知覚の時の、いつもと違う魔力の流れの感覚を思い出しながら、魔力を動かす。

 動かす感覚を覚えたら、後は自在に動かせるよう練習を繰り返していく。


 わたしは手持ちぶさただ。先に寝てしまうのもかわいそうなので、ルーンベルの髪を櫛でといている。

 木でできた櫛は、ずっと使い回されていて表面はつるつるになっている。


 ルーンベルの金色の髪は、背中の中ほどまである。さらさらしていてきれいなのだけど、そろそろばっさり切られてしまう予定だ。

 切られた髪は売り払われ、いずれ来る独り立ちの時の支度金へ化けるのだ。


 最後にルーンベルは大地神アウラへ感謝のお祈りをして今日の練習を終えた。




 さて、そんなこんなしている間に秋になった。

 ずっと採集に出ているので、なんとなく体力がついてきた実感がでてきた今日この頃。

 チランジアは小さい子達と遊んでいる。


 魔力操作の練習を始めようとしているルーンベルに声をかける。


「ベル、そろそろ実際に魔術を使ってみようか」

「ほんと!? ……でも、まだうまく魔力を集めれてないと思うんだけど」

「うん。まだそっちも続けてもらうけど、ある程度はできてるから、そろそろ並行してやっていった方がいいかなって」


 魔力操作の訓練は地味だ。

 同じことばかり続けるのも飽きてくるだろうし、そろそろ目に見える成果があってもいい頃だろう。


「呪文は慣れると省いていけるけど、最初だし、基本に沿ってやろうか」

「魔方陣を使う魔法もあるのよね」

「あるけど、普通は呪文だね」


 術式をその場で描くような者は魔術師でも一握りだ。

 わたしはその一握りの変わり者の方だけど。


「まずは明かりからいこうか」

「どうやるの?」

「魔力を手に集めて、呪文を唱える。魔力が変換されて術を発動するから、余裕ができればイメージしながらかな」

「魔力を集めて、呪文ね」

「慣れるまでは結構難しいよ。呪文も覚えないといけないしね」

「……いろんな魔法を使えるようになるには、たくさん覚えないとってわけね。また大変そう。それで、明かりの呪文は?」

「空に輝く太陽より生まれし光よ。魔力を糧とし、わが手に顕現し闇を照らしだせ。……これを唱えるとイメージうまくできなくても言葉がある程度現象を引っ張ってくれる」


 ルーンベルが返事の代わりに眉毛を八の字にしてため息をついた。

 こんなのを、あとどれだけの数覚えないといけないのやら……とでも考えているのだろう。

 それでも、地属性ほぼ一本のルーンベルは、むしろ覚えないといけない数は少ない方だ。


「……明かりだけなのに結構長いのね」

「大体初めての魔術として習うから、余計丁寧に作ってあるんだよねぇ……」


 実際に使っている姿で見るのは、光れ、とか、明かりよ、とか一言程度だ。もっと短いと思っていたのかな。


 教えた呪文の内容は、程度は不明だけど少なくとも古いものだろう。

 現在なら、もっと合理的な呪文もあるかもしれないが、情報がないので、これに関しては仕方ない。

 孤児院と採集だけの半引きこもりなので、魔術の進歩を知る方法なんてないし。

 

 ルーンベルが何度も繰り返して呪文を確認する。

 

「よし、やってみるね」


 ルーンベルが魔力を手に集めたのをなんとなく感じる。

 そして、呪文を唱え始めるが、一回止めた。

 うまく魔力を保持できなかったのだろう。


 ルーンベルが、息をついて最初から詠唱をやり直す。


「…………照らし出せ」 


 ぼんやりとした薄い明かりが微かに手の平に浮かぶ。


「今、光った?」


 どうやら、ルーンベルの目では光ったかよく分からなかったようだ。


「光ったよ。まだ明るいから見えなかったんじゃない」 

「本当? じゃあ、私魔術使えたの!?」

「うん、使えた。初魔術だね。まあもう少し頑張ろうか」

「う……うん!」


 初めての魔術に感動しているルーンベルに、続きを促す。

 それから何度か練習すると、魔力の保持に少し慣れたのだろう、明るさが増してきた。

 対照的に、周囲は日が沈み暗くなっていく。


 チランジアや一緒に遊んでいた子達も、何かやってるのに気がついたみたいで集まってきた。


「…………照らし出せ」


 ぼんやりと光る。


「光った?」「光ったよ」「光った光った」

「魔術?」「魔法?」「すごいすごい」

「みんな、ベルちゃんに拍手ー」


 チランジアが音頭を取る。

 ぱちぱちぱちー。


「夜にトイレに行きたい時は、これからベルお姉ちゃんにお願いしようね」

「ちょっと、ロロ! まだそんな光らないわよ!」


 やらないわよ、とは言わないのがルーンベルらしい。


「このために明かりの魔術から教えたんじゃないでしょうね」


 あらぬ疑いをかけられるわたしだった。

 無実だよ。


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