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87  おりんの魔獣狩り

おりん視点です。

 ゴブリンを当然のように両断した淡い色の刀身は、今度はオークの腕をさほどの抵抗もなく骨ごと切断した。

 次の一撃で首を落として、息をつく。


「終わったにゃ」


 試し斬りに、と譲ってもらったオークとの戦闘を後ろで見ていたカティアが口笛を吹いた。


 前の短剣もそこらで売っているような代物ではなかったのだけど、今のこれは次元が違う。

 やや長すぎると思えた片刃の短剣は、不思議なほど手に馴染んだ。


 これだけのものを作る創造魔法を使うには、神の力を余さず召喚できる術式とイメージ力が必要だろう。

 限られた伝承や情報、知識をつなぎ合わせて、神の姿を推定する。経験と、それを術式に押し込める技術とセンス。

 一度死んで戻ってきたのに、腕は衰えるどころか更に上がっているようだ。


「いい武器だな、おりん。どこで買った? ドワーフの鍛冶屋か?」

「悪いけど言えんにゃ」

「なんだよ、ケチ臭いな」


 口を尖らせるカティアの尻尾はくねるように揺れている。

 面白がっているようだ。

 気を悪くさせてはいないらしい。


「よっしゃ、もう少し奥まで行こうぜ」


 それが失敗だった。




「やべえぞ、走れ走れ!」


 首から背中、尾の先まで全身に剣のような棘を生やした真っ白な魔獣が後ろから追ってくる。

 カティアはたしか、魔獣をウィンターエッジと呼んでいた。


「よし、なんとか囲まれるのは避けれた!」

「あいつら、強いのかにゃ!?」

「二体までならなんとかってとこだ! 森の中じゃなければだけどな!」


 Bランク冒険者のカティアでそれなら、自分も一体は相手できるだろう。

 そうなると、三体が二人でなんとかできる限界ラインになる。


「それで、何体来てるにゃ!?」

「わからんが五はいるっ!」


 森の途切れる方を目指す。

 魔獣は足場の悪い森の中を、刃だらけの巨体のくせに、なめらかな動きで疾駆してくる。

 あの身軽さとしなやかさなら、森の中でも三次元的に動けるだろう。


「これ、逃げ切るの無理にゃ!」

「ここで相手するのはもっと無理だ!」


 言い合いながら走るうちに、森が途切れて丘のような場所に出た。

 後ろを振り返る。


 イヌ科を思わせる鼻面に、鋭い牙が並んだ顔が見える。一噛みされれば半身は持っていかれそうだ。


「何体きてるにゃ!?」

「……七だっ!」


 カティアが断定する。

 カティアは狩猟の神から祝福を受けていて、加護を持っている。

 信用していいはずだ。


「切り札を使うから、覚悟決めるにゃ!」

「わかった! それで、どうすんだ!?」


 魔法の鞄(マジックバッグ)から、いつも使っていたものより一回り大きいクロスボウを取り出した。


 足を止めて振り返る。

 じっくりと狙いを定める暇はないが、的も大きい。

 自分の体毛の頑丈さに自信があるのか、魔獣の動きには変化がない。


 引き金を引くと、通常のクロスボウとは段違いの速度で矢が射出された。

 刃状の硬そうな毛をへし折り、砕いて、肩口に正面から矢が突き刺さる。


 それから一拍おいて、矢が轟音と火の粉をあげて爆発した。


 上半身が吹き飛んだ一体が、そのまま倒れ込む。

 一瞬、他のウィンターエッジも動きを止めた。


「やったぜ! いいぞ!」

「走るにゃ!」


 しまうのももどかしく、クロスボウを投げ捨てると、走りながら同じものをかばんから取り出す。

 仲間を仕留めた攻撃に、警戒した魔獣たちの追跡速度は目に見えて落ちたが、それでもこちらより速い。


 振り返って構え、引き金を引く。

 やや狙いがずれた。

 おまけに、警戒していた魔獣は矢が到達するまでの一瞬でわずかにその体をひねった。


 かすめて横を通り過ぎたと思ったが、矢はなんとかその尻尾の先を捕らえて突き刺さってくれた。

 

 刺さった矢をなんとかしようとしたのか、ウィンターエッジが尾を地面に叩きつける。その瞬間、やじりが爆発した。

 尻尾のいくらかと後ろ足の一部を失って、その一体は地面に倒れこんだ。


 尻尾はやはり硬いようだ。あの魔獣の武器なのだろう。


 二体を仕留めたが、距離は大幅に縮まっている。

 クロスボウを再び投げ捨てて、マジックバッグから黒鉄の魔剣を取り出した。


「突き刺せにゃ!」


 地面を切り裂くように振るうと、黒い影が草の下、地面を一瞬で駆けていった。 

 突然足元前方の地面から生えた、グリフォンも突き通す魔鉄の刃にウィンターエッジは反応できなかった。


 走る勢いそのままにノドも心臓も串刺しになって、強制的に足を止められた二匹がわずかにもがく。

 そのまま痙攣した後、静かに動きを止めた。


 ――残り三体!


「打ち止めか!?」


 カティアが腰から武器を引き抜く。 


 一瞬、温存するか迷って躊躇した。

 いや、ここは安全を優先しておこう。


「もう一手にゃ!」


 竜をかたどった、雷の力を秘めた杖を構えた。


 三匹が絡み合うような動きで、正面から襲いかかってくる。

 狙いを定めさせないための連携なのだろうが、今回はそれが裏目に出た。


「まとまって来るなんて、大間抜けにゃ」


 差し出した杖先から雷撃が荒れ狂い、視界が真っ白に染まった。

 目の前まで迫っていた魔獣たち相手に、完全に目を閉じる度胸はなく、目を細めてなんとかしのぐ。


 数を減らすための攻撃だったはずが、数瞬後には、残りのウィンターエッジは三体まとめて黒焦げの死体へと姿を変えていた。


 すぐに特製のクロスボウをもう一つ取り出すと、落ち着いて後ろ足に深手を負ってもがいている個体に狙いを定めた。


 静かになった魔獣の群れに、ようやく息をつく。


「ふう、なんとかなったにゃ」


 最後の一体は、買取価格が下がりそうなので短剣でトドメを刺した方がよかったな……。

 つい片付けることを優先してしまった。


 力を失ってから、少し慎重になりすぎてるかな。


「すげえな、お前! 私の出番がなかったぜ! こんな隠し玉があったなんて、これならおりんもBランクだってすぐだぞ!」


 興奮した様子でカティアが肩を叩いてくる。

 半眼になって、足元に投げ捨てていたクロスボウを拾い上げた。


「冗談じゃないにゃ。切り札、奥の手、全部ばらまいて……こんな狩り方してたらすぐにお陀仏にゃ」

「そうか? そういうスリルがたまんねえんだろ」

「私はそういう趣味はないにゃ」


 黒焦げの死体をマジックバッグに収納し、最初に投げ捨てたクロスボウや他の仕留めたウィンターエッジを回収に向かおうとしたところで、後ろからカティアが叫んだ。


「もう一体来るぞ!」


 ほとんど同時に、木の葉が揺れる音がして、一際(ひときわ)大きいウィンターエッジが森から飛び出してきた。


「嘘つき! 八いたにゃ!!」

「こんな離れてるやつまでわかるか!」


 後方からカティアの言い訳が聞こえてくる。


 短剣と一瞬迷ってクロスボウを取り出すも、すでに距離を詰められている。


 大きいだけでなく、動きも今までの個体より数段速い。

 もう狙いをつける暇はない。ウィンターエッジは目と鼻の先だ。


 矢を撃ち出すのと同時に、転がるように体を投げ出した。

 前足の爪が、さっきまでいた空間を切り裂く。


 適当に放った矢は、魔獣の後ろ足をわずかに(えぐ)ってそのまま刃毛をへし折りながら後方へ抜けた。

 通り過ぎた矢が、衝撃に反応してウィンターエッジの後ろで炎を撒き散らす。

 ウィンターエッジの吠えた声と、爆発音が重なった。


「こいつはもらうぜ!」


 爆発の衝撃に踏ん張って耐えた魔獣は、一瞬動きを止めている。

 そこに正面からカティアが飛び込んだ。


 迎え撃つ魔獣が、尻尾で周囲をまとめてなぎ払ってきた。

 一瞬早く後ろに飛んで難を逃れる。


 巨大な棘だらけの尻尾が、風切り音と共にカティアを襲う。

 迫り来るウィンターエッジの必殺の一撃に、カティアは地面を舐めるような体勢で、尻尾と地面のわずかな隙間に強引に体をねじ込んだ。


「くたばれ!」


 尾の一撃をかいくぐって接近したカティアが、即座に棘の無い顎下から頭部へ向かって刃を突き立てる。

 脳を破壊された魔獣の体がビクンと跳ねた。


 命の尽きた巨大な魔獣から力が抜けて、今度こそ最後の一体も動かなくなった。


「あーあ、こりゃもう駄目だな」


 尾の攻撃を避ける際にかすめただけなのに、カティアの腕の防具はズタズタに切り裂かれて使い物にならなくなっていた。

 腕には傷を負っていないので、かろうじて役目は果たしたようだ。


「これ以上来られたら困るにゃ。早く帰るにゃ」


 獲物を回収して川まで戻ると、さすがにホッとした。

 そのまま、予定より早くカティアと共に王都へ向かう舟へと乗り込んだ。


もう一話おりんとカティアの話が続きます。


この場を借りて、お読みいただいた方々、ブックマーク、ご評価いただいた方々にお礼申し上げます。

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― 新着の感想 ―
[一言] >冗談じゃないにゃ。切り札、奥の手、全部ばらまいて 大赤字な戦術だしねぇ 命が尽きるのが先か資金、というかロロの溜め込んだアイテムが尽きるのが先か
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