表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/214

86  チランジア、キノコイヌを倒す

 ゴブリンの首元をチアの剣が通り過ぎていった。


 何が起こったのかわからなかったのだろう。

 きょんとしたゴブリンの頭が地面に落ちて、胴体は飛びかかった勢いのまま倒れ込んだ。


「やった……けど、ロロちゃん剣どうしよ?」


 ぽてぽてと戻ってきたチアが、血のついた刃を差し出す。

 足にくっついているシリカちゃんの体が硬くなった。


「ほい、洗浄」

「ありがとー。他にもいるかな?」

「多分、生まれたての単体だから大丈夫」

「生まれたて? それで、あれは?」


 チアがゴブリンの死体を剣で指す。


「どうするの? 魔石探す?」

「死体は基本、魔石を取って埋めるか燃やすかだね。今回はシリカちゃんもいるから、あとで始末しようか」


 子供の前でスプラッタ展開は避けておこう。


 シリカちゃんをおじいさんに渡して、死体をストレージに入れる。

 地属性魔術で土をかぶせて血の跡をおおった。


「はい、もう大丈夫。いなくなったよ」


 シリカちゃんが、目をゴブリンの死体があった辺りに向ける。

 そこには、何の変哲もない地面があるだけだ。


 畑に戻り、端にある倒木に腰掛けると、ストレージから取り出した飲み物を全員に勧める。

 シリカちゃんはおじいさんのひざの上にのっている。


「ふう。いやあ、びっくりしたのう」

「怖かった……あ、甘ーい」


 渡したのはジュースだ。


「それでロロちゃん、生まれたてってどゆこと? 親が近くにいないの?」


 一度脇に置いていた疑問を、チアが改めて尋ねてきた。


「正確には、発生って言うんだけどね。ある程度の瘴気と材料になる死体があれば、魔物が自然に生まれてくることがあるの」

 

 神々と対になる存在の悪魔に祈りを捧げ、その祝福を得ているからだと言われているが、はっきりとはわかっていない。昔からそういうものなんだとされている。

 だから死体は焼くか、しっかり埋めておくのだ。


「へー。じゃあウサギっぽかったのは……」

「うん、ウサギの死体から発生したから。一番よく見るのはウサギだね」


 サイズと生息数的な問題だろう。


「子供だと思っとったのに、あんたら強いんじゃのう。これなら、林のキノコの収穫もしてしまえそうじゃな」


 まるでキノコの収穫に危険が伴うような言い方だ。

 林にイノシシでも出るのかな。


 ゴブリンがやってきた林の方へ向かいながら、おじいさんが続ける。


「ゴブリンがキノコの縄張りに入っていれば手間が省けたにのう。起きてきたら、殴って気絶させとくれ」


 ん? キノコの縄張り?


「キノコって起きるの?」

「さあ……?」

「キノコイヌと言うてな。見た方が早いじゃろう。まっすぐ走ってくるから殴ってやってくれ」


 疑問符を浮かべている間にも、おじいさんはガサガサと音を立てて奥に入っていく。


「ほれ、そこじゃ。こちらに気付いて、もう起きるからな。シリカは下がっとれよ」


 そこには大きなキノコの傘が鎮座していた。


「へ?」


 ずもももも、と音を立てて、土を落としながらそのキノコは短い四本足で立ち上がった。

 小さな耳のような出っ張りのある傘の下には、ずんぐりした体があった。つぶらな瞳が並んでいる。


 ……ええと、マンドラゴラの亜種かな?


 考えている間にも地面から出てきたキノコ(?)は、体を振って土を落とすと、一直線にこちらに突進してきた。


「えいっ」


 チアが走っていって、鞘に入ったままの剣で巨大なキノコを正面から殴り飛ばすと、キノコはそのままあっさりと目を回した。


「これ……食べるんですか?」


 外見的に、ちょっと食べにくいな。


「こいつは、こうするんじゃ」


 おじいさんが帽子のようにかぶった傘の下に(なた)を差し込むと、そこからぺりぺりと音を立てて、傘が外れていく。

 二、三か所切り込みを入れると、傘が剥がれた。


「この傘を食べるんじゃよ」

「本体(?)は、どうするんですか?」

「目が覚めたら自分で土に潜るんで、放っといて大丈夫じゃ。傘がまたできる来年まではそのままじゃよ」


 どうやらこの林自体、キノコイヌの栽培用だったようだ。

 ゴブリンの時の林まで逃げればなんとかなるというのは、このキノコに倒してもらうという意味だったわけか。


 しかし、初めて見たぞこんなの。キノコの変異種……? 妖精系?

 家でうまく配置して育てたら番キノコとかになりそうだな。


 何ヶ所も回って、チアが殴り飛ばしてはキノコイヌを気絶させて収穫する。気絶しなくても、一回殴られるとおとなしくなるようだ。


「ロロちゃんもやってみる?」

「吹き飛ばされそうだからいいや」


 わたしがやるなら、風の塊を飛ばしてぶつけるとかになる。

 ここはチアに任せてしまおう。


 目を回したキノコイヌの傘の下にナイフを差し込む。

 この剥がれる感じはなかなか癖になるな。

 キノコイヌの湿った短い毛の手触りも、ひんやりとしていい感じだ。


 最後に一つキノコイヌの傘を買い取らせてもらった。

 イヌガサと呼ぶらしい。


 早速、夕ごはんのスープに投入してみた。


 肉厚なイヌガサは食感がよく、味はあっさりめで食べやすい感じだった。

 きのこ臭ではない、独特な匂いがかすかに香る。

 嫌な匂いではないけど、どこかで嗅いだような……


「ロロちゃんの尻尾の匂いと似てるね」

「え?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ