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85  チランジア、ゴブリンを倒す

 朝、新しく作った服に着替える。

 そう言えば、昨日着てないから私が袖を通すのは初めてだ。


 ちょっと前世の制服っぽいデザインだな。

 蜘蛛神様はデザインの守備範囲が広いな。まるで地球の知識まで持っているみたいだ。


 スカートの下は絶対領域。それから猫パーカー。

 フードに描かれたのんびりした顔の猫は、アザラシスライムを見たあとだと、それっぽくもある。

 当のアザラシスライムは今日もお風呂をのたのた這いまわって掃除というか、本人的には食事をしている。


 チアはスカートにロングブーツ姿だ。


「かわいい、かわいい」

「手甲はいらないよね?」

「さすがにね」


 服の確認や慣れるための一環だけど、武装して農作業はおかしすぎるのでほどほどの格好にしておこう。


「じゃあ、出かけよっか」


 おりんの出発はもう少し遅いので、まだネコ姿のままベッドで眠っていた。


 王都の門のそばで依頼人と合流する。


「よろしくお願いします」

「おお、引き受けてくれた子たちじゃな」


 七、八才くらいかな。わたしやチアよりも小さい女の子と、父親……ではなく祖父のようだ。


「息子が足をケガしておってな。今日はよろしく頼むよ」

「シリカです。お姉ちゃんと猫のお姉ちゃんよろしくー」

「犬だよ」

「犬なのに猫かぶってるの?」


 王都から出て、しばらく歩いた先に畑があった。王都周りの畑でも遠くの方だ。すぐそこには林がある。

 まだ日が昇りきらない時間から、トマトっぽいアルフィガロや、季節感無視の二股大根、それから玉ねぎの類などを収穫していく。


「お姉ちゃんすごーい、力持ちだねー」


 チアは体を使うことなら、体質的にすぐに慣れてしまうので、力のいる作業も軽々とこなしていく。

 今は大根引抜き機よろしく大根を次々と収穫している。


 わたしの方も、今日は普通に収穫作業をする。

 持ってきていた籠が、野菜でそれぞれ一杯になって積まれていく。


「しまったな、採りすぎたか。あんたらは慣れてないと思ってたのに、意外に手際がよくて驚いたな。これだと重くて一度には全部運べ……るか」


 チアがまとめて軽々と持ち上げた。

 うん、だと思った。


 さすがにマジックバッグに堂々と入れて運べないので、これは助かる。

 そのまま取り出す数を調節すれば簡単に盗めてしまうので、信用的な問題もあるからね。

 

「あんた、ドワーフかね」

「違うよー」


 おおかたをチアが、残りを三人で手分けして運ぶ。

 往復して王都の商業ギルドの倉庫に納品したら、また畑だ。


 続きの前に休憩して軽く朝ごはんにする。

 おじいさんと女の子は売物にしにくい、いわゆるB級品野菜で済ませるつもりだったらしい。


 作り置きのサンドイッチだったわたしたちと、一部を交換して、みんなでサンドイッチと採れたて野菜をいただいた。

 前世で菜園から採ってその場で食べていたのを思い出すな。


 更に昼まで作業を続け、今日の収穫作業は終わりとなった。


「お嬢ちゃんたち、よく働いてくれて助かった。これなら、あとは息子のケガが治ってからキノコだけでええわい。ほれ、せっかくじゃ。この辺りのも持って帰ってええぞ」


 こういうのは前世もここでも変わらないな。


 じゃあ帰ろうか、というところで林の方からガサガサと音を立てて小さな人影が現れた。

 頭の上には長い耳がついている。


 ゴブリンだ。


「あら、ウサゴブだ。ゴブリンだね」

「ウサ? ウサウサ?」

 

 体はやや緑がかったくすんだ色の毛に包まれていて、二足歩行する大きなウサギという感じの外見をしている。

 その目は体の横でなく前についていて、他の生き物を害する存在なのだと主張していた。


 ここを含め毎日のように畑に人が出入りしていて、今まで見つかっていなかったとは考えにくい。

 おそらく、生まれて間もないのだろう。

 始末しておかないと畑を荒らすかもしれないな。


 周囲に他に人はいない。

 隣の畑で作業していたおじさんも、いくらか前に帰ってしまっている。


「畑から離れましょうか」

「そうじゃの、こっちに来る前に早く逃げんと……」


 畑で殺すのは嫌だろうという意味だったんだけど、まあ結果は同じだ。

 収穫した籠は置いたまま、道の方へ移動する。


「いかんな。籠の野菜に行っとくれればよかったが、ついて来とる。シリカ、走れるか?」


 もう作業でへとへとになっているシリカちゃんが昏い顔で首を振る。

 おじいさんが一度、手の中の小さな(なた)とゴブリンを見比べてから、林に目をやった。


「あそこまで行けば、なんとかなるんじゃが……」


 よしよし、とシリカちゃんの頭を撫でてあげながら、もう一つの手で魔石を弄ぶ。


「走らなくても大丈夫ですよ。畑から少し離れたし、ここらで倒します」

「た、戦うんか? 武器もないのに」

「術師ですから。これでもオークを狩った事くらいはありますよ」

「ほ、本当か」


 おじいさんが(すが)るような目でこちらを見る。

 シリカちゃんが、木にくっつくセミみたいにわたしの足にしがみついた。


 そこに横から元気に手があがる。緊張感の無い明るい声が響いた。


「はいはーい。チアがやってみたい!」

「いいけど……もう実践的な稽古もしてるの?」

「うん!」


 じゃあいいか。

 チアなら腕力だけでもゴブリンくらいなら吹っ飛ばせるだろうし。


 チアは自分のマジックバッグから、昨日作ったばかりの剣を引っ張り出すと(さや)から抜き放った。


 その間にも、ウサギゴブリンはこちらに少しずつ近づいて来ている。

 こちらが四人いるからか、ゴブリンにしては慎重だ。


 剣を握ったチアが無造作に距離を詰めていく。

 草むらの中のゴブリンが身を(かが)めた。


 迎え撃つチアは、気負いもなく剣をゆったりと構えている。

 魔物と戦うのは初めてなのに落ち着いてるな。


 ゴブリンが腕を振りかぶり、飛びかかった。


 余裕を持ってかわしながら、チアが剣を薙ぐ。

 音もなくゴブリンの首元を刃が通り過ぎていった。


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