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84  こそこそ装備製作

 欠けた月の光が辺りを静かに照らしていた。

 辺り一面には、血の臭いと死臭が漂っている。


 屋敷の庭には、大量の魔物の死体が積み上げられていた。

 地獄のような光景の中で、中心に腰を下ろした自分の周りに緻密な魔法陣が着々と出来上がっていく。


「よし、できた」


 ようやく術式を完成させた。

 誰かに感付かれて騒ぎになる前に終わらせなければ。

 手の中に握った魔石が淡く輝き、魔法が発動した。

 

 喚び出した狩猟神の力が周囲の魔物の骸に及び、その姿を次々と変えていく。

 解体されて、肉と骨と皮、魔石、場合によってはその血液までが分離されて地面に並んだ。

 そこにストレージにある武具や金属のインゴット、魔物の素材を取り出し、おりんに見つからないように陰に置いておく。


 臭いについては、周囲に及ばないようにストラミネアが上空へ巻き上げてくれている。


「ただいま。解体、終わったよ」

「お帰りー」

「お帰りなさいにゃ」


 チアはベッドの上に仰向けに転がったまま、おりんはネコ姿で箱座りしている。


 解体した魔物の死体は、呪われていたおりんがダンジョン奥で暴れた時のものだ。

 一部魔石を取り出したものなどもあったが、大部分は今まで放置していた。

 ギルドで解体してもらうのも大量の高ランクモンスターだから騒ぎになりそうだし、自分で解体するのも現実的でない量だ。

 人の手に余るなら神様の出番である。


「外はどうでした?」

「月が明るいから、大丈夫そう。今日やっちゃおう」


 チアが武器に剣を使うことが決まったから、装備を作ることにしたのだ。

 創造魔法による神様製作になるので、手持ちの素材を全て積み上げておき、それを材料に作ってもらう。

 人目につくので、さすがに昼間にはできない。


 おりんの冒険者服は一度蜘蛛神様に作ってもらったけど、短剣なんかも既製品だし、ここでついでに装備を一新しておくことにした。


 庭に出ておりんとチアを目の前に座らせて、火と鍛冶、物作り全般をつかさどる鍛冶神の力を喚び出す。

 炎と創造、それからフィフィから聞いた鍛冶神の要素から、術式を織り上げていく。


 魔法を発動させた。


 まずはおりんの武器からだ。

 素材の山から金属や魔物の骨などいくつか混じり合い二本の刃を作り出していく。


 淡い桜色の刀身が月の光を反射して輝いた。

 それから、他の装備も軽く作っておいた。


 そこまで終わったところでチアの方に向き直る。今度はチアの剣だ。

 寄り集まった色味の違う複数の金属が混ざり合い、チアの体格にはやや不釣り合いな、大振りで重そうな両刃の剣が仕上がった。


 それから三人分の冒険者用の服を、鍛冶神と蜘蛛神の力を交えて一式完成させていく。

 三人とも、身体の動きを邪魔しない軽装系の装備なのは変わらない。

 動きやすくしなやかに、そして丈夫に。

 あと、かわいくね。大事。


 装備を作るのに使った魔石の消費もなかなかのものだ。

 この前、魔術師長からもらった魔石があって助かった。


「これで終わりかな」


 早速チアは剣を振り回して遊んでいる。

 おりんは前使ってたものより刀身の長い短剣を数度振ってからしまっていた。


 わたしは集中しっぱなしだったのでもうへとへとだ。二人にかまう根性はない。

 頭の中には、寝たいの三文字しかない。


 思ったより時間がかかった。まだ夜でも寒くない時期で助かったな。

 とりあえず素材の回収だけ済ませてベッドを目指す。

 ……昼まで寝よう。




 出来立ての装備が気になって更に夜ふかししたらしく、昼前に起きると、まだおりんとチアも眠っていた。


 起き出して食事を済ませると、午後からは防御結界を付与したアクセサリーや、クロスボウ用の仕掛け矢などを作っていく。

 この辺の魔道具は自力製作だ。


 作業が一段落したので、立ち上がって大きく伸びをした。

 日が傾いている。もう夕方だ。

 そろそろ晩御飯作らないとかな。


 外に出ると、はかまエプロン姿のおりんが門の掃除をしていた。


「うん。おりん、かわいいね」


 これが大正浪漫ってやつか。

 むしろ、猫耳分勝ってるよね。何に勝っているかのかはわからないけど。


 おりんの猫耳がピクリと動く。

 顔が少し赤くなった。


 ん、聞かれた? それとも夕日のせいかな?


 もっと色違いや柄違いをたくさん作って着せ替えて遊びたい……じゃなくて、楽しませてあげたいけど、やると怒られるだろうな。


「あれ、チアは?」


 最後に見た時は、作った装備をつけて庭で剣を振り回していた。


「ちょっとどんな依頼があるか見てくるって言っていましたよ。じきに帰ってくるんじゃないですか」

「ああ、冒険者ギルドね」


 装備を作ったから、使ってみたいのかもしれない。

 狩猟系の依頼でも探しに行ったのかな。


 ほうきを置いたおりんがわたしの左右の犬耳をつまんで感触を楽しんでいる。ちょっとくすぐったい。

 それから、今度は前方にぺそっと倒してタレ耳にしてきた。遊んでいるな。

 それか、さっきのかわいいって言ったのをやっぱり聞かれていて、照れ隠しのつもりなのか。


 耳から手を放して、もう一度つまんでこようとしたおりんの指を、自分で耳をぺたんと閉じて避けた。


「あっ」 

「じゃあ、そろそろ夕ごはん作るかなー」

「ズル……じゃなくてお手伝いしますね」


 支度をしていると、チアが帰ってきた。

 おりんが洗浄をかけてあげているのを横目に、料理を仕上げる。


「何かやりたいのあった?」

「冒険者ギルドの方はなくって、それでワーグナーさんに言われて、商業ギルドも見てみたの」

「誰それ?」


 記憶にない名前だ。


「前に、銅貨の依頼いっばいやってて、じゃらじゃらしてた人。なんか、ひげがなくなってた」


 好きでよくボランティア依頼を引き受けているという冒険者だ。

 ひげが無くなっていたのは、チアにおじさん扱いされてショックを受けていたせいだろう。


「商業ギルドの方も、収穫手伝いの依頼がいくつかあったくらい」


 少し残念そうだ。チア的には空振りだったらしい。


「そう言えば、冬小麦を植える前の、夏野菜の収穫期か。ひょっとしたら、今年はベルたちも農村へ泊まり込みで行ってたりするかもね」


 それを聞いたチアが、お姉ちゃんの真似をしたがる妹の顔になった。


 小麦畑は、夏の間は畑が空いている。

 普通は土を休ませるところだけど、そこはそれ。大地神を信仰する神官たちがお祈りをして回り、祝福を得た畑は夏野菜を実らせ、秋にはまた小麦が植えられるのだ。

 もちろん、そこまでするのは食料需要が高い上に多数の神官を抱えている王都から近い範囲に限られる。


 ナポリタから行くなら周辺の農村だが、王都からだとどこになるのかな。


「泊まりじゃなくても王都周りの日帰りもあったよ」

「そうなんだ。じゃ、やってみる?」


 そう言えば、治安のいい王都の城壁周りも結構畑があったな。


「うん。やってみたい」


 孤児院の兄弟であるグラクティブやルーンベルたちがやっているかもと言ったせいで、チアはすっかりやる気になったようだ。


「農作業系なら朝早そうだけど、前日に受けとくのかな」

「うん、聞いてみたらそんな感じだって……。これ食べ終わってから行っても、明日の分の受付まだできるかな?」

「そだね。今日はろくに家から出てないし、ちょっと散歩がてら行ってみようか」


 食事のあと、猫耳フード付きのパーカーっぽい上着を羽織って商業ギルドに三人で向かった。

 パーカーは、おりんが猫の顔を付けたフード付きローブに蜘蛛神リメイク術が発動した結果だ。


 日は沈んでしまい、西の空に赤色だけが残っている。


 商業ギルドの前で、さあ入ろうかというところで猫獣人の女性に声をかけられた。

 虎猫模様だな。大柄なのもあって、本当に虎の獣人みたいだ。野生的な美人さんである。


「おう。最近見なかったな、おりん」

「カティア、今帰りかにゃ」


 おりんの知り合いだったようで、紹介してもらう。

 狩場で何度か会ったことがある冒険者で、男性冒険者にしつこく声をかけられていた時に追い払ってくれたこともあったそうだ。

 カティアは魔物狩りばかりしているタイプらしい。


「明日、少し奥まで行こうと思ってるんだが、一緒にどうだ?」

「明日は身内と一緒に平和な作業系の予定だったにゃ」


 こちらをちらりと見て、おりんが答えた。

 知り合いの冒険者相手ということで、おりんはの口調はいつもより砕けている。

 いちいち語尾に東部の猫人方言の「にゃ」が付いているのが分かりやすい証拠だ。普段はめったに付けないのに……ちょっとズルい。


「チアと二人でも大丈夫だし、別行動でもいいけど? 装備も一新したから、試し斬りもいるだろうし」

「よっしゃ、決まりだな」

「まだ返事してないのに強引にゃ」


 待ち合わせ場所について話を始めた二人を置いて、商業ギルドに入る。

 チアと一緒に収穫作業の手伝い依頼から一つを選んで受付を済ませた。


 明日の朝は早く起きないとね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 神様製装備は目利きできる人が超上等な装備に見えるんだろうか あるいは上等さすら隠蔽する出来なんだろうか
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