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8  森林猫の遺跡

リーガス視点。短めです。

飛ばしていただいても問題ないお話です。

 ナポリタの孤児院には、獣人の子供がいる。

 何かの折に、街に住む獣人からそんな話を聞いた。


 彼女を引き取ろうとした者はいたが、本人に決めさせるから、判断のできるような年齢になるまではと断られたと聞いた。

 その時は、本人に決めさせる形にするのは、何かトラブルを避けるためだろうか。

 小さいうちに引き取られた方が、新しい環境に慣れやすいのではと少し疑問に思っただけだった。


 しばらく経ってもその子供はそのまま孤児院を離れなかったらしい。

 引き取られれば、環境は良くなるだろうに。

 獣人は同族を、無碍に扱ったりはしない。人に囲まれているせいで、知らないのだろうか。


 そこらで、その子供に興味が湧いた。一度会いに行ってみるか、と思い気まぐれで足を伸ばした。


 初めて見たとき、息を呑んだ。


 肩より少し長い美しい銀色の髪、あどけなさの残るどこまでも整った顔、長いまつ毛、豊かな尻尾は日の光を受けて輝いていた。氷のような瞳は神秘的ですらあった。


 なるほど。自分に決めさせる、という話も納得できるというものだ。

 下手をしたら彼女は、下衆な好事家の元にでもやられるところだろう。誰にも引き取られないのも、案外と裏で孤児院の院長にそうするよう言われているのかもしれない。


 同族を大切にすると言っても、貴族にでも目をつけられれば、金に目がくらむものや脅しに屈するものもいるだろう。

 獣人の家にもらわれて、それで安心とも言い難い。

 それならば、一人で地に立ち、生きていくべきだろうと院長は判断したのかもしれない。


 そういう事なら、選択肢の一つとして、獣人だけが暮らす自分達の村で暮らすことを提案してみるのもいいだろう。そう考えた。


 それから冬が終わり、春になった。気候も良くなったのでと声をかけてみたが、断られた理由は納得が行くものだったので承知した。


 そして、そこで思わぬ言葉を投げかけられることとなる。


「その辺りで一番高い山の上、もしかして遺跡っぽいのとかない?」


 なぜ知っている。聞き返す声が、硬くなっているのが自分で分かった。

 そして、続いて更に衝撃の言葉を聞かされる事となった。


「そこには、取りに行かないといけないものがあるの」


 そう言ったロロナの表情は、どこか焦燥感を感じさせるものだった。


 元々、自分たち獣人の村の者は百年ほど昔に北方三国と呼ばれる国の一つから、迫害を逃れてこの王国にやってきた。


 国を脱し、食料も底を尽き、人目を避けてさ迷っていた一団は山の中でその遺跡を発見した。

 魔物の徘徊(はいかい)する安全とは言えない山である。

 そこらで野宿するよりは、とそこで休むすることにした。


 寝床を確保するため、中に住み着いているであろう魔物を追い払おうとくたびれた男達が向かい、そして絶句した。


 そこには、魔物はいなかった。

 美しい噴水があり、水が湧いていた。そして、その泉の上に鎮座する美しいその像。見間違えるはずもない。それは、猫獣人の祖先と言われるフォレストキャットの像だった。


 この遺跡は獣人の遺跡だ。そうに違いない。

 当時一団を率いていた男は、地面に頭をこすりつけてその像に感謝した。


 全員分には程遠(ほどとお)いものの毛布のある寝床があり、そして調理場があり、そこには火をつける魔石まで設置されたままだった。倉庫と思われる場所には、乾燥させた穀物の粉と塩が山とあり、それを水と混ぜて焼いて食べた。


 見張りも立てたものの、結局そこに魔物は一匹たりとも入って来ることはなかった。

 十分に身体を休めた彼らは、そこを拠点にしながら周囲を探索し、山あいに比較的住みよい場所を見つけ村を作っていった。


 村ができ上がり、生活が形になり始めた頃には、倉庫の山とあった食料はだいぶ減っていた。


 その後、遺跡は限られた者しか入らないよう取り決められた。

 元々見つけにくい場所にあるので、頻繁に出入りして人目につくよりは、少人数で管理した方がよいだろうとの判断だ。


 獣人たちも代替わりして、中にあるフォレストキャットの像、その存在を知っているのはわずかとなっていた。


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