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79  アザラシスライム その2

 炎天下の中、汗だくになりながらアザラシスライムを退治していく。

 何もしていなくてもじっとりと汗をかく暑さの中で、ひらすらスライムを突き刺す作業を繰り返す。


 ミラドールは火を起こしたまま維持するのは難しいようで、何度も詠唱しながら一匹ずつスライムをあぶっている。


 しばらくして、職員さんの号令で何度目かの休憩に入った。

 魔石を使って頭上を中心に大量の水を降らせる。

 冒険者たちが集まってきて、体に散った汚水を流したり、上を向いて水をそのまま飲んだりしていく。

 暑いので、みんな遠慮なく豪快に水をかぶっている。


 チアは暑さ自体は平気そうだけど汚れを落とすために、おりんやミラドールは普通に暑いので水を浴びていた。


 汚水まみれなので休憩の時に水を出して手を流したりしていたら、他の冒険者たちに頼まれて結局こういう形になったのだ。

 チアがやると聞いて集まった人も多いし、まあこれくらいはいいだろう。


「ロロ……なんで? いつの間にこんなことできるように……?」

「まあ、色々あって」

「だから、その色々を教えてよ!」

「色々あって」


 適当な説明をしてもいいけど、炎天下で作業中の今は嫌だ。

 涼しいところで甘いものでも食べながらにさせて欲しい。

 

「ありがとよ」

「助かるぜ。暑いしノドは乾くが体が汚れちまってるから水筒も出しにくいからな」

「ロロちゃん、結婚してくれー」

「はいはい、また今度ね」


 半笑いで冗談を言っていた冒険者が、少しだけ真面目な顔になった。


「ロロちゃん、塩も摂ってるか?」

「えっ? ……あっ」

「知ってはいたみたいだな。汗は水と塩だから、水だけじゃだめだぞ。……ほれ、砕いた岩塩だ」


 脱水にならないための基本的な話だ。

 知識としては持っていたけれど、汗だくになっての屋外作業をする機会がないので頭になかった。

 スポーツドリンクなんてない世界なのだ。


 ストレージに塩はあるけど、素直に差し出された塩のかけらを受け取る。


 特殊体質のチアはとうに暑さに適応しているし、おりんは半分火の精霊なので頑丈な上、暑さに強い。

 ミラドールは魔術でスライムを倒しているので体をそれほど動かしていない。

 体格とかいている汗の量的に、一番危ないのはわたしだ。 


「ごめん、ありがとう」

「水をもらってるんだ、お互い様だ。それに新人のフォローも仕事のうちだからな」

「おう。倒れるやつが出ないうちにさっさと終わらせて帰ろうぜ。チアちゃんたちも塩舐めとけよ」


 今回の多数の参加者たちは、一部でマスコット扱いされているチアにくっついて遊び半分で来ているのかと思っていたけれど、今のやり取りや雰囲気的に、新人が炎天下の作業で倒れないように早く終わらせてやろうと手伝いに来てくれていたようだ。


 以前、おりんのことも気にかけてくれていたという話を聞いたし、やたらと面倒見がいいな。

 冒険者ってもっと個人主義なのかと思ってた。

 失敗が命取りになることもある世界なので、こういう助け合いは彼らなりの処世術なのかもしれない。


 休憩している間にも、下水道の出口からは相変わらずアザラシスライムがのそのそとはいだし続けていた。

 最初はかわいいと思っていたけど、だんだん見るのが嫌になってきたな。


 その後も何度かの休憩を挟みながら、作業を続ける。


「次の群れで最後だな」


 下水の管理職員の一人が、下水道の出口の奥を確認して言った。


「今回は多かったな」

「終わったらエールだ」


 水路を見下ろしながら冒険者たちが励まし合う。

 最後の群れを片づけて、ようやく今回の依頼は終了した。




「おい、終了証明を早く配ってくれ。エール行くぞ、エール」

「チアちゃんも飲んでみるか?」

「それはダメ。……えっと、みんな心配して集まってくれてたみたいで、その……ありがとう」


 なんか、こんなふうに改めて言うのは少し恥ずかしいな。

 一瞬、みんなが動きを止めてこちらを見た。


「いえーい、ありがとういただきましたー!」

「結婚してくれー!」


 くっそ、このお調子者どもめ……。

 お礼を言って、なんだか損をした気になったぞ。


「またなー」


 冒険者たちは下水管理の職員から依頼の終了証明をもらって次々と場をあとにしていく。


「ロロ、王都に来てそんなに経ってないよね? なんでそんなになじんでるの?」

「うーん、チアがなつっこいからかな……」

「あー……」


 ミラドールがなんとなく納得した声を上げる。


 わたしたちも帰ろうとしていると、下水道から一匹のアザラシスライムが出てきたのが見えた。

 害もない魔物なので、誰も気にしていない。


 見るのも嫌になっていたけど、仕事が終わってしまうとユーモラスなスライムが少しかわいく見える。現金なものだ。


「そうだ。ちょうどいいや」


 水路に下りてスライムを捕まえると、水を出して洗ってやった。


「それ、どうするんだ?」

「お風呂掃除用に持って帰ろうかなって」

「かまわないけど、保存食なんかを食べられないように気をつけろよ」


 下水の管理職員から依頼の終了証明を受け取る。

 ついでに、アザラシスライムを一匹手に入れた。


「わたしたちはこのスライムを一回家に置きに帰るけど、ミラドールはどうする?」

「じゃあ、ついていかせてもらおうかな。家の場所も知っておきたいから」




「うっそおぉぉぉぉ!!」

「うるさーい!」


 家に案内した途端、ミラドールが叫び声をあげた。

 おりんも顔をしかめて耳をぺたんと閉じている。


「だって、だって……ここ、貴族街じゃない! お屋敷じゃない!!」

「住んでるのはあっちの家! 使用人用の家をもらったの!」

「あ、ああ……そうなんだ」


 家に戻って、中を見て興奮しているミラドールの相手をしている間におりんにアザラシスライムをお風呂に投げ込んでおいてもらう。

 一度お風呂に入ってさっぱりしてしまいたいところだけれど、ミラドールもいるのでおとなしく冒険者ギルドに向かい、クエストの終了証明を提出した。


「これであなたたち三人ともEランクに昇格ね。おめでとう」

「うん、ありがと」


 事前に伝えられていた通りにわたしとチア、ミラドールはEランクに上がった。


「やった!」


 ギルドで普通に仕事をしていれば上がれるので、別に大喜びするようなことではないけれど、他のメンバーに早く追いつきたいミラドールはうれしそうにしていた。


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