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73  ちび姫様としゃぼん玉

 王都に帰った翌日に、お城からの呼び出し状が来た。


 この前の魔眼を授与する日が決まった。第二騎士団長に面通ししておきたいから、当日城まで来るように。

 という内容が宰相の生真面目な字でつづられていた。


 たしかに、獣人が突然貴族の屋敷を訪ねてきたら、向こうも戸惑うかな。


 呼び出された当日、わたしはチア、おりんも連れて三人で王城を訪れた。うちの制服(予定)の袴スタイルだ。


「三人ともなんて、なにかあったんですか?」

「うん、チアの冒険者登録の特例とかもやってもらったでしょ。それで、一回二人とも連れてこいって宰相が。まあ、おりんがいてくれたら安心だし、エライア様も喜ぶんじゃない」

「そうですか?」


 おりんがまんざらでもなさそうな顔をする。

 お城に入って呼び出しの手紙を見せ、あとアリアンナ姫に本を返したいことを伝える。

 案内役のメイドさんに一拍遅れて、アリアンナ姫とエライアちび姫、そして勢いこんだ王妃様がやって来た。


「変わった服で来てるって聞いて見に来たわ! あら、確かに見ないデザインね! じっくり見せてもらってもいいかしら?」

「お母様、落ち着いてください」

「いえいえ、大丈夫です。じゃあこの子連れて行ってください。あ、これもよろしくねー」


 おりんを王妃様の方に押し出し、ついでに水着も渡しておく。


「ロロちゃん!? 私がいたら安心ってこういう意味ですかあああ!」

「いってらっしゃーい。」


 おりんは新しい服に目がない王妃様にすごい速さで連行されていった。

 水着については、元々、王妃様に紹介しようと思っていたのでちょうどいい。


 みんな黒ばかりなんてつまらないからね。

 鑑定した結果、作るのはそれほど難しくなさそうだったので、あとで作り方を教えて広めてもらおうと思っている。


 服や水着が気になるのか、母親が暴走しないか心配なのか、アリアンナ姫も王妃様に一緒についていった。


「おりん、連れて行かれちゃった」

「じゃあ、わたしたちと遊びましょうか。いつもはこの時間は何してるんですか?」

「うん! 朝のすずしいときには、なかにわ!」


 ああ、散歩とかしてるのかな。

 中庭に行ってみる。

 季節の花が咲いている落ち着いた場所で、芝生の広場もある。


「何しましょうか」

「なにしよー」


 子供の外遊びか……。

 前世で親戚のちびっ子たちと遊んでいた時は何をしてたっけな。


「じゃあ、エライア様。シャボン玉しましょうか」

「しゃぼんだま?」

「大道芸人なんかのを見たことないですか?」

「ないです!」


 エライア姫が元気よく言い切ったので、しゃぼん液を用意する。

 えーっと、のりを入れるといいんだけど。のり、糊、ノリ……ああ、そっか。でんぷんのりだ。

 小麦から錬金魔術でデンプンを分離して、石鹸と水と混ぜ合わせる。


 それを見ているだけで、何が始まるのかとエライア様は目を輝かしている。チアもわくわく顔だ。


 大人の手のひらより大きい輪っかや、先がいくつにも分かれている吹き棒など、せっかくなのでこちらはやや現代的に。


 自分とチアの袖をたすき掛けして、エライア姫と一緒に三人で遊び始めた。

 エライア姫はさわると割れるのが面白かったらしく、作るより割る方にご執心だ。


 様子を見ていたメイドさんがやりたそうにしていたので、手伝ってもらった。

 楽しそうに作っているメイドさんの大きなしゃぼん玉をエライア姫が追いかけていく。


 高いところの届かないしゃぼん玉に向かってジャンプしてるのを見て、チアがエライア姫を持ち上げて割らせてあげた。

 そして、そのままエライア姫を抱っこしたまま走ったり、跳ねたり、高く持ち上げたりしている。

 エライア様が歓声をあげてしゃぼん玉を叩き割った。


「あの子、力持ちですね」


 近くまでやってきていたアリアンナ姫が、チアを見て驚いている。


「今は服飾師さんを呼んでおりんさんの服を見ています。じきに終わりそうですよ」

「ありがとうございます。アリアンナ様もしゃぼん玉やってみます?」

「見たことはありますけど、自分でやるのは初めてですね」

「ねえさま!」


 アリアンナ姫がしゃぼん玉を飛ばし始めると、エライア姫も壊すのをやめてやってきた。


「ねえさま、あのね、こうするの」

「そうなの。あら、大きいの作ったね。すごいわね」


 お姉ちゃんに撫でられて、エライア姫がくすぐったそうにする。

 飛ばしたシャボン玉がふわりと風に乗った。




 その後、暑くなってきたので、しゃぼん玉はお開きにして室内で飲み物をもらってくつろいだ。

 体の熱がひいた頃に、王妃様とおりん、もう一人服飾師さんと思われる女の人が部屋に現れた。


「おりんちゃんを貸してもらってありがとね、ロロちゃん」


 服飾師らしき女性も頭を下げた。


「これなあに?」

「水着だよー。チアのと、ロロちゃんのと、おりんちゃんの」


 エライア様は、いつの間にかチアに肩車されている。

 服飾師さんが、おりんの水着を手に取った。

 

「すごいんですよ。こんなに薄くて白いのに濡らしても全く透けないんです」

「おりんちゃんが、詳しくはロロちゃんにって言っていたけれど」

「はい。こちらが作り方だそうです。それと、王妃様とアリアンナ姫、エライア姫の分の水着です」

「ずいぶんと用意がいいわね」


 王妃様がレシピをそのまま服飾師さんに渡す。

 私の走り書きを宝物のように受け取ると、服飾師さんは真剣な表情で内容に目を走らせ始めた。


「その代わりにお願いがありまして」

「なるほど、そういうことね。何かしら?」


 王妃様の目がわずかに細くなる。服好き奥様から王妃様の顔に切り替わった。

 それに気付かないふりをして話を続ける。


「できるだけ作り方を広めて、来年の夏には手に入りやすくしていただけると嬉しいです」

「……理由は?」

「自分たちだけってのも落ち着きませんし、みんなもっと選べるほうが楽しいですから」


 王妃様が服好きの奥様の顔に戻った。


「あら。自分たちだけというのは、貴族では自慢するところなのだけど……それで、できそう?」

「はい、材料的には難しくありません。今年すぐにと言われると厳しいですが、来年の夏なら大丈夫です」 


 服飾師さんがはきはきと答える。


「じゃあ、ギルドにレシピを回しておいてね」

「承知いたしました。今後、商業ギルドでのレシピの閲覧料等から規定の金額をお支払いすることになります。必要な書類はこちらでやっておきますが、作られた方の名前はロロナさんでよろしいですね」

「そうですね。製作者は表には出てこない方なんで、わたしにしといて下さい」


 蜘蛛神は代金の分を魔石にして、また何か作ってもらえばいいかな。蜘蛛神本人はその方が喜びそうだし。


「水着きてみたい! チア、とって!」

「エル様、危ないよ。下ろすから待ってー」


 肩車されたままのエライア様が、水着の方に手をのばしている。

 チアとはいつの間にか愛称呼びになっていた。


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