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72  採集最終日 その2

 さて、本格的に採集スタートだ。

 人の来ないエリアで採集するが、おりんとメイレーンは安全のために、誰もいないかの確認を担当してもらう。

 わたしが刈り取りで、チアがマジックバッグに収納する係だ。


 一昨日のように適当に水の刃を撃つのではなく、鎌のように維持したまま、足を止めずに刈り続ける。

 魔術を維持しながらひたすら海中を移動する、ハードな仕事が始まった。


 最初の感動はどこにやら。休憩をはさみながら、ひたすら淡々と作業を続けていく。


 日が沈む手前になり、砂浜で休憩していると魔術師長とモールズが現れた。

 四人と一匹は疲労困憊でひっくり返っている。

 もうしばらく動きたくない……けど、そろそろ最後の一仕事だ。


「やあ、ご苦労さま。首尾はどうだね」

「みんなの採集範囲は時間的にこれ以上広がらないと思うので、微妙なので残しておいた辺りを最後に……って感じです」

「なるほどね」


「私……もう動けません」


 メイレーンがけだるそうに口を開いた。

 シアは横で砂の上をころころ転がって遊んでいる。


「なら、俺が代わろう」


 モールズは魔術師長の実験に付き合っていたので、体力が余っているんだろう。イイナー。


「じゃあ、わたしも代わって」

「チアも〜」

「私の分もお願いします」


「それだと一人でやる普通の採集だろうが!」


 疲れた体に鞭打って作業をし、最後の刈り取りを終えるとちょうど日が沈んだ。

 もう、わずかな朱色を西の空に残すだけだ。


「もう暗くなりそうだ。ギルドの倉庫にお願いしていいかね」

「どれくらい採れたんでしょうね。気になります」


 明日にしたいんだけどな。

 メイレーンの気持ちもわかるので、えっちらおっちらギルドに向かう。

 ギルドへの道にいるのは、花入りのタライをかついだ者たちばかりだ。


 ギルドの倉庫前では、冒険者ギルドと商業ギルドのスタッフが集まって買い取り作業をしている。

 次々にお金が支払われ、もらった者たちが喜んで帰っていく。


 毎年の光景なんだろうけど、今年は五倍値の買い取りだけあって、全員が喜色満面だ。

 ギルドの倉庫には花が山となって積み上がっている。


「領主様、なにか御用でしょうか?」


 一人のギルド職員が魔術師長に気付いて近寄ってきた。

 倉庫の空いている方へ案内してもらう。

 すでに換金を終えた者たちが、興味津々で見守っている。


 マジックバッグから出てきたサリシアの花が一瞬で積み上げられる。

 その花の山は、最初からあった住民総出で集めたもう一つの山よりも明らかに大きい。 


「すげぇ……」

「さすが領主様の弟子だ」

「メイレーン様も一緒にやってたぞ」

「尻尾付きでも弟子になれるのか?」

「こりゃたいしたもんだ。家が建つな」


 ザワザワとそれを見た住人たちが感想を漏らす。

 魔術師長たちもその量に目を見張っている。


「いや、これは驚いた。ここまでとは……たいしたものだ」

「ロロナさん、やりましたね!」


 シアは早速山のてっぺんで、花結晶を食べ始めた。

 わたしらもお腹減ってるんだけど……。

 まあ、シアもメイレーンのサポートを頑張っていたしな……。


 シアが満足したところで宿に向かう。


 すぐに買い取り値のわかる量じゃないので、これはまた後日だ。

 魔術師長はまだ用事があるからとギルドに残っていた。




 もう日は沈んで、帰り道はだんだんと暗くなってきている。

 わたしたちの横では、メイレーンの手の上で眠っているシアのお腹をチアがつついている。


「寝ちゃったね」

「いっぱい食べてましたから」


 わたしについては、花の刈り方についてモールズと話をしているところだ。


「普通に投てきする方が楽なんじゃないか?」

「それだと人がいる方に撃てないし……真っ平らならそっちの方が楽なんだけど。あとは、必要なら分けたりつないだりとかもできるよ」

「ああ、なるほど……いや、正直あんまりできそうな気がしないんだが……できるのか、そんなこと?」


 やってみたら案外と簡単なんだけどな。

 まあ、普通はやる機会がないよね。


「それで、お前らはすぐに帰るのか?」

「魚を買ったりしたいから、もう何日かいるつもり」

「みんな花にかかりきりで、誰も漁に出てなかったですからね……」


 おりんの言うとおり、サリスの町に来てから漁をしている船を全く見ていない。

 唯一見たのは、花を採るのにタライ代わりに浮かべられていた小舟くらいだ。


 花の採集期が終わったので、あちこちのお店からは酒を飲んで派手に騒ぐ声が聞こえてくる。

 みんな二日酔いで、漁に出る人がいません、なんてことにならないだろうな。


「俺も何日かしたら父上と王都に戻る予定だ。また、何かで会うこともあるだろう。その時はよろしくな」

「私は来年の春から王都の学校ですから、その時にまたお会いしましょう。シアのこと、本当にありがとうございます!」


 それから数日後、魚介類を大量に買ったわたしたちは、王都への帰路に着いた。


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