表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/214

69  メイレーンの水着

 チアを真ん中に、左右にわたしとメイレーンが手をつないで、三人分まとめてわたしが水中呼吸の魔術を引き受けることを説明する。


「まあ。そんなこともできるんですのね」

「じゃあ、行ってみようか」


 手をつないで浜から海の中へ三人で歩いていく。

 もちろん、モールズとおりんも後ろから付いてきている。


「よく考えれば思いつけそうなことだったな」

「あれも、そんなに簡単じゃないんですけどね」


 三人分まとめて広範囲で使ってしまうのなら簡単だけどね。

 チアの魔力を借りているし、消費魔力を落とすために今はそれぞれに個別に使っている。

 こういう魔術の併用は呪文だと難易度が高い。この辺は術式のメリットだ。


 水中に入ると、最初は用心深く息をしていたメイレーンだけど、すぐに嬉しそうな顔をして普通に呼吸をし始めた。

 まだ人の手が届いていない辺りまで水中をのんびり歩いていくことにする。


 潜って花を採ってる人たちが、海中を並んで歩いていくわたし達を見て驚いていた。

 途中でメイレーンがその内の何人かに手を振っていた。屋敷の人たちかな。


 まだ誰の手も入っていない辺りまで行くと、ガラス細工のような青いサリシア花が一面に咲いていた。

 

 光をたたえた花に囲まれて、メイレーンが顔をほころばせる。

 メイレーンが空いていた手でわたしの手をつかんで三人輪になると、そのままつないだ両手を嬉しそうにぶんぶんと振った。


 しばらく一緒に花畑の中を歩き回ったりして楽しんだ。

 きれいな色の魚が泳ぎ回っている。絵になる光景だな。


 ナイフを取り出して、メイレーンに花を持っててもらって少し刈り取った。せっかくなのでお土産に持たせてあげよう。


「ありがとうございました! 昔見に行った時は上の方から少し見ただけだったんです。白い花も、青色の花も見れて、花に囲まれて、自分で採れて、嬉しいことずくめでした」


 浜に上がってお礼を言うと、自分で採ったサリシアの花を持ってメイレーンは帰っていった。


「また今度遊ぼうねー」

「はい、またお会いしましょう」


 メイレーンがいなくなってから、モールズが改めて礼を言ってきた。


「すまなかったな。せっかくの稼ぎ時なのに……おかげで助かった」

「別にいいよ。チアも楽しそうだったし」


 今回は生まれ変わって初めての海だ。ついでに初めての三人でのお泊り遠征でもある。

 元々、儲けは二の次で、楽しめればそれでいい。

 遠くまで来たのもあって、いきなり水着を作ろうとした時は、赤字仕事になるような真似は、とおりんに止められたけど。


 ついでにいえば、今回は人の手が入らない場所が多そうなので、浜から遠いところを魔術で一気に刈ってしまえば取り返せるだろう。




 それからは、普通の花の採集に戻った。

 今日はまだまだ時間はあるし、休憩をはさみながらのんびりと採集をした。


 おりんは岩の辺りにいるなと思ったら、根魚を狙っていたらしくお昼にしましょうとアイナメみたいな魚を獲ってきた。

 使ってない銛を借りてきたらしい。みんな塩花採りに熱中しているので、好きにしていいと快く貸してくれたそうだ。


 そんなのんびりモードでも、やはり夕方になれば三人ともへとへとになっていた。泳ぐのはやっぱり体力使うな。

 チアにいたっては海の中でうとうとしていた。波に揺られながら海中で昼寝なんてたしかに気持ち良さそうではある。

 わたしとおりんがやると魔術が途切れておぼれちゃうけど。


 そろそろ帰ろうかと話していると、サリスに来る途中でオークの群れから助けた冒険者たちが現れた。


「あれ、珍しい水着を着てるコがいると思ったら、ロロナちゃんたちじゃないですか」


 花の入ってるタライを頭の上にのっけている。


「珍しいじゃなくて、かわいい、だろ、ザック」

「ああ、ごめんごめん。三人とも似合ってるね」

「そうそう、かわいい子はかわいい格好が似合うんだよ」


 褒めてくれているけれど、先日しつこい勧誘を受けたばかりなので、あまり会いたくない相手だ。


「どうも。花が採れるようになってよかったね」

「オークの群れに襲われた時は、なんてツイてないんだと思ったけどね。町に戻ってきたおかげで花にありつけた。君たちは幸運の女神だったね」

「多分明日くらいまでだろうって話らしいけど、いつもの五倍値だからな。どうだ、一緒に飯でも行かないか?」

「ええ、懐に余裕ができたんで、よければ助けてもらったお礼におごらせてください」


 あー、やっぱり面倒なことになった。

 まだ諦めてないのかな、この人たち。


「いらないです。宿で食べるし、早く寝たいから」


 チアも眠そうなので、食事も早くすませてベッドに入りたい。


「それなら、俺らもその宿に泊まればいいんじゃないか」

「いいですね、明日も一緒に花を採りに行きませんか」


 宿まで付いてきた挙げ句に、更に明日も付きまとおうと思っているのか。

 本当に勘弁して欲しい。

 どう追い払おうかと考えていると、横から現れたモールズが助け舟を出してくれた。


「盛り上がってるところを横から悪いが、先約があるんでな」

「先約? あなた、誰です?」

「ああ、失礼。シェリグサリス伯爵が次男、モールズ・シェリグサリスだ」

「え? あ、領主様の!」


 貴族相手と分かり、しつこかった冒険者たちもさすがに一歩下がった。


「またお会いしましょう、と言っていたからな。まあ、約束は約束だろう?」


 モールズが笑う。

 後ろから、ワンピース姿のメイレーンが現れた。


「はい。そろそろ日が暮れるので終わりだろうと思いまして、お誘いにあがりました」

「メイちゃん!」


 さっきまで眠そうにしていたチアだったけど、メイレーンが来て目が覚めたようだ。

 ここは話に乗っておこう。


「ありがとう。じゃあ、そういうことで。またね」


 冒険者たちに別れを告げて、モールズたちと共に、その場を離れた。




「ありがとね」

「いえいえ、朝のお礼をしたかったのでぜひいらっしゃってください」

「……え、本当に誘いに来たの?」

「はい? そうですけど」


 たまたま見かけて助けてくれたんじゃなくて、本当に食事のお誘いだったらしい。


「わたしたち、今は水着だから一度着替えてから行くね」

「いえ、ぜひそのままいらして下さい」

「へ?」

「そのままで結構ですので。むしろその方がいいですから」


 着替え自体はストレージに入っているけど……


「俺もこのまま帰るし、水着で出入りするのは問題ない。もしマジックバッグに着替えがあるなら、屋敷で着替えても別にかまわないが」


 メイレーンがうんうんとうなずく。


「領主の屋敷に、そんな適当でいいの?」

「まあ、この町にいる時はこんなもんだ。大きな町でもないからわりと緩くてな。領都の本邸や王都の屋敷では、さすがにそんなことはない」


 まあそう言うなら、とそのままメイレーンに背中を押されるようにして領主の屋敷へ向かった。


 屋敷につくと、魔術師長夫婦と、普段は領主代行をしている魔術師長の弟夫婦――つまりは、メイレーンの両親が出迎えてくれた。

 そして、メイレーンが水着のまま招待しようとした目的はすぐに判明した。


「お母様、お父様、わたしもこういう水着が欲しいです! 叔父様、叔母様、王都ではこういうのも売ってるんですよね!」

「どうかしら。最近、水着なんてお店で見ていないからよく分からないわねぇ」


 水着姿のままのわたしたちを紹介して、メイレーンが両親におねだりしていた。


 魔術師長の奥さんが首を傾げている。

 モールズとは目鼻立ちが似ている。魔術師長に似てないと思ったけど、母親似のようだ。

 

「それはどこで買ったんですの?」

「ロロちゃんが作っ」

「わたしが知り合いに作ってもらいました」


 メイレーンに聞かれて、素直にチアが答えようとした。

 そう言えば、チアには特に口止めしてなかった。

 話が大きくなると困る。メイレーンの分だけならともかく、今のところは水着職人になるつもりはない。


「頼んで作ってもらったんです。試しに作ってくれたものなので、お店にあるかはちょっとわからないです。庶民向けの店には少なくともなかったと思います」


 作ったのは蜘蛛神だ。知り合いと言っていいのかはわからないけど。


「そうなんですの」


 メイレーンがしょんぼり顔になった。

 チアが私の顔をじっと見ている。なんとかしてあげて、と顔に書いてあった。


「荷物の中に試しに作ってもらったものが他にもあったから……着替えついでに、メイレーンが着れそうなのがあるか見てみるね」


 別室で着替えながら、チアに作れることはあまり人に言わないように伝えておく。

 それから、メイレーンの水着を蜘蛛神様にお任せでお願いした。


 それほどお腹を出さないタンクトップ系と、一見ミニスカートにも見えるフリルのついた水着の上下が出来上がる。

 かわいいし、肌露出も少し控えめだ。さすがのチョイスだな……。


 着替え終わってからメイレーンに渡してあげると、受け取ったメイレーンがすぐに奥に向かって走り出した。


「わあ! ありがとう! 早速試着してみま……!」


 それを、モールズが首根っこをつかんで止める。


「あとにしてくれ。俺は腹が減ってるんだ。先に食事だろう」

「嫌です! ご飯のあとだと、お腹が出ちゃうじゃないですか!」

「誰もお前の腹なんて気にしないからいいだろ」

「私が気にするんです!」


 結局メイレーンが勝って、諦めたモールズはどこかに消えていった。

 こういう時はやはり女の子が強い。


「ぴったりでした。着れました!」


 わかっていたことだけど、わたしたちも一緒に喜んであげる。

 蜘蛛神様がメイレーンに合わせて作っているので着られるのは当たり前だ。


 着替えてきたメイレーンは、嬉しそうにくるくる回っている。

 みんなに褒めてもらってメイレーンはご満悦だ。

 水着代は、魔術師長さんのモルザ海トカゲの駆除料金に上乗せしてもらおう。


「よかったな。ほら、さっさと服に着替えてこい」


 何かをもぐもぐしながらモールズがメイレーンを促す。

 いなくなったと思ったら、つまみ食いしてきたのか。わたしもお腹減ったよ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ