59 ロロナ、ストーカーを埋める
ギルドに報告しに行くと、ギルド内は人が増えていた。
まだ早めだけど、仕事の報告で人がだんだんと増えてくる時間帯になってきたようだ。
チアにカードを預けて報告に行ってもらい、おりんと一緒に討伐系の依頼を見ていると、おりんが思い切り嫌そうな顔をした。
「変な依頼でもあった?」
「いえ、狩場で何度か会って、しつこく勧誘してきていた人がいて……見つかったみたいですね」
十五、六くらいの男の子が近付いてくる。
おりんはチアのいる受付の方に逃げて行った。
「おい、ラプター。もうやめとけ」
ラプターと呼ばれた冒険者以外の、同じパーティーメンバーらしき者たちが面倒そうに顔をしかめたのが見えた。
この反応から見ると、パーティーの総意ではなく、どうやら一人がおりんに懸想してパーティーに引き込もうとしているようだ。
他に同じくらいの年の男が二人と、弓を持った女の子、杖を持った女の子で五人のパーティーらしい。カップルニ組で、一人あぶれたとかかな。
依頼手続きをしたお姉さんと話をしているチアの方におりんが逃げていく。
運悪く、チアの後ろに並んでいる他の冒険者もいなかったせいもあって、ラプターはそこまでしつこく追いかけて行った。
「おい、誘い断っといてガキの世話かよ。二人も連れて、そんなことしてるほど余裕あるのか?」
「私の勝手でしょう」
「俺たちはこの前Dランクにあがったぞ。一緒に来ていれば、お前も今頃Dランクだったのによ」
「私は一ヶ月前にDランクに上がってますよ」
「なっ……」
ラプターの顔が赤くなった。
血が上ったようだ。他のメンバーは静観してないで早く回収しなよ。
「あ、おりんちゃん。初報酬だよー」
チアが振り向いて、おりんに受け取った銅貨を見せる。
「よかったですね。記念にとっときましょうか」
「調子に乗ってんじゃねえぞ。今、話をしてる相手は俺だろうが!」
ラプターが、背中を向けたおりんとチアの両方の肩をつかんで、引き離すように押しのける。
チアがよろめいて、手から銅貨がこぼれて落ちた。
は?
真顔になったおりんが、ラプターの方に振り向く。
しかし、その後方にいるわたしに気がつくと、慌てて手を振り払って逃げ出した。
ラプターもやりすぎたと思ったのか、一瞬ひるんだが、引っ込みがつかなくなったようだ。
まだ話の途中だ、と言いながら、おりんの肩に再度手を伸ばそうとした。
「ちょっと!」
受付のお姉さんも、子供のチアに手を出したラプターに怒りをあらわにする。
後ろからラプターの肩を叩いた。
振り向いたところで、にっこりと微笑む。
「な、なんだよ」
そのまま肩にかけていた手を、叩きつけるように床の高さまで振り下ろした。
地響きとお腹に響くような衝撃音、床板の割れる音がして、床の破片と声を置き去りにラプターは頭まで床の下に埋まった。
頭くらいは残してやるつもりだったが、ちょっと勢い余ったらしい。
ギルド内が静まり返った。
様子を見守っていた周りの冒険者や受付のお姉さんは目を丸くし、他の人たちも一体何事かとこちらに目を向ける。
ラプターのパーティーメンバーは驚いて固まっていた。
もちろん、ゴブリン以下とお墨付きのわたしの腕力で、床に人間をめり込ませたりはできない。
空いている方の手に握った魔石で地属性魔術を発動し、下から足をつかんで地面に引きずり込んだのだ。
こちらを見ていた冒険者でも、よほど腕のいい者でないと見えていないだろう。
「わあ、大変。床板が傷んでたのかな」
驚いた顔をして白々しいセリフを吐く。
一瞬の静寂の後、一人が吹き出したのを皮切りに様子を見ていた冒険者たちの笑い声に包まれた。
「いいぞー、嬢ちゃん」
「足元には注意しねえとなぁ」
「これ以上床板が腐る前に、早く連れて帰ってくれる?」
手で追い払う仕草をしながらラプターの仲間たちに言ってやると、やっと状況に追いついてきたらしい。男の一人が若干ひるみながらも食って掛かってきた。
「てめえ、何しやがる!」
お、やる気か? 埋まりたいなら期待に応えちゃうぞ。
しかし、その一人以外のメンバーは埋まったラプターをあきれた感じで見やっている。
「今のは、先に手を出したそいつが悪い」
「自業自得よね」
「……ダサすぎ」
仲間の支持が得られなかったせいで、噛み付いてきた男は勢いをなくしたみたいだ。
いや、でもやりすぎだろ、とかモゴモゴ言っている。
頭をつかんでラプターを引きずり上げると、完全に気を失って目を回していた。
もちろん、実際は下から地属性魔術で押し上げている。
床に適当に投げ捨てると、男二人が一人はため息をつきながら、もう一人はせめてもの抵抗かこちらをにらみつけながら、左右から肩を貸して引きずるように外に出て行った。
女の子二人もそれに続く。
「あんた、すごいじゃん。ドワーフ混じり?」
「ないしょー」
魔術師の女の子にすれ違いざまに話しかけられた。
足をつかんで引きずり込んだのは見えてなかったみたいだ。
「ちょっとやりすぎですよ。床の修理費払ってくださいね」
彼らの姿が見えなくなると、早速受付のお姉さんから釘を刺された。
「傷んでたんです」
一応抵抗してみる。
後ろからもそうだそうだー、と野次馬たちから声援が飛んだが、お姉さんににらまれて沈黙した。
「払ってくださいね」
受付のお姉さんがにっこり笑った。