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57  長女ミラドール

「ミラちゃん、背おっきくなってる」

「相変わらず細いなあ。ちゃんと食べてるの?」

「……ひ、久々に会って一言目からそれ? しっかり食べてるわよ」


 身長は伸びてるし、それもそうか。

 しばらく会ってない間に、一つにくくられたみつ編みも一緒に長くなっていた。


 ミラドールは孤児院の卒業生で、わたしやチアにとって孤児院の兄弟たちの中で一番上のお姉ちゃんポジションになる。

 ミラドールが長女だとしたら、ルーンベルが次女で、わたしとチアが三女と四女だ。


「最近見ないと思ってたら、王都に来てたんだね」

「うん、ちょっと目先を変えてみようって話になって……ナポリタにすぐ戻る予定だったから言ってなかったんだけど、調子いいみたいでそのまま滞在してるの」


 ミラドールが後ろを振り返り、四人の女性冒険者あいさつしてきた。

 一人は軽装なので、彼女がミラドールが師事している魔術師だろう。


「心配させたようなら悪かったね」

「いえいえ、誰も心配してなかったと思いますから」

「それはそれでヒドくない?」


 ミラドールが不満げな声をあげる。


「『翡翠の爪』は、無理をしない慎重派のパーティーだって自分で言ってたじゃん。大体、ミラドールは留守番じゃないの?」


 ミラドールがドヤ顔で平らな胸を張った。


「聞いて驚きなさい。私も魔術が使えるようになったんだから」

「まだ生活魔術と、真っ直ぐ飛ばない火の玉くらいだけどね」

「言わないでくださいよー」


 後ろから魔術師の人が口を挟んで、いばっていたミラドールが情けない声を出した。


「ともかく、最近は一緒についていかせてもらえるようになったのよ。ベルはまだ卒業まであるし、魔力の訓練のことも忘れてないからって言っとい……って、なんで二人はここにいるの?」

「ミラちゃん、遅いよ」


 『翡翠の爪』の人たちもいるので、名乗って簡単に王都にいる経緯を説明する。


「はー、褒美に王都に家をもらったねえ。そりゃまた豪快な」

「弓が使える短剣使い……ソロでDランクか。知ってたらうちが勧誘したのに、残念だな」


 冒険者はやはり男社会で、女性もいるが多くはない。

 おりんのようにソロでやっていたとなると、更に少数派だ。


「ああ、そうそう。ベルのことだけど、師匠がついたからミラドールは魔力知覚とかの訓練については、気にしなくていいよ」


 ルーンベルがヴィヴィを師匠と呼んでいるのは見たことがないけど、先生ってイメージでもないからな。


「師匠……? どんな人なの?」

「元Bランク冒険者のお婆……おばちゃん」

「……そ、そうなんだ……」


 予想はしていたけど、ミラドールがショックを受けて落ち込んでいる。お姉ちゃん(づら)したがる子なので、多分自分が教えたかったんだろう。

 元Bランクの冒険者と聞いて、翡翠の爪の面々も感心したり驚いたりしている。


「へえ、そんな人がナポリタにいたのか」

「最近越してきた人だよ。院長先生の妹で、孤児院の手伝いをしてくれてるの」

「ああ、なるほどね」


 孤児院を手伝いに他の町から来た院長の姉妹ということで、納得したようだ。

 実際は姉妹だったのは偶然だけど。


「……それでベルの訓練はどう? 進んでる?」

「うん。それなりに、ぼちぼちと……」

「ミラちゃんのさっきのがホントなら、ミラちゃんより上手かも」


 わざわざぼやかして答えたのに、チアが言ってしまった。


「えっ!?」

「ベルちゃん、石ころたくさん飛ばしたり、石の槍を飛ばしてたもん。動いてない的なら当ててたよ」

「な、な……ロロ、本当なの!?」

「……まあ、本当……かな」


 目を逸らして答える。

 ミラドールががっくりと肩を落とした。


「そんな……神様、ひどい……」

「まあまあ。ベルは訓練時間しっかり取れるし……大体、適性とかもあるわけだから、人と比べても仕方ないよ」


 ミラドールは『翡翠の爪』が冒険者の仕事をする傍らで、空いている時間を使って訓練してもらっている。

 ベルよりは訓練時間も少ないだろう。


「そんなのはどうでもいいの! ベルに教えて、昔みたいにお姉ちゃんすごい! ……って言ってもらうチャンスだったのに。もうそんなにうまくなってるなんて……」


 ああ、そっちか。

 ミラドールらしい理由に思わず笑ってしまった。


 ミラドールは妹分の成長に焦ったり、嫉妬したりしていたわけではなく、単純にお姉ちゃんぶって、いいところを見せたかっただけみたいだ。


 彼女は、昔からこんな感じなのだ。 

 

「わざわざいいとこ見せなくても、ミラドールはわたしたちのお姉ちゃんだよ。冒険者パーティーに入って頑張ってるの知ってるから」

「ミラちゃん、えらいえらい」


 チアがミラドールの頭を撫でてあげる。

 おとなしく妹に頭を撫でられている姿には、残念ながら姉らしさは見当たらない。


「そういえば、ここ、街の中の雑用みたいな依頼はないんだね」

「その手の仕事は王都じゃ商業ギルドが管理しているから、そっちにあるの。ここを出て右に行けばすぐにあるから、冒険者ギルドのカードがあれば受けれるわよ」


 魔術師と思われるメンバーが答えてくれたのだが、今度はそのせいでミラドールが膨れてしまった。


「私も知ってたのに」

「あら、ごめんごめん。でも、ミラドールは後輩の……じゃなかった、ごめん。妹ね、妹。妹の前だと普段とかなり違うわね」


 今度はジロリと剣呑な視線を走らせるミラドールに、魔術師さんが訂正した。


「なんか……うちのがほんとにすみません」

「大丈夫よ。兄弟って言わないと怒るのよねえ」


 前世ならまだ女子大生くらいの年に見える魔術師さんは、大人な対応をしてくれた。


「まあ仲がよくて結構じゃないか。私も孤児院出だったからね、そんな仲がいいのはうらやましいね。さて、じゃあそろそろ行くよ」

「もし困ったことがあったらギルドに伝言でも残しといて。それと、また今度住んでるところも教えてね」


 一人が促して、『翡翠の爪』はギルドから出ていった。後ろ姿に手を振って見送る。

 ミラドールが、パーティーメンバーの前で普段どんななのかは聞き損ねたな。


 今は私たちがいるじゃない、とかすかに聞こえてきて、出発を促した女性冒険者に、別のメンバーが腕を絡ませていた。

 なんだか女子校っぽいノリの人がいるな。


 そして、気付けばなんだか注目されてしまっていた。

 『翡翠の爪』は若い女性たちのパーティーなので、男どもが、みんなそれとなく視線を送っていた。

 少し話し込んでしまったせいか、彼女たちが居なくなってからも、一部の視線はそのまま私たちに向けられたままだ。


 ……紹介とかはできないよ。自分で声をかけてね。


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