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46  使用人(ハーレム要員)への勧誘


 書庫とかに行くのかと思いきや、アリアンナ姫の私室に招かれてしまった。

 本がみっちり詰まった本棚が一つ。


 おすすめを選んでくれていたアリアンナから、五冊ほど借りさせてもらった。


 最後に、王妃様の下着の入った袋を渡す。

 お茶でも飲んでいきませんかと言われたが、おりんとチアを待たせているので今日は遠慮させてもらった。


 お城の外に出ると、遠慮のかけらもない日差しが空から降り注いでいた。

 日傘が欲しい天気だな。


 平民街の方に歩きながら、連絡係をお願いしていたストラミネアに今二人がどこにいるかをたずねる。

 携帯電話とかないからね。


 合流してから早めのお昼ごはんか、それとも買い物を終えてからかな。

 お昼ごはんを後にするなら、せめて屋台で涼しくなれるような飲み物でも欲しいところだ。


 暑そうにしているのに気付いたストラミネアが、わたしの周りに風を吹かせてくれた。

 

 歩いていると、後ろから通り過ぎていった馬車がすぐそこで止まった。


「おほう、やはりわしの目はたいしたもんだな」


 馬車の中から、でっぷりとした腹の脂ぎった中年の貴族らしき男が独り言を言いながら降りてきた。

 後ろから護衛らしき軽装の騎士も続いて降りてくる。


「おい、お前、ここらの屋敷で働いてるのか?」


 訪ねる屋敷でもわからなくなったのかな?

 それなら御者か護衛の方が聞いてきそうなもんだけど。


「屋敷で働いてもないし、王都に来たばかりなんでこの辺りの道は知りませんよ」


 それだけ言ってさっさと行こうとしたけど、中年貴族が前をふさいできた。

 横幅でかいな、この人。


「なんだ、仕事でも探しに来たのか?」

「探してませんよ。冒険者ですから」


 正確に言えば、まだ冒険者登録は済んでないけど。


「ドブをさらい、子鬼を殺してまわるいやしい小銭稼ぎか」


 ふん、と中年貴族が鼻で笑ってきた。

 なんだこいつ、残り少ない髪の毛全部むしってやろうか。


「獣風情にはふさわしい仕事だが、お前は運がいい。特別にうちで働かせてやる」

「はあ?」

「どうした。もっと喜ぶがいい」

「結構ですけど」

「わかっておらんようだな。わしのような高貴な存在がお前ごとき獣の娘風情に慈悲を授けてやろうと言っておるんだぞ。犬らしく尻尾を振って喜んだらどうだ」


 上から下までジロジロと無遠慮にわたしを見てから、中年貴族が舌なめずりをした。

 一言でいうと、キモい。


「まだしばらく体は使いものになるまいが、いずれ夜の奉仕についてもわし自らたっぷりと仕込んでやろう。お前の働き次第では、わしの高貴なる血を残す名誉をくれてやってもよいぞ」


 わたしに向かって手を伸ばそうとしたのを押し留めたのは、意外にも護衛の騎士だった。


「閣下、このようなどこのドブネズミを拾い食いしているからぬような野良犬にお触れになるのは、閣下をお守りするものとして、お控えいただきたく……」


 ひどすぎる言い草だが、護衛騎士は中年貴族から見えない背中の後ろで追い払うように手を振っている。今のうちに逃げろということらしい。

 ちなみに、今着ているのは普通の町娘っぽい服なので別にそこまで汚らしい格好はしていない。


 御者の男も、こちらは中年貴族の後ろで見えないのをいいことに、腕を大きく振って逃げるようにアピールしている。


「このような汚らわしい犬などにお手を出されずとも、閣下のご寵愛をお待ちしている女性は数え切れぬと存じますが……」


 べらべらと調子のいいことを言って時間稼ぎをしてくれている騎士に従って、後ろに向かって走りだそうとしたその時、中年貴族の向こうから見たことのある顔がやって来た。


「これはこれは、ロロナ殿ではないですか。もう王都にいらしていたのですね」

「昨日着いたところでして。トニオ司祭もお久しぶりです。……エドワーズ司祭と呼んだ方が?」

「私は大地神アウラ様に仕える者にすぎません。トニオで結構ですよ」


 褒賞をもらった時に初めて会って以来となる、国王の元パーティーメンバーのトニオ司祭だ。

 ちなみにエドワーズという家名はストラミネアからの情報だ。


「おや、これは失礼しました。バーテード閣下もご健勝で何よりです。何やら揉めていたように拝見できましたが、このような往来で何をやっておいでかな?」


 トニオ司祭の目が鋭くなった。


「あ、うむ、エドワーズ卿も……なに、この暑い中歩いておったので声をかけたら、王都に来たばかりだと言うのでな。冒険者などという危ない仕事をしておるというので、うちで働かないかと声をかけてやっただけで……」

「なるほど、そうでしたか」


 バーテードと呼ばれた中年貴族は、暑さのせいではない汗をだらだらとかいている。さっきからヘビににらまれたカエル状態だ。

 一見にこやかだが、トニオ司祭の目は、先程から笑っていない。漂う雰囲気からは、到底ただの司祭とは思えない凄みがあった。


 この人、思ってたより怖い人なのかもしれないな。

 ストラミネアから聞いている情報は、家名と有力貴族の出らしいということくらいだ。




 そそくさとバーテードが帰っていった後、改めてトニオ司祭とあいさつを交わす。


「ありがとうございます。助かりました」

「いえ、あのような者が……お恥ずかしい限りで」


 頭を下げたトニオ司祭は、仲間と合流するまで一緒にきてくれると言い出した。


「急いでいませんから」

「そう何度もないと思いますけど、ありがとうございます。もう少しで手を出しそうな者がいましたので」

「まさか。最初は馬車を壊して驚かす程度ですよ」


 空気が渦巻くと紫色に染まり、半透明のストラミネアが手のひらサイズの三頭身くらいの姿で現れる。

 目立たないように小さい姿で出てきたようだ。

 ……こんな感じの人形(フィギュア)、前世であったな。


 突然出現したストラミネアに、トニオ司祭が驚いて足を止めた。

 わたしは、半眼になって続きを促す。


「で、その次は?」

「馬車を粉微塵にします。痛めつけてしばらく動けなくするのは、その次くらいですかね」

「やっぱりね……」


 この子は昔から、わたしや、わたしの身内が絡むとどうにも過激になりやすい。

 ストラミネアがトニオ司祭に頭を下げた。


「トニオ様、ロロ様をお守りいただきありがとうございました」

「これは、ストラミネア様。当然の事をしたまでですので」


 トニオ司祭も魔物の暴走(スタンピード)のおおよその経緯を聞いている一人なので、ストラミネアについても知っている。

 ストラミネアの暴行宣言をさらっと流す辺り、やはりこの人も大概だ。

 それとも、精霊は人間と感覚が違って当然だからと思っているのかな。


「ストラミネア様は、獣人の村の遺跡でないと現れることはできなかったのでは?」


 まずい。

 ストラミネアはとっさの嘘やアドリブは苦手なのだ。

 トニオ司祭に気付かれないよう、声に出さずにぶんれい、と小さく口だけ動かす。


「……あれは、分霊だったからです。本体である私はあの時、遠くにいましたので」


 本当はテレビ電話的な魔術だけどね。

 ストラミネアと合流できた今、もう必要は無いので魔方陣もいずれ消しておこう。


 ちなみに、まるで嘘というわけではなく精霊のストラミネアは実際に分身というか、体を分けることもできる。

 うまくかわせたかな。


「それでは失礼します」


 言葉を残して、ストラミネアが姿を消した。

 わたしにはトニオ司祭がついてくれているので、おりんたちに声をかけに行ったらしい。

 貴族街と平民街の境目のところで二人が待っていた。




「……というわけで、変なのに絡まれたから送ってもらったの。買い物に行くからって普通の服で行かずに、ちゃんとドレスでも着ていけばよかったかな」


 前に普通の平民の服で入ったのもあって、鍵をもらうだけだからと、つい手抜きをした。

 結局、そのままアリアンナ姫の部屋まであがってしまった上に、帰り道に変な人に絡まれてしまった。

 

「あのドレスを着て歩いていくのも変じゃないですか? それなら、馬車でしょう」

「それもそうか……うーん、カジュアルめなサマードレスでも用意しないとかな」


 借りた本を返したりで、アリアンナ姫の部屋へまた行くことになりそうなので、それなりの服を用意しておきたい。

 でも、ちゃんとした店となると紹介状がいるかもしれないな。獣人には売らんとか言われると面倒だ。


「ロロ様が目立つのを忘れてましたね。かわいいですし、獣人ですし、髪の色もこの辺では珍しいですし、尻尾もありますし、あとかわいいですし……」


 なんかかわいいが二回入ってたような……


「おりんもあんまり人のこと言えないでしょ……」

「そうですか?」


 おりんも目を引くのは一緒だ。

 むしろスタイルのいいおりんの方が、何がとは言わないけど、ある意味わたしより目立ってると思う。


「さて、食料品のお店に寄って、それからどこかでお昼を食べて帰ろうか」

「お昼ご飯、食べるんだ」


 チアが期待に目を輝かせる。

 孤児院の食事は朝晩の二回だけで、お昼ご飯の習慣は無かった。

 一般的にも、お昼ご飯は食べないか、軽食程度という認識だ。

 前世を経験しているわたしとしては、やはり三食食べたい。


「これからは毎日お昼も食べるよー。チアもたくさん食べて大きくならないとね」

「目指せおりんちゃんだね」

「意味が……いや、うん……そうだね……?」


 意味が違う、と言いかけたが、わたしたちよりは身長もおりんの方が高い。

 この子、胸部的な意味で言ってる? ……どっちだ?


 胸に視線を送っているチアに、おりんが少し恥ずかしそうに腕で隠す。

 正解を知ったわたしは、それに気付かないふりをしてそそくさと歩きだした。


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