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43  チランジアの適性と王都のごはん

 チアが十才になった。

 今はお祝いの言葉だけで、ちゃんとしたお祝いは王都まで延期させてもらっておく。


 チアも魔力があるので、魔石を使って適性を確認しておくことになった。


「チアは火属性適性が高いねぇ」

「そうなんだー」

「チアは風属性適性も高いねぇ」

「そうなんだー」

「チアは水属性適性も高いねぇ」

「そうなんだー」

「チアは地属性適性もたか」

「全部じゃない!!」


 チアの魔力の確認ということで、今日はヴィヴィとルーンベルが来ている。

 ルーンベルからツッコミが入った。


「いや、ちょっとおかしいような……」


 全属性に適性があるのはいい。問題は属性の適性が高すぎることだ。

 魔石を使って軽くチアに魔力を流すと、チアを流れる魔力が揺らいだと思ったら、瞬時に元の流れに戻った。


「この子、無能術師だ……」

「なんだって!? ちょっと、私にも見せてみな!」


 わたしの呆然とした声に、ヴィヴィもチアの手を掴み、目を閉じた。魔力を流してみているようだ。


「驚いたね、こりゃ。話は聞いたことがあったが、初めて見たよ」


 二人で頭を抱える。

 ちなみにわたしは転生前に二人見たことがある。すぐ分かったのもそれが理由だ。


 チアとルーンベルは、突然知らない単語を出して騒ぎ始めたわたしたちに、わけがわからずきょとんとしている。


「何それ?」

「つまりは、魔力はあるけど魔術が使えない人のこと」

「……なんでそんなことに?」

「魔力操作が生まれつきできるとこうなるの。普段から無意識にやってるから、意識して魔力を集められないんだよね」


 ルーンベルが、妹分が自分と同じ魔術師にはなれそうもないと聞いて残念そうな顔をつくる。


「そっかー。ベルちゃんを見てたら、魔術ってなんか難しそうだったから、それならそれでいいかも」


 そう言えば、チア自身の口から魔術師になりたいとか、魔術を使いたいとか聞かされたことはなかった気がする。

 魔力があるから、深く考えずに魔術師になるものだと思っていた。


 チア本人は別にどちらでもよかったみたいだ。


 でも魔術師にはなれないので、一緒に旅をするなら王都で剣とか習った方がよさそうかな。

 一緒に旅をするなら、ある程度自分の身を守れるようになってもらいたいところだ。




「あのー」


 知らないおじさんから声をかけられた。


「商業ギルドからです。手紙をお届けにあがりました」


 院長かと思ったらわたし宛てだった。

 送り主は……知らない名前だけど、几帳面そうな字だ。

 中を開けると、家の準備ができた。鍵を取りにくるように。とだけあった。


 ああ、これ宰相からだな。


「王都の家の引き渡し準備が終わったみたい。おりんがよければ、今日みんなに言って、明日出発するかな」

「急だね」


 ルーンベルの口調に特に驚いた様子はない。

 以前から予定していたことなので、今更たいした感慨もないのかもしれない。


「まあ、どうせまた戻ってくると思うし」


 元々は少しランクを上げ、いくつか確認を済ませたら、長期の旅も視野に入れていた。

 しかし、確率的に半々だと思っていたチアがついてくることになった上に、魔術以外となるとわたしは教えられない。

 しばらく訓練が必要になるだろう。


「ヴィヴィ、残りの三人によろしく。ベルも二人によろしくね」

「別にいいけど、手抜きだね」

「顔くらい見せたら?」

「まあ、またお土産でも持って戻ってくるよ」


 毛布と古着は院長に渡しているし、あとは夜に孤児院のメンバーと院長に報告しておけばいいだろう。




 次の日の朝、わたしたち三人は王都行きの乗合馬車の上にいた。


 わたしとおりんとチア、三人連れになったので、風精霊の靴を使っての移動はできなくなってしまった。

 一足しかないからね。


 王都までは、乗合馬車に揺られる羽目になった。


 またお尻が痛くなる……。


 前に獣人の村に行った頃は気候がよかったけれど、もう暑い時期なので、これが三日間続くと思うとなおさら気が重い。


 風精霊の靴自体は、王都まで行けばストラミネアの力を借りて追加分を作れる。

 幸い我慢するのは今回だけですみそうだ。


 ちなみにチアだけは、汗もかかずに一人だけケロリとしている。

 無能術師は魔力を無意識に操作して、体の状態を調節してしまう。

 冬は寒がっていたので、発現したのは魔力量が増えてきた最近なんだろう。

 

 三日間耐えて、ようやく王都に着いた。


「さて、自宅に不法侵入といきますか」

「なんか楽しそう」

「そうかな。まあ、その前に晩御飯だね。おりん、適当なお店知ってる?」

「卵料理の揃っているお店とかどうでしょう」

「たまごー。食べたことない」

「そだね。じゃあ行ってみようか」


 肉もめったに出ない孤児院だ。もちろん卵が出てくることもないのだった。


 雰囲気は明るく、王都らしい小洒落(こじゃれ)た喫茶店といった感じで、なるほど、女の子が一人で入っても大丈夫そうだ。

 孤児院軍団には、普段全く縁がないタイプの店でもある。


 まずはメニューとにらめっこ。

 チアは卵料理についてはよく分からないので、おりんとわたしにお任せモードだ。


 オムレツの蜂蜜がけ……前世では甘いのと合わせたのは食べたことなかったな。ケチャップは甘いといえば甘いけど。


 パンケーキもあるみたいだ。

 さすがに砂糖は入ってないだろうけど、これも蜂蜜付きがある……チアは甘いのがいいかな。


「おりんはどうする?」

「私は野菜とベーコンのオムレツにしようかと」

「じゃあ、それとハチミツ付きのパンケーキとポーチドエッグサンドで」 


 オムレツのハチミツがけと迷ったが、オムレツとオムレツがかぶってしまうのでパンケーキにする。

 せっかくなので、三つを三人でシェアして食べた。


 オムレツはモロヘイヤっぽい葉物が入っていてベーコンの塩気が効いているし、エッグサンドは、パンに挟まれた塩辛い生ハムと半熟卵がいい感じだ。

 パンケーキのハチミツはぼやけたような味だったけれど、ずっしりとしていて、塩味の二品のあとに食べると甘さが引き立つ。


 どれも違うおいしさがあり、悪くない。

 チアもすごい勢いで食べているから、気に入ったみたいだ。

 ただ、できれば胡椒も欲しい味だ。早く欲しい。高いのかな。


「ねえ、王都は初めてなんですけど、卵ってお店で買えます?」


 適当に頼んだ、少し塩の効いたヨーグルト水みたいな飲み物でノドをうるおすと、通りがかった店員さんに聞いてみる。


 ある程度の数だと商業ギルドだけど、お店でも買えるよ、という答えが返ってきた。足りなくなりそうな時は急遽お店に買いに走ることもあるそうだ。

 お店の場所と名前を教えてもらう。食料品全般扱っているところらしい。


「欲しいなら、うちで買っていってもいいよ。明日にはまた入るからね」

「ほんと? じゃあ十個くらいいいですか」

「いいけど、大丈夫かい? 早めに火を入れといた方がいいよ」

「それは大丈夫です」


 ストレージに入れておくから、消費期限は問題ない。


 おりんは食べ終わったチアの口周りをぬぐってあげている。

 二人とも、もう仲良くなっているみたいだ。

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