4 姉へのプレゼント
「十才のプレゼント?」
「うん。魔術師を目指すベルにね。それで、ベルは魔術の訓練方法は知ってたっけ?」
わたしのお姉ちゃんで、後輩の魔術師になるのだ。いくらでもサービスしちゃうよ。
「それは知ってるけど……魔力を流してもらって、なんかうまく使えるようになってきたら呪文の練習でしょ」
素晴らしくざっくりとした回答が返ってきた。
まあ、間違ってはいないけど……
「……流れ的はあってるね。それで、その最初の魔力を流しての知覚だけど……」
「なあ、チカクって、なんで魔力流してもらわないとだめなんだ?」
横から同い年の男の子が口をはさんできた。
うーん、ガスパルにはどう言ったら分かりやすいかな……。
「普段と同じ状態だとわかりにくいから。えーと、お腹が減ったり食べすぎたときの方が、どこがお腹かわかりやすいでしょ」
「わざわざガスパル向けにしなくていいわよ。どうせ明日には忘れてるんだから」
「ひどくね。そうなんだけど」
そうなんかい。
聞いてきた手前、もう少し頑張ってよ。
「ベルはそういうのは、ミラ姉に手伝ってもらうんだったよな」
ミラ姉ことミラドールは、去年孤児院を卒業した魔術師見習いだ。
卒業後は、とある冒険者パーティーの魔術師に弟子入りしている。
ルーンベルとしては、ミラドールが魔力知覚の次の段階である魔力操作まで覚えてくれれば、魔力を流しての魔力知覚の練習が可能になる。
「さて、ここからが本番」
牙ウサギの魔石を取り出す。
「これを使って、ベルに魔力を流す」
「え……? ロロは魔力がないんだから……どうかしら。その、ちょっとだけ難しそうじゃない?」
待っていたのは、子供の思いつきをできるだけ傷つかないように否定しようとする、ルーンベルの大人めいた対応だった。
「……だよな。できるかもしれないけど、できないかもしれないよな」
あさっての方を見ながらガスパルが言った。
ガスパルにまで気をつかわれてる!
「獣人の感覚を甘く見ないで。魔力がなくても、野生の勘で埋められるから大丈夫」
ここは困ったときの獣人パワーで押し切ろう。
「そう言われても……」
「いいからいいから。減るものじゃないし」
強引に、困惑状態のルーンベルの手に握った魔石を押し当てる。
「…………え、何これ……本当に……?」
すぐに、ルーンベルが反応を見せた。
それを見て、懐疑的だったガスパルが反応する。
「ベル?」
「なにか、入ってきて、体の中を回ってる? 動いてる……?」
「マジかよ……うわ、こいつ。めっちゃ得意げな顔してる」
そりゃまあね。
少しくらいドヤ顔してもいいでしょ。
ベルに流している魔力はごくわずかだ。
それでも、このまま流しっ放しだとすぐに魔力は枯渇してしまうので、流すのとは別ルートでルーンベルの魔力を吸い取って、魔石に循環させる。
魔力源の魔石さえあれば、元魔法使いにはこの程度造作もない。
そのまましばらく緩やかに魔力を流すと、そこで止めた。
「あれ、もう終わり?」
「最初だし、やりすぎはよくないかな」
身体の成長とともに魔力も成長する。成長期にハードなトレーニングを避けた方がいいのは身体と同じだ。
経験的に、十才を越えてから少しずつなら大丈夫とされている。
「ベル、今魔力の動きをチカクしてたよな。もう終わりか?」
それなら楽なんだけどね。
「流してた魔力を止めたから、じきに本来の魔力の流れ方に戻るよ。そうしたら、もう感じ取れなくなるはず。普段通りの状態で、知覚できるようになるのが第一段階」
「へえ」
聞いてきた手前、フリでもいいから、もう少し興味ありそうにしたらどうなんだ。
「ベルちゃん、魔力が動くのってどんな感じなの?」
「うーん、なんかねー……」
途中から見ていたチランジアがルーンベルに話しかけてきた。
その横で、ガスパルが真剣な顔をしてわたしを見る。
「ロロ、俺の誕生日も期待していいか?」
「え? いや……何もないけど」