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36  レストランにて 

 翌日、昼間は引きこもって予備の下着を蜘蛛神に作ってもらったりと、いくつか作業をしながら、基本的にはだらだらして過ごした。

 夕食に宰相から聞いたレストランに行ってみる。

 わたしはアリアンナ姫からもらったドレスだ。


「ええと、申し訳ないのですが……その、ご予約の方でいっぱいでして」


 獣人だから断られたのか、本当に予約でいっぱいなのか判断に迷う。

 獣人ダメなんだよーって言われたら、さっと魔術を発動して耳と尻尾を隠したんだけど。

 もっと直接的に来ると思ってたのに……。さすが貴族向け。


 明日の夜で予約できるか聞いてみるかなあ、と考えていると、馬車から降りてきた女の子に声をかけられた。


「ロロナさん! 見覚えのあるドレスだと思いました」

「あれ、アリアンナ姫……と王妃様と小さな姫様も、お久しぶりです」

「あ、ロロナだ……エライアです」


 王族の名前を知らないとか不敬だったかな。

 前回名前を聞いていなかったちび姫様が、王妃様と手をつないだまま名乗った。

 王妃様はおりんのドレスをガン見している。


「ごめんね。前のとき、お名前聞いてなかったから。エライア様もお久しぶりです。ちゃんとご挨拶できてえらいね」

「チャンコはー?」

「今日はお留守番してますよ」

「そっかー、ざんねん」


 おりんが横で、大丈夫でしょうか、という目でこちらをみている。

 ヒト姿のおりんを見て、同一ネコだと分かるのは獣人くらいだと思うよ、多分。


「ロロナさんはどうしてこちらに?」

「昨日、ちょっと宰相様に用事があってお城に行った時に、お勧めのお店を聞きまして」


 受付の人が明らかに動揺している。恥をかかせないようにかトラブル除けかは知らないけれど、予約でいっぱいというのは断るための方便だったのかな。

 まあ、別にこの場で事を荒立てるつもりはない。


「そうでしたか。せっかくお城まで来ていたのなら、声をかけてくれたらよかったのに」

「いえ、そこまではさすがに。ドレスをいただいたまま、お礼も言えないままで申し訳なかったです」


 店の前で話していると、エライア姫が焦れてきた。


「ねえさま、おなかすいた」

「あ……ごめん、エル。ロロナさんもご一緒にいかがですか。まだお話したいこともありますし。お母様……も是非にとのことなので」


 王妃様は顎に手を添えたポーズで、おりんのドレスを検分中だ。明らかに話を聞いていない。

 受付スタッフに目線をやると、首がもげそうな勢いで縦に振っていた。


 奥の広い個室に通された。

 この辺はさすがに王族だな。


 歩いていく途中で目に入った客層は、やはり貴族や大商人といったあたりだ。

 わたしとおりんが獣人だと気付いて眉をひそめたものもいたが、一緒にいる王妃様たちを見て慌てて目をそらしていた。


 演奏をしている者がいるらしく、音楽が聞こえている。そのため、案内役が一言断ってからドアを開けたままにして去っていった。

 席についたので、とりあえずおりんを紹介しておく。


「わたしの友人で、冒険者のおりんです」

「黒ねこさんだ。チャンコみたい」


 おりんがビクッとした。

 ビビリすぎでしょ……前に振り回されたのがそんなにキツかったのか。


「ねこさん、ねこさん♪」


 エライア姫の視線は、おりんの耳と尻尾に釘付けになっている。

 おりんのドレスをじっと見ていた王妃様がようやく口を開いた。


「このドレスは、どこのものなのかしら?」

「彼女のドレスは、下着を作ってくれている方と同じで……」

「あら、そうなの。意匠がちょっと変わってるわね」

「おかしいですかね」

「若いんだからもっと華やかなものも似合うと思うけど……でも、そうね。この子は顔付きや身長の割に、バストがあるから、色味的に大人っぽく見えるこれはこれでいいんじゃないかしら」


 うんうん、と一人で納得しながら、王妃様がすらすらと感想を述べる。


「腰を軽く絞ってすっきりさせつつ、上半身はシンプル気味にして、スカートを強調してるんでしょ。わかるわ……胸ばっかり見られるから、うまく視線を散らしたいのよね」


 王妃様も素晴らしいプロポーションしているので、胸が大きいがゆえの悩みが分かるようだ。

 ただ、聞いてはみたものの、服の趣旨についてはわたしに言われても製作者じゃないのでわからない。

 

「こっそり見てるつもりでも、すぐわかっちゃいますよね。同姓からは何もしていないのに、誘惑してるみたいに言われたりとかしますし」

「そうそう、そうなのよねぇ」

「でも王妃様は身長がおありだからまだよろしいじゃないですか。私はあまり身長がないから、腰を絞るようなものじゃないと太って見えて…………」


 おりんと王妃様が巨乳トークを始めた。

 ドア開いてるんだけど大丈夫かな。


 先程おりんが話していた内容は、おりんのドレスを作った理由の一つでもある。体型的に合うドレスでいい感じのものがなかったのだ。

 わたしはどれを着てもかわいいと思うんだけど。


 アリアンナ姫がちらっと自分の身体を見下ろしていた。大丈夫、きっとまだ育ちますよ。

 心の中でエールを送る。


 食事が運ばれてきて、エライア姫は食べるのに夢中だ。


「そういえば、あの、いただいた物を使ってみたのですが、確かに動きやすかったです。足を上げたりするときは普段は大きめのものを身に着けていたのですが、ちょっと違和感があったので」


 下着と言う言葉を避けてアリアンナ姫がお礼を言ってきた。


「足を上げたりするの?」


 お姫様が?


「学園に通っていますから、体を動かすこともあるんです」


 ああ、学校か。体育みたいなのがあるのかな。


「それで、お母様もお試しになられたいとおっしゃっていて、お母様にもよろしければ作っていただけるようお願いできます?」

「そうですね。ドレスをいただいて、わたしばかりもらいすぎてますからね。お願いしておきます」


 召喚するのはわたしだけど、製作するのは蜘蛛神様だから、これはこれで合っているのかな。


「ねえねえ、おりんのしっぽさわってもいーい?」

「エル、まだ食事中でしょ」


 エライア姫はお腹がふくれてきて、もう食事への集中力が切れたみたいだ。子供だからね。


「あとで触っていただいてもいいですよ。先に、お皿に残ってる野菜さんも食べちゃいましょうね」

「えー、にんじんキライ。おりんもねこさんだからキライだよね」


 付け合わせのにんじんを嫌がったエライア様が、おりんを味方につけようとしている。


「わたしは野菜さんもちゃんと食べちゃいますよ。じゃあ、一口だけ頑張れますか? 頑張れたら尻尾さわってもいいですよ」

「えー」

「ほら、人参さんも食べてって言ってますよー」

「にんじんはそんなの言わない!」


 おりんが失礼を、と断って指先に魔力を纏わせた。

 お皿の上のにんじんがぴょこぴょこ跳ねる。


「わあ」

「ほら、はやく食べてって言ってますよ。ちょっとだけ頑張りましょうよ」


 意を決したエライア姫が目をつむってパクリと食べた。


「良くできましたー」


 パチパチ、と拍手をしておりんがエライア姫の頭を撫でる。

 王妃様が感心している。


「慣れているのね、兄弟でもいるの?」

「私、前は子守(ナース)メイドでしたから。他のメイドの仕事も一通りはできますけど」

「そうなんですか? えっと、なんで冒険者になったのかお聞きしても……?」

「あー……その、貴族の跡取り様に気に入られちゃいまして。で、求婚されてしまって……」


 アリアンナ姫に聞かれて、おりんが答える。

 まあ、大体合ってるかな。


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