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28  姫様のドレス

 下着に興味津々だった王妃様はスカートをめくりにきた挙句、今は最後に現れた女の子……と言うかお姫様に正座させられていた。

 ちび姫様は捕まえたおりんを抱っこしてご満悦だ。


「すみません、お母様がご迷惑を……その、お母様は珍しい服などに目がないもので……」

「あ、あの、ごめんなさい。つい興奮してしまって。ええと、どちら様だったのかしら」


 冷静になったらしい王妃が謝ってきた。


「その方は……ただ今陛下と打ち合わせをしていらっしゃる冒険者の関係者でして……」


 代わりにメイドさんが答えたので、ぺこりと頭を下げる。


「ロロナです」


 視界の端では、おりんがちび姫様に振り回されている。


「ロロナ、ねこさんのお名前は? つけていい? チャンコゴッツァンデスでいい?」

「えーっと、名前は……」


 ここで名前がおりんだと教えると、もしヒト姿のおりんと会ったときにややこしくなってしまう。

 かと言って、とっさに適当な名前も思いつかないな。


「まだない……かな」

「にゃ!?」


 おりんが目を丸くした。

 こちらを見る目には、驚きとともに裏切り者を見るような冷たいものが混じっている。

 クロとか、適当な名前をつけてやった方がよかったかな。


「チャンコ! チャンコ!」


 おりんを抱っこしたまま、ちび姫がぴょんぴょん飛び跳ねて、くるくる回った。

 揺らされて振り回されているおりんの方は、ぐてっとしている。


「ええと、妹がごめんね。私はアリアンナよ。よろしく、ロロナさん」

「どうも初めまして。文句は宰相様に言っておくんでいいですよ」

「宰相様?」


 アリアンナが疑問符を頭に浮かべながら、申し訳なさそうに続けた。


「それで、下着のことなんだけど、ええっと、予備を譲っていただいたりとか、それかどこで買ったとか教えてもらってもいいかしら? このままだとお母様、おさまりがつかないと思いますので」


 うんうん、とメイドさんが後ろで盛大にうなずいていた。王妃様的には、わりとよくある事なのかもしれない。




「もらい物なので、買ったお店はありません。伸縮性の高い糸を混ぜてあるんです。具体的なことはちょっとわからないです」


 蜘蛛の糸などと口に出して、研究のために蜘蛛が乱獲されたりしたら蜘蛛神を怒らせてしまいそうなので、黙っておく。


「では、見本になりそうなものがあったら、買い取らせてもらえないかしら?」


 了承して、かばんの中を探しているふりをした。

 わたしの体の影で、この前下着にしたワンピースの残り布と魔石を手早く取り出した。

 蜘蛛神の術式を描く。この前三回も喚んだばかりだ。すぐに完成させると、そのまま下着を一瞬で作り上げた。今回は連続で上下を一気に作る。


 使ってもらわないともったいないので、今回は場を収めてくれたアリアンナ姫に合わせて作ってあげることにした。

 前世で言えば中学生くらいの年だから、かわいい感じがいいかな。

 今回は蜘蛛神の趣味じゃないかもしれないけれど、あまり攻めると使ってもらえないかもしれない。普段がドロワーズなら、と抵抗が少ないよう短パン型をお願いする。


 急ぎなので蜘蛛神に細部は投げると、レースのフリルをあしらった上下セットデザインで仕上げてくれたのだけど、なんと黒色だった。

 確かに、色の白いアリアンナ姫には映えそうではある。

 ちょっと攻めすぎじゃないのと思ったけど、もう放っておこう。別に使ってもらわないと困るわけでもない。


「では、こちらをどうぞ。よかったらアリアンナ姫くらいのサイズなので使ってみてね」


 手渡すと、ちょっと赤くなっていた。


 買い取り金額どうしようかな。魔石分くらいでいいんだけど、今の相場もよくわからない。


 そこでメイドさんが更に現れて、陛下がお呼びですと言われてしまった。

 それなら、そのドレスと靴もらっといてと姫様に言われながらそのまま会議室へ直行した。


 ドレスの方が絶対高そうだけど、大丈夫だろうか。迷惑料と口止め料込みなのかな。


 おりんは隙をみてちび姫様から脱出すると、追いかけてきてわたしの頭に跳び乗った。

 後ろから、ちび姫様の残念そうな声が聞こえてきた。




 そういえば、靴も履き替えさせられてしまったな。ヒールのある靴なんて前世ぶりだ。

 会議室まで歩いて戻ると、メイドさんがドアを開けてくれたのでそのまま室内に入る。


「四人揃って炭焼き小屋の洞窟の近くに住んでいるとはな」

「別に、偶然さ。一人はジェノベゼだしね」

「炭焼き小屋の洞窟とヴィヴィたちには、何かあったの?」


 聞こえてきた国王とヴィヴィ会話に割り込む。

 みんなが、私を見て固まった。それで着替えていたことを思い出して、宰相を睨んでおいた。

 残念ながら、宰相の方は子供の機嫌などどうでもいいとばかりにどこ吹く風だ。


「ヴィヴィたちの風の探索者(ウィンド・シーカー)は、炭焼き小屋の洞窟を最初に踏破したパーティーだからな」


 代わりにギルマスが答えてくれた。


「そうなんだ。今度そのときの話聞かせてね」

「普通のダンジョンの探索話さ。たいしたダンジョンでもないからね……面白い話が聞きたいなら、そこの男にでも聞いた方がいい」


 ヴィヴィが肩をすくめてから、国王を顎で指した。


「そうなんですか?」

「お、聞きたいか? 自慢になるが、色々あるぞ」

「大抵は、陛下が無茶して酷い目にあった話ばかりですけどね」


 えっへん、と腕を組む国王に、魔術師長が半眼で冷たく告げる。


「もちろん。聞けるなら聞きたいです。わたしも色んなものを見たくて冒険者目指してるクチだから」

「ほう?」

「潮風で咲くサファイア色のダリアとか、星銀でできた湖とか、溶岩に浮かぶ蓮に、門の連なる神殿も、海底都市も。ドワーフの戦車も本物を見てみたいし、世界樹だっていつか見たい」

「おお! よしよし、もちろんいいぞ。そう言えばロロナ、お前もダンジョン潜ってきたらしいな、後で詳しく聞かせろ」

「人が出入りするから休憩していただけで、まだ会議中だろうが!!」


 いきなりハイテンションではしゃぎだした国王は、宰相に本気でキレられて、さすがにおとなしくなった。

 身分を隠して冒険者をやっていた理由がなんとも分かりやすい。冒険譚とか大好きな人なんだろう。


「……それで、なんでお前着替えてるんだ?」


 静かになった部屋で、場をつなぐようにギルマスが私に聞いてきた。


「食事の後、メイドさんがお水をこぼしちゃって」

「ほう、水を……」


 国王が、宰相の方を見る。

 宰相は素知らぬ顔で、話をスタンピードの件に戻した。


「では、実際にレッドドラゴンとツーヘッドグリフォン、その他の魔物たちについて確認しに向かうか」


 座る間もなく、人払いされている訓練場と思われる場所まで結構な距離を移動する。

 それぞれを順番にマジックバッグから取り出して見せると、初見の国王、宰相、魔術師長の三人は絶句していた。

 

 もう一度会議室に戻り、念のためということで、いくつか質問されて答えていく。


 みんな猫精霊おりんはスルーしてくる。切ない。

 



「あの竜は一体何なのだ?」


 当然ながら、バハムートについても質問が及んだ。


「神様です。竜の王」

「竜王……それで?」

「それ以上はよくわかりません。危険なので、知らない方がいいそうです」


 あんな力の強すぎる神性存在の情報は、さすがにだせない。

 会議室の面々が、顔を見合わせてため息をついた。


「災厄級の魔物の群れを灰にしたという話だ。道理だな」

「それくらいならいいんだけど……」

「と、言うと?」

「力の大半を、被害を抑えるための結界に回した上で、あれだから、それこそ結界がなければジェノベゼどころか王都ごと吹き飛んだんじゃないかと……」


 あの時見た竜王が人生最後の光景になっていたかも知れないと聞いて、国王一人を除いて全員が頭を抱えた。


「で、さらに付け加えると」

「……まだ何かあるのか?」

「去り際に言われたんだけど、手加減し過ぎたせいで、力の調節が難しかったみたいです」

「……………………」


 今度は一人を除いて沈黙した。

 重い空気の中、唯一、国王だけがおもしろがっている。


「いやあ、そんなすごい竜だったとは! もっとよく見ておくんだったな!」

「お前はそんなのん気な……いや、もう逆にお前が正しい気がしてきた」

「……もし、竜王が制限なしにブレスを放ったらどうなるのかね?」


 魔術師長の顔は強張っている。


「……よくて大陸くらいはなくなりそう」

「そんな存在を、現界に顕現させたというのか……」

「スケールが大き過ぎて、もはや冗談か別世界の話にしか聞こえんな」


 キセロが半笑いでぼやく。

 ギルマスはずっと胃を押さえていた。


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