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21  遺跡もどきの塩焼きと下着が欲しい猫

 獣人の村の人たちは取るものも取りあえず避難してきたため、遺跡もどきには現在、保存食しかない。


 幸い避難は一晩だけとなったので、彼らは夜の食事は我慢するつもりだったらしい。


 マジックバッグを使って、ストレージからおりんが寝ている間に回収した魔物の死体を取り出す。


 ジャングル・ケリュネイアと呼ばれるダンプカーサイズの、金色の角を持つ巨大な鹿だ。ただし、上半身のみ。

 呪いで大暴れしていたおりんが粉々に砕いたか、燃やしてしまったのだろう。

 幸い、価値の高い角はそのまま残っている。

 

「守り神様が狩った獲物だぞー」


 歓声があがる。

 ほぼ露出していた魔石を取り出してもらい、その魔石の魔力で風魔術を使い、片方の前足を切断した。


 足一本渡して、好きに切り分けて食べてもらう。余りはあとで回収すればいいだろう。

 味付けは、残念ながら食料庫にある塩だけだ。


「守り神はやめてください」


 おりんが迷惑そうに言った。




 鹿肉らしく脂の少ないジャングル・ケリュネイアだが、わずかな脂から滲み出る甘さと旨みに、強めに振った塩が合う。これは酒が欲しくなる味だ。


 半身しか残ってないので背ロースやヒレ肉はないが、肩ロースは健在だ。

 食べるならやはりステーキだろう。いつかのお楽しみだな。


 おいしいけど、ひたすら塩味の肉だけというのは残念なところだ。

 箸休めが欲しい。


 肉だけの晩ごはんを済ませると、おりんとそれぞれシャワーを浴びて、ストラミネアの魔方陣のある部屋で休ませてもらうことにした。

 時間的にはまだ早いんだけど、疲れたのだ。


 おりんは、包帯巻くの面倒だにゃー、と文句を言っていた。

 もう今更なのでネコの姿になればいいんじゃないかと思ったけれど、獣人たちの前で像と同じあの形態になるのは、拝まれた手前、嫌なのかもしれない。


 村長には、ぜひベッドを使うようにと言われたけれど、断った。

 ストラミネアにいくつか頼み事をしておきたかったのだ。




 遺跡の奥で二人と一体だけになったのを確認して、おりんが口を開いた。


「ロロ様、今更ですけど、ここ、マジックバッグの隠し場所用にしては目立ちすぎるというか、豪華すぎません?」

「作り始めたら、つい凝っちゃって」


 ここは、てへぺろで乗り切ることにする。


「そういえば、昔からそうでしたね。よく魔道具に要りもしない機能をつけたりとか……」


 普段の行いのおかげで、と言っていいのか分からないけど、あっさり信じてもらえた。

 喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか、微妙なところだ。


「私の像が飾ってあったアレは何なんですか?」

「噴水が寂しかったから、おまけのマスコットだよ」

「へぇー」


 おりんの口調が、絡んでくる酔っぱらいみたいなちょっとウザイ感じに変わった。


「そのカバンも私がプレゼントしたものですよね。いやあ、照れちゃいますねー」


 からかっているつもりなのか、おりんが一人で盛り上がっている。


 この遺跡もどきはこれ以外に五つあって、各遺跡にはマスコット……というか、合言葉のヒントとして、それぞれに、飼っていた()()()の像を飾ってあるという事実を伝えたくなったけど、頑張って我慢したわたしだった。




 ストラミネアへの頼み事を終えて、そろそろ眠るか、とストレージから昔入れておいた軍用の毛布を取り出す。

 それを見ていたおりんが、何か思いついたらしく、ハッとした顔で話しかけてきた。


「今のロロ様は魔力はないですけど、魔石を利用すれば魔術を使えるんでしたよね」

「そうだけど」

「創造魔法は使えますか?」

「使えるよ。あれは魔力の消費が激しいから、ものによるけど」


 創造魔法とは、神の力を借りて何かしらを創造、創り出す魔法である。

 平たく言うと、作りたいものを、力を借りた神様に作ってもらう感じだ。


「何か欲しいものがあるの?」


 少し言いづらそうに、上目遣いでおりんが見てくる。

 ちょっとかわいいな。

 ただ、雰囲気的に真面目な話っぽいので、ここは表情を崩さないで話を聞く。


「……その、下着が欲しい……です」

「…………」

「……やっぱり、ダメですかね」


 こちらの沈黙を、否定か呆れとでも受け取ったのか、おりんが困ったようにつぶやく。


「おりん、天才!」


 えらいえらい、とおりんの頭を撫でてあげる。


「そうだよ。創造魔法で作っちゃえばいいんだ!」


 その手があった。

 おりんには、包帯ぐるぐるプレイをさせてしまって、悪いことをした。


「いいんですか?」

「もちろんだよ!わたしも欲しいし!」


 眠気もきれいに吹き飛んだ。

 わたしは材料にするための布に何かいい物はなかったかと、ストレージの中を探し始めた。


「これでいいかな」


 マジックバッグから、真っ白なフロントボタンのサマードレスを引っ張り出した。

 胸元は広めに開いていて、袖はない。前面が上から下までボタンでとめる形になっている。


 前世の記憶がある今なら、シルクコットンか、それに近いものだということも分かる。転生前の魔法使いの頃は、服の素材なんてろくに気にしたこともなかった。

 これを素材にすれば、下着の色は当然そのまま白になるだろう。


「何でそんなものが入ってるんですか?」

「おりんは子供だったから、覚えてないかな?」

「はい、覚えてないです」


 おりんがコクン、とうなずく。


「昔、飲み仲間に服飾店の店長がいて、すごく気に入ってたお酒があったから譲ったの。そうしたら、おりんにどうぞってもらった」

「それが、何でここに? 私のお古にしては未使用っぽい感じですけど」

「おりんに着せてみたら、胸がきつかったみたいでボタンが飛んだんだよね。下げ渡そうと思ったんだけど、おりんが恥ずかしがるから、理由を人に説明しにくくてそのままになってたの」


 ワンピースは、胸のボタンが三個ほど取れたままになっている。

 おりんが赤くなった。


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